編集部注(著作権について): 本記事が扱う『サタムプラ・ゼイロスの話』(1931年「ウィアード・テイルズ」誌11月号掲載)は、著作権継承者(CASiana Literary Enterprises)が同時代作品を個別に更新している実例があるため、パブリックドメインであるとは断定できません。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評・書誌的事実のみで構成しています。
概要
ハイパーボリアの都から来た二人の盗賊が、廃都の神殿でツァトゥグァ本体と遭遇する恐怖譚。スミス独自の邪神ツァトゥグァの姿形が初めて詳細に描写された記念碑的作品であり、ハイパーボリア連作そのものの起点となった一作でもある。
作品情報
- 原題: The Tale of Satampra Zeiros
- 執筆・発表年: 1929年執筆/1931年発表(「ウィアード・テイルズ」誌11月号)
- 主題タグ: 盗賊二人組の冒険、ツァトゥグァの詳細な初描写、廃都の神殿
登場神格・用語
あらすじ
物語はユゾルダロムの盗賊サタムプラ・ゼイロスが、右手を失った身で、その顛末を自ら書き記すという一人称の回顧形式で始まる。相棒ティラス・ズドロプとともに一文無しに近い困窮に陥っていた二人は、酒場でパンと石榴酒のどちらを買うか言い争った末、かつて「白きシビュラ」の予言する災厄を恐れて住民ごと放棄された古都コモリオムへ財宝を狙いに向かう決意を固める。人跡未踏となって久しい密林の道を抜けてたどり着いたコモリオムの廃都で、二人は邪神ツァトゥグァの神殿に忍び込む。財宝を求めて祭壇に近づいた二人は、蟇蛙とナメクジを合わせたような姿の邪神ツァトゥグァ本体と遭遇し、粘液状の触手によって相棒が捕食される様を目撃する。語り手のサタムプラ自身も追い詰められ、右手を失いながらもかろうじて神殿を脱出する。盗賊としての矜持と老いてなお消えない恐怖とが入り混じった独特の語り味を持つ、ツァトゥグァの姿形が初めて詳細に描写された記念碑的作品である。
読みどころと注目テーマ
本作の読みどころは、盗賊二人組による軽妙な冒険活劇として始まった物語が、後半になるにつれて容赦のない怪異譚へと反転していく緩急にある。前半は財宝を狙う盗賊たちのやり取りがユーモラスに描かれ、いかにも痛快な冒険譚の体を取っているが、神殿に踏み込んだ瞬間から空気が一変し、ツァトゥグァを守る名状しがたい怪物によって相棒が為す術もなく捕食されてしまう。この落差の大きさが、読者に強い衝撃を残す構成上の工夫になっている。また、年老いたサタムプラ自身が「語り手」として当時を回顧する形式を取ることで、彼が生き延びて老年を迎えたという結末をあらかじめ提示しながらも、右手を失うという代償と消えない恐怖の記憶を隠さず語る点も読みどころのひとつである。廃墟と化した神殿、崩れかけた鴨居の隙間から侵入してくる怪物という舞台設定は、ハイパーボリアという舞台そのものの「かつて栄えた文明の残骸」という性格を象徴的に体現してもいる。財宝目当てで軽口を叩き合っていた冒頭の陽気さと、神殿脱出後に隻腕となった語り手が静かに筆を置く結末との落差もまた、本作を単なる冒険譚以上のものにしている。
執筆背景と影響
スミス自身の創造神ツァトゥグァを本格的に描写した最初の作品で、後にラヴクラフト『闇に囁くもの』やハワード『黒の碑』にも取り込まれ、シェアード・ミソスの正式な一員として定着させた重要作。本作は1929年に執筆され、1931年に「ウィアード・テイルズ」誌11月号に掲載された[1]。ラヴクラフトは未発表段階の本作を読み、「ダンセイニそのものの筆致」(“the exact Dunsanian touch”)を捉えた達成として絶賛しており、スミスの散文の中でも屈指の出来だと評したことが伝えられている[2]。本作はハイパーボリア連作そのものの事実上の第一作にあたり、以後スミス自身の短編集『Lost Worlds』(1944年)をはじめ、『The Spawn of Cthulhu』(1970年)、『Hyperborea』(1971年)といったアンソロジーにも繰り返し収録され、CASのハイパーボリア物を代表する一作として版を重ねてきた[3]。スミスとラヴクラフトは1922年から1937年のラヴクラフトの死まで文通を続け、互いの創作物を遠慮なく借用し合う関係にあった。ツァトゥグァがラヴクラフト『闇に囁くもの』やハワード『黒の碑』へ取り込まれたのも、この二人三脚的な創作圏(俗に「クラーク・アシュトン・スミソス」とも呼ばれる)における相互参照の典型例であり、本作はその出発点に位置する[4]。
出典
本作はパブリックドメインであるとは断定できないため、原文からの引用は行っていません。以下は書誌的事実についての出典です。
- [1] 「The Tale of Satampra Zeiros」は1929年に執筆され、1931年11月に「ウィアード・テイルズ」誌に掲載された短編として記録されている。ハイパーボリア連作(Satampra Zeirosシリーズ)に分類される。— 出典: ISFDB「Title: The Tale of Satampra Zeiros」, 該当ページ ↩
- [2] H・P・ラヴクラフトは未発表段階の本作について「ダンセイニそのものの筆致」を捉えた達成であり、スミスの散文の中でも屈指の出来だと評したと伝えられている。— 出典: Wikipedia「The Tale of Satampra Zeiros」受容節, 該当ページ ↩
- [3] 本作はスミス自身の短編集『Lost Worlds』(1944年)、アンソロジー『The Spawn of Cthulhu』(1970年)、『Hyperborea』(1971年)に収録された。— 出典: Wikipedia「The Tale of Satampra Zeiros」再録節, 該当ページ ↩
- [4] クラーク・アシュトン・スミスとH・P・ラヴクラフトの文通は1922年から1937年のラヴクラフトの死まで続き、互いに創作物を借用し合う関係は「クラーク・アシュトン・スミソス(Clark Ashton Smythos)」と呼ばれることがある。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith」ラヴクラフトとの関係節, 該当ページ ↩




