概要
「屍食教典儀」は、H・P・ラヴクラフトの作品に登場する架空の魔道書です。欧文表記はCULTES DES GOULESで、フランス語として直訳すると「食屍鬼の教団」ないし「食屍鬼崇拝」を意味します。作中では「コント・デルレット(Comte d’Erlette)」という人物の著作とされています[1][2]。
ラヴクラフト作品での言及は「暗闇の悪魔」と「時間からの影」の2作品に限られます。いずれの場面でも、『ネクロノミコン』『妖蛆の秘密』『無名祭祀書』『エイボンの書』といった禁断の魔道書と並んで名が挙げられ、それらを読んだこと、あるいは克明に調べたことが、登場人物の常軌を逸した知識を裏づける材料として扱われています[1][2]。
このほか、ラヴクラフトがR・H・バーロウと共作した「世紀の終わった戦い」にも「コント・デルレット」という名の人物が登場しますが、こちらは書名としての『屍食教典儀』への言及ではありません[3]。またロバート・ブロックの「The Shambler from the Stars」では、主人公が探し求める禁書のひとつとして書名だけが挙がります[4]。
基本プロフィール
- 分類: 禁書(架空)
- 欧文表記: CULTES DES GOULES(食屍鬼の教団、食屍鬼崇拝の意)
- 著者(作中設定): 「コント・デルレット(Comte d’Erlette)」の著作とされます[1][2]。経歴などそれ以上の記述は、資料の範囲では確認していません。
- ラヴクラフト作品での言及: 暗闇の悪魔(1935年11月執筆)、時間からの影(1934年11月〜1935年3月執筆)、世紀の終わった戦い(1934年6月執筆、人物名としての言及)[1][2][3]
- ほかの作家の作品での言及: ロバート・ブロック「The Shambler from the Stars」(Weird Tales 1935年9月号)[4]
ラヴクラフト作品での言及
暗闇の悪魔(1935年11月執筆)
本作では、主人公ブレイクが打ち捨てられた教会の中で見つけた蔵書の中に、この書物の名が挙げられます。ブレイクはすでにその多くを読んでおり、地の文には次のようにあります。
「彼はそれらの多くをすでに読んでいた――忌まわしい『ネクロノミコン』のラテン語版、不気味な『エイボンの書』(Liber Ivonis)、コント・デルレットの忌まわしき『屍食教典儀』、フォン・ユンツトの『無名祭祀書』、そして老ルドヴィク・プリンの地獄めいた『妖蛆の秘密』である。」[1]
ここでの『屍食教典儀』は、『ネクロノミコン』や『妖蛆の秘密』と並ぶ「忌まわしい(infamous)」蔵書のひとつとして扱われるにとどまり、内容そのものへの言及はありません。
時間からの影(1934年11月〜1935年3月執筆)
本作の語り手ピースリーは、自分の人格が入れ替わっていた期間に自分がどのような研究をしていたかを、後から余白の書き込みという証拠によって知ります。
「余白の書き込みという確かな証拠が、私がコント・デルレットの『屍食教典儀』、ルドヴィク・プリンの『妖蛆の秘密』などを克明に調べ尽くしていたことを示していた。」[2]
この場面でも『屍食教典儀』は、『妖蛆の秘密』『無名祭祀書』、『エイボンの書』の断片、『ネクロノミコン』と並ぶ研究対象として名が挙がるだけで、記述内容そのものには触れられていません。
世紀の終わった戦い(1934年6月執筆)
本作はR・H・バーロウとラヴクラフトの共作で、当時のウィアード・テールズ周辺の作家仲間を戯画化した、ボクシングの実況めいたパロディ作品です。ここに書名としての『屍食教典儀』は登場しません。登場するのは「M・ル・コント・デルレット(M. le Comte d’Erlette)」という人物で、試合の実況記録を取る記者役として描かれています。
「試合の間中、M・ル・コント・デルレットが、全200巻から成るプルースト風の連作小説(題して『九月の朝』)のために記録を取っていた。」[3]
本作には登場人物の正体を明かす一覧も収められており、そこには次のようにあります。
「M・ル・コント・デルレット――オーガスト・ダーレス(『春の夕べ』の著者)」[3]
この名は、他の2作品で『屍食教典儀』の著者とされる「コント・デルレット」と綴りが一致します。ただし本作の本文に書名そのものへの言及はなく、当サイトではこれ以上の関係を確認していません。
「The Shambler from the Stars」での言及
本作の語り手は、変わった題材を求めて全国の古書店を巡り歩く中で、複数の禁書を探し求めます。『屍食教典儀』は、その探索の対象として一度だけ名が挙がります。
「並みの書店でその名を聞いたことのある者は誰もいなかった――恐るべき『ネクロノミコン』も、邪悪な『エイボンの書』も、そして不穏な『屍食教典儀』も。」[4]
結局、語り手はこれらの書物を見つけられないまま、シカゴの古書店でルドヴィク・プリンの『妖蛆の秘密』を手に入れます。『屍食教典儀』そのものが語り手の手に渡る場面はありません。
性質と影響
ラヴクラフトの2作品を通じて、『屍食教典儀』は常に『ネクロノミコン』『妖蛆の秘密』『無名祭祀書』『エイボンの書』といった、他の禁断の魔道書と並んで名指しされます。それを読んだ、あるいは調べたという事実そのものが、ブレイクやピースリーの尋常でない知識・経歴を裏づける記述として機能しています。一方で書物の具体的な内容――呪文や儀式、記されている神格など――については、今回確認した4箇所のいずれにも記述がなく、当サイトでは確認していません。
「The Shambler from the Stars」では、『屍食教典儀』は入手困難な書物として扱われています。語り手は結局これを手にできず、代わりに別の魔道書を入手する展開になっており、この作品内での位置づけは「探しても見つからない書物」の域を出ません。それ以上の性質や効果についての記述は、資料の範囲では確認していません。
関連する用語
- 食屍鬼 — 書名CULTES DES GOULESの由来となった存在
- 暗闇の悪魔
- 時間からの影
- 星から訪れたもの
- ロバート・ブロック
- ネクロノミコン
- エイボンの書
- 無名祭祀書
- 妖蛆の秘密
- プナコティック・マニュスクリプト
出典
[1] H. P. Lovecraft, “The Haunter of the Dark” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/hd.aspx[2] H. P. Lovecraft, “The Shadow out of Time” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/sot.aspx[3] R. H. Barlow with H. P. Lovecraft, “The Battle that Ended the Century” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/bec.aspx[4] Robert Bloch, “The Shambler from the Stars”, Weird Tales vol. 26, no. 3 (September 1935). Internet Archive: Weird_Tales_v26n03_1935-09_sas_-ifc執筆時期はいずれも “Lovecraft’s Fiction”(作品年譜) https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/ による。訳文は当サイトの試訳。

