概要
ジョナサン・L・ハワードによる長編小説『Carter & Lovecraft』は、2015年にトーマス・ダン・ブックス(セント・マーティンズ・プレス)より刊行された。元殺人課刑事で現在は私立探偵のダニエル・カーターと、プロヴィデンスで書店を営むエミリー・ラヴクラフト——実在の作家H・P・ラヴクラフトの最後の血縁とされる女性——が主人公。ある事件をきっかけに知り合った二人は、ラヴクラフトが書き残した「架空の」神話が実は架空ではなかったという真実に直面していく。本作はハワード自身のオリジナルシリーズ第1作で、続編『After the End of the World』が発表されている。
クトゥルフ神話との関係
本作の核心的な仕掛けは、H・P・ラヴクラフト自身を単なる実在の作家としてではなく、神話的な出来事を「小説」という体裁を借りて記録した人物として扱う点にある。つまりクトゥルフ神話の物語群そのものが劇中世界における「隠された事実」であり、その子孫であるエミリーがその重みを継承する立場に置かれる。コズミックホラー的な不可知の脅威を、現代のノワール探偵小説の文法——軽妙な掛け合い、猟奇的な殺人事件の捜査——に落とし込んでいる点が特色である。
独自の要素・原典との違い
ラヴクラフト作品が基本的に一人称の手記や報告書という形式を取り、恐怖を静かに間接的に積み上げていくのに対し、本作はバディものの探偵小説としてのテンポの良い会話劇と、現代アメリカを舞台にした事件捜査劇を前面に押し出す。書評では「軽妙な掛け合いと不気味な死の描写が最も輝く」と評されており、ホラーとコメディ、ノワールの混淆というジャンル横断的な作風が本作独自の持ち味である。2026年7月時点の調査では日本語版の刊行は確認できず、邦訳未刊行である。

