概要
「邪神三十六景とクトゥルフの創造者たち by エルダーサインAwakening」は、ブラウザゲーム『エルダーサインAwakening』のハーフアニバーサリーを記念し、運営会社・株式会社ギグビーイングが2026年8月8日(土)・9日(日)の2日間、渋谷サクラステージ「404 Not Found」404PARK内特設スペースで開催したオフラインイベントです[1]。運営自身が「初のオフラインイベント」と位置づけており[2]、8月13日付の公式サイト「運営からのお知らせ」では「クレスタのみなさまを含めて、大盛況でした!」と締めくくられています[2]。具体的な来場者数は主催者発表に記載がなく、確認できていません。
開催されたもの
会場の中心にあったのは、葛飾北斎『富嶽三十六景』とクトゥルフ神話を融合させた画集『邪神三十六景』(トゥーヴァージンズ、2026年3月24日発売)の著者・山田剛毅(goking)氏による原画・複製原画・書籍・グッズの展示販売でした[3]。あわせて山田氏推薦のクトゥルフ神話作家2名――かぎ針編み作品を手がける「るるい宴」青木淳氏と、邪神フィギュアや同人誌を手がけるねこたろう(神部羊児)氏――の作品展示・販売、『エルダーサインAwakening』のキャラクターパネル展示、メインデザイナー竹浪秀行氏のサイン色紙展示も行われました[3][4]。
もう一つの目玉が、富山県高岡市の伝統工芸から生まれた一点物のアート作品「クトゥルフ×バックギャモン」です。主催者発表によれば、富山を拠点とする和の匠・工芸職人によるクリエイティブチーム「Project O」(和の匠・和田工房/和田彫金工房)が、彫金・木彫・漆芸の技術を融合して制作したとされています[4][5]。入場料は500円(税込)で、時間指定・入替制のチケット制、または会場内でのドリンク1杯注文でも入場可能でした[1]。
クトゥルフはなぜ日本の様式と混ざるのか
『邪神三十六景』が北斎の浮世絵にクトゥルフ神話の邪神を紛れ込ませ、「クトゥルフ×バックギャモン」が彫金・木彫・漆芸という日本の伝統工芸の技法でクトゥルフ神話をかたちにする――この種の異種混交は、クトゥルフ神話ではめずらしいものではありません。その理由の一端は、原典自体の性質にあると考えられます。
クトゥルフの記事で確認できる通り、原典「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表)がこの神格に与えている外見描写は、「タコと竜と人間の戯画を同時に見たような姿」という、あくまで語り手ひとりの主観的な比喩にすぎません。しかもラヴクラフト自身の作品内でも、初出ではイカに近いものとして語られ、後年の「狂気の山脈にて」「墳丘の怪」ではタコにたとえられるなど、単一の確定した姿は存在しません。原典が読者に手渡しているのは「事典」ではなく「暗示」であり、姿を確定させないことそのものが、この神格の恐怖の核心になっています。
姿が確定していない、ということは裏を返せば、確定した「正解の絵」が存在しないということでもあります。だからこそ後続の作家やゲームデザイナー、そして今回のような美術・工芸の作り手が、それぞれの様式でこの空白を埋め直すことができる――三層ガイドが整理する「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定」という積み重なりも、突き詰めれば同じ構造の別の現れです。オーガスト・ダーレスが四大元素説で神格を体系化し、TRPGがSAN値減少表や神格ステータスという独自の数値化を必要としたのも、原典が与えなかった「かたち」を、それぞれの表現媒体が固有の必然性から補ったからでした。
浮世絵という様式は、実在しない怪異を実在の風景に紛れ込ませる技法をもともと持っています。彫金・木彫・漆芸という工芸技法も、素材そのものの陰影や質感を通じて「名状しがたいもの」を暗示する余地を持っています。クトゥルフ神話が異なる文化圏の様式へ移植されるたびに違う姿を得られるのは、原典が最初から「確定した姿」を手放していたからだと考えられます。今回のイベントで見られた浮世絵や伝統工芸への展開も、その空白を埋め直す試みのひとつとして位置づけられるでしょう。
出典
- [1] エルダーサインAwakening公式サイト「運営からのお知らせ」8月1日00:00「オフラインイベント『邪神三十六景とクトゥルフの創造者たち』を開催いたします!」、日時・会場・入場料の記載 — https://eldersign.jp/announce ↩
- [2] 同上、8月13日01:30「8/8~8/9に渋谷サクラステージ『404 Not Found 404PARK内特設スペース』にて オフラインイベント『邪神三十六景とクトゥルフの創造者たち』を実施いたしました。初のオフラインイベントということで、クレスタのみなさまを含めて、大盛況でした!ありがとうございます。」 — https://eldersign.jp/announce ↩
- [3] 株式会社ギグビーイング プレスリリース「ゲーム×アート×伝統工芸が融合する新たなクトゥルフ文化イベント!『邪神三十六景とクトゥルフの創造者たち』開催」展示内容・山田剛毅氏プロフィール・『邪神三十六景』書誌情報 — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000148649.html ↩
- [4] 404 Not Found | SHIBUYA SAKURA STAGE 公式イベントページ、出展クリエイター・協力企業一覧(山田剛毅氏、るるい宴/青木淳氏、ねこたろう氏、和の匠・和田工房) — https://www.404shibuya.tokyo/event/cthulhu_store_01 ↩
- [5] 前掲プレスリリース「本作品は、富山を拠点に活動する和の匠・工芸職人によるクリエイティブチーム『Project O』が、彫金・木彫・漆芸の技術を融合して制作した作品です。」 — https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000148649.html ↩
