人物 — CHARLES DEXTER WARD

チャールズ・デクスター・ウォード

原典

プロヴィデンスの旧家に生まれた青年。系図研究への興味から先祖の魔術師ジョゼフ・カーウェンの存在を知り、その禁断の研究を蘇らせようとしたことをきっかけに、人格そのものを乗っ取られていく「チャールズ・デクスター・ウォードの奇怪な事件」の主人公。

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チャールズ・デクスター・ウォード

「背が高く、細身で、金髪。学究的な目つきをし、心持ち猫背で、服装はいくぶんだらしなく、魅力というよりはむしろ人畜無害な不器用さという印象を与えた」

— H・P・ラヴクラフト「チャールズ・ウォードの症例」(執筆1927年/1941年発表)第1章
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概要

プロヴィデンスの旧家に生まれた青年。少年時代からの古物趣味・系図研究への強い関心が高じて、18世紀に処刑された先祖の魔術師ジョゼフ・カーウェンの存在を知り、その禁断の研究を蘇らせようとしたことをきっかけに、自らの人格そのものをカーウェンに乗っ取られていく「チャールズ・デクスター・ワードの奇怪な事件」の主人公[1]。

基本プロフィール

  • 分類: 人物
  • 欧文表記: CHARLES DEXTER WARD
  • 初出・出典: 「チャールズ・デクスター・ワードの奇怪な事件」(1927年執筆、Weird Tales誌1941年5・7月号に抄録掲載、完全版は1943年アーカムハウス版短編集『アウトサイダーその他』に収録)
  • 出身: ロードアイランド州プロヴィデンスの旧家
  • 主治医: マリナス・ビックネル・ウィレット博士

原典での描写

以下は、「チャールズ・デクスター・ワードの奇怪な事件」の本文に基づき、ウォードの姿を場面ごとに追ったものである。

外見と気質の描写

原文は青年期のウォードの容姿を「当時の彼の姿は、今なお思い描くことができる――背が高く痩身で金髪、もの思わしげな目をし心持ち猫背、身なりには無頓着で、魅力というよりむしろ害のない不器用さを漂わせていた」と描く。社交の機会は少なく、時間の大半は自宅での読書や散策、学業、そして市庁舎や州議事堂、公立図書館、アシニーアム、歴史協会、ブラウン大学の各図書館を巡っての系図・古物調査に充てられていたとも記される[6]。

少年時代と好古趣味

ウォードの古物趣味は原文によれば「幼少の頃からのもの」であり、「彼を取り巻く由緒ある町、そして丘の頂にある両親の旧邸プロスペクト街の隅々を満たす過去の遺物」から養われたものだったという。歴史・系図・植民地期の建築や家具、工芸の研究が、やがて他のあらゆる関心を押しのけるまでになったとも述べられる[7]。

主治医ウィレット博士は、後の変化の冬に至るまでのウォードの古物趣味について、「病的な要素が一切なかった」と証言する。「墓地が彼を惹きつけたのは、その古めかしさと史的価値以上のものではなく、暴力や凶暴な衝動じみたものとは無縁だった」とも付け加えている[8]。

カーウェン研究への没入と変化

1918年、系図調査を進めていたウォードは、先祖に18世紀の人物ジョゼフ・カーウェンがいたことを知る。その後、カーウェンがかつて構えていたオルニー・コートの旧宅を訪ねた際、暖炉上部の羽目板の塗装の下に肖像画が隠れていることに気づき、専門の修復師に依頼して塗料を剥がしていく。最後の一拭きで「幾世紀もの間隠されていた表情」が現れ、「過去に生きるチャールズ・デクスター・ウォードを、恐るべき高祖父の顔立ちのうちに浮かぶ自分自身の生きた顔と向き合わせる」という、遺伝がもたらした劇的ないたずらが明らかになったと原文は記す[9]。

この炉棚をウォード家の自邸へ移送する工事の最中、かつて肖像画の裏に当たっていた壁の一角に「一辺およそ一フィートの立方体状の空洞」が見つかり、そこからカーウェン直筆と思われる古文書が発見される[10]。ウォードはこの文書を家族にも見せず、大半が暗号であるため慎重に研究する必要があると告げるにとどめた。

原文は、1919年から20年にかけての冬を境にウォードの一般的な古物趣味が途絶え、代わって内外での秘教的主題への必死の探求が始まったとする見方を示す[11]。ただし主治医ウィレット博士自身はこの時期特定に異論を唱えており、変化の起点をめぐる解釈は作中でも一致していない。

変貌後の姿とウィレットの観察

物語の冒頭は、療養院から姿を消した人物への言及から始まる。原文は「まず、患者は実際の二十六歳という年齢が正当化するよりも、なぜか老けて見えた。精神の変調が人を急速に老けさせるのは事実だが、この青年の顔つきには、通常は老年に達した者にしか生じないはずの、ある種微妙な翳りが浮かんでいた」と記し、あわせて声を失い囁き以上の音が出せなくなっていたとも述べる。この人物の正体は、後にジョゼフ・カーウェンだったと判明する[12]。

事件の中盤、パウタケットの隠れ家でウォードと対面したウィレット博士は、そこで初めて「チャールズ・デクスター・ウォードの精神における決定的な変化」を認め、「この青年が今や、自分が二十六年にわたり見守ってきた頭脳とはまったく異質な頭脳から話している」のだと確信するに至る[13]。この時期を境に、近隣の住人たちの前でも、ウォードは愛想の良さを失い、嗄れて人を遠ざける囁き声しか用いなくなっていたと伝えられる。

結末

ウィレット博士は最後の対決に先立ち、ウォードの父にあてた手紙で真相を告げていた。いずれ墓に納められる灰は「あなたが幼い頃から見守ってきた本物のチャールズ・デクスター・ウォード当人の、変わらぬ骨と肉のもの――股に母斑があり、胸に黒い魔女の印もなく、額にあの窪みもない、正真正銘のチャールズ」なのだという[14]。この手紙は、ウィレットが対峙してきた「ウォード」が、その時点で既にウォード本人ではなくなっていたことを、家族に先んじて明かすものだった。

1928年4月13日金曜日、コナニカット島の療養院でウィレットはこの人物と最後の対話に臨み、正体を暴いたうえでヨグ=ソトースの名を含む呪文を唱える。原文は「その忌まわしい名――ヨグ=ソトース――が唱えられると、恐るべき変化が始まった……時ならぬ狂気は鎮まり、チャールズ・デクスター・ウォードの事件は幕を閉じた」と結ぶ[15]。かつて肖像画が塵となって崩れ落ちたのと同じように、床に残ったのは「青みがかった灰色の細かな塵の薄い層」だけだったという[16]。

人物像・性格

幼少期から歴史への関心が並外れて強く、プロヴィデンスの古い街区を歩き回っては、無数の史跡から過去数世紀にわたる連続した情景を鮮やかに思い描く少年だった[2]。この気質は単なる趣味に留まらず、やがて彼を先祖の禁断の研究へと導く決定的な資質となる。

生涯・経歴

系図調査を進める中で、ウォードは自らに18世紀の先祖ジョゼフ・カーウェンがいたことを知る。当初その発見は「未知の高祖父」を見つけた古物趣味的な喜びに過ぎなかった[3]。しかしカーウェンが建てたオルニー・コートの旧宅で肖像画を見出し、これを自邸へ移設する過程で羽目板の裏からカーウェン自身の文書を発見して以降、ウォードの内面には決定的な変化が生じる。主治医ウィレット博士は後にこの変化を、「真の狂気は、カーウェンの肖像と古い書類が発掘された後に訪れた、より後の変化とともに来たものだ」と分析している[4]——すなわち、単なる古物趣味への没入と、その後の本質的な異常とを、ウィレットは明確に区別していた。

研究を進めるうちウォードは、古の秘術によってカーウェンの塵から本人そのものを蘇らせてしまう。以後、ウォードの人格は徐々にカーウェン自身に乗っ取られ、家族や友人の目にも彼の様子は明らかに異常なものと映るようになる。ウィレット博士は、ウォードの生誕に立ち会い、その成長を見守ってきた唯一の人物として、他の誰も気づかない変化の兆候にいち早く気づき、彼の「将来の自由」――すなわち施設からの退院――に恐怖すら覚えるようになる[5]。

物語終盤、ウィレットは独自の調査によってウォードの正体が既にジョゼフ・カーウェン本人にすり替わっていることを突き止め、ヨグ=ソトースの名を含む禁断の呪文を用いてカーウェンを塵に還し、事件に幕を下ろす。

他の人物・存在との関係

先祖ジョゼフ・カーウェンは、ウォードが蘇らせてしまった18世紀の魔術師であり、物語後半では両者の人格が実質的に一体化・入れ替わってしまう対象である。主治医マリナス・ビックネル・ウィレット博士は、ウォードの変化にいち早く気づき、最終的に事件を終結させる役割を担う。事件の背景にはヨグ=ソトースの名を含む禁断の儀式が関わる。

主要登場作と読みどころ

  • 「チャールズ・デクスター・ワードの奇怪な事件」(1927年執筆/1941年抄録・1943年完全版): ウォードが唯一登場する長編。先祖の悪行が子孫に回帰するというテーマと、家族ぐるみの信頼関係が徐々に蝕まれていく恐怖の描写が特徴で、ラヴクラフトの長編作品の中でも特にゴシック的な色彩が強い一篇として知られる。ウィレット博士の視点を通じて、ウォードの変貌が段階的に明らかになっていく構成が読みどころ。

よくある誤解

Q. ウォードは最初から悪意を持って先祖を蘇らせたのですか?A. いいえ。当初は純粋な古物趣味・系図研究への関心から出発しており、先祖の発見自体は「未知の高祖父を見つけた」という素朴な喜びとして描かれます[3]。彼が決定的に変質するのは、カーウェンの肖像と文書を発掘して以降のことだとウィレット博士は分析しています[4]。

Q. 物語の最後、ウォード本人はどうなったのですか?A. 物語終盤で明らかになるのは、ウィレット博士が対峙した「ウォード」が既に実質的にジョゼフ・カーウェン本人にすり替わっていたという事実です。ウィレットはカーウェンを滅する儀式を行い事件を終結させますが、その時点でウォード本人の人格がどこまで残っていたかは、作中でも曖昧なまま描かれています。

出典

  • [1] (frontmatterのsource欄参照。作品概要は本文記述に基づく) ↩
  • [2] “His walks were always adventures in antiquity, during which he managed to recapture from the myriad relics of a glamorous old city a vivid and connected picture of the centuries before.”(訳: 「彼の散策は常に古物趣味の冒険であり、その中で彼は、魅力的な古都の無数の遺物から、過去の幾世紀にもわたる鮮やかで連続した情景を取り戻すことに成功していた」) — H. P. Lovecraft, “The Case of Charles Dexter Ward”(1927年執筆/1941年抄録・1943年完全版), 公式アーカイブ ↩
  • [3] “It was at once clear to Charles Ward that he had indeed discovered a hitherto unknown great-great-great-grandfather.”(訳: 「チャールズ・ワードにとって、彼が今までに知られていなかった高祖父を発見したのだということは、たちどころに明らかだった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [4] “The true madness, he is certain, came with a later change; after the Curwen portrait and the ancient papers had been unearthed.”(訳: 「真の狂気は、より後の変化とともに訪れたのだと彼〈ウィレット〉は確信している——カーウェンの肖像と古い書類が発掘された後のことだ」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [5] “Only Dr. Willett, who brought Charles Ward into the world and had watched his growth…seemed frightened at the thought of his future freedom.”(訳: 「チャールズ・ワードをこの世に取り上げ、その成長を見守ってきたウィレット博士だけが……彼の将来の自由を思うと恐怖を覚えるようだった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [6] “One may picture him yet as he was in those days; tall, slim, and blond, with studious eyes and a slight stoop, dressed somewhat carelessly, and giving a dominant impression of harmless awkwardness rather than attractiveness.”(訳: 「当時の彼の姿は、今なお思い描くことができる――背が高く痩身で金髪、もの思わしげな目をし心持ち猫背、身なりには無頓着で、魅力というよりむしろ害のない不器用さを漂わせていた」) — H. P. Lovecraft, “The Case of Charles Dexter Ward”(1927年執筆/1941年抄録・1943年完全版), 公式アーカイブ ↩
  • [7] “Charles Ward was an antiquarian from infancy, no doubt gaining his taste from the venerable town around him, and from the relics of the past which filled every corner of his parents’ old mansion in Prospect Street on the crest of the hill.”(訳: 「チャールズ・ワードは幼少の頃から好古家であり、その趣味はおそらく、彼を取り巻く由緒ある町、そして丘の頂にある両親の旧邸プロスペクト街の隅々を満たす過去の遺物から養われたものだった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [8] “Dr. Willett is certain that, up to this ill-omened winter of first change, Charles Ward’s antiquarianism was free from every trace of the morbid. Graveyards held for him no particular attraction beyond their quaintness and historic value, and of anything like violence or savage instinct he was utterly devoid.”(訳: 「ウィレット博士は、この不吉な最初の変化の冬に至るまで、チャールズ・ワードの好古趣味には病的な要素が一切なかったと確信している。墓地が彼を惹きつけたのは、その古めかしさと史的価値以上のものではなく、暴力や凶暴な衝動じみたものとは無縁だった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [9] “For it took the final bath of oil and the final stroke of the delicate scraper to bring out fully the expression which centuries had hidden; and to confront the bewildered Charles Dexter Ward, dweller in the past, with his own living features in the countenance of his horrible great-great-great-grandfather.”(訳: 「幾世紀もの間隠されていた表情を余すところなく浮かび上がらせるには、最後の油の一拭きと繊細な箆の最後の一掃きが要った。そしてそれは、過去に生きるチャールズ・デクスター・ウォードを、恐るべき高祖父の顔立ちのうちに浮かぶ自分自身の生きた顔と向き合わせることになった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [10] “There was left a space of exposed brickwork marking the chimney’s course, and in this young Ward observed a cubical recess about a foot square, which must have lain directly behind the head of the portrait.”(訳: 「煙突の通り道を示す剥き出しの煉瓦の一角が残されており、その中に若きウォードは、一辺およそ一フィートの立方体状の空洞を認めた。それは肖像画の頭の部分のちょうど裏に当たっていたに違いなかった」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [11] “It is, broadly speaking, undeniable that the winter of 1919–20 saw a great change in Ward; whereby he abruptly stopped his general antiquarian pursuits and embarked on a desperate delving into occult subjects both at home and abroad, varied only by this strangely persistent search for his forefather’s grave.”(訳: 「おおまかに言って、1919年から20年にかけての冬にウォードに大きな変化が生じたことは疑いない。彼は唐突に一般的な好古趣味をやめ、先祖の墓所を執拗に探し続けることを除けば、国内外での秘教的主題への必死の探求に身を投じた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [12] “In the first place, the patient seemed oddly older than his twenty-six years would warrant. Mental disturbance, it is true, will age one rapidly; but the face of this young man had taken on a subtle cast which only the very aged normally acquire.”(訳: 「まず、患者は実際の二十六歳という年齢が正当化するよりも、なぜか老けて見えた。精神の変調が人を急速に老けさせるのは事実だが、この青年の顔つきには、通常は老年に達した者にしか生じないはずの、ある種微妙な翳りが浮かんでいた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [13] “For at last he concedes a vital change in Charles Dexter Ward’s mentality, and believes that the youth now spoke from a brain hopelessly alien to the brain whose growth he had watched for six and twenty years.”(訳: 「ついに彼は、チャールズ・デクスター・ウォードの精神における決定的な変化を認めた。そして、この青年が今や、自分が二十六年にわたり見守ってきた頭脳とはまったく異質な頭脳から話しているのだと確信するに至った」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [14] “The ashes in that grave will be those of your own unaltered bone and sinew—of the real Charles Dexter Ward whose mind you watched from infancy—the real Charles with the olive-mark on his hip and without the black witch-mark on his chest or the pit on his forehead.”(訳: 「その墓に納められる灰は、あなたが幼い頃から見守ってきた本物のチャールズ・デクスター・ウォード当人の、変わらぬ骨と肉のもの――股に母斑があり、胸に黒い魔女の印もなく、額にあの窪みもない、正真正銘のチャールズだ」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [15] “When the awful name of Yog-Sothoth was uttered, the hideous change began. …The madness out of time had subsided, and the case of Charles Dexter Ward was closed.”(訳: 「その忌まわしい名――ヨグ=ソトース――が唱えられると、恐るべき変化が始まった……時ならぬ狂気は鎮まり、チャールズ・デクスター・ウォードの事件は幕を閉じた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
  • [16] “For like his accursed picture a year before, Joseph Curwen now lay scattered on the floor as a thin coating of fine bluish-grey dust.”(訳: 「一年前のあの忌まわしい肖像画さながらに、ジョゼフ・カーウェンは今、青みがかった灰色の細かな塵の薄い層となって床に散らばっていた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
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