概要
「四大元素説」とは、オーガスト・ダーレスが1930年代終盤から後続作品で導入した、旧支配者たちを火・水・地・風という4つの元素にそれぞれ結びつけて分類する体系である[1]。ラヴクラフト自身の原典には存在しない、ダーレスによる後付けの整理であり、原典/ダーレス系拡張/TRPG設定の三層構造でいう「第2層」の代表例にあたる。
基本プロフィール
- 分類: 体系・分類概念(神格そのものではない)
- 欧文表記: DERLETH’S ELEMENTAL THEORY
- 初出: オーガスト・ダーレス「潜伏するもの」(1932年)/「ハスターの帰還」(1939年)で本格的に導入
- 提唱者: オーガスト・ダーレス
由来——なぜダーレスはこの体系を作ったのか
ラヴクラフトの死後(1937年)、友人作家オーガスト・ダーレスは、散在する神話的存在たちを一つの秩序ある体系として整理しようと試みた。その手段として選ばれたのが、西洋の伝統的な四大元素(火・水・地・風)への割り当てだった。ダーレスは各旧支配者を対応する元素の「精」として位置づけ、対立する元素同士(たとえば水と風)を敵対関係に置くという構図を作り上げた。
元素ごとの割り当て
深淵書架の各神格記事で実際に言及されている範囲では、次のような割り当てが確認できる。
- 水の精 — クトゥルフ: 南太平洋の海底都市ルルイエに眠る旧支配者[2]
- 風の精 — ハスター: ダーレスが「潜伏するもの」「ハスターの帰還」でクトゥルフの対立者として位置づけた[3]。イタカもハスターと同じ「風」の系譜に連なる旧支配者とされる
- 地の精 — ニャルラトホテプ: 後世の設定(ダーレスら)で「地」を象徴する存在として体系化された[4]
- 炎の精 — クトゥグア: フォーマルハウトに封じられた「生ける炎の巨神」
なお、「クトゥグアはニャルラトホテプの天敵」という言い伝えは、公式ルールとして確定した設定ではなく、TRPGプレイヤー間で語られてきた非公式な言い伝えの域を出ない、と本サイトのニャルラトホテプ記事自身が明記している。四大元素説の大枠(元素への割り当てそのもの)と、そこから派生した非公式なファン設定は、区別して扱う必要がある。
批判と矛盾
この体系には、後年のファンや研究者から具体的な矛盾が指摘されている。もっとも有名なのは、「クトゥルフは南太平洋の海底都市ルルイエに封じられているのに、なぜ水そのものを支配する精とされるのか」という批判である[1]。ダーレスの分類は、神格それぞれの原典での封印場所・登場状況とは独立に、後付けで元素を割り振ったものであるため、原典の描写と厳密には整合しない部分がある。
TRPG設定との違い
四大元素説はダーレスによる文学的な整理であり、TRPG(Chaosium『クトゥルフの呼び声』以降)が独自に構築した「旧支配者/外なる神/旧神」というゲーム的分類とは別の層にあたる。TRPGは四大元素説をそのまま採用することもあれば(クトゥルフ神話TRPGは基本的にダーレスの旧支配者/旧神の枠組みを踏襲している)、シュブ=ニグラスのように分類を独自に変更する例もある。四大元素説そのものが「TRPG以前」の第2層(ダーレス系拡張)に属することを混同しないよう注意したい。詳しくは「三層で読み解くクトゥルフ神話」を参照。
よくある誤解
Q. 四大元素説はラヴクラフト自身が考えたものですか?
A. いいえ。ラヴクラフトの原典には、旧支配者たちを火・水・地・風に分類する記述は一切ありません。これはラヴクラフトの死後、オーガスト・ダーレスが独自に体系化したものです。
Q. TRPGの神格分類(旧支配者/外なる神/旧神)と四大元素説は同じものですか?
A. 関連はありますが同じではありません。四大元素説はダーレスが1930年代に考案した文学的な整理(第2層)で、TRPGの分類体系(第3層)はこれを土台にしつつ、ゲームとして遊ぶために独自にさらに整理し直したものです。
出典
- [1] ダーレスは短編「The Return of Hastur」で、各旧支配者を火・水・地・風の四大元素に結びつける説を導入し、クトゥルフを水の精、ハスターを風の精として両者を対立させた。この分類は原典になく、批評家からは「クトゥルフは水底に封じられているのに水を支配するのは矛盾する」との批判がある — Ravelled Esoterica: Derleth’s Elemental Classification ↩
- [2] クトゥルフが南太平洋の海底都市ルルイエに幽閉されているという設定は原典「クトゥルフの呼び声」による — 本サイト内「クトゥルフ」参照 ↩
- [3] ダーレス作品「潜伏するもの」(1932年)「ハスターの帰還」(1939年)がハスターを神として位置づけ、四大元素理論を導入した — 本サイト内「ハスター」参照 ↩
- [4] ニャルラトホテプが後世の設定(ダーレスら)で「地」の元素と結びつけられていることは本サイト内「ニャルラトホテプ」記事に記載 ↩



