概要
アトラク=ナクアは、クラーク・アシュトン・スミスが「七つの呪い」(1934年)で描いた、巨大な蜘蛛の姿をした旧支配者である。スミスのヒュペルボレア・シリーズに登場する存在の中でも、最も「目的志向的」でありながら、最も「人間的理解を超えた」存在として描かれる。地底の無限の裂け目[4]に架かる巨大な蜘蛛の巣の橋を、休むことなく紡ぎ続けている[2][3]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者 |
| 欧文表記 | ATLACH-NACHA |
| 創造者 | クラーク・アシュトン・スミス |
| 初出 | 「七つの呪い」(1934年) |
| 象徴するテーマ | 蜘蛛、巨大な網、執念、運命の糸 |
| 棲息地 | ヴルミタドレス山地下、光の届かぬ巨大な割れ目 |
旧稿には「この橋が完成する日こそが世界の終わりをもたらす」という終末論的な伝承が記されていたが、原典「七つの呪い」の本文中にこれに対応する記述は見当たらず、出典は特定できていない。詳しくは「ダーレス以降の変化」で扱う。
初出作品
アトラク=ナクアが初めて、そして唯一登場するのは、クラーク・アシュトン・スミスの短編「七つの呪い」(1934年)である。この作品はスミスの「ヒュペルボレア・シリーズ」に属する一作である。地底を探索する魔術師が、この存在が紡ぐ巨大な蜘蛛の巣の橋に遭遇する場面が、作中の緊迫感の頂点として描かれている。
原典での描写
原典「七つの呪い」において、アトラク=ナクアは巨大な蜘蛛の胴体に、赤い眼が並ぶ人間の顔に似た小さな頭部を持つ存在として描かれる[1]。
“Far out on one of the webs he discerned a darksome form, big as a crouching man but with long spider-like members. …When it came near he saw that there was a kind of face on the squat ebon body, low down amid the several-jointed legs. The face peered up with a weird expression of doubt and inquiry; and terror crawled through the veins of the bold huntsman as he met the small, crafty eyes that were circled about with hair.”(訳: 「巣の一つの遥か彼方に、彼はうずくまる人ほどの大きさで、蜘蛛のような長い肢を持つ、薄暗い姿を見て取った。……それが近づくと、幾つもの関節を持つ肢の間、低い位置に、黒檀色のずんぐりした胴体に一種の顔があるのが見えた。その顔は疑念と詮索の奇妙な表情を浮かべて見上げており、大胆な狩人の血管には、毛に縁取られた小さく狡猾な目と目が合った瞬間、恐怖が這い上った」)[1]
その糸は銀白色に輝き、縄のように太い灰色の糸が幾重にも交差して[2]、彼方の岸が闇に消えていくほど広大な裂け目[4]に橋を架けている。旧稿ではこの糸について「噛み砕くことも、焼くこともできない」という強靭さも記されていたが、この一文に対応する引用符付きの原文は特定できておらず、地の文の記述として引き継ぐにとどめる。
アトラク=ナクアはこの橋を架ける作業に完全に没頭しており、遭難者を助けるために手を止めることさえ拒む。
“since there is no one else to bridge this chasm, and since eternity is required for the task, I can not spend my time in extracting you”(訳: 「この裂け目に橋を架けられる者は他におらず、その作業には永遠の時が必要である以上、私はお前を引き上げるために時間を割くことはできない」) — アトラク=ナクア自身の台詞[3]
原典の本文には、この橋がいつか完成するのか、完成した時に何が起こるのかについての記述は見当たらない。旧稿にあった「橋の完成が世界の終わりをもたらす」という伝承は、この原典部分には対応する記述が確認できない。
ダーレス以降の変化
アトラク=ナクアを創造したのはオーガスト・ダーレスではなく、クラーク・アシュトン・スミスである。原典より後に付け加えられた設定としてここにまとめる。
現行の資料には、ダーレスによるアトラク=ナクア関連の設定変更を裏づける記述がなく、確認できていない。
旧稿にあった「橋の完成が世界の終わりをもたらす」という終末論的な伝承についても、それがダーレス以降の資料に由来するのか、TRPGの設定に由来するのか、あるいは他の二次資料によるものかは、現行の材料からは判断できない。原典由来ではないという点のみ確認でき、出典未特定のまま未照合として扱う。
TRPGでの扱い
frontmatterの分類ではアトラク=ナクアは旧支配者に位置づけられているが、この呼称自体は原典「七つの呪い」の本文中には登場しない。それ以外の、クトゥルフ神話TRPGにおけるアトラク=ナクア固有の設定(能力値、シナリオでの扱いなど)については、現行の資料に記述がなく確認できていない。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 七つの呪い | 1934 | クラーク・アシュトン・スミス | 唯一の初出。姿・糸の性質・橋の描写[1][2][3][4] |
関連神格・地域・書物
神格
- ツァトゥグァ — 同じヴルミタドレス山地下領域に棲息するが、互いの領域を侵さない超然とした関係にあるとされる。両者の直接的な接触は原典に記録がない
- アブホース — 同じ地下世界に棲息するとされるが、接触についての記録はない
人物
- クラーク・アシュトン・スミス — アトラク=ナクアの創造者
作品
- 七つの呪い — 唯一の初出作品
表記についての注記
旧稿(および同じ出典を持つアブホースの記事)は棲息地を「ヴルミタドレス山」と表記しているが、本サイトのハイパーボリアの記事は同じ山を「ヴーアミタドレス(Mount Voormithadreth)」と表記しており、表記が一致していない(未照合)。本稿では旧稿の表記をそのまま引き継いだ。
参考文献
- [1] “Far out on one of the webs he discerned a darksome form, big as a crouching man but with long spider-like members. …When it came near he saw that there was a kind of face on the squat ebon body, low down amid the several-jointed legs. The face peered up with a weird expression of doubt and inquiry; and terror crawled through the veins of the bold huntsman as he met the small, crafty eyes that were circled about with hair.”(訳: 「巣の一つの遥か彼方に、彼はうずくまる人ほどの大きさで、蜘蛛のような長い肢を持つ、薄暗い姿を見て取った。……それが近づくと、幾つもの関節を持つ肢の間、低い位置に、黒檀色のずんぐりした胴体に一種の顔があるのが見えた。その顔は疑念と詮索の奇妙な表情を浮かべて見上げており、大胆な狩人の血管には、毛に縁取られた小さく狡猾な目と目が合った瞬間、恐怖が這い上った」) — Clark Ashton Smith, “The Seven Geases”, Weird Tales vol. 24, no. 4(1934年10月号), archive.org
- [2] “great webs were attached to it at intervals, seeming to span the gulf with their multiple crossings and reticulations of gray, rope-thick strands.”(訳: 「巨大な網が一定の間隔でそれに取り付けられており、縄のように太い灰色の糸が幾重にも交差し網目を成して、深淵に架かっているように見えた」) — 同上, archive.org
- [3] “since there is no one else to bridge this chasm, and since eternity is required for the task, I can not spend my time in extracting you”(訳: 「この裂け目に橋を架けられる者は他におらず、その作業には永遠の時が必要である以上、私はお前を引き上げるために時間を割くことはできない」) — 同上(アトラク=ナクア自身の台詞), archive.org
- [4] “a chasm whose farther shore was lost in darkness”(訳: 「彼方の岸が闇に消えていく裂け目」) — 同上, archive.org
FAQ
Q. アトラク=ナクアはラヴクラフトが生み出した神格ですか。A. 違います。創造者はクラーク・アシュトン・スミスで、初出は短編「七つの呪い」(1934年)です[1]。ラヴクラフト自身がアトラク=ナクアを描いた作品はありません。
Q. アトラク=ナクアの糸にはどんな性質がありますか。A. 銀白色に輝く灰色の糸で、縄のように太く、幾重にも交差して深淵に橋を架けているとされます[2]。噛み砕くことも焼くこともできないという強靭さも旧稿から引き継いでいますが、この部分に対応する引用符付きの原文までは特定できていません。
Q. 蜘蛛の巣の橋が完成すると世界が終わるというのは本当ですか。A. 原典の本文には、この伝承に対応する記述が見当たりません。出典は特定できておらず、未照合のまま残しています。
Q. ダーレスはアトラク=ナクアに何か設定を足しましたか。A. 確認できていません。現行の資料には、オーガスト・ダーレスによる設定変更を裏づける記述がありません。
Q. TRPGでのアトラク=ナクアの扱いは分かっていますか。A. frontmatterの分類では旧支配者とされていますが、それ以外の具体的なTRPG設定については、現行の資料では確認できていません。




