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Penguin Colony(ペンギン・コロニー)

1939年の南極を、人間ではなくペンギンの目から見る探索アドベンチャー。『狂気の山脈にて』『時を超える影』に着想を得たと公式が明示している。原典が人間の側から描いた「発見」を、そこに元からいた生き物の側から見るとどうなるか——視点を一つ動かすだけで、恐怖の意味がどこまで変わるかを試す作品。2026年リリース予定、日本語対応。

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※本記事は発売前情報に基づく紹介です。『Penguin Colony』は2026年リリース予定で、内容は今後変更される可能性があります(Steamで体験版が配信中)[1]。

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概要

『Penguin Colony(ペンギン・コロニー)』は、Origame Digital が開発し、Fellow Traveller がパブリッシングを務める探索アドベンチャーである[1]。Origame Digital はフォトグラフィーゲーム『Umurangi Generation』で、2021年のIGF Awards において Seumas McNally Grand Prize(大賞)と Excellence in Narrative の二部門を受賞したスタジオにあたる[2]。

舞台は1939年の南極。古の存在の呼び声に応えて奥地を目指すナチスの科学者たちと、何世代にもわたり受け継がれた役目を果たすべく南極へ向かう守護者「カイティアキ」——その両者を、プレイヤーはペンギンの視点から見届けることになる[1]。凍てついた大地を歩き回り、人間たちの発見を追い、彼らが精神的に壊れていく様子を観察する。リリースは2026年予定で、日本語のインターフェース・字幕にも対応する[1]。

作品情報

  • 開発: Origame Digital / パブリッシャー: Fellow Traveller[1]
  • リリース: 2026年予定。Steamで体験版を配信中[1]
  • 舞台: 1939年の南極。ラヴクラフトの死の2年後にあたる
  • 操作対象: 現地のペンギン[1]
  • 対応言語: 英語、アラビア語、日本語、ポルトガル語(ブラジル)、簡体字中国語、マオリ語[1]

対応言語にマオリ語が入っている点は、後述する「カイティアキ」の扱いと無関係ではない。

クトゥルフ神話との関係

公式ストアページは本作を、ラヴクラフト作品の「忠実な再想像(faithful reimagining)」と説明し、着想元として『狂気の山脈にて』と『時を超える影』の名を明示している[1]。南極の氷の下に眠る太古の脅威と、それを掘り起こしてしまう探検隊という骨格は『狂気の山脈にて』そのものである。

1939年という年の置き方

作中の年が1939年に置かれていることには、二重の意味がある。ひとつは、ラヴクラフトが1937年に没した2年後という位置で、遺された作品世界を「その後の歴史」として引き継ぐ構えを取っていること。もうひとつは、第二次大戦前夜という現実の年代を選び、ナチスによるオカルト的探索という史実まわりの空気ごと物語に取り込んでいることだ。原典が1930年代の科学探検を舞台にしたのと同じ手つきで、その数年後を継いでいる。

独自の要素・原典との違い

ペンギンは、原典にもいる

『狂気の山脈にて』にペンギンが登場すること自体は、原典の読者には見慣れた事実である。探検隊が上陸する場面で、こう描かれる。

“On the barren shore, and on the lofty ice barrier in the background, myriads of grotesque penguins squawked and flapped their fins”(訳: 「不毛の岸辺に、そして背景にそびえる氷壁の上に、無数の奇怪なペンギンが鳴き声を上げ、鰭をばたつかせていた」)[3]

原典でペンギンは、南極という舞台の異様さを示すための風景の一部として置かれている。人間の物語の背景に、ただ「そこにいる」生き物として。本作が反転させたのは、まさにこの配置である。

視点を一つ動かすと、何が変わるか

原典において、人間は発見する側だった。未知の文明を掘り当て、その記録を読み解き、知ってはならないものへ近づいていく。恐怖は「知ってしまった人間」の内側で起きる。

本作はカメラをペンギンへ移す。すると人間の位置が変わる。彼らは主人公ではなく、南極へ侵入してきた異物になる。ペンギンにとって、彼らが何を掘っているのか、なぜ正気を失っていくのかは理解の外にある。読者が原典で味わった「理解できないものに触れる恐怖」を、今度は人間の側が引き受ける格好になっている。

この構図は、宇宙的恐怖という型そのものへの注釈でもある。ラヴクラフトの恐怖は「人間が宇宙にとって取るに足らない」という認識から生まれた。ペンギンの目から見れば、その人間もまた、南極という土地にとって取るに足らない通過者にすぎない。恐怖の構造を一段外側から見せている、と言える。詳しくは「「宇宙的恐怖」とは何か」を参照してほしい。

誰の南極なのか ── ナチスとカイティアキ

もうひとつ、原典に無かった軸が置かれている。南極へ向かうのがナチスの科学者だけではなく、カイティアキと呼ばれる守護者たちでもある、という設定だ[1]。カイティアキはマオリ語で守護者・後見人を指す語で、本作が対応言語にマオリ語を含めていることと合わせて読むと、開発側がこの要素を装飾として置いていないことが分かる[1]。

原典の南極は、白人探検隊が「発見」する空白地帯として描かれていた。そこへ、掘り起こす側と封じ続ける側という二つの立場を持ち込むと、問いが変わる。その土地は誰のもので、誰が何を守ってきたのか。 ペンギンという第三の視点は、この二者のどちらにも属さない位置から両方を見ることになる。

傍観者であることの意味

原典は手記の形式を取り、語り手の一人称で恐怖を伝える。本作のプレイヤーは当事者ではなく傍観者で、人間の狂気を外から眺める[1]。距離があるぶん、崩れていく過程はかえって克明に見える。手記の「私」に同化して怖がるのではなく、他人が壊れるのを黙って見る——原典と最も違うのはこの体験の質だと思われる。

ストアページが引いているのは、実は3本目の作品

公式が着想元として挙げているのは『狂気の山脈にて』と『時を超える影』の2本だが[1]、ストアページの文章そのものは、もう1本を引いている。説明文の中に、記録者の一人称でこう置かれている。

“I am writing this under an appreciable mental strain…”[4]

これはラヴクラフトの短編「ダゴン」(1919年発表)の冒頭の一文である。原典では「私はかなりの精神的重圧のもとでこれを書いている。今夜には、私はもういないのだから」と続く[5]。語り手が自らの死を予告してから記録を始める、という形式を宣言する一文だ。

ここを冒頭に置くということは、本作が手記の形式そのものを継ぐ意思を示しているに等しい。ラヴクラフトの恐怖は、多くの場合「もう助からない者が書き残した記録」という枠で語られる。ペンギンの目という新しい視点を持ち込みながら、外枠は原典の文法に合わせてきている。ナレーションを Lenval Brown が担当することも公式に明記されており[4]、語りを聴かせる作りであることが分かる。

同じ南極を、他の作品はどう扱ってきたか

『狂気の山脈にて』は翻案の多い作品で、当サイトでも扱いの違う記事が並んでいる。本作の位置を測るには、この並びの中に置いてみるのが早い。

作品扱い方語り手の位置
田辺剛『狂気の山脈にて』漫画化原典と同じ探検隊の側
Chronicle of Innsmouth: Mountains of Madnessアドベンチャーゲーム調査する人間
ビヨンド・ザ・マウンテンズ・オブ・マッドネスTRPGキャンペーン後続の探検隊として自分が潜る
リアル脱出ゲーム『狂気の山脈からの脱出』体験型イベント参加者自身が閉じ込められる側
Penguin Colony探索アドベンチャー人間ではない生き物

漫画化もゲーム化も脱出ゲームも、語り手を人間の内側に置くという一点では原典と同じだった。翻案は語り口や媒体を変えても、視点の主は動かしてこなかったと言っていい。本作が珍しいのは、そこを動かした点にある。

神話の三層のどこに置くか

当サイトは、ラヴクラフト原典/ダーレス以降の拡張/TRPGによる拡張という三つの層を分けて記録している。本作は原典を直接の出典に持つ現代の翻案で、いずれの層にも属さない外側の作品にあたる。原典の設定を借りるのではなく、原典の読み方に注釈を付けにきているという意味で、扱いとしては考察に近い。

層の分け方そのものは「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話」にまとめてある。翻案作品を読むとき、それが原典のどこを持ち出し、どこを足したのかを分けて見る癖をつけておくと、本作のような「視点だけを変えた」作品の狙いが掴みやすい。

原典を先に読むなら

本作の仕掛けは、原典を知っているほど効く。

  • 狂気の山脈にて — 南極の探検隊が何を掘り当てたのか。本作の骨格にあたる
  • 時間からの影 — もうひとつの着想元。時間をまたぐ視点の入れ替わりを扱う
  • 狂気山脈 — 舞台となる山脈そのものの記事。地理と、そこに何が眠るとされてきたか

出典

  • [1] 開発 ORIGAME DIGITAL、パブリッシャー Fellow Traveller、2026年リリース予定、体験版配信中。推奨環境と対応言語(英語/アラビア語/日本語/ポルトガル語(ブラジル)/簡体字中国語/マオリ語)。舞台は1939年の南極で、プレイヤーは現地のペンギンとなり人間の発見を追ってその精神崩壊を目撃する。ラヴクラフト作品の「忠実な再想像」であり『At the Mountains of Madness』『The Shadow Out of Time』に着想を得たこと、ナチスとカイティアキが南極の奥地へ向かい古の存在の力を巡って対立することが明記されている — Steam公式ストアページ, store.steampowered.com ↩
  • [2] 2021年のIGF Awards において『Umurangi Generation』(開発 Origame Digital)が Seumas McNally Grand Prize および Excellence in Narrative を受賞 — Independent Games Festival 公式, igf.com ↩
  • [3] “On the barren shore, and on the lofty ice barrier in the background, myriads of grotesque penguins squawked and flapped their fins”(訳: 「不毛の岸辺に、そして背景にそびえる氷壁の上に、無数の奇怪なペンギンが鳴き声を上げ、鰭をばたつかせていた」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(1936年発表), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [4] ストアページの説明文にナレーション担当として Lenval Brown の名があり、記録者の一人称による “I am writing this under an appreciable mental strain…” を含むラヴクラフト作品からの引用が配されている — Steam公式ストアページ, store.steampowered.com ↩
  • [5] “I am writing this under an appreciable mental strain, since by tonight I shall be no more.”(訳: 「私はかなりの精神的重圧のもとでこれを書いている。今夜には、私はもういないのだから」、作品冒頭の一文) — H. P. Lovecraft, “Dagon”(1919年発表), The H. P. Lovecraft Archive ↩

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