概要
ニューヨークの下宿を舞台に、階上に住む隠遁の医師ムニョス博士との奇妙な交流を語る一篇。「冷気の一吹きほど嫌悪すべきものはない」という語り手の告白から始まり、その理由が終盤で明かされる。
作品情報
- 執筆・発表年: 1926年3月執筆/1928年3月発表(「テイルズ・オブ・マジック・アンド・ミステリー」誌)
- 主題タグ: 死を克服する科学、冷気への嫌悪、崩壊の刹那
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
語り手は下宿の階上に住む謎めいたスペイン人医師ムニョス博士と知り合う。博士は極端な低温を保った部屋に一人こもり、アンモニアの臭いを漂わせながら、自らの病を治療するための奇怪な化学実験に没頭していた。心臓発作を起こした語り手を治療したことをきっかけに二人は親交を深め、語り手は博士が並外れた知識を持つ医師であることを知る。博士の説明によれば、18年前に重い病に倒れた際、盟友トレス博士の並外れた処置によって一命を取り留めたが、その代償として常に極端な低温を保たねば肉体を維持できない体になったという。やがて冷却装置が故障し、博士は語り手に「私はあの時、本当に死んでいたのだ」と最後の言葉を残して溶け崩れていく。
読みどころと注目テーマ
science(科学)がもたらす禁忌の勝利、静かに進行する恐怖、最後の一文で反転する真実
執筆背景と影響
ポーの影響が色濃い、死と科学の境界を扱った一篇。派手な神話的存在を用いず、「冷気」という日常的な感覚だけで恐怖を構築する手法は、ラヴクラフトの筆致の幅広さを示す好例として評価されている。



