地名 — Y'HA-NTHLEI

イハ=ンスレイ

原典

デビル・リーフ沖、暗黒の深淵の底に築かれた海底都市。深きものどもと人間との混血種族がクトゥルフへの信仰を保ちながら棲み暮らす、キュクロプス的な円柱の林立する都市。

公開更新作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

イハ=ンスレイ

「彼女は、幾重にも連なるテラスを持つ燐光を放つ宮殿に住んでいた——奇怪な癩病質の珊瑚と、グロテスクな枝状の増殖物からなる庭園を伴って。」

— H・P・ラヴクラフト『インスマスの影』(原題The Shadow over Innsmouth、1936年発表)
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

概要

ラヴクラフト「インスマスの影」に登場する海底都市。デビル・リーフ沖の暗黒の深淵の底に築かれ、深きものどもと人間との混血種族が、大いなるクトゥルフへの信仰を保ちながら棲み暮らす、キュクロプス的な円柱の林立する都市として描かれる[1]。

原典での描写

語り手の夢に現れるイハ=ンスレイ

自身の変容が進む中で、語り手はある夜、海底の祖母のもとを訪れる夢を見る。祖母は死んではおらず、この場所こそ亡き息子にも、そして語り手自身にも定められた行き先であり、逃れることはできないと告げた。夢の中で語り手はさらに、祖母のそのまた祖母にあたる存在にも出会う。「プスシャ=リーイは8万年にわたりイハ=ンスレイに棲み続け、オベド・マーシュの死後そこへ戻っていった」[3]という一節から、この都市がどれほど長い歴史を持つかがうかがえる。

魚雷による掃討とイハ=ンスレイの現状

同じ夢の中で語り手は、地上の人間たちが海へ死をもたらした一件についても知らされる。「イハ=ンスレイは、地上の人間たちが海に死をもたらしたときにも破壊されなかった。傷つきはしたが、破壊されはしなかった」[4]。深きものどもは滅ぼされ得ない存在であり、忘れられた太古の者たちの魔術によって時に阻まれることはあっても、いずれ大いなるクトゥルフへの貢物を携えて再び台頭する日を待つとされる。次に台頭するときには、インスマスよりもさらに大きな都市になるだろうとも語られた。

結末での「永遠に住まう」宣言

目覚めた後の語り手は、父親に施設へ入れられることを恐れながらも、内側から込み上げる変容への衝動をもはや隠さない。物語の結びで語り手は、精神病院に入れられた従兄弟を連れ出す計画を語り、共にインスマスへ向かい、「暗黒の深淵を潜ってキュクロプス的な円柱林立するイハ=ンスレイへ下り、深きものどもの巣で永遠に驚異と栄光の中に住まうだろう」[2]と誓う。かつて恐怖の対象だった都市への帰属を、みずから望む姿がここに記される。

基本プロフィール

由来・モデル

イハ=ンスレイという地名・都市はラヴクラフトの完全な創作であり、実在地とのモデル関係は確認されていない。物語の舞台であるインスマス自体がマサチューセッツ州の実在の港町(ニューベリーポート等)を下敷きにしているのに対し、イハ=ンスレイはその沖合の海底に広がる、地上とは隔絶した異界として対置的に設定されている。

歴史・年表

物語の中で語られるところでは、深きものどもとその教団は、1846年の疫病と暴動より前のオベド・マーシュの時代からデビル・リーフ沖に居を構え、インスマス住民との混血を重ねてきた。1927–28年、住民の異形化と教団の存在を問題視した米国政府が、インスマス近海のデビル・リーフ沖に潜水艦で魚雷を撃ち込む大規模な「掃討」を実施したとされるが、イハ=ンスレイは「傷ついたが、破壊されはしなかった」と語られ、深きものどもは不滅の存在として、いつか偉大なクトゥルフへの貢物を携えて再び台頭する日を待っているとされる。

性質・特徴

深きものどもにとっての永遠の都であり、人間との混血種族にとっては、年老いるにつれて肉体が変容し、最終的に「還る」べき故郷として位置づけられる。物語の結末で、深きものどもの血を引く語り手(インスマスの無名の語り手)は、自らの血脈の真実を知り「われらはデビル・リーフの沖まで泳ぎ、暗黒の深淵を潜ってキュクロプス的な円柱林立するイハ=ンスレイへ下り、深きものどもの巣で永遠に驚異と栄光の中に住まうだろう」[2]と、恐怖の対象だったはずのこの都市への帰属を、むしろ待望するに至る。恐怖から憧憬への反転が、この物語の最終的な主題を体現している。

関連する人物・存在・出来事

デビル・リーフを海上の目印としてその直下に位置し、両者は不可分の関係にある。語り手の遠戚である祖母プスシャ=リーイ(Pth’thya-l’yi)は、8万年にわたりこの地に生き続けているとされる深きものどもの長命な個体である。教団の秘儀を通じてクトゥルフへの信仰と結びついており、いつかクトゥルフが目覚める日に呼応する存在として位置づけられる。

主要登場作と読みどころ

  • 「インスマスの影」(1931年執筆/1936年発表): 唯一の原典。ザドク・アレンの酔いどれた証言による示唆、米国政府の掃討作戦、そして結末で明かされる語り手自身の血脈の真実まで、イハ=ンスレイをめぐる情報のすべてがこの一作に集約されている

よくある誤解

Q. イハ=ンスレイは米国政府の掃討作戦で破壊されたのですか?A. いいえ。作中では「傷ついたが、破壊されはしなかった」と明言されており、深きものどもは依然として健在で、いつか台頭する日を待っているとされます。

Q. イハ=ンスレイは語り手にとって最初から恐怖の対象として描かれるのですか?A. 物語の大部分では恐怖・忌避の対象として描かれますが、結末で語り手自身が深きものどもの血を引くことが明かされると、位置づけが一転し、むしろ帰るべき故郷として希求される対象へと反転します。

出典

  • [1] “cyclopean and many-columned Y’ha-nthlei”(訳: 「キュクロプス的な円柱の林立するイハ=ンスレイ」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [2] “We shall swim out to that brooding reef in the sea and dive down through black abysses to Cyclopean and many-columned Y’ha-nthlei, and in that lair of the Deep Ones we shall dwell amidst wonder and glory forever.”(訳: 「われらはあの海に浮かぶ暗い礁まで泳ぎ、暗黒の深淵を潜ってキュクロプス的な円柱林立するイハ=ンスレイへ下り、深きものどもの巣で永遠に驚異と栄光の中に住まうだろう」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [3] “For eighty thousand years Pth’thya-l’yi had lived in Y’ha-nthlei, and thither she had gone back after Obed Marsh was dead.”(訳: 「プスシャ=リーイは8万年にわたりイハ=ンスレイに棲み続け、オベド・マーシュの死後そこへ戻っていった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [4] “Y’ha-nthlei was not destroyed when the upper-earth men shot death into the sea. It was hurt, but not destroyed.”(訳: 「イハ=ンスレイは、地上の人間たちが海に死をもたらしたときにも破壊されなかった。傷つきはしたが、破壊されはしなかった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
この記事だけでは物足りない方へ
この記事だけでは物足りない方へ
初めての方への紹介書籍 表紙
初めての方へ

固有名詞を覚えるのがまだ大変なら、神格・怪物をイラストと生息地図でやさしく紹介するこちらから。

『クトゥルフ神話生物解剖図鑑』をAmazonで見る ↗
もっと詳しく知りたい方への紹介書籍 表紙
もっと詳しく知りたい方へ

神格・用語を横断的に調べたいなら、東雅夫による定番の事典が一冊で頼りになります。

『クトゥルー神話大事典』をAmazonで見る ↗

※上記は広告リンク(アフィリエイト)です。

続きを辿る

隣の棚

記事URLをコピーしました