編集部注(著作権について): 出典の『狂気の山脈にて』は、Astounding Stories誌掲載号の著作権が更新されているため(Catalog of Copyright Entries登録番号R309944)、2032年まで米国で著作権が継続しています(パブリックドメインではありません)。本記事中の引用は論評・紹介目的の短い範囲に限定しています。
概要
狂気山脈の峰々を越えた先に広がる、古のもの(Elder Things)が築いた太古の廃都市。ミスカトニック大学探検隊が上空から目にした最初の姿は蜃気楼として現れ、その後実際に踏み入った隊員たちは、人智を超えた規模と幾何学を持つ石造建築の廃墟を目の当たりにする[1]。
基本プロフィール
- 分類: 地名(南極大陸、廃都市遺跡)
- 欧文表記: THE ANCIENT CITY
- 初出・出典: 「狂気の山脈にて」(執筆1931年/『アスタウンディング・ストーリーズ』1936年2〜4月号連載)
- 所在地: 狂気山脈(mountains-of-madness)の峰々を越えた先
由来・モデル
完全な架空の遺跡であり、実在の考古学的遺跡をモデルとした記述は確認されていない。ただし、都市そのものが文字による記録ではなく建築・彫刻に数億年の歴史を刻んでいるという着想は、当時考古学的に注目を集めていた古代文明(エジプト・メソポタミア等の巨石建築)の壁画・碑文研究のあり方を、地球外由来の非人間的建築という形で翻案したものと位置づけられる。
歴史・年表
探検隊が最初にこの都市を認めたのは、山脈へ接近する機上から見えた蜃気楼としてであった。切り詰められた円錐や、階段状・溝彫りの円筒、鱗状の円盤を重ねた塔、複数の頂点を持つ角錐といった、人類の建築的想像力の外にある奇怪な構造物が、管状の橋で複雑に結び合わされている様が語られる[2]。実際に都市へ降り立った探検隊員(ダイアー教授と院生ダンフォース)は、この蜃気楼が誇張ではなかったことを知る。都市を構成する石材は人類にも人類の想像力にも属さない建築様式を持つ巨石(サイクロピアン)構造で、幾何学の法則を怪異なまでに歪めた意匠に覆われていた。
都市の壁面には、これを築いた古のものたちが数億年前に地球へ飛来し、文明を興し、使役生物ショゴスを創造した経緯を物語る彫刻群が残されており[3]、探検隊はそこから地球生命史そのものを塗り替えかねない太古の記録を読み解いていく。壁画はさらに、遅れて到来したクトゥルフの眷属や、外宇宙から飛来したミ=ゴとの間で地上の支配権を巡る争いがあったこと、そして都市がやがて自らが創造したショゴスの反乱によって崩壊し、生き残った古のものたちが地下の水域へ撤退していったことを伝えている。
性質・特徴
「都市そのものが記録装置である」という着想——文字による記述ではなく、建築と彫刻そのものに数億年の歴史が刻まれているという設定——が、この遺跡を単なる恐怖の舞台以上のものにしている。人類が到達するはるか以前から地球に存在した知性とその滅亡の物語を、廃墟の姿を通じて追体験させる構成は、後のSF的「古代宇宙人」ものの原型のひとつとされる。物語終盤、ダイアーとダンフォースは都市の地下水域へ迷い込み、そこで生き延びていた古のもの、さらにその奥で蠢く未知の何か(ダンフォースが目撃し、決して詳細を語ろうとしない存在)に遭遇する。
関連する人物・存在・出来事
ウィリアム・ダイアー教授、院生ダンフォースがこの遺跡を実際に探索する。都市を築いた古のもの(Elder Things)、その使役生物として創造されたショゴス、そして山脈そのもの(mountains-of-madness)と一体の物語世界を構成する。
主要登場作と読みどころ
- 「狂気の山脈にて」(執筆1931年/1936年発表): 唯一の原典。都市の発見から壁画の解読、地下水域での遭遇までがダイアーの一人称報告として語られる。
- TRPG続編キャンペーン『Beyond the Mountains of Madness』(ケイオシアム社): この遺跡のさらなる探索を扱う大型キャンペーン。
よくある誤解
Q. この廃都市の「その先」でダンフォースが見たものは何だったのですか?
A. 原典では明言されません。ダンフォースは「もっと恐ろしい何か」を目撃したとほのめかしますが、正体は読者の想像に委ねられたまま終わります。後続作家による様々な解釈(ヨグ=ソトース、あるいは別の古のものの残党とする説など)がありますが、いずれも原典が確定した事実ではありません。
Q. この遺跡と狂気山脈(mountains-of-madness)は同じ記事内容ですか?
A. いいえ。狂気山脈は山脈そのもの・探検隊の到達過程を扱い、本記事はその先にある廃都市そのもの(建築・壁画・地下水域)に焦点を当てています。
出典
- [1] “There were truncated cones, sometimes terraced or fluted, surmounted by tall cylindrical shafts here and there bulbously enlarged and often capped with tiers of thinnish scalloped discs.”(訳: 「切り詰められた円錐があり、時に段状あるいは溝彫りが施され、その上には所々ふくらみを帯び、しばしば薄い帆立貝状の円盤を幾重にも戴いた高い円筒形の塔が聳えていた」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(執筆1931年/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] 同上(蜃気楼として最初に目撃された都市の建築描写) ↩
- [3] “Formless protoplasm able to mock and reflect all forms and organs and processes…slaves of suggestion, builders of cities”(訳: 「あらゆる形態・器官・過程を模倣し反映しうる無定形の原形質……暗示の奴隷にして都市の建造者」) — 同上, 公式アーカイブ ↩






