概要
『狂気の山脈にて ラヴクラフト傑作集』は、漫画家・田辺剛がH.P.ラヴクラフトの長編「狂気の山脈にて」を漫画化した作品で、KADOKAWA(エンターブレイン)のビームコミックスから第1巻が2016年10月に刊行され、全4巻で完結しました。田辺剛は本作以前から「魔犬」「異世界の色彩」「アウトサイダー」など、ラヴクラフト作品のコミカライズを「ラヴクラフト傑作集」シリーズとして継続的に手がけており、本作はその中でも最大の分量を持つ中核作です。緻密で重厚な描線による南極の描写は、原作の圧倒的なスケール感を視覚的に再現しています。
クトゥルフ神話との関係
原作「狂気の山脈にて」は、ミスカトニック大学の南極探検隊が、太古に地球へ飛来した異星種族「古のもの(古きもの)」の遺した巨大都市と、彼らが創造した奉仕種族「ショゴス」に遭遇する物語です。本作は原作の設定・展開をほぼ忠実に漫画化しており、人類が誕生する遥か以前から地球に存在した知性、そして人間の歴史観を根底から覆す発見という、ラヴクラフト宇宙的恐怖の骨格をそのまま継承しています。ネクロノミコンや旧支配者への言及も原典どおりに織り込まれ、神話体系との接続が保たれています。
独自の要素・原典との違い
小説の恐怖の多くが「言葉で描写しきれない」という書き手の困難として表現されるのに対し、本作はそれをあえて具体的な絵として提示する挑戦を行っています。田辺剛の描く古のものの都市、壁面のレリーフ、ショゴスの質感は、読者に直接的なイメージを与えつつも、圧倒的な情報量と余白によって不可知性を損なわない工夫がなされています。このコミカライズは、第22回手塚治虫文化賞マンガ大賞の最終候補となったほか、フランスのアングレーム国際漫画祭や米国のアイズナー賞など海外でも注目を集め、ラヴクラフト作品の漫画表現として国際的に評価された点でも特筆されます。




