概要
1970年、アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)製作、監督ダニエル・ハラー、製作総指揮ロジャー・コーマンによるホラー映画。主演はサンドラ・ディー、ディーン・ストックウェル、エド・ベグリー。H・P・ラヴクラフトの中編小説「ダニッチの怪」(1929年発表)を原作とする。ミスカトニック大学の女子学生ナンシー・ウォグナーが、ダンウィッチ出身の謎めいた青年ウィルバー・ウェイトリーに近づかれ、ネクロノミコンを利用した儀式に巻き込まれていく様を描く。脚本にはカーティス・ハンソンらが参加した。
公開当時の米国内興行成績は振るわず、批評家の評価も分かれたが、後年はAIPホラー映画群の代表作の一つ、また数少ない1970年代のラヴクラフト映画化として再評価が進んでいる。日本では劇場未公開だが、DVDが発売されており、邦題は「H・P・ラヴクラフトの ダンウィッチの怪」。
クトゥルフ神話との関係
原作である「ダニッチの怪」そのものが、旧支配者ヨグ=ソトースの直接的な介入を描いた神話体系の中核作品であり、本作もその設定を踏襲する。劇中に登場する禁断の書物はネクロノミコンとして明示され、儀式の鍵となる。次元の彼方からの顕現、双子の存在という原作の骨格は保持されている。
ミスカトニック大学の学者たちが古文書を調べて怪異の正体に迫るという構図も、ラヴクラフトが好んだ「学術的探求者が禁忌の知識に触れる」というコズミックホラーの典型的なプロットを反映している。低予算ながらAIPの美術・音楽が儀式シーンの異界性を演出し、後続のラヴクラフト映画化作品にも影響を与えたとされる。
独自の要素・原典との違い
最大の改変は、原作にほぼ存在しないヒロイン、ナンシー・ウォグナーとウィルバーの関係(および催眠術的支配)を物語の中心に据えた点である。原作は三人称の記録文書的な文体で進行し、女性キャラクターの内面描写はほとんどないが、映画版はサンドラ・ディー演じるナンシーの視点を通じてサイケデリックな幻覚描写や儀式の官能性を強調し、1970年前後のカウンターカルチャー的な演出(フラッシュカット、色彩効果)を大胆に導入している。
また原作終盤の怪物や結末の描かれ方も本作では大きく脚色されており、AIP作品らしくスペクタクル性を重視した見せ場が追加されている点が、簡潔で抑制的な原作の筆致とは対照的である。


