旧支配者 — ABHOTH

アブホース

原典

地底の深淵に潜む「不浄の源泉」。絶え間なく不気味な落とし子を生み出す粘液の池。

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アブホース

「灰白色で粘液質のその肉体から、絶え間なく様々な形態の落とし子が分離・繁殖する」

— クラーク・アシュトン・スミス「七つの呪い」(1934年)
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概要

スミスのヒュペルボレア・シリーズに登場する存在の中でも、最も徹底的に「生命の本質的な不潔さ」を具現化した恐怖がアブホースである[1]。灰白色のネバネバした液体の塊であるこの存在は、生命を創造するプロセスそのものを一種の自己汚染・自己毒化として表現している。原典では「あらゆる宇宙的不浄の父にして母」と称される[2]。

項目内容
分類旧支配者(TRPG設定による分類。原典自体に分類の概念は無い)
欧文表記ABHOTH
初出クラーク・アシュトン・スミス「七つの呪い」(1934年)
象徴するテーマ不浄、自己捕食、退化的生殖、地下深部
棲息地ヴルミタドレス山の最奥部、ヒュペルボレアの地下世界(原典では元型たちの洞窟と同じ層にある深い洞窟とされる)[3]

初出作品

アブホースが登場するのは、現行資料で確認できる限り七つの呪い(クラーク・アシュトン・スミス、1934年)一作のみである。舞台はヒュペルボレア、スミスが自身の作品群で展開した太古の大陸を舞台にした連作の一つ。日本語訳も複数存在し、ラヴクラフト全集の中に収録されているものもある。

原典での描写

アブホースは「池」というより、むしろ活動する有機体そのものである。灰白色で粘液質のその肉体から、絶え間なく様々な形態の「落とし子」が分離・繁殖する[1]。人間の手足や頭部、あるいは未分類の四肢や目玉といった身体部位が、池の表面から這い出ては[4]、アブホース自身の触手に捕捉され、再び吸収される。原典では、池から素早く岸へ泳ぎ出なかった落とし子は、親なる肉塊に開く口に貪り喰われるとされる[5]。

アブホースに意思や目的があるのかは、原典では明言されていない。地上の歴史や世界情勢への関心を示す記述もなく、落とし子を生み出し、貪食し、再び排出するという営みが繰り返されるのみである。

身体の描写は、灰色でネバネバした液体という基本形態以外に明確なものが乏しい。時に数メートルの高さまで膨れ上がり、時に奥深い裂け目へ沈むとされ、表面には多数の触手が蠢動し、新たに出現した落とし子たちを操作する。

『七つの呪い』では、地底の魔術的な迷路に迷い込んだ魔術師が、やがてアブホースの棲所へと至り、その光景が登場人物に精神的な破滅をもたらす場面として描かれる。

この描写を巡っては、生殖や進化のプロセスを自己汚染・自己毒化になぞらえたイメージだとする読み方がある。落とし子たちは最終的に母体へ吸収される運命にあり、独立や自由が存在しない自己完結的な循環として描かれている点が、その根拠として挙げられることが多い。ただし、これは一つの読み方であり、原典自体がこの主題を明言しているわけではない。

ダーレス以降の変化

この神格を創造したのはオーガスト・ダーレスではなく、クラーク・アシュトン・スミスである(初出作品を参照)。ダーレス以降にアブホースへ新たな設定が付け加えられたという記述は、現行資料には見当たらない。原典に書かれた範囲を超える後発の展開は確認できていない。

TRPGでの扱い

クトゥルフ神話TRPGでは、アブホースは旧支配者に分類されている。ただし、この分類がTRPG側の体系によるものである点を除けば、シナリオでの具体的な扱いやゲーム上のステータスについては、現行資料からは確認できていない。

登場作品一覧

作品年作者この作品が足したもの
七つの呪い1934クラーク・アシュトン・スミスアブホースそのものの初出。性質・外見・落とし子の描写のすべて[1][2][3][4][5]

関連神格・地域・書物

神格

  • ウボ=サスラ — ヒュペルボレアの先史的な原初生命の遺存者という点でアブホースと類似する。ただしウボ=サスラが「すべての生命の母」として敬われる対象であるのに対し、アブホースは嫌悪と恐怖の対象として描かれる。両者を同じ原理の異なる現れとみる読みもあるが、原典に明記された関係ではない
  • ツァトゥグァ — 同じくヒュペルボレアの地底に棲息するが、アブホースとの直接的な関係は原典に記録されていない

地域

  • ヒュペルボレア — アブホースが棲息する太古の大陸。作中ではヴルミタドレス山最奥部の地底世界とされる[3]

人物

参考文献

  • [1] “Here, it seemed, was the ultimate source of all miscreation and abomination. For the gray mass quobbed and quivered, and swelled perpetually; and from it, in manifold fission, were spawned the anatomies that crept away on every side through the grotto.”(訳: 「ここにこそ、あらゆる奇形と忌まわしきものの根源があるように思われた。灰色の塊はどくどくと脈打ち震え、絶え間なく膨れ上がり、そこから幾重にも分裂したものが、洞窟のあらゆる方向へと這い出ていった」) — Clark Ashton Smith, “The Seven Geases”, Weird Tales vol. 24, no. 4(1934年10月号), archive.org
  • [2] “Therefore we put you under a geas: depart without delay from the Cavern of the Archetypes, and seek out the slimy gulf in which Abhoth, father and mother of all cosmic uncleanness, eternally carries on Its repugnant fission.”(訳: 「よって我らはお前に誓約(ギース)を課す。直ちに元型の洞窟を去り、あらゆる宇宙的不浄の父にして母たるアブホースが、忌まわしき分裂を永遠に続けているぬめる深淵を探し出せ」) — 同上, archive.org
  • [3] “a deep cavern on the same level as that of the Archetypes”(訳: 「元型たちの洞窟と同じ層にある深い洞窟」、原文からの抜粋句) — 同上, archive.org
  • [4] “There were things like bodiless legs or arms that flailed in the slime, or heads that rolled, or floundering bellies with fishes’ fins; and all manner of things malformed and monstrous, that grew in size as they departed from the neighborhood of Abhoth.”(訳: 「そこには肢体だけの脚や腕がぬめりの中で藻掻いているもの、転がる頭部、魚の鰭を持ちのたうつ腹などがあり、あらゆる種類の奇形で怪異なものたちが、アブホースの周辺から離れるにつれて大きさを増していった」) — 同上, archive.org
  • [5] “And those that swam not swiftly ashore when they fell into the pool from Abhoth, were devoured by mouths that gaped in the parent bulk.”(訳: 「そしてアブホースの池に落ちた際、素早く岸へ泳ぎ着かなかった者たちは、親なる肉塊に開く口によって貪り喰われた」) — 同上, archive.org

FAQ

Q. アブホースはラヴクラフトが生み出した神格ですか。A. 違います。創造したのはクラーク・アシュトン・スミスで、「七つの呪い」(1934年)が唯一の初出作品です[1]。

Q. アブホースとウボ=サスラは同じ存在ですか。A. 同一ではありません。ヒュペルボレアの原初生命の遺存者という共通点はありますが、ウボ=サスラが「すべての生命の母」として敬われる対象であるのに対し、アブホースは嫌悪と恐怖の対象として描かれており、原典で両者を同一視する記述はありません。

Q. アブホースはTRPGでどのような設定になっていますか。A. クトゥルフ神話TRPGでは旧支配者に分類されていますが、シナリオでの具体的な扱いなど、それ以上の設定については現行資料から確認できていません。

Q. アブホースの姿ははっきり決まっていますか。A. 決まっていません。灰色の粘液質という基本形態以外の具体的な描写は乏しく、大きさも一定していないとされています。

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