概要
現代生活の無味乾燥さに心を閉ざしていた娘マーシャが、一篇の自由詩に導かれて眠りに落ち、ヘルメスに連れられてギリシアの神々が集うパルナッソス山の夢幻的な饗宴を訪れる一篇。アンナ・ヘレン・クロフツとの共作で、ラヴクラフトは「ヘンリー・ペイジェット=ロウ」の筆名を用いている。
作品情報
- 執筆・発表年: 1920年執筆/1920年9月号「ザ・ユナイテッド・アマチュア」誌発表
- 主題タグ: 詩による美の回帰、ギリシア神話、夢の中の神々との邂逅
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
味気ない現代文明の中で満たされぬ思いを抱えていた娘マーシャは、ある晩、一篇の自由詩(日本と中国、熱帯の月を歌った詩)に触れたことをきっかけに深い夢想へと沈んでいく。夢の中に現れたヘルメスは、彼女がすでに「神々の秘密」を悟っていると告げ、パルナッソス山へと運んでいく。そこでは大神ゼウスが玉座に座し、ホメロス、ダンテ、シェイクスピア、ミルトン、ゲーテ、キーツという六人の偉大な詩人の霊が居並んでいた。ゼウスはマーシャに、神々は死んだのではなく長い眠りについているだけであり、やがて詩を通じて再び人々のもとに戻ってくると告げる。そして、その帰還を告げる「最後の使者」となる詩人がいずれ現れると予言し、その詩人を見出す使命をマーシャに授ける。夢から覚めた後、長い年月を経て、マーシャはついにその予言された詩人と出会い、彼の詩に神々の言葉の残響を聴き取る。
読みどころと注目テーマ
クトゥルフ神話とは異なる系譜に属する、ギリシア神話への憧憬と詩への信仰を主題とした夢幻的な一篇。ラヴクラフトの怪奇色の薄い、抒情的な一面が垣間見える珍しい作品。
執筆背景と影響
アマチュアジャーナリズム仲間だったアンナ・ヘレン・クロフツとの共作で、ラヴクラフトは自身のペンネームの一つ「ヘンリー・ペイジェット=ロウ」名義でクレジットされている。恐怖よりも詩情と憧憬を主眼に据えた作風は、後年の怪奇作家としてのイメージとは異なる、若き日のラヴクラフトの美意識をうかがわせる。



