概要
Suhrkamp Verlagの公式商品ページに、短編集『Das Ding auf der Schwelle』(表題作は当サイトで「戸口に現れたもの」として扱っている作品の原題)、副題『Unheimliche Geschichten』(不気味な物語たち)が掲載されている。現在の表示は「Bei Lieferbarkeit benachrichtigen」(入荷したら知らせる)で、注文ボタンではなく入荷通知の受付状態だ[1]。
書誌情報として、初刊日にあたる「Ersterscheinungstermin: 03.11.1976」と、再供給日にあたる「Wieder lieferbar: 13.10.2026」の2つの日付が併記されている。刷数は「21. Auflage」(第21刷)、装丁はBroschur(ペーパーバック)、244ページ、言語はドイツ語。ISBNは978-3-518-36857-2、シリーズ表記は「suhrkamp taschenbuch 357, Phantastische Bibliothek 2」。価格はドイツ国内10,00ユーロ、オーストリア10,30ユーロ、スイス14,90フラン、判型は約10.6×17.7×1.4センチ、重さ141グラムと記載されている[1]。
新刊ではなく、第21刷
このページが示しているのは新刊の情報ではない。1976年に世に出た本が、2026年10月に21回目の刷を重ねて再び入荷するという知らせだ。初刊の「03.11.1976」から今回の再供給予定日「13.10.2026」までは、ほぼ50年にあたる。その間に21刷を数えているということは、単発のヒットで終わらず、版元が絶版にせず刷り続けてきた本だということを意味する。ドイツ語圏でラヴクラフトがどう読まれてきたかを考えるとき、この「刷数」という地味な数字は、話題性のある新刊情報よりも雄弁かもしれない。半世紀にわたって読者が途切れなかったからこそ、21刷という数字が積み上がっている。
訳者クレジットの「アメリカ語から」
書名の下には「Aus dem Amerikanischen von Rudolf Hermstein. Mit einem Nachwort von Kalju Kirde」という一文が置かれている。「Aus dem Amerikanischen」は直訳すれば「アメリカ語から」であり、「Aus dem Englischen(英語から)」ではない[1]。
この表記は、訳者ルドルフ・ヘルムシュタインの経歴紹介と並べて読むと、なおのこと目を引く。ページ内の訳者紹介には「Rudolf Hermstein, geboren 1940 in Juliusburg in Niederschlesien, ist seit 1971 als freier Übersetzer aus dem Englischen tätig.」(訳:ルドルフ・ヘルムシュタインは1940年、ニーダーシュレージエンのユリウスブルクに生まれ、1971年以降、英語からのフリーランス翻訳者として活動している)とある[2]。訳者自身の肩書としては「英語からの翻訳者」であるにもかかわらず、この本個別のクレジットだけは「アメリカ語から」と明記されている。ドイツ語の出版慣習では、アメリカ英語で書かれた作品を指して「Amerikanisch(アメリカ語)」という言い方をすることがあり、ラヴクラフトの文章がイギリス英語ではなくアメリカ英語の産物であることを、このクレジット一文がそのまま示している格好だ。
巻末解説を担当したカリユ・キルデ(Kalju Kirde)の名前もクレジットに含まれている[1]。
収録作
公式ページの「Inhaltsverzeichnis」(目次)欄には、次の5作がページの表記どおりに並んでいる。
「Das Ding auf der Schwelle. Der Außenseiter. Die Farbe aus dem All. Träume im Hexenhaus. Der Schatten aus der Zeit.」[3]
英題に置き換えると、表題作「戸口に現れたもの」(The Thing on the Doorstep)、「アウトサイダー」(The Outsider)、「宇宙からの色」(The Colour out of Space)、「魔女の家の夢」(The Dreams in the Witch House)、「時間からの影」(The Shadow out of Time)の5作。いずれも当サイトで扱ってきた作品であり、「戸口に現れたもの」は表題作としてこの短編集の顔になっている。時代も発表媒体もばらばらな5作をまとめて1冊にした編集方針そのものは、公式ページに説明がなく確認できていない。
Necronomiconをめぐる紹介文
内容紹介には次の一文がある。
「Der »Cthulhu«-Mythos lebt weiter, ein neuer Band mit Gruselgeschichten rankt sich um das legendäre Geheimbuch Necronomicon, das angeblich von dem legendären Araber Ahdul Alhazred verfaß wurde.」(訳:「クトゥルフ」神話は生き続けている。新たな怪奇譚集は、伝説の魔導書ネクロノミコン――伝説のアラブ人アドゥル・アルハザードによって著されたとされる――をめぐって編まれている。)[1]
この一文は公式ページの表記をそのまま書き写したもので、著者名の綴りは「Ahdul Alhazred」となっている。英語圏で定着している綴り「Abdul Alhazred」とは1文字違う。どちらが版元の意図した綴りかは公式ページからは判断できず、この記事ではページの表記をそのまま転記するにとどめる。あわせて、動詞部分も「verfaß wurde」(本来なら「verfaßt wurde」または現代正書法の「verfasst wurde」となる箇所)という表記になっており、この点もページに掲載されている文字列のとおりに引いた。
シリーズ内での位置づけ
この本はSuhrkampの文庫レーベル「suhrkamp taschenbuch」の357番として、かつ同レーベル内の幻想文学叢書「Phantastische Bibliothek」の2番として刊行されている[1]。「Phantastische Bibliothek」は、ラヴクラフトに限らず幻想文学・怪奇小説を横断的に収めるシリーズであり、この本がその2番目の巻として位置づけられていることは、Suhrkampが早い段階からラヴクラフトを海外幻想文学の柱の一つとして扱ってきたことをうかがわせる。関連商品欄には、同じくラヴクラフトの『Berge des Wahnsinns』(狂気の山脈にて)や『Cthulhu』、『Schatten über Innsmouth』(インスマウスの影)、英語版『Horror Stories』も並び、ブラム・ストーカーの『Dracula』やメアリー・シェリーの『Frankenstein』と同じ棚に置かれている[1]。
同じ関連商品欄には、スタニスワフ・レムの『Der Unbesiegbare』『Also sprach GOLEM』『Fiasko』『Die Stimme des Herrn』『Die Astronauten』、そしてストルガツキー兄弟の『Picknick am Wegesrand』も並んでいる[1]。それぞれの邦題がドイツ語書名とどう対応するかは公式ページに記載がなく、この記事では確認できていない。ドラキュラやフランケンシュタインといった古典怪奇小説と並べるだけでなく、レムやストルガツキー兄弟という硬派なSF作家たちの作品とも同じ棚に置いているという編集方針は、Suhrkampがラヴクラフトを単なるホラー作家としてではなく、SF・幻想文学の系譜に連なる書き手として扱っていることを示している。
入荷待ちという状態が意味すること
現在のページ表示は注文ボタンではなく「Bei Lieferbarkeit benachrichtigen」(入荷したら知らせる)であり、2026年10月13日の再供給を待っている状態だ[1]。半世紀近くのあいだ21刷を重ねてきた本であっても、常に店頭に並んでいるとは限らない。品切れと再入荷を繰り返しながら刷を重ねてきたことも、この「Wieder lieferbar」という一語からうかがえる。新刊ラッシュの中で話題になる本とは違い、こうした定番書は在庫が切れるたびに静かに再入荷し、また読み継がれていく。今回の第21刷も、その繰り返しの中の一齣にすぎない。
関連して読むなら
- 戸口に現れたもの — 表題作の当サイトの記事
- アウトサイダー — 収録作の一つ
- 宇宙からの色 — 収録作の一つ
- 魔女の家の夢 — 収録作の一つ
- 時間からの影 — 収録作の一つ
- Die Farbe aus dem All(サルバドール・サンス挿絵版) — 同じ「宇宙からの色」をめぐる、別の独語圏出版物のレビュー
- H. P. Lovecraft Bestiarium — こちらも独語圏で刊行されたラヴクラフト関連書
出典
- [1] 書名「Das Ding auf der Schwelle」、副題「Unheimliche Geschichten」、訳者・解説クレジット「Aus dem Amerikanischen von Rudolf Hermstein. Mit einem Nachwort von Kalju Kirde」、現在の注文状態「Bei Lieferbarkeit benachrichtigen」、Ersterscheinungstermin「03.11.1976」、Wieder lieferbar「13.10.2026」、刷数「21. Auflage」、装丁「Broschur」、ページ数「244 Seiten」、言語「Deutsch」、ISBN「978-3-518-36857-2」、シリーズ表記「suhrkamp taschenbuch 357, Phantastische Bibliothek 2」、価格「10,00 €(D)、10,30 €(A)、14,90 Fr.(CH)」、判型・重量「ca. 10,6 × 17,7 × 1,4 cm、141 g」、内容紹介「Der »Cthulhu«-Mythos lebt weiter, ein neuer Band mit Gruselgeschichten rankt sich um das legendäre Geheimbuch Necronomicon, das angeblich von dem legendären Araber Ahdul Alhazred verfaß wurde.」、関連商品として『Berge des Wahnsinns』『Cthulhu』『Schatten über Innsmouth』『Horror Stories』が同ページに掲載されていることを確認(取得日 2026-09-16) — Suhrkamp Verlag公式商品ページ「Das Ding auf der Schwelle」、https://www.suhrkamp.de/buch/h-p-lovecraft-das-ding-auf-der-schwelle-t-9783518368572 ↩
- [2] 訳者紹介「Rudolf Hermstein, geboren 1940 in Juliusburg in Niederschlesien, ist seit 1971 als freier Übersetzer aus dem Englischen tätig. Er lebt im oberbayerischen Bad Feilnbach.」を確認(取得日 2026-09-16) — Suhrkamp Verlag公式商品ページ「Das Ding auf der Schwelle」、https://www.suhrkamp.de/buch/h-p-lovecraft-das-ding-auf-der-schwelle-t-9783518368572 ↩
- [3] 「Inhaltsverzeichnis」欄の表記「Das Ding auf der Schwelle. Der Außenseiter. Die Farbe aus dem All. Träume im Hexenhaus. Der Schatten aus der Zeit.」を確認(取得日 2026-09-16) — Suhrkamp Verlag公式商品ページ「Das Ding auf der Schwelle」、https://www.suhrkamp.de/buch/h-p-lovecraft-das-ding-auf-der-schwelle-t-9783518368572 ↩


