小説 — The Suicide in the Study

自滅の魔術

自己催眠で己の内なる「悪」の人格を分離させる実験に手を染めた魔術師が制御を失う。『屍食教典儀』の初出作品。

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自滅の魔術

編集部注(著作権について): 本記事が扱う『自滅の魔術』(原題: The Suicide in the Study、1935年発表)は、パブリックドメインであるとは断定できません。ブロックは1994年まで存命で著作権管理に積極的であり、同時期の複数作品について実際の著作権更新記録が確認されています。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評のみで構成しています。

概要

自己催眠によって己の内なる「悪」の人格を分離させる実験に手を染めた魔術師が、制御を失う一編。神話文書『屍食教典儀』の初出作品でもある[1]。当時まだ18歳だったロバート・ブロックが、若手作家として頭角を現し始めた時期に書いた初期の代表作のひとつでもある。

作品情報

  • 原題: The Suicide in the Study
  • 執筆・発表年: 1935年発表(「ウィアード・テイルズ」誌6月号、編集ファーンズワース・ライト、表紙マーガレット・ブランデージ)
  • 主題タグ: 自己催眠による人格分離、『屍食教典儀』の初出、ラヴクラフトをもじった人物名

登場神格・用語

あらすじ

現代の魔術師ジェイムズ・アリントンは、自己催眠によって己の内なる「悪」の人格を肉体から分離させる実験に手を染める。禁書『屍食教典儀』とその著者コント・デルレット、および黒猫神バストの司祭ルヴェ=ケラフ(ラヴクラフトをもじった名)への言及を交えながら実験は制御を失い、縮小した本体と獣めいた「悪」の分身が対峙する破滅的結末を迎える。密室の書斎という限定された舞台の中で完結する構成は、後年のブロック作品にも繰り返し見られる「狭い空間に凝縮された恐怖」という手法の早い実例でもある。

読みどころと注目テーマ

本作最大の読みどころは、恐怖の源泉が外部の怪物ではなく、術者自身が意図的に切り離した「自己の一部」であるという構図にある。魔術師アリントンは、外なる邪神を呼び出したのではなく、内なる悪意そのものを実体化させてしまったがゆえに、対抗手段を持たないまま追い詰められていく。禁書の記述に導かれて一線を越える魔術師という定型は神話作品に頻出するが、本作ではその禁忌が「他者への攻撃」ではなく「自己への実験」という形を取っている点が独自性である。また、ラヴクラフト本人をもじった司祭名ルヴェ=ケラフを登場させる遊び心は、当時まだ10代だったブロックが、文通を通じて親交のあったラヴクラフトに対して抱いていた敬愛と悪戯心の両方を映し出すものとしても読める。ブロック自身が創作した『屍食教典儀』という文書がこの一編を起点に神話全体で流通する文献へと育っていく最初の瞬間に立ち会える点も、シリーズを通読する読者にとっての大きな魅力である。

執筆背景と影響

神話文書『屍食教典儀(Cultes des Goules)』の初出作品。ラヴクラフト自身をモデルにした人物名(ルヴェ=ケラフ)が使われている点でも早期のラヴクラフト間ジョークの一つ。ブロック(1917-1994)は16歳だった1933年にラヴクラフトへ熱烈なファンレターを送り、旧作を貸し与えられるなど直接指導を受けたことをきっかけに執筆の道へ進み、17歳の1934年7月に「ウィアード・テイルズ」誌でプロデビューした[2]。ラヴクラフトは翌1936年発表の「闇に囁くもの」ならぬ「暗闇の悪魔」をブロックに献辞して捧げており、これは彼が生涯で唯一作品を献呈した相手であったことでも知られる[3]。「自滅の魔術」は、この師弟関係がもっとも密接だった時期の作品であり、後にブロック自身の作品集『Mysteries of the Worm』(1981年、Zebra Books)や、Chaosium社のクトゥルフ神話小説叢書『Mysteries of the Worm: Early Tales of the Cthulhu Mythos』(2009年)にも収録され、屍食教典儀を扱う初期ミソス作品の代表として現在まで版を重ねている[4]。ブロックが生み出した架空著者「コント・デルレット」の名は、後に神話サークルの仲間オーガスト・ダーレスと紛らわしいという理由でしばしば混同されるが、ラヴクラフト自身もブロック自身も、この文書がダーレスではなくブロックの創作であることを明言している[5]。『屍食教典儀』はこの一編を起点として、ラヴクラフト自身の代表作『暗闇の悪魔』にも「星の智慧派」教会の蔵書として登場するなど、ブロックの手を離れて神話全体で共有される文献へと定着していく。一人の18歳の新人作家が書斎の中で創作した禁書が、師と仰いだラヴクラフト自身の代表作にまで取り込まれていくという経緯自体が、初期クトゥルフ神話が同人的な文通ネットワークを通じて相互参照を重ねながら育っていった過程を象徴している。

出典

本作はパブリックドメインであるとは断定できないため、原文からの引用は行っていません。以下は書誌的事実についての出典です。

  • [1] 「The Suicide in the Study」は、神話文書Cultes des Goules(屍食教典儀)とその著者「コント・デルレット」が初めて登場する作品として記録されている。— 出典: ISFDB「Title: The Suicide in the Study」タグ情報, 該当ページ
  • [2] ロバート・ブロック(1917-1994)は1933年、16歳のときにラヴクラフトへファンレターを送り、旧作の貸与や助言を受けた。1934年7月、17歳で「ウィアード・テイルズ」誌に初めて作品を売り込みプロ作家としてデビューした。— 出典: Wikipedia「Robert Bloch」経歴節, 該当ページ
  • [3] ラヴクラフトは1936年発表の短編「暗闇の悪魔(The Haunter of the Dark)」をロバート・ブロックに献辞しており、これはラヴクラフトが生涯で作品を献呈した唯一の人物である。— 出典: Wikipedia「Robert Bloch」ラヴクラフトとの関係節, 該当ページ
  • [4] 「The Suicide in the Study」は初出のWeird Tales 1935年6月号のほか、ブロック自身の短編集『Mysteries of the Worm』(1981年、Zebra Books/General Paperbacks)、Chaosium社『Mysteries of the Worm: Early Tales of the Cthulhu Mythos』(Call of Cthulhu Fiction #6037、2009年)などに繰り返し再録されている。— 出典: ISFDB「Title: The Suicide in the Study」再録一覧, 該当ページ
  • [5] 架空著者「コント・デルレット」はオーガスト・ダーレスと紛らわしい名前だが、ダーレスがこの文書を考案したという説はラヴクラフト・ブロック双方によって否定されており、創作者はブロックであると確認されている。同文書はラヴクラフト「暗闇の悪魔」で、ロバート・ブレイクの死後にデクスター博士が「星の智慧派」教会の蔵書から接収した書物として登場する。— 出典: Wikipedia「Books in the Cthulhu Mythos」Cultes des Goules節, 該当ページ
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