短編小説 — THE MAN OF STONE

石の男

アディロンダック山中で行方不明になった彫刻家を探す二人が、生きたまま石化させられた人と犬の像に行き着く。犯人は『エイボンの書』の秘薬でシュブ=ニグラスとツァトゥグァに祈りを捧げながら復讐を果たすが、最後は被害者の妻の手で同じ運命をたどる。

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石の男

「ベン・ヘイデンは昔から頑固な男で、アディロンダック山地奥地の奇妙な彫像の話を聞きつけるや、それを見に行くのを誰にも止められなかった。」

— H・P・ラヴクラフト(ヘイゼル・ヒールド名義の代作)「石の男」(1932年発表)冒頭部

概要

アディロンダック山中の寒村マウンテン・トップ近郊で、生きた動物のように精巧な「石像」が相次いで発見される。行方不明の彫刻家アーサー・ウィーラーの仕業かと調べに向かった語り手たちは、彼自身もまた石と化した姿で洞窟に横たわっているのを発見する。真相は、地元の奇人「マッド・ダン」ことダニエル・モリスが、先祖伝来の『エイボンの書』に挟まれていた秘薬の処方を用い、自分の妻に横恋慕したウィーラーを毒殺(石化)したというものだった。

作品情報

  • 執筆・発表年: 1932年発表(「ワンダー・ストーリーズ」誌10月号)
  • 主題タグ: 嫉妬と復讐、生きたままの石化、禁書に基づく秘薬、因果応報

登場神格・用語

  • エイボンの書(初出典ではないが、本作で「屋根裏の古い書物」として直接引用される——先祖ヴァン・カウラン家に伝わる一冊という設定)
  • シュブ=ニグラス(モリスが秘薬を得た際「イア! シュブ=ニグラス! 千匹の仔を孕みし山羊よ!」と唱える)
  • ツァトゥグァ(復讐を果たした場面で「イア・ルルイエ! 主ツァトゥグァを讃えよ!」と唱える)

あらすじ

語り手ジャックの友人ベン・ヘイドンは、アディロンダック山中の寒村マウンテン・トップ近郊で見つかったという、生きた犬さながらに精巧な「石像」の噂を聞きつけ、真相を確かめに現地へ向かう。二人は洞窟の中で、噂通りの石の犬像と、それに寄り添うように横たわる石の男の像を発見する。男の顔には見覚えがあった——かつての知人で、写実主義で知られた彫刻家アーサー・ウィーラーその人だったのだ。

村人から聞き込みを進めるうち、ウィーラーが「マッド・ダン」ことダニエル・モリスの家に間借りしていたこと、モリスの若い妻ローズに近づいていたらしいことが判明する。二人がモリスの小屋に踏み込むと、そこにもまた二体の石像——縛られた老人と若い女性の姿をしたもの——があった。そばに残されていた手記が全ての真相を語る。

モリスは先祖伝来の魔術結社の末裔を自認する人物で、屋根裏から発見した『エイボンの書』の一頁に挟まれていた古い処方箋——生物を瞬時に石化させる秘薬の作り方——を用い、まずスズメや妻の飼い犬レックスで効果を確認したのち、ワインに混ぜてウィーラーに飲ませ、洞窟に隠して石化させた。続けて妻ローズにも同じ毒を盛ろうとするが、彼女は水の異臭に気づいて口をつけず生き延びる。手記の後半は、モリスの寝込みを襲ったローズ自身の手による続きの記述に切り替わり、彼女がモリスに毒を飲ませて石化させ、最後に自らも死を選んだ経緯が語られて終わる。

読みどころと注目テーマ

ヘイゼル・ヒールド名義でラヴクラフトが代作した一連の作品の中でも、明確にクトゥルフ神話の固有名詞(エイボンの書・シュブ=ニグラス・ツァトゥグァ)を織り込んだ点が特徴的な一篇。田舎の因習・魔術結社という土着的恐怖と、神話体系との接続を試みる過渡的な作品として位置づけられる。因果応報のプロットに、加害者自身が創り出した恐怖の装置によって滅ぼされるという構図はヒールド代作群に共通するモチーフ。

執筆背景と影響

先祖代々の魔術的血統を自認する田舎者という人物造形は、ラヴクラフトが繰り返し用いた「退廃した旧家」というモチーフの延長線上にある。同じくヒールド代作の「翼ある死」とも、復讐者が自らの仕掛けた罠に呑まれるという構図で通じるものがある。

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