概要
Chaosium公式商品ページによれば、『Harlem Unbound – 2nd Edition』(読み:ハーレム・アンバウンド セカンド・エディション。当サイトの試訳では「解き放たれたハーレム 第2版」ほどの意味。日本語版は本稿執筆時点(2026年9月)で確認できていない)は、『クトゥルフの呼び声』第7版用のサプリメントで、発売元Chaosium、発売年2020年、フルカラーハードカバー368ページ、ISBN 978-1-56882-422-2として登録されている。著者はChris Spivey、Sarah Hood、Alex Mayo、Steffie de Vaan、Cameron Hays博士、Bob Geis、Noah Lloyd、Ariel Celeste、Neall Raemonn Priceの各氏、アートはBrennen Reece・Alex Mayo・Jabari Weathersの各氏、地図はAlex Mayo氏、レイアウトはNicholas Nacario氏、編集はDixie Cochran・Jill Spivey・Adam Alexander・Mike Masonの各氏が担当している。取得時点の価格は49.99ドル(セール価格39.99ドル)、SKUはCHA23166-H、UPCは9781568824222である[1]。
Chaosium公式ブログが2020年7月16日付で配信したプレスリリースによれば、本作はこの週にハードカバー版が発売されたという。同リリースは本作を「Darker Hue Studiosによる、ゲーム卓での人種と人種差別を扱う多数受賞歴の作品の第2版」と紹介しており、正確な発売日(何月何日か)までは明記していない[2]。商品には本編に加えてハーレムの地図(見開き2ページ)、シナリオの舞台一覧・ハンドアウト・プリメイド調査員・調査員シート各PDFのダウンロード、Roll20向けの対応案内が付属する[1]。
本作には前身がある。Chaosium公式ブログのプレスリリースは「初版はすでに複数のゲーム業界賞を受賞し、博物館のコレクションに収蔵され、大学のカリキュラムでも教材として扱われてきた」と述べている[2]。この初版は、Darker Hue Studios創業者Chris Spivey氏が自ら発行した自主制作作品で、Gnome Stewの書評によれば『クトゥルフの呼び声』に加えてGUMSHOEシステムにも対応していたが、Chaosiumが発行する第2版はGUMSHOE対応が外れ、『クトゥルフの呼び声』第7版専用の製品になっている[6]。
どんな作品か
Chaosium公式商品ページの説明によれば、本作の舞台は禁酒法下のニューヨーク、ハーレム。南部の抑圧を逃れてきたアフリカ系アメリカ人たちが新しい文化を築き上げていく高揚感のさなか、街の底にはクトゥルフ神話の恐怖が忍び寄っている。第2版は初版から拡張・改良されており、7本のシナリオ(うち4本が第2版での新規収録)、ハーレムに特化した専用オキュペーション、新規のMythosモンスター、すぐに使えるプリメイド調査員、ランダムなプロット生成表、そして「ゲームで人種を扱うための速習コース」が収録されている。本サプリメントは『クトゥルフの呼び声』第7版と、任意で『パルプクトゥルフ』を併用する形での運用が想定されている[1]。
Gnome Stew(編集体制を持つ英語圏の大手TRPGレビューサイト)のJared Rascher氏による2020年6月16日付の書評は、初版と第2版の違いをより具体的に記している。シナリオは初版の4本から第2版で7本に増え、初版にあった1本が第2版では収録されていない一方、4本が新規に追加された。歴史上の実在人物の紹介も、初版の50人から第2版では64人に増え、当時のニューヨーク市長の変遷をまとめたページも新設されている。同書評は、本作がハーレムの先史時代(2億2000万年前)から説き起こす歴史章、Mythosの出来事と実在の歴史を織り交ぜた年表、そしてオランダ・イギリスによる植民地化からイタリア系・ユダヤ系住民を経て黒人文化の中心地へと変わっていく街の変遷を描いている点を高く評価している[6]。
同書評はさらに、本作独自の新規クリーチャーとして「Baron in Blues」「Duppy」「Golems」「Soucouyant」「Zonbi」の5体(いずれもハーレムの土地と結びついた存在として設定されている)と、汎用の「Monstrosity」ステータスブロックが収録されていることを確認している[6]。収録シナリオのうち「Harlem Hellfighters Never Die」「Whispers of Harlem」の2本は経験の浅い調査員でも入りやすい導入用シナリオとして設計されており、「Whispers of Harlem」と「Your Name in the Book」の間には物語上のつながりも用意されているという[6]。
Gnome Stewの評価は「Strongly Recommended(強く推奨)」で、Rascher氏は「不満点は多くない。初版のGumshoeルールが恋しいが、Chaosiumから出版された経緯を考えれば理解できる省略だ」と述べつつ、「この本は本当に手元に置くべきだ」と結んでいる[6]。
版元と作者——Chris SpiveyとDarker Hue Studiosの歩み
Darker Hue Studios公式サイトの「About Chris Spivey」ページによれば、Chris Spivey氏はアメリカ陸軍の退役軍人であり、Darker Hue StudiosのCEOとしてロールプレイングゲームの執筆・開発を手がけている。同ページは、Spivey氏が手がけた作品として『Haunted West』(自主制作の西部劇TRPG)、『クトゥルフの呼び声 スターターセット』所収の「Deadman Stomp」、『Cthulhu Confidential』、本作『Harlem Unbound Second Edition』、『7th Sea: Land of Fire and Gold』、『Geist 2nd Edition』、『Trail of Cthulhu: Out of the Woods and Thousand Years of Night』などを挙げている[5]。
Chaosium公式ブログのプレスリリースでは、Spivey氏自身の言葉として「Chaosiumが『Harlem Unbound』の第2版制作を持ちかけてくれたことに感謝している。白人男性が支配的で、白人の視点から物語が語られがちなこの業界で、黒人アメリカ人やその他のマイノリティの物語を前面に押し出し、現状の前提に異議を唱えることが私の使命だった」との発言が引用されている。Chaosium社長Rick Meints氏も「Harlem Unboundがより広い読者に届くべき作品であることを、私たちは知っている。Chrisとこの重要な歩みを分かち合えることを誇りに思う」と述べている[2]。同リリースは本作の核を「アメリカにおける、そして世界における人種と不正義についての対話を、誠実かつ明確な形で扱うこと」と説明しており、これは当サイトの解釈ではなくChaosium自身の公式な説明である[2]。
Darker Hue Studios公式サイトはまた、スタジオそのものの理念を「ゲームとギーク文化における多様な表現を、ゲームに誠実な歴史的視点を持ち込むこと、新しい題材を開発すること、既存のゲーム業界にインクルージョンを広めることを通じて増やしていくこと」と説明している[5]。
受賞歴——初版が獲得した3つの金賞と、第2版での評価
ENnie Awards公式サイトが公開する「2018 Nominees and Winners」ページの全項目を確認したところ、初版『Harlem Unbound』(Darker Hue Studios)は次の3部門でGold Winner(金賞)に選ばれている——Best Art, Cover(アーティスト:Brennen Reece)、Best Setting、Best Writing(いずれも著者Chris Spivey、Ruth Tillman、Bob Geis、Sarah Hood、Neall Raemonn Price)。また、Best Rules部門とProduct of the Year部門にはノミネートされているが、いずれも受賞には至っていない(Best RulesのGold WinnerはDelta Green: The RPG、Product of the YearのGold WinnerはZweihänder Grim & Perilous RPG)[3]。
この「3金賞」という結果は、Darker Hue Studios公式サイトのニュースページに掲載されている2018年8月7日付のプレスリリース「GROUNDBREAKING GAMING BOOK HARLEM UNBOUND WINS 3 GOLD ENNIE AWARDS FOR BEST WRITING, BEST SETTING AND BEST COVER ART」の内容と一致する。同リリースはさらに、Gen Con開催期間中にIndie Game Developer Network(IGDN)から「Groundbreaking Supplement」の賞も授与されたと述べている[7]。この賞について、当サイトはIGDN自身の公式記録までは確認できておらず、Darker Hue Studios側の発表のみを根拠としている。
第2版については、ENnie Awards公式サイトの「2020 Nominees and Winners」ページを確認したところ、Best Art, Cover部門に「Harlem Unbound 2nd Edition」(Chaosium Inc. / Darker Hue Studios、アーティストBrennen Reece)としてノミネートされているが、この部門のGold Winnerは『Call of Cthulhu: Berlin the Wicked City』であり、第2版は受賞していない。当サイトが確認した限り、2020年のENnie Awardsで第2版が言及されているのはこの1部門のみである[4]。
Chaosium公式ブログのプレスリリースは「初版はすでに複数のゲーム業界賞を受賞し、博物館のコレクションに収蔵され、大学のカリキュラムでも教材として扱われてきた」とも述べているが、どの博物館・どの大学かは明記されておらず、当サイトはこの点を独自に裏付ける資料を見つけられなかった[2]。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
本作を当サイトの三層区分——原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話——に照らすと、位置づけとしては第3層(TRPGによる拡張)に属する『クトゥルフの呼び声』第7版用サプリメントである。ただし、その拡張のしかたは、原典由来の神格や地名を継承する多くのTRPGサプリメントとは方向性が異なる。Gnome Stewの書評が確認する限り、本作が新規に収録するMythosクリーチャー(Baron in Blues、Duppy、Golems、Soucouyant、Zonbi)は、いずれもハーレムという土地に結びついた独自の創作であり、ラヴクラフトの原典作品に直接由来する固有の神格・存在としては言及されていない[6]。当サイトが参照できた公式資料・書評の範囲では、本作の中でクトゥルフやニャルラトホテプといった原典由来(第1層)の神格が具体的にどう扱われているか、あるいはそもそも名指しで登場するのかどうかまでは確認できなかった。
同じく『クトゥルフの呼び声』の実在都市サプリメントであるアーカムのすべて 完全版は、ラヴクラフト作品に登場する架空の町アーカムを舞台にしているのに対し、本作は実在のニューヨーク・ハーレムを、実在の歴史(ハーレム・ルネサンス、1935年のハーレム暴動に至る時代)とともに舞台としている点で対照的である。原典の固有名詞や地名を土台に組み立てるのではなく、現実の歴史・文化・人種問題を土台に据えたうえでMythosの恐怖を差し込むという作り方は、第3層の中でも、原典の体系化そのものからは距離を置いた設計だと言える。
なお、本作はパルプクトゥルフの追加ルールを使った運用にも対応しており[1]、基本ルールとなるクトゥルフの呼び声TRPG第7版を土台とする点は、他の第7版用サプリメントと変わらない。
関連して読むなら
- 原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話 — 本稿で使った三層の区分を解説した記事
- アーカムのすべて 完全版 — 同じくCoCの実在・架空都市を舞台にしたサプリメントで、本作とは対照的にラヴクラフトの架空の町アーカムを扱う一冊
- パルプクトゥルフ — 本作が併用ガイダンスを用意している、より派手な行動を許容するルールセット
- クトゥルフの呼び声TRPG — 本作の土台になっている第7版ルールブックの記事
出典
- [1] Chaosium公式商品ページ「Harlem Unbound – 2nd Edition – Hardcover」(取得日 2026-09-14)。発売元Chaosium、ルールセット「7th Edition Call of Cthulhu」、発売年2020年、フルカラーハードカバー368ページ、ISBN 978-1-56882-422-2、著者Chris Spivey・Sarah Hood・Alex Mayo・Steffie de Vaan・Cameron Hays・Bob Geis・Noah Lloyd・Ariel Celeste・Neall Raemonn Price、アートBrennen Reece・Alex Mayo・Jabari Weathers、地図Alex Mayo、レイアウトNicholas Nacario、編集Dixie Cochran・Jill Spivey・Adam Alexander・Mike Mason、価格49.99ドル(セール価格39.99ドル)、SKU CHA23166-H、UPC 9781568824222であることを確認。”Seven scenarios (four new to 2nd Edition).”(訳: シナリオ7本、うち4本は第2版での新規収録)、”This supplement is best used with the CALL OF CTHULHU (7th Edition) roleplaying game and optionally the PULP CTHULHU sourcebook, both available separately.”(訳: 本サプリメントは『クトゥルフの呼び声』第7版と、任意で別売の『パルプクトゥルフ』を併用するのが最適である)との記載、Product FooterのPublisher欄が「Chaosium」のみであることを確認。https://www.chaosium.com/harlem-unbound-2nd-edition-hardcover/ ↩
- [2] Chaosium公式ブログ「Harlem Unbound 2nd Edition Releases in Hardback and Limited Edition Leatherette」(Michael O’Brien、2020年7月16日、取得日 2026-09-14)。”Harlem Unbound 2nd Edition… releases this week in hardback.”(訳: Harlem Unbound 第2版は今週ハードカバー版が発売される)、”the first edition won multiple gaming industry awards, has been accepted into the collections of museums, and has been taught at universities as part of the curriculum.”(訳: 初版はすでに複数のゲーム業界賞を受賞し、博物館のコレクションに収蔵され、大学のカリキュラムでも教材として扱われてきた)、Chris Spivey氏および Chaosium社長Rick Meints氏のコメントの記載を確認。https://www.chaosium.com/blog-harlem-unbound-2nd-edition-releases-in-hardback-and-limited-edition-leatherette/ ↩
- [3] ENnie Awards公式サイト「2018 Nominees and Winners」ページ(取得日 2026-09-14)。Best Art, Cover部門・Best Setting部門・Best Writing部門の3部門で「Harlem Unbound , Darker Hue Studios」が*Gold Winner*と表記されていること、Best Rules部門・Product of the Year部門ではノミネートのみで受賞していないこと(両部門のGold WinnerはそれぞれDelta Green: The RPG、Zweihänder Grim & Perilous RPG)を、ページ全文を確認して裏付けた。https://ennie-awards.com/portfolio-item/2018-nominees-and-winners/ ↩
- [4] ENnie Awards公式サイト「2020 Nominees and Winners」ページ(取得日 2026-09-14)。Best Art, Cover部門に「Harlem Unbound 2nd Edition , Chaosium Inc. / Darker Hue Studios」がアーティストBrennen Reeceとしてノミネートされていること、同部門のGold Winnerは『Call of Cthulhu: Berlin the Wicked City』であり第2版は受賞していないことを確認。ページ全文を検索した限り、第2版への言及はこの1箇所のみ。https://ennie-awards.com/portfolio-item/2020-nominees-and-winners/ ↩
- [5] Darker Hue Studios公式サイト「Contact / About Us」ページ内「About Chris Spivey」(取得日 2026-09-14)。”Chris is a writer, game developer, veteran of the United States Army, and CEO of Darker Hue Studios.”(訳: Chrisは作家、ゲーム開発者、アメリカ陸軍の退役軍人であり、Darker Hue StudiosのCEOである)、”His groundbreaking and critically acclaimed game Harlem Unbound won 3 Gold Ennies and the IGDN Groundbreaker award.”(訳: 彼の画期的かつ批評的に高く評価されたゲームHarlem Unboundは、ENnie金賞3部門とIGDN Groundbreaker賞を受賞した)との記載、スタジオの理念の説明を確認。http://www.darkerhuestudios.com/founderandcontact ↩
- [6] Gnome Stew「Harlem Unbound 2nd Edition Review」(Jared Rascher、2020年6月16日、取得日 2026-09-14)。編集体制を持つ英語圏のTRPGレビューサイト、Reviewsカテゴリ掲載。”Rules–1st edition had support for Gumshoe and Call of Cthulhu, 2nd edition is a Call of Cthulhu 7th Edition Product”(訳: ルール面——1版はGumshoeとクトゥルフの呼び声の両方に対応していたが、2版はクトゥルフの呼び声第7版専用の製品である)、シナリオ数が1版の4本から2版の7本に増えたこと、歴史上の人物紹介が50人から64人に増えたこと、新規クリーチャーとしてBaron in Blues・Duppy・Golems・Soucouyant・Zonbiが収録されていること、”Strongly Recommended–This product is exceptional”との評価、”I miss the Gumshoe rules from 1st edition, but that’s an understandable omission given that this was published by Chaosium.”(訳: 1版のGumshoeルールが恋しいが、Chaosiumから出版された経緯を考えれば理解できる省略だ)との記載を確認。https://gnomestew.com/harlem-unbound-2nd-edition-review/ ↩
- [7] Darker Hue Studios公式サイト「News」ページ内、2018年8月7日付プレスリリース「GROUNDBREAKING GAMING BOOK HARLEM UNBOUND WINS 3 GOLD ENNIE AWARDS FOR BEST WRITING, BEST SETTING AND BEST COVER ART」(取得日 2026-09-14)。”Harlem Unbound was recognized with 3 Gold ENnies for Best Writing, Best Setting and Best Cover Art, the most Gold ENnies awarded this year for a single title. It was also honored earlier in the convention by the Indie Game Developer Network with the award for Groundbreaking Supplement.”(訳: Harlem UnboundはBest Writing・Best Setting・Best Cover Artの3部門でGold ENnieを受賞し、これは今年単一タイトルへの最多のGold ENnie数だった。また同大会中、Indie Game Developer NetworkからGroundbreaking Supplement賞も授与された)との記載を確認。http://www.darkerhuestudios.com/news ↩
