概要
マサチューセッツ州ダニッチの退廃した旧家ウェイトリー家に生まれた青年。母はアルビノで精神を病んだラヴィニア・ウェイトリー、父は人知を超えた存在ヨグ=ソトースとされ、生後まもなく異常な速さで成長し、10代半ばには既に成人男性の体格に達していた[1]。禁書『ネクロノミコン』の完全なラテン語版を求めてミスカトニック大学へ通い詰めるが、その企ては司書ヘンリー・アーミテージによって阻まれる。
基本プロフィール
- 分類: 人物
- 欧文表記: WILBUR WHATELEY
- 初出・出典: 「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年『ウィアード・テイルズ』4月号発表)
- 出自: 母ラヴィニア・ウェイトリー(ダニッチの旧家、アルビノ)、父はヨグ=ソトースとされる
- 没年(作中): 1928年8月、ミスカトニック大学付属図書館侵入時に死亡
原典での描写
誕生と異常な成長
ウィルバー・ウェイトリーは1913年2月2日、聖燭祭に当たる日曜日の午前5時、ダニッチの丘に面した農家で生まれた。丘陵地帯では前夜から物音が響き、界隈の犬という犬が夜通し吠え続けていたという。母ラヴィニアは、自らの病んだピンク目のアルビノとは対照的な、浅黒くヤギじみた容貌のこの赤子を奇妙なほど誇りとし、その並外れた力と輝かしい未来について予言めいた言葉をつぶやいていたと記される[9]。
生後の成長は尋常でなく、生後4年目に入る頃には早くも10歳の少年のような外見にまで育っていたとされる[10]。
外見・声・犬に嫌われる性質
成長するにつれ、その顔つきに宿る邪悪さの兆しが、周囲の間で具体的に語られるようになった。犬から向けられる嫌悪もこの頃には広く噂されるほどとなり、野道を安全に歩くために拳銃を携帯せざるを得なかったという[11]。犬の忌避はウィルバー個人にとどまらず、ウェイトリー家の屋敷そのものへも及び、犬たちは屋敷の敷地全体を、ウィルバー本人と同じほど激しく恐れ嫌うようになっていたと記される[12]。
祖父オールド・ウェイトリーが息を引き取った夜、母ラヴィニアがすすり泣くかたわらで、ウィルバーはただ笑い、太い低音の声で「捕まえられなかったな」とつぶやいたとされる[13]。
ネクロノミコンを求めて
長じたウィルバーは、ミスカトニック大学の書庫に鍵をかけて保管された『ネクロノミコン』のラテン語版を求め、自ら大学を訪れた。粗末な鞄を提げ、身長8フィートに迫るその姿は「浅黒くヤギじみたガーゴイル」と評され、大学構内で猛然と吠え立てる番犬の前を意に介さず通り過ぎたという[14]。目当ては、所蔵する不完全な英訳版――祖父から譲り受けたディー博士の訳本――の751ページ目に当たるはずの一節を、ラテン語版と照合して突き止めることにあった。探していたのは、恐るべき名「ヨグ=ソトース」を含む呪文だったとされる[15]。
同じ探求はケンブリッジにも及び、ワイドナー図書館の蔵書を借り出す、あるいは書き写そうと試みたが、ヘンリー・アーミテージの警告が先回りしており果たせなかった。この旅の間のウィルバーは、本を求める思いと同じほど早く故郷へ戻りたがる様子で、恐ろしいほど神経質になっていたという[16]。
図書館での死と露わになった正体
1928年8月3日未明、大学構内の番犬が荒々しく吠え立てた直後、地上に生まれたいかなる存在の喉からも出るはずのない絶叫が響いたと記される[17]。駆けつけたアーミテージらが閲覧室で見つけたのは、体長ほぼ9フィートの何かで、犬に衣服とともに皮膚の一部を引き裂かれ、腐臭を放つ緑黄色の膿汁と黒い粘液の中に半ば身を横たえていたという[18]。「ヤギに似た顎のない顔にはウェイトリー家の刻印がはっきりと表れて」おり、それがウィルバー本人であることを物語っていたとされる[19]。
人物像・性格
祖父オールド・ウェイトリーの手ほどきで、幼少期から禁断の知識に親しんだ早熟な青年として描かれる。生後3か月で「満1歳にも満たない乳児には通常見られない大きさと筋力に達していた」[1]、生後7か月で「助けなしに歩き始め、さらに1か月でその足取りのおぼつかなさも消えた」[2]、1年7か月の時点(1914年9月)で「4歳児ほどの大きさに育ち、流暢かつ驚くほど知的に話す子供だった」[3]という異常な成長速度が特徴。生後11か月の時点で既に「厚い唇、毛穴の粗い黄色がかった肌、粗くちぢれた髪、奇妙に伸びた耳など、どこかヤギじみた、あるいは動物めいた何かがあった」[4]と評される風貌を持ち、4歳半(1917年)には「唇と頬は粗い黒っぽいうぶ毛で覆われ、声変わりが始まっていた」[5]という、年齢に見合わぬ早熟した外見だった。
生涯・経歴
祖父オールド・ウェイトリーの手ほどきで、幼少期から禁断の知識に親しみ、『ネクロノミコン』の完全なラテン語版を読み解くため、ミスカトニック大学付属図書館へ足しげく通うようになる。図書館所蔵の版を借り出そうとするも司書ヘンリー・アーミテージに拒まれ、他大学への借用も阻まれた末、夜間に図書館へ不法侵入するが、番犬に襲われ落命する。その死体は人間としての要素がごくわずかしか残っておらず、「疑いなく部分的には人間であり、手や頭部は極めて人間的だった——だが胴体から下の部分は分類学上不可能なほど奇怪だった」[6]、「腰から上は半人半獣的だったが……鰐に似た革質の網状の皮膚を持っていた」「腰から下では、赤い吸盤の口を持つ二十本ほどの触手が力なく垂れ下がっていた」と記される衝撃的な姿だったとされる。検死官が到着した頃には、床の上には粘つく白い塊が残るのみであったという[7]。
彼の死後、彼と対を成す「双子の片割れ」——ラヴィニアが実は二子を産んでいたことが示唆される、姿を持たぬまま巨大化した存在——がダニッチの村を襲い、最終的にセンティネル・ヒルの頂でアーミテージらの呪文によって消滅し、末期に父の名「ヨグ=ソトース」を叫ぶ[8]。
他の人物・存在との関係
母ラヴィニア・ウェイトリー、祖父オールド・ウェイトリーとは血縁関係にあり、父は人知を超えた存在ヨグ=ソトースとされる。姿なき「双子の片割れ」とは、同じ母胎から生まれた兄弟という関係にある。ヘンリー・アーミテージとは、禁書の借用を巡って対立し、彼の死後もその暗号日記がアーミテージによって解読されるという間接的な関わりが続く。
主要登場作と読みどころ
- 「ダニッチの怪」(1928年執筆/1929年発表): ウィルバーの唯一の登場作。異常な成長速度の記述に始まり、禁書を求める執念、そして図書館侵入時の死とその衝撃的な正体の露見までを描く
よくある誤解
Q. ウィルバー・ウェイトリーとダニッチの怪物は同一人物ですか?A. いいえ。ウィルバーとダニッチの怪物(姿を持たぬ双子の片割れ)は、ラヴィニア・ウェイトリーが産んだ双子の別個体とされる。ウィルバーは人間に近い外見を保っていたが、怪物の方はほぼ完全に姿を持たない存在として描かれる。
Q. ウィルバーの成長速度の異常さは、物語中で医学的に説明されていますか?A. 明確な医学的説明はない。父が人知を超えた存在ヨグ=ソトースであることが、この異常な成長速度・外見の根本的な原因として示唆されるのみである。
出典
- [1] “Within three months of his birth he had attained a size and muscular power not usually found in infants under a full year of age.”(訳: 「生後3か月以内に、彼は満1歳にも満たない乳児には通常見られない大きさと筋力に達していた」) — H. P. Lovecraft, “The Dunwich Horror”(1928年執筆/1929年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] “At seven months, he began to walk unassisted, with falterings which another month was sufficient to remove.”(訳: 「生後7か月で、彼は助けなしに歩き始め、さらに1か月でその足取りのおぼつかなさも消えた」) — 同上 ↩
- [3] “He had grown as large as a child of four, and was a fluent and incredibly intelligent talker.”(訳: 「彼は4歳児ほどの大きさに育ち、流暢かつ驚くほど知的に話す子供だった」) — 同上 ↩
- [4] “There being something almost goatish or animalistic about his thick lips, large-pored, yellowish skin, coarse crinkly hair, and oddly elongated ears.”(訳: 「厚い唇、毛穴の粗い黄色がかった肌、粗くちぢれた髪、奇妙に伸びた耳など、どこかヤギじみた、あるいは動物めいた何かがあった」) — 同上 ↩
- [5] “His lips and cheeks were fuzzy with a coarse dark down, and his voice had begun to break.”(訳: 「唇と頬は粗い黒っぽいうぶ毛で覆われ、声変わりが始まっていた」) — 同上 ↩
- [6] “It was partly human, beyond a doubt, with very man-like hands and head…the torso and lower parts of the body were teratologically fabulous.”(訳: 「それは疑いなく部分的には人間であり、手や頭部は極めて人間的だった——だが胴体から下の部分は分類学上不可能なほど奇怪だった」) — 同上 ↩
- [7] “When the medical examiner came, there was only a sticky whitish mass on the painted boards.”(訳: 「検死官が到着した頃には、塗装された床板の上には粘つく白い塊が残るのみだった」) — 同上 ↩
- [8] “N’gai, n’gha’ghaa, bugg-shoggog, y’hah; Yog-Sothoth, Yog-Sothoth…”(訳: 「ンガイ、ンガー・ガー、バグ=ショゴグ、イ・ハー。ヨグ=ソトース、ヨグ=ソトース……」、双子の怪物が消滅する際に発した末期の叫び) — 同上 ↩
- [9] “…the noises in the hills had sounded, and all the dogs of the countryside had barked persistently, throughout the night before.”(訳: 「丘陵地帯で物音が響き、界隈の犬という犬が前夜じゅう吠え続けていた」) / “she seemed strangely proud of the dark, goatish-looking infant who formed such a contrast to her own sickly and pink-eyed albinism, and was heard to mutter many curious prophecies about its unusual powers and tremendous future.”(訳: 「彼女は、自らの病んだピンク目のアルビノとは対照的な、浅黒くヤギじみた容貌の赤子を奇妙なほど誇りとしているようで、その並外れた力と輝かしい未来について奇妙な予言をつぶやくのが聞かれた」) — 同上 ↩
- [10] “Wilbur was growing up uncannily, so that he looked like a boy of ten as he entered his fourth year.”(訳: 「ウィルバーは不気味なほどの速さで成長しており、生後4年目に入る頃には10歳の少年のように見えた」) — 同上 ↩
- [11] “…for the first time people began to speak specifically of the dawning look of evil in his goatish face.”(訳: 「人々は初めて、彼のヤギじみた顔つきに芽生えつつある邪悪さの兆しを、はっきりと口にするようになった」) / “The aversion displayed toward him by dogs had now become a matter of wide remark, and he was obliged to carry a pistol in order to traverse the countryside in safety.”(訳: 「犬が彼に示す嫌悪は、この頃には広く噂されるほどになっており、彼は野道を安全に歩くために拳銃を携帯せざるを得なかった」) — 同上 ↩
- [12] “…dogs had begun to hate and fear the whole Whateley place as violently as they hated and feared young Wilbur personally.”(訳: 「犬たちは、若きウィルバー個人を憎み恐れるのと同じほど激しく、ウェイトリー家の屋敷全体を憎み恐れるようになっていた」) — 同上 ↩
- [13] “‘They didn’t git him,’ he muttered in his heavy bass voice.”(訳: 「『捕まえられなかったな』と、彼は太い低音の声でつぶやいた」) — 同上 ↩
- [14] “Almost eight feet tall, and carrying a cheap new valise from Osborn’s general store, this dark and goatish gargoyle appeared one day in Arkham in quest of the dreaded volume kept under lock and key at the college library.”(訳: 「身長8フィートに迫り、オズボーン雑貨店の安っぽい新しい鞄を提げたこの浅黒くヤギじみたガーゴイルは、大学図書館に鍵をかけて保管された恐るべき書物を求めて、ある日アーカムに現れた」) / “…he passed heedlessly by the great white-fanged watchdog that barked with unnatural fury and enmity, and tugged frantically at its stout chain.”(訳: 「彼は、異様な激しさと敵意をもって吠え、頑丈な鎖を必死に引っ張る白い牙の大きな番犬の前を、意に介さず通り過ぎた」) — 同上 ↩
- [15] “…he at once began to collate the two texts with the aim of discovering a certain passage which would have come on the 751st page of his own defective volume.”(訳: 「彼はただちに両テキストの照合を始めた。目的は、自分の手元にある不完全な版であれば751ページ目に来るはずのある一節を突き止めることだった」) / “He was looking, he had to admit, for a kind of formula or incantation containing the frightful name Yog-Sothoth…”(訳: 「彼が探していたのは、認めざるを得ないところでは、恐るべき名ヨグ=ソトースを含む一種の呪文めいたものだった」) — 同上 ↩
- [16] “He had heard, meanwhile, of Whateley’s grotesque trip to Cambridge, and of his frantic efforts to borrow or copy from the Necronomicon at the Widener Library.”(訳: 「その間に彼(アーミテージ)は、ウェイトリーの奇怪なケンブリッジ行きと、ワイドナー図書館の『ネクロノミコン』を借り出す、あるいは書き写そうとする必死の試みについて耳にしていた」) / “Wilbur had been shockingly nervous at Cambridge; anxious for the book, yet almost equally anxious to get home again, as if he feared the results of being away long.”(訳: 「ウィルバーはケンブリッジで驚くほど神経質になっていた。本を求める思いと同じくらい、早く故郷へ戻りたいという焦りも見せており、長く家を空けることの結果を恐れているかのようだった」) — 同上 ↩
- [17] “Then there rang out a scream from a wholly different throat…such a scream as could come from no being born of earth, or wholly of earth.”(訳: 「やがて、まったく異なる喉から絶叫が響き渡った……この世に生まれた、あるいはこの世だけに属する存在の喉からは決して出るはずのない絶叫だった」) — 同上 ↩
- [18] “The thing that lay half-bent on its side in a foetid pool of greenish-yellow ichor and tarry stickiness was almost nine feet tall, and the dog had torn off all the clothing and some of the skin.”(訳: 「悪臭を放つ緑黄色の膿汁と黒い粘液の水たまりの中に半ば身をかがめて横たわっていたその物体は、身長ほぼ9フィートあり、犬が衣服のすべてと皮膚の一部を引き裂いていた」) — 同上 ↩
- [19] “…the goatish, chinless face had the stamp of the Whateleys upon it.”(訳: 「ヤギに似た顎のない顔には、ウェイトリー家の刻印がはっきりと表れていた」) — 同上 ↩




