人物 — NATHANIEL WINGATE PEASLEE

ネイサニエル・ウィンゲート・ピースリー

原典

ミスカトニック大学の経済学教授。1908年、講義中に倒れて以来5年4ヶ月13日にわたり人格を失う「健忘症」に陥った人物であり、実際には精神が太古の「イースの大いなる種族」の個体と入れ替わっていたという真相を綴った手記「時間からの影」の語り手。

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ネイサニエル・ウィンゲート・ピースリー

「私の目は周囲の人々を奇妙な様子で見つめ、顔の筋肉の動かし方はまるで見慣れないものだった」

— H・P・ラヴクラフト「時間からの影」(1936年発表)。人格が入れ替わっていた期間の、本人の外見・挙動についての記述

編集部注(著作権について): 出典の『時間からの影』は、Astounding Stories誌掲載号の著作権が更新されているため(Catalog of Copyright Entries登録番号R316511)、2032年まで米国で著作権が継続しているとする資料がある一方、複数の電子アーカイブがパブリックドメイン扱いで全文を公開している。著作権の扱いには出典間で相違があるため、本記事の引用は論評・紹介目的の短い範囲に限定している。

概要

ミスカトニック大学の経済学教授。1908年5月14日、講義中に突然倒れて以来、5年4ヶ月13日にわたって元の人格を失い、見知らぬ人物のような言動を示す「健忘症」に陥った人物であり[1]、その真相を綴った手記「時間からの影」の語り手を務める。

基本プロフィール

  • 分類: 人物
  • 欧文表記: NATHANIEL WINGATE PEASLEE
  • 初出: 「時間からの影」(1934〜35年執筆、Astounding Stories誌1936年6月号発表)
  • 職業: ミスカトニック大学 経済学教授
  • 家族: 息子ウィンゲート・ピースリー(同じくミスカトニック大学教授)

人物像・性格

物語は「二十二年にわたる悪夢と恐怖の果て、ある種の印象が神話的な起源を持つという苦渋の確信によってのみ救われながら、私は一九三五年七月十七日から十八日の夜、西オーストラリアで見出したと思うものの真実を保証する気にはなれない」[2]という、自らの体験の真偽すら断言できない懐疑的な語り口で幕を開ける。自身の正気を疑いながら真相へと迫っていく姿勢は、ラヴクラフトの語り手に共通する認識論的恐怖の典型例である。

生涯・経歴

1908年5月14日午前10時20分頃、政治経済学の講義中に突然椅子から崩れ落ちて意識を失い、以後5年4ヶ月13日にわたって「正しい人格が我々の通常世界の光を再び目にすることはなかった」[3]という長期の人格喪失状態に陥る。この期間、彼の身体は元とは全く異質な言動を示し、猛烈な勢いで世界中の書物や知識を渉猟し続けた。

回復後の彼は当初、これを心因性の疾患と考えていたが、その後見るようになった悪夢と、各地で得られる断片的な証言から、真相に気づき始める——健忘症の期間中、自分の精神は太古の地球に栄えた「イースの大いなる種族」の一個体と入れ替わっており、逆に自分の精神がその種族の肉体に宿されて、彼らの巨大な図書館都市で暮らしていたのだという。彼が理解するに至った大いなる種族の精神交換の仕組みは、「適切な機械的補助を用いて、精神は時間を越えて自らを前方に投射し、暗く超感覚的な手探りで求める時代へと近づいていく。そして予備的な試みの後、その時代の生命形態の中で最も優れた個体を捕らえ、その生物の脳へ入り込み自らの波動を打ち立てる。追い出された精神は代わりに、押しのけた側の時代へと跳ね返される」[4]というものであった。

物語終盤、彼は息子ウィンゲート・ピースリー(ミスカトニック大学教授)らとともにオーストラリアの奥地(グレートサンディ砂漠)へ赴き、大いなる種族の廃都の遺跡で自らの体験の物的証拠——太古に自分自身が(大いなる種族の身体で)書き残した手記そのもの——を発見するに至る。

他の人物・存在との関係

息子ウィンゲート・ピースリーは、父の「奇妙な健忘症」以来ずっと寄り添い続けた家族であり、後年のオーストラリア探検にも同行する重要な協力者である。物語自体、この息子に向けて事の真相を語り残すという体裁を取っている。

主要登場作と読みどころ

  • 「時間からの影」: ピースリーが語り手を務める唯一の収録作。1908年の健忘症発症、回復後に見るようになる悪夢、大いなる種族の文明の詳細、そしてオーストラリアでの物証発見という、精神交換というテーマを扱った代表的な一連の出来事がすべてこの手記の中で語られる

よくある誤解

Q. ピースリーの「健忘症」は原作内で心因性の病気だったのですか、それとも本当に精神交換が起きていたのですか?

A. 物語の構成上、当初は心因性の疾患という解釈も提示されますが、最終的にピースリー自身がオーストラリアの遺跡で自らの手による太古の手記という物的証拠を発見することで、精神交換が実際に起きていたことが強く示唆される結末になっています。

Q. 「精神交換(マインド・エクスチェンジ)」というテーマは、この作品オリジナルの設定ですか?

A. 「時間からの影」はこのテーマを扱ったラヴクラフト自身の代表作ですが、後年のTRPG等でも精神交換は繰り返し扱われる代表的なケーススタディとなっており、原作のアイデアがジャンル全体に影響を与えた例といえます。

出典

  • [1] “It was on Thursday, May 14, 1908, that the queer amnesia came…the collapse occurred about 10:20 a.m., while I was conducting a class in Political Economy VI…Then I slumped down, unconscious in my chair, in a stupor from which no one could arouse me.”(訳: 「その奇妙な健忘症が訪れたのは、一九〇八年五月十四日木曜日のことだった……その崩落は午前十時二十分頃、私が政治経済学第六講義を行っている最中に起きた……そして私は椅子の上で崩れ落ち、誰にも目覚めさせることのできない昏迷状態で意識を失った」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”(1934–35年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ
  • [2] “After twenty-two years of nightmare and terror, saved only by a desperate conviction of the mythical source of certain impressions, I am unwilling to vouch for the truth of that which I think I found in Western Australia on the night of July 17–18, 1935.”(訳: 本文中訳参照) — 同上, 公式アーカイブ
  • [3] “Nor did my rightful faculties again look out upon the daylight of our normal world for five years, four months, and thirteen days.”(訳: 「そして正しい人格が我々の通常世界の光を再び目にすることはなかった、五年四ヶ月と十三日の間」) — 同上, 公式アーカイブ
  • [4] “With suitable mechanical aid a mind would project itself forward in time, feeling its dim, extra-sensory way till it approached the desired period. Then, after preliminary trials, it would seize on the best discoverable representative of the highest of that period’s life-forms; entering the organism’s brain and setting up therein its own vibrations while the displaced mind would strike back to the period of the displacer.”(訳: 本文中訳参照) — 同上, 公式アーカイブ
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