人物 — (原文中に明記なし)

インスマスの無名の語り手

原典

21歳の誕生日を機に、母方の系図調査と観光を兼ねてニューイングランド各地を旅していた青年。寂れた港町インスマスに立ち寄ったことをきっかけに、自らの血筋に隠された恐るべき真実へと直面していく「インスマスの影」の語り手。

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インスマスの無名の語り手

「狭い額と顎、扁平な鼻、瞬きをしない濁った青い目、未発達な耳を特徴とする「インスマス面」。物語の終盤、語り手自身も鏡を見て、自分にもこの面相が現れ始めたことを悟る」

— H・P・ラヴクラフト「インスマスの影」(1936年発表)

編集部注: この語り手は、ゲームや二次創作の一部で「ロバート・オルムステッド」の名で呼ばれることがあるが、この名前はラヴクラフトの原文には一度も登場しない。原作「インスマスの影」において、語り手は最後まで本名を明かされないまま物語を綴る。本記事では原文に忠実に「無名の語り手」として扱う。

概要

21歳の誕生日を機に、母方の系図調査と観光を兼ねてニューイングランド各地を旅していた青年。旅程の途中、地元民から忌避される寂れた港町インスマスに立ち寄ったことをきっかけに、自らの血筋に隠された恐るべき真実へと直面していく「インスマスの影」の語り手である。

基本プロフィール

  • 分類: 人物(一人称の語り手)
  • 欧文表記: 原文中に本名の明記なし(ゲーム・二次創作の「ロバート・オルムステッド」は非公式の後付け名称)
  • 初出・出典: 「インスマスの影」(1931年執筆、1936年に私家版として発行)
  • 旅の目的: 21歳の成人を記念した、ニューイングランド各地の観光・古物趣味・系図調査を兼ねた旅[1]

別名・呼称

原文中では最後まで本名が明かされない。TRPGやコンピュータゲーム、ファン創作などの二次的な文脈では「ロバート・オルムステッド」の名で呼ばれることがあるが、この名称はラヴクラフトの原作には一切登場しない後付けの通称であり、本サイトでは原文に忠実に「無名の語り手」として扱う。

人物像・性格

旅程を切符売り場の係員に説明する場面で、自らの旅を「成人を記念した、観光・古物趣味・系図調査を兼ねたニューイングランド巡り」と語る、好奇心旺盛で理性的な青年として描かれる[1]。物語後半にかけて、恐怖と忌避の対象であった血筋を最終的に受け入れていく心理的変化が、この人物の最大の特徴である。

生涯・経歴

語り手は、インスマスで出会った老人ゼイドック・アレンから、深きものどもとインスマス住民との間に結ばれた忌まわしい盟約の由来を聞かされる。その後、町からの脱出行の途上で深きものどもに追い詰められながらも、命からがら町を脱する。

脱出後の調査で、語り手は自らがインスマスの血を引く一族の子孫であることを知り、次第に自らの肉体に「インスマスの顔つき」の兆候——後年多くの派生作品で繰り返し参照される、両生類的な特徴への漸進的変容——が表れ始めていることに気づいていく。

物語の結末で、語り手は当初深きものどもへの恐怖と嫌悪を抱いていたにもかかわらず、自らの変容を受け入れ、海底都市イハ=ンスレイで永遠の生を得た同族のもとへ向かう決意を固める。物語の最後の一文は、彼が海の底で待つ栄光に満ちた生を思い描く場面で締めくくられる[2]

他の人物・存在との関係

ゼイドック・アレンは、インスマスの秘密——深きものどもとの盟約の由来——を語り手に明かす老人である。深きものどもは、語り手自身の血筋の起源であり、当初は恐怖の対象、最終的には受け入れの対象となる存在。デビル・リーフイハ=ンスレイは、深きものどもの棲息地・都市として物語の結末に直結する場所である。

主要登場作と読みどころ

  • 「インスマスの影」(1931年執筆/1936年私家版発行): 語り手が唯一登場する中編。旅行記のような穏やかな導入から、町の秘密の発覚、決死の脱出行、そして自らの血筋の受容へと至る展開の落差が最大の読みどころ。特に結末部は、恐怖の対象であったはずの「異形の血」を語り手自身が最終的に受け入れるという、ラヴクラフト作品の中でも異色の帰結を迎える。

よくある誤解

Q. この語り手は「ロバート・オルムステッド」という名前ではないのですか?

A. いいえ。この名前はラヴクラフトの原文には一度も登場せず、TRPGやゲームなど後年の派生作品が便宜的に付けた非公式の通称です。原作はあくまで「無名の語り手」として一人称で語られます。

Q. 語り手は最後、深きものどもから逃げ延びてハッピーエンドを迎えるのですか?

A. 単純なハッピーエンドとは言えません。語り手は物理的な脱出には成功しますが、最終的には自らの意志で深きものどもの血を受け入れ、海底での永遠の生を選び取ります。これは恐怖からの解放ではなく、恐怖の対象そのものへの同化として描かれており、批評的にもしばしば議論の対象となる結末です[2]

出典

  • [1] “I was celebrating my coming of age by a tour of New England—sightseeing, antiquarian, and genealogical”(訳: 「私は成人を、ニューイングランド巡りによって祝っていた——観光、古物趣味、そして系図調査を兼ねた旅として」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年執筆/1936年私家版発行), 公式アーカイブ
  • [2] “We shall swim out to that brooding reef in the sea and dive down through black abysses to Cyclopean and many-columned Y’ha-nthlei, and in that lair of the Deep Ones we shall dwell amidst wonder and glory forever.”(訳: 「我らは海に浮かぶあの物思わしげな岩礁へと泳ぎ出し、暗黒の深淵を潜り抜けて、キュクロプス的な、無数の柱を持つイハ=ンスレイへと至るだろう。そして深きものどもの棲むその巣にて、我らは永遠に驚異と栄光のうちに住まうだろう」) — 同上, 公式アーカイブ
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