地名(南極大陸の山脈) — MOUNTAINS OF MADNESS

狂気山脈

原典

南極大陸に実在するという設定の未知の巨大山脈。ヒマラヤ山脈をも凌ぐ高さとされ、山腹の地下洞窟から発掘された古生物の化石が超古代文明の存在を明らかにしていく。

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狂気山脈

「そびえる峰々はヒマラヤ山脈より高く、しかもそれよりなお常軌を逸した自然の異常が、すぐ間近に迫っているように感じられた」

— H・P・ラヴクラフト「狂気の山脈にて」(1936年発表)
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編集部注(著作権について): 出典の『狂気の山脈にて』は、Astounding Stories誌掲載号の著作権が更新されているため(Catalog of Copyright Entries登録番号R309944)、2032年まで米国で著作権が継続しています(パブリックドメインではありません)。本記事中の引用は論評・紹介目的の短い範囲に限定しています。

概要

南極大陸に実在するという設定の未知の巨大山脈。東南極の中央を東西に横断する形で存在し、最高峰は35,000フィート(約10.66km)を超えるとされる[1]。山腹の地下洞窟から発掘された奇怪な古生物の化石が、超古代の支配者たちの存在を明らかにしていく発端となる。

基本プロフィール

  • 分類: 地名(南極大陸の山脈)
  • 欧文表記: MOUNTAINS OF MADNESS
  • 初出・出典: 「狂気の山脈にて」(執筆1931年/『アスタウンディング・ストーリーズ』1936年2〜4月号連載)
  • 設定上の高度: 35,000フィート(約10.66km、ヒマラヤ山脈の最高峰エベレストを凌ぐ)[1]

原典での描写

唯一の原典である「狂気の山脈にて」は、地質学者ダイアーがミスカトニック大学への報告書という体裁で綴った一人称の手記である。以下は同作の本文に即して、山脈がどのように描かれているかをまとめる。

空から見た山脈の第一印象

生物学者レイクは無線で「見たこともないほど高い山脈が前方に見える」と報告し、続けて高度からヒマラヤ山脈に匹敵するのではないかと打電する。さらに接近した後の通信では興奮を隠さず、「Mountains surpass anything in imagination.(この山々は想像を絶する)」[3]と述べ、赤みを帯びた低い太陽の光の中で山肌が黄金色に照らされる様子や、夢の中の秘境か禁断の世界への門のように見えたことを書き記している。

山腹の立方体と洞窟の構造

レイクは山腹の高い箇所に、垂直な側面を持つ低い方形の岩塊と、それを取り囲む低い城壁状の連なりを認め、ローリッヒの絵画に描かれたアジアの古城になぞらえた。近づいて飛行した際には、輪郭の整った方形や半円形の洞穴の口が多数見えたことも記している。後にダイアー自身も、レイクの分隊を捜す飛行の途上で山の稜線に「regularities like clinging fragments of perfect cubes(完全な立方体の断片がへばりついたような規則性)」[4]を認め、レイクの報告と一致することを確かめている。

山脈の高さとヒマラヤとの比較

レイクは最初の報告でヒマラヤ山脈に匹敵するかもしれないと控えめに書いたが、間もなく主峰群がヒマラヤを凌ぐと言い切るようになる。山脈を踏破した後、ダイアーとダンフォースは死都市の壁画の縮尺から、狂気山脈よりもさらに奥にそびえる山並みが40,000フィートを優に超える高さだったと読み取り、自分たちが越えてきた狂気山脈さえも凌ぐ規模だったと記している[5]。

山脈の向こう側に示唆されるもの

古のものたちの壁画は、狂気山脈のさらに奥、廃都市から300マイルほど離れた場所に、彼ら自身すら恐れて近寄らなかった山並みがあったと伝えている。物語の終盤、ダンフォースは帰りの飛行中に山脈の彼方に何かを見て取り乱すが、本人が語ったのは、それが紫色の山並みの奥にあるものの幻影だったということだけである。ダイアーは死都市の建つ超高原そのものを「レン高原に違いない」という確信に至り、さらに奥の山並みについても「beyond doubt the unknown archetype of that dreaded Kadath(疑いようのない、あの恐るべきカダスの原型)」[6]と書いている。いずれもダイアー自身の推測として作中に記された言葉であり、確定した事実として提示されているわけではない。

由来・モデル

完全な架空の山脈であり、実在の南極の地形とのモデル関係は明言されていない。ただし作者ラヴクラフトは9歳の頃から南極への関心を持ち続けており、リチャード・E・バードによる1928〜1930年の実際の南極探検、およびエドガー・アラン・ポー『アーサー・ゴードン・ピムの物語』(南極を舞台にした先行作)を下敷きに本作を構想したとされる。実在の南極大陸には35,000フィート級の山は存在せず(最高峰ヴィンソン・マシフでも約4,900m=16,000フィート強)、この山脈は現実の地理を大きく超えた完全な創作上の誇張として設計されている。

歴史・年表

1930年、ミスカトニック大学のウィリアム・ダイアー教授(地質学)率いる南極探検隊は、生物学教授レイクの分隊が発見した奇妙な地層を追って未知の山脈へ到達し、地下洞窟から動植物両方の特徴を備えた古生物の化石を発掘する。レイクの分隊が全滅した後、ダイアーと院生ダンフォースが山脈の向こうにある、古のもの(Elder Things)が築いた非人間的建築の巨大な廃都市を発見する。廃都市の壁画からは、古のものたちが太古の地球に飛来して文明を築き、使役生物ショゴスを創造したこと[2]、遅れて到来したクトゥルフの眷属やミ=ゴとの間で地上の支配権を巡る争いがあったことが読み取れ、都市はやがてショゴスの反乱によって崩壊したと語られる。

廃都市から300マイル(約483km)離れた場所には、狂気山脈よりも遥かに巨大な未踏の山脈が存在し、古のものたち自身がこの領域を忌避していたとされる。この未踏の山並みの正体そのものは作中で確定しないが、語り手のダイアーは死都市が建つ超高原を「レン高原に違いない」という確信に至り、その先の山並みについても「カダスの、疑いようのない原型」だと書いている(いずれもダイアー自身の推測として記された言葉であり、著者が確定させた設定ではない。「原典での描写」節参照)。

執筆は1931年のわずか1ヶ月だったが、『ウィアード・テイルズ』誌には長すぎるとして拒絶され、数年後の1936年になってようやく『アスタウンディング・ストーリーズ』誌に掲載された。存命中の評価は芳しくなく、本人はこの冷遇が自身の作家人生を実質的に終わらせたと述べたとも伝えられるが、後年は惑星探査ものSFの先駆けとして評価が高まっている。

性質・特徴

理性の砦であるはずの科学的探検が、人類以前の超古代文明の痕跡と接触することで崩壊していく、ラヴクラフト的宇宙的恐怖の典型的な舞台のひとつ。単なる怪物との遭遇ではなく、人類の歴史的優越性そのものを覆す地質学的・考古学的発見という形式を取る点に特徴がある。山脈そのものは、その先にある廃都市(mm-city-ruinsの項参照)へ至るための障壁・関門として機能し、物語の恐怖は「山を越えた先に何があるか」という構成で段階的に高まっていく。

関連する人物・存在・出来事

ミスカトニック大学のウィリアム・ダイアー教授(地質学)が探検隊を率い、生物学教授レイクの分隊(全滅)、院生ダンフォースが同行する。発見される古のもの(Elder Things)、その使役生物ショゴス、そして山脈の先にある古のものの廃都市(mm-city-ruins)と一体の物語世界を構成する。

主要登場作と読みどころ

  • 「狂気の山脈にて」(執筆1931年/1936年発表): 唯一の原典。ミスカトニック大学への報告書という体裁を取り、山脈発見から廃都市探索、ダンフォースが目撃した「その先」の何かまでが語られる。
  • TRPG続編キャンペーン『Beyond the Mountains of Madness』(ケイオシアム社): 原典で語られなかった「山脈のさらに先」への探索を扱う大型キャンペーン。
  • 日本オリジナルTRPGシナリオ『狂気山脈』三部作(まだら牛/フォレスト・リミット、2020〜2021年): 原典の舞台設定を翻案した国内制作シナリオ。

よくある誤解

Q. 狂気山脈は実在する山脈がモデルになっているのですか?

A. いいえ。完全な創作上の山脈で、設定上の高度(35,000フィート超)は実在の南極大陸のどの山よりも大幅に高く設定されています。作者ラヴクラフトの南極への関心や、実際のバード探検隊の報道が着想の背景にあったと考えられていますが、地形そのもののモデルはありません。

Q. 狂気山脈の「さらに先」にある巨大な山脈の正体は原典で明かされていますか?

A. 山脈そのものの正体を確定づける記述はありません。ただし語り手のダイアーは、死都市が建つ超高原自体を「レン高原に違いない」という確信に至ったと述べ、その先に望む紫色の山並みについても「疑いようのない、あの恐るべきカダスの原型」だと書いています[6]。いずれもダイアー自身の推測として作中に記された言葉であり、著者が確定させた設定として提示されているわけではありません。

出典

  • [1] “Highest peaks must go over 35,000 feet. Everest out of the running.”(訳: 「最高峰は35,000フィートを超えているに違いない。エベレストなど問題にならない」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(執筆1931年/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [2] “Formless protoplasm able to mock and reflect all forms and organs and processes…slaves of suggestion, builders of cities”(訳: 「あらゆる形態・器官・過程を模倣し反映しうる無定形の原形質……暗示の奴隷にして都市の建造者」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [3] “Mountains surpass anything in imagination.”(訳: 「この山々は想像を絶する」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [4] “regularities like clinging fragments of perfect cubes”(訳: 「完全な立方体の断片がへばりついたような規則性」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [5] H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(執筆1931年/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [6] “beyond doubt the unknown archetype of that dreaded Kadath”(訳: 「疑いようのない、あの恐るべきカダスの原型」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
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