夢の国(ドリームランド)の地底、グーグ族の都市の外れに広がる「ジンの穴蔵」に棲息する原始的な獣である。光を浴びると死んでしまうため決して地上には出られないが、地底の薄闇であれば長時間活動でき、追放後のグーグ族にとって数少ない食料源とされる。人間じみた顔立ちと獣じみた跳躍力を併せ持ち、夢の国の地底探索譚に緊張感を与える存在として繰り返し登場する。
概要
ガスト(Ghasts)は夢の国の地底、グーグ族の都市の外れにある「ジンの穴蔵」に棲息する原始的な獣である。光を浴びれば死んでしまう忌まわしい存在であり、ジンの穴蔵に棲み、カンガルーのように長い後脚で跳躍する[1]。追放後のグーグ族にとって数少ない食料源とされる。
基本プロフィール
| 初出作品(年) | 『未知なるカダスを夢に求めて』(1926〜1927年執筆/1943年発表) |
| 創造者 | H・P・ラヴクラフト |
| 区分 | 種族(地底の獣・原始的な野生生物) |
| 主な居住域 | 夢の国地底「ジンの穴蔵」 |
| canon層 | 原典 |
別名・呼称
英語表記は Ghasts(単数形 Ghast)。語感の近さから日本語圏でも食屍鬼(グール)と混同されやすいが、原典ではあくまで地底に棲む野生の獣として、知性を持つ食屍鬼とは明確に別種のものとして区別されている。
形態と特徴
体格は小馬ほどで、後脚でカンガルーのように跳躍して移動する。顔つきは奇妙に人間じみているが、鼻も額も、その他の重要な部位も欠いている[2]。全身は不潔で不釣り合いな体つきをしており、光に対しては絶対的な脆弱性を持つ一方、真の暗闇でなくとも地底の薄明かりであれば数時間は耐えられるという両極端な性質を併せ持つ。群れで行動する際は特に活発で、うずくまったり跳ね回ったりしながら仲間内で咳き込むような濁った声を交わし合う様子が観察されている。
性質・生態
ガストは同族同士でも共食いするほど原始的な性質を持ち、非常に獰猛である。「ジンの穴蔵」の狭隘部にはグーグ族の見張りが立つが、しばしば居眠りしているところをガストの群れに出し抜かれる。グーグ族が眠る時間帯を狙って穴蔵から抜け出し、光を避けながらグーグ・ガストのどちらであれかまわず獲物を襲う[3]。戦いに臨む個体に古傷がないことは、実は見張りと正面から戦ったのではなく眠っている隙をついただけであることを示す不吉な兆候とされ、力と獰猛さを温存したまま獲物を求めてうろつく群れの恐ろしさが強調される。
ランドルフ・カーターが食屍鬼たちの手引きでグーグ族の都市を抜けようとした際には、穴蔵の番人であるグーグの見張りとガストの群れとの死闘に遭遇している。牙と蹄で執拗に攻撃するガストの群れがグーグの見張りを圧倒する一幕は、地底世界の弱肉強食を象徴する場面として描かれる。倒れたガストの死骸が石段を転げ落ちていく物音すら、地底を進む一行にとっては見つかりかねない危険な兆候として緊張感をもたらす。
他の存在との関係
グーグ族・食屍鬼のいずれとも敵対し、見境なく襲いかかる獰猛さと、光に対する絶対的な脆弱性という両極端な性質を併せ持つ。地底世界の食物連鎖の底辺でありながら侮れない脅威として、夢の国の地底探索譚に緊張感を与える存在である。グーグ族にとっては数少ない獲物であると同時に、眠っている隙を突いて逆襲してくる油断ならない相手でもあり、両者の関係は単純な捕食・被食では割り切れない緊張状態にある。
主要登場作と読みどころ
ガストが登場するのは『未知なるカダスを夢に求めて』のみである。読みどころは、グーグ族の都市を抜けようとするカーター一行が「ジンの穴蔵」付近でガストの群れとグーグの見張りとの死闘に居合わせる場面で、地底世界の弱肉強食を凝縮したような緊迫の展開が描かれる。また、はぐれたガスト一体が食屍鬼の一団に古い墓石で叩き伏せられるくだりは、地底を行く者にとって常に警戒すべき存在としてガストが繰り返し登場する構成上の役割をよく示している。倒したガストの死骸がその後も物音を立てて転げ落ち、カーターたちを何度も肝の冷える思いにさせる演出は、視覚的な怪物性だけでなく音響的な緊張の積み重ねによって恐怖を持続させるラヴクラフトらしい語りの技巧といえる。
出典
- [1] “the ghasts, those repulsive beings which die in the light, and which live in the vaults of Zin and leap on long hind legs like kangaroos.”(訳:「ガスト――光を浴びれば死んでしまう忌まわしい存在であり、ジンの穴蔵に棲み、カンガルーのように長い後脚で跳躍する」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] “that scabrous and unwholesome beast, whose face is so curiously human despite the absence of a nose, a forehead, and other important particulars.”(訳:「その不潔で不釣り合いな獣は、鼻も額も、その他の重要な部位も欠いているというのに、顔つきは奇妙なほど人間じみていた」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
- [3] “The ghasts try to come out when the gugs sleep, and they attack ghouls as readily as gugs, for they cannot discriminate.”(訳:「ガストはグーグが眠っている隙に穴蔵から出ようとし、見境なくグーグと同じように食屍鬼をも襲う」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ ↩
用語集にもガスト(概略)として簡潔な解説があります。





