映画(1986年、スチュアート・ゴードン監督。公開40周年) — FROM BEYOND

From Beyond

米ミネアポリスのMSP Film Societyが2026年9月5日、『From Beyond』(1986年)公開40周年を記念して深夜上映する。松果体を刺激する装置で異次元を知覚するという原作の核は、映画でどこまで書き足されたのか。原作本文と公式な製作情報を照合し、異次元往来や肉体変貌といった映画独自の要素を切り分ける。

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概要

米ミネアポリスの上映団体MSP Film Societyが、2026年9月5日午後10時(現地時間)から、劇場The Main Cinemaで『From Beyond』(1986年)を上映する[1]。深夜上映企画「Midnight Mayhem」の一環で、告知ページは「Come celebrate 40 years of From Beyond(『From Beyond』の40周年を祝おう)」と銘打っている[1]。監督はスチュアート・ゴードン、上映時間86分、レイティングはRとされている[1]。

原作はH・P・ラヴクラフトが1920年11月16日に書き上げた短編「向こう側」(原題From Beyond)である[2]。約3,000語の一編に登場する「共鳴装置」と松果体という設定が、なぜ80年代のスプラッター・ボディホラーへ膨らんだのか。原作本文と映画の公式な製作情報を突き合わせ、どこまでが原作にあり、どこから先が映画独自の書き足しなのかを確かめる。

どんな作品か

映画『From Beyond』の製作クレジットは、Blu-ray/4K UHDの発売元Vinegar Syndromeの公式商品ページで確認できる。監督スチュアート・ゴードン、脚本デニス・パオリ、製作チャールズ・バンドとブライアン・ユズナ、撮影マック・アールバーグ、編集リー・パーシー、音楽リチャード・バンド[3]。出演はジェフリー・コムズ、バーバラ・クランプトン、ケン・フォリー、テッド・ソレル、キャロリン・パーディ=ゴードン、バニー・サマーズ、ブルース・マグワイア[3]。監督ゴードン・製作ユズナ・脚本パオリ・主演コムズとクランプトンという布陣は、前年の『Re-Animator』(1985年)と共通している[3]。

同ページのあらすじは次のように要約している。物理学者エドワード・プレトリウス博士が「共鳴器(レゾネーター)」という装置を発明し、肉眼では見えない生命体を知覚できるようにする。実験中に装置が誤作動を起こし、プレトリウスは殺される。助手だったクロフォード・ティリングハストは容疑者として精神病院に収容されるが、医師キャサリン・マクマイケルズが彼とともに装置を再構築し、隠れた世界へ踏み込んでいく[3]。プレトリウス、マクマイケルズという名は、原作「向こう側」の本文には登場しない。原作の登場人物と姓が一致するのは、ティリングハストだけである。

「感覚器官の中の感覚器官」――原作にすでにあった松果体

原作「向こう側」の主人公クロフォード・ティリングハストは、自作の電気機械が放つ光の正体を、語り手にこう説明する。

“You have heard of the pineal gland? I laugh at the shallow endocrinologist, fellow-dupe and fellow-parvenu of the Freudian. That gland is the great sense-organ of organs—I have found out. It is like sight in the end, and transmits visual pictures to the brain.”(訳: 「松果体のことを聞いたことがあるか。私は浅薄な内分泌学者を笑ってやる、フロイト派と同じ成り上がり者だ。あの腺こそが感覚器官の中の偉大な感覚器官だと、私は突き止めた。それは結局のところ視覚に似た働きをし、脳へ像を伝える」)[4]

機械の波が人間の退化した感覚――とりわけ松果体――を呼び覚まし、ふだん知覚できない生物を見えるようにするという骨格は、1920年の原作本文にすでに書き込まれている。当サイトの「向こう側」の記事で確認した通り、この短編は約3,000語、語り手とティリングハストの二人だけが屋根裏の実験室で一夜を過ごす、閉じた密室劇である。原作に医師キャサリン・マクマイケルズという人物は存在せず、物語を動かすのはティリングハストと、名前を明かされない語り手だけだ。

映画が足したもの――異次元往来、身体変異、書き足された人物

Vinegar Syndromeのあらすじが伝えるプレトリウス博士とマクマイケルズ医師という二人は、原作にいない映画独自の書き足しである。ミネアポリスの上映告知が伝えるあらすじも、同じ方向を向いている。「A doctor invents a machine that stimulates a sensory gland in the brain that allows the user to view an extra dimension. Unfortunately, when he sees the monstrous inhabitants of this realm, they can see him too and are rather eager to introduce him to their world: one that goes beyond the flesh.」(訳: 「ある医師が、脳内の感覚腺を刺激し、異次元を見られるようにする機械を発明する。しかし彼がこの領域の怪物じみた住人たちを目にすると、向こうもまた彼を見ることができ、肉体の彼方にある自分たちの世界へ、彼を引き込もうと躍起になる」)[1]

「向こう側の生物がこちらを見ている」という一文は、原作にも実際にある。ティリングハストは「この光の中では、我々は見る側であると同時に見られる側でもある」と語り手に告げている(当サイトの「向こう側」の記事で確認済み)。ここまでは原作の延長線上にある。だが「their world: one that goes beyond the flesh(肉体の彼方にある世界)」という言い回しが示す通り、上映告知が強調するのは、知覚するだけでなく、その世界へ引きずり込まれ、肉体そのものが作り替えられるという展開だ。原作の結末は、ティリングハストが卒中で死に、拳銃を握ったまま気を失っていた語り手が警察に発見される、という一夜の顛末で幕を閉じる。当サイトの記事で確認した通り、使用人たちの遺体が最後まで見つからないという謎だけを残して物語は終わり、誰かの肉体が変貌する場面は本文に描かれていない。

装置に触れた人物が被験者や目撃者の立場を越え、施術者自身の肉体が変質していくという展開は、原作の3,000語には無い要素であり、映画が新たに書き加えた部分にあたる。ジェフリー・コムズ、バーバラ・クランプトンの主演2人が前年の『Re-Animator』から続投し、脚本パオリ・製作ユズナという製作体制も共通していることは、当サイトの「スチュアート・ゴードン」「ブライアン・ユズナ」の記事で確認した通りだ。前作の製作陣と主演をほぼ引き継ぎながら、原作の設定を膨らませる作業が『From Beyond』で行われたことになる。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

原作「向こう側」は、ラヴクラフトが1920年に執筆し1934年に発表した短編で、当サイトの区分で言えば第1層(原典)に属する[2]。作中に固有名を持つ神格は登場せず、旧支配者や邪神の体系そのものを扱った作品ではない。松果体を刺激して知覚できない生物を見る、という着想が原作の核であり、映画もこの核だけは動かしていない。

当サイトの「ラヴクラフトらしい映画とは何か」の記事は、原作の間接的な恐怖の描き方を映像でそのまま再現しようとする系譜(HPLHS制作『The Call of Cthulhu』など)と、原作の骨格を使いながら怪物や変貌を正面から見せる系譜とを対比し、『From Beyond』を後者――「見せない方向ではなく見せる方向へ振っている」作品――に位置づけている。原作は密室でのやり取りと語りに終始し、肉体の変貌そのものは描写しない。映画は、原作が示唆にとどめた部分を、造形と特殊効果で画面いっぱいに描くという選択をしている。この意味で本作は、第1層の着想を土台にしながら、映像という形式に合わせて内容を作り替えた翻案であり、後世の作家が神話体系を書き継いだ第2層の拡張や、TRPGが独自に積み上げた第3層の設定とは性格が異なる。

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出典

  • [1] 上映日時「Saturday, September 5 at 10:00 PM」、会場The Main Cinema(ミネアポリス)、上映時間86分、レイティングR、監督Stuart Gordon、主演Jeffrey Combs・Barbara Crampton・Ken Foree、告知文「Come celebrate 40 years of From Beyond」、あらすじ「A doctor invents a machine that stimulates a sensory gland in the brain that allows the user to view an extra dimension. Unfortunately, when he sees the monstrous inhabitants of this realm, they can see him too and are rather eager to introduce him to their world: one that goes beyond the flesh.」を確認(2026年9月9日取得) — MSP Film Society公式「Midnight Mayhem: From Beyond」, https://mspfilm.org/show/midnight-mayhem-from-beyond/ ↩
  • [2] 短編「From Beyond」の執筆日が1920年11月16日であること、初出が『The Fantasy Fan』第1巻第10号(1934年6月)147–151, 160ページであることを確認(2026年9月9日取得) — The H. P. Lovecraft Archive「Lovecraft’s Fiction」, https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/ ↩
  • [3] 監督Stuart Gordon、脚本Dennis Paoli、製作Charles Band・Brian Yuzna、撮影Mac Ahlberg、編集Lee Percy、音楽Richard Band、出演Jeffrey Combs・Barbara Crampton・Ken Foree・Ted Sorel・Carolyn Purdy-Gordon・Bunny Summers・Bruce McGuire、あらすじ(Dr. Edward Pretorius、共鳴器、Crawford Tillinghast、Dr. Katherine McMichaels)の記載を確認(2026年9月9日取得) — Vinegar Syndrome公式商品ページ「From Beyond」, https://vinegarsyndrome.com/products/from-beyond ↩
  • [4] 「You have heard of the pineal gland? I laugh at the shallow endocrinologist, fellow-dupe and fellow-parvenu of the Freudian. That gland is the great sense-organ of organs—I have found out. It is like sight in the end, and transmits visual pictures to the brain.」の本文を照合(2026年9月9日取得) — H. P. Lovecraft, “From Beyond” 本文, The H. P. Lovecraft Archive, https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/fb.aspx ↩

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