概要
『料理の魔書 ネクロノミコン ラヴクラフトの物語から生まれたレシピと儀式』は、H・P・ラヴクラフトの世界観をテーマにした実在の料理本です。原書『The Necronomnomnom』(2019年・アメリカ)の日本語版として、グラフィック社から2025年8月に刊行されました。マイク・スレーターらの手になる原書を、クトゥルフ神話TRPG関連の訳業で知られる朱鷺田祐介・岡和田晃・待兼音二郎・見田航介の各氏が日本語化しています。クトゥルフ神話に登場する神々や怪物たちにインスパイアされた50以上のレシピを収録し、書名の通り「調理できる魔導書」として作られた一冊です。
クトゥルフ神話との関係
本書の面白さは、単なるキャラクターモチーフのレシピ集ではなく、魔導書のパロディとして徹底的に作り込まれている点にあります。「Atlach-Nachos(アトラック・ナチョス)」のように神話存在の名をもじった料理名が並び、レシピの手順はあたかも召喚儀式の式次第のような筆致で綴られます。読めば正気を失う書物として恐れられるネクロノミコンの様式を、キッチンという最も日常的な場所に持ち込む倒錯がこの本の企画の核であり、「架空の禁書が現実の出版物として実体化する」というネクロノミコン受容史の系譜(サイモン・ネクロノミコンほか)に連なるユーモア版の最新形ともいえます。
独自の要素・読みどころ
魔導書らしい装丁・組版の雰囲気を楽しみながら、実際に作れるレシピ本として機能するのが最大の特徴です。クトゥルフ神話TRPGのセッション前後の卓を囲む食事や、ホラー好きの集まりでの持ち寄りなど、「神話を食卓で共有する」という他の書籍にはない使い道があります。ラヴクラフト作品の知識があるほど料理名の元ネタ探しが楽しくなる構造になっており、神話入門者への贈り物にも向いた、実用とジョークの境界に立つ稀有な一冊です。
