知的種族 — GHOULS

食屍鬼

原典

地下墓地や犬に似た顔を持つ人型生物。現実と夢の国の地下を往来する。

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食屍鬼

「犬に似た前傾姿勢の二足歩行、ゴムのような質感の体、尖った耳と充血した目・平たい鼻と涎を垂らした口を持つ犬面、鉤爪と半ば蹄状の足」

— H・P・ラヴクラフト「ピックマンのモデル」(1927年発表)

ゴム状の灰色の皮膚、前傾姿勢、鋭い爪を持つ知的種族である。死体を食し、地上の赤ん坊を誘拐して自分たちの子として育てる(取り替え子)とされ、長期間の接触や変容によって人間から食屍鬼へ変化することもあるという、境界の曖昧さを本質とする存在である。

概要

食屍鬼(Ghouls)はゴム状の灰色の皮膚、前傾姿勢、犬めいた面差しを持つ知的種族である。死体を食料とし、地上に生きる人間の子供を誘拐して自分たちの子として育てる(取り替え子)一方、長期間の接触や変容によって人間自身が食屍鬼へと変貌することもあるとされる。

基本プロフィール

初出作品(年) ピックマンのモデル」(1926年執筆/1927年発表)。『未知なるカダスを夢に求めて』(1926〜1927年執筆/1943年発表)にも大きく登場
創造者 H・P・ラヴクラフト
区分 知的種族(独立種族・一部は元人間)
主な居住域 現実世界の地下墓地・下水道網。夢の国の地底都市
canon層 原典

別名・呼称

英語表記は Ghouls(単数形 Ghoul)。日本語では「食屍鬼」のほか「グール」の音写表記も広く用いられる。

形態と特徴

食屍鬼の体つきは、二足歩行でありながら前かがみに傾いだ姿勢と、犬に似た面差しを特徴とする[1]。皮膚はゴムのような不快な質感を持ち、鋭い爪と、跳ねるような独特の歩き方をする。夢の国側の同族に合流しようとしたランドルフ・カーターは、伸ばしていた髭を剃り(食屍鬼には髭がないため)、泥の中で裸のまま転げまわって正しい肌合いを得て、いつもの前かがみの足取りで跳ねるように歩き、衣服は墓から失敬した上等な食べ物であるかのように包みにして携えたという[2]。声は持たず、「グリバー(glibber)」や「ミープ(meep)」と呼ばれる独特の言葉で意思疎通する。

性質・生態

食屍鬼は墓地や地下墓地に潜み、死体を主な食料とする。人間と怪物の境界線が固定されたものではなく、退廃や芸術的執着によって「容易に変容・滑落しうる」という流動的な恐怖とダークなロマンを体現する存在として描かれる。夢の国では義理堅い知性種族として交渉可能な相手として描かれ、夜鬼とは密約を結んで戦の伴侶(騎乗獣)として運用する関係を築いている。仲間を呼び集める際には「ミープ」という短い鳴き声を用い、複雑な意思疎通には「グリバー」と呼ばれる独特の発声を使い分けるなど、原始的ながら組織立った社会性を備えている点も特徴である。

現実世界では、ボストンの地下道や墓地のネットワークを通じて古くから潜伏してきたとされ、人間社会のすぐ足元に隠れ棲む「見えない隣人」としての恐怖を体現する。夢の国側の食屍鬼はこれとは対照的に、地底都市で独自の共同体を築き、義理と契約に基づいて他種族と渡り合う、より社会性の高い姿を見せる。

他の存在との関係

地底ではグーグ族の埋葬地から死骸を掘り出して食料とする一方、地底のガストとは互いに獲物として狙い合う。夜鬼とは密約の合言葉を介して協力関係にあり、月獣どもとの戦いでは夜鬼を先鋒として運用した。画家リチャード・アプトン・ピックマンは人間から食屍鬼へと変貌した人物として知られ、ランドルフ・カーターとは夢の国で旧知の間柄として再会する。

主要登場作と読みどころ

食屍鬼が登場する主要作品は「ピックマンのモデル」と『未知なるカダスを夢に求めて』である。「ピックマンのモデル」は、地下の芸術家ピックマンが描く化物画の正体が徐々に明かされていく怪奇短編で、語り手が地下アトリエで目にした一枚の紙片が実物を写した写真だったという結末は、ラヴクラフト作品でも屈指の衝撃的な一文として知られる。だが神に誓って言う、あれは実物を撮った写真だったのだ、という最後の台詞にその戦慄が凝縮されている[3]。『未知なるカダスを夢に求めて』では、食屍鬼となったピックマンがカーターの道案内役となり、グーグ族の都市脱出や夜鬼との共闘作戦を主導する頼れる相棒として活躍する。

よくある誤解

食屍鬼は単なる「墓を暴く怪物」として扱われがちだが、原典では独自の言語・社会・義理を持つ知性種族として描かれ、なかには元は人間だった個体(ピックマンなど)もいる点が、単純な怪物像との大きな違いである。また、地上の食屍鬼と夢の国の食屍鬼は同一種族の異なる側面として描かれており、両者を全く別の存在として切り分けるのも正確ではない。

出典

  • [1] “Most of the bodies, while roughly bipedal, had a forward slumping, and a vaguely canine cast.”(訳:「その体はおおむね二足歩行でありながら、前かがみに傾ぎ、どこか犬めいた趣きを帯びていた」) — H. P. Lovecraft, “Pickman’s Model”(1926年執筆/1927年発表), 公式アーカイブ
  • [2] “shaving the beard he had allowed to grow (for ghouls have none), wallowing naked in the mould to get the correct surface, and loping in the usual slumping way, with his clothing carried in a bundle as if it were a choice morsel from a tomb.”(訳:「伸ばしていた髭を剃り(食屍鬼には髭がないので)、泥の中で裸のまま転げまわって正しい肌合いを得て、いつもの前かがみの足取りで跳ねるように歩いた。衣服は墓から失敬した上等な食べ物であるかのように包みにして携えていた」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
  • [3] “But by God, Eliot, it was a photograph from life.”(訳:「だが神に誓って言う、エリオットよ――あれは実物を撮った写真だったのだ」) — H. P. Lovecraft, “Pickman’s Model”(1926年執筆/1927年発表), 公式アーカイブ

用語集にも食屍鬼(概略)として簡潔な解説があります。

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