
東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。アーカムをはじめ本作が借りる固有名詞の来歴を項目で引ける。
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概要
Asmodee傘下のEdge Studioが、独自ルールのテーブルトークRPG『Arkham Horror: The Roleplaying Game』のスターターセット『Welcome to Promise』を刊行している。公式ストアページによれば価格は44.99ドル、対象年齢14歳以上、最大5人のプレイヤーと1人のゲームマスターで遊ぶ設計だ[1]。公式サイトの製品ページは、想定プレイ時間を「10 x 1 hour」——1時間のセッションを10回——と案内している[2]。発売時期については、公式ニュース記事が公式ダイスセットの発売を「releases alongside the Welcome to Promise Starter Set on July 31」(訳: 『Welcome to Promise』スターターセットと同時に7月31日に発売される)と伝えている。この記事自体が2026年7月28日付で公開されているため、指している日付は2026年7月31日と見てよい[4]。
舞台は1920年代のルイジアナ州の田舎町Promise。記憶を失った探索者たちが正体不明の傷を負った状態で目を覚まし、この超自然的な町からの脱出を目指す物語だ[1][2]。ケイオシアム(Chaosium)が刊行するTRPG『クトゥルフの呼び声』とは、版元も判定システムも別の独立した作品である。同じクトゥルフ神話の恐怖を題材にしながら、両者がどのような道具立てを選んでいるのかを、公式ページで確認できる範囲で並べてみる。
どんな作品か
公式ストアページが挙げる同梱物は次の通りだ[1]。
- 64ページの冒険ブックレット 1冊
- 16ページのルール補遺 1冊
- 作成済み探索者のポートフォリオ 5種
- パンチボードトークンのシート 3枚
- 両面マップ 3枚
- アイテムなどのカード 32枚
- キャラクタープロファイルカード 20枚
- 固有の証拠シート 4枚
- 黒い6面ダイス12個、緑の6面ダイス6個(計18個)
原文は「1x 64-page adventure booklet, 1x 16-page rules appendix, 5x premade character portfolios, 3x sheets of punchboard tokens, 3x double-sided maps, 32x cards for items and more, 20x large character profile cards, 4x unique evidence sheets, 12x black 6-sided dice, 6x green 6-sided dice」(訳: 64ページの冒険ブックレット1冊、16ページのルール補遺1冊、作成済みキャラクターポートフォリオ5種、パンチボードトークンのシート3枚、両面マップ3枚、アイテムなどのカード32枚、大型キャラクタープロファイルカード20枚、固有の証拠シート4枚、黒い6面ダイス12個、緑の6面ダイス6個)である[1]。
この一式が教える判定システムには「Dynamic Pool System(DPS)」という固有の名が付いている。公式ニュース記事は本セットの位置づけを「This learn-as-you-play adventure teaches the Dynamic Pool System (DPS) that powers the game」(訳: この遊びながら学ぶアドベンチャーは、このゲームを動かす『ダイナミック・プール・システム(DPS)』を教える)と説明する[3]。想定する対象読者は初心者に限らない。同記事は「Whether your players are seasoned table-top role players, have faced Ancient Ones countless times across other Arkham Horror games, or if it’s their very first time at the game table, this starter box offers a unique story」(訳: プレイヤーが百戦錬磨のテーブルトークRPGプレイヤーで、他のArkham Horrorシリーズで数え切れないほど旧支配者と対峙してきた人であっても、卓を囲むのが初めての人であっても、このスターターボックスは独自の物語を提供する)と述べている[3]。
物語の導入も同じ記事に描かれる。「investigators must first figure out how they ended up here in the first place」(訳: 探索者たちは、まず自分がなぜこの場所に来たのかを突き止めなければならない)、「With their memories as muddy as the bayou outside」(訳: 彼らの記憶は、外に広がる沼地と同じくらい濁っている)という一文が、記憶を失った探索者たちが「a hidden little place called Promise, Louisiana」(訳: ルイジアナ州の、人知れぬ小さな場所Promise)に閉じ込められる筋書きを示している[3]。
スターターセットを並べてみる――内容物・人数・時間
ケイオシアム公式の『Call of Cthulhu Starter Set』商品ページと突き合わせると、次のような違いが見える。
| Welcome to Promise(Arkham Horror RPG) | Call of Cthulhu Starter Set | |
|---|---|---|
| 発行元 | Edge Studio(Asmodee North America)[1] | ケイオシアム(Chaosium)[6] |
| 価格(米) | 44.99ドル[1] | 通常29.99ドル、取得時は17.99ドルのセール表示[6] |
| 対象年齢 | 14歳以上[1] | 公式ページに記載なし(確認できず) |
| プレイ人数 | 最大5人+GM1人[1][2] | シナリオごとに3〜5人、別途ソロ用1本[6] |
| プレイ時間の目安 | 1時間×10セッション[2] | 公式ページに時間の記載なし(セッション数のみ確認) |
| 判定システム | Dynamic Pool System(d6ダイスプール)[3][5] | d100パーセンタイル(第7版ルール)[6] |
| ダイス | 6面ダイス18個(黒12・緑6)[1][4] | ポリヘドラルダイス一式(d4・d6・d8・d20・パーセンタイルd10・予備d10) [6] |
| シナリオの組み立て | 1本の連続アドベンチャー(全10セッション想定)[2] | ソロ1本+グループ用3本(3・4・5人向けにそれぞれ別題) [6] |
ケイオシアムの一式は、154ページ・3分冊の中に、ソロプレイ用の「Alone Against the Flames」と、3人用「Paper Chase」、4人用「Edge of Darkness」、5人用「Dead Man Stomp」という難度・人数の異なる複数シナリオを収めている[6]。プレイグループの人数や、初めて卓を囲む人数に合わせてシナリオを選べる組み方だ。対して『Welcome to Promise』は、64ページの冒険ブックレット1冊に1本の物語を収め、それを10回のセッションに割って遊ぶ構成を取る[1][2]。短いシナリオを複数試すか、最初から一つの長い物語に腰を据えるか——この一点だけでも、二つのスターターセットが新規プレイヤーに提示する「最初の一歩」の形は異なっている。
ダイスの発想の違い――d6プールとd100
判定の仕組みそのものも、根本から異なる設計だ。当サイトの「ダイスとd100」の記事で確認した通り、『クトゥルフの呼び声』の判定は、能力値・技能値を0〜99のパーセンテージで表し、d100を1回振ってその数値以下を出せば成功という仕組みである。技能値50なら成功率50%というように、キャラクターシート上の一つの数字が、そのまま成功確率を表す。
Edge Studio公式ページ「What is the DPS?」は、DPSの仕組みをこう説明する。「DPS stands for Dynamic Pool System, the brand-new game mechanics invented to bring you into the heart of the action, mystery, and terror of Arkham Horror」(訳: DPSはDynamic Pool Systemの略で、Arkham Horrorのアクション・謎・恐怖の核心にプレイヤーを引き込むために考案された、まったく新しいゲームメカニクスである)[5]。キャラクターは6面ダイスの「プール(束)」を持ち、「Characters spend dice by removing them from their pool, sometimes rolling them, but sometimes just removing them is enough to do something」(訳: キャラクターはプールからダイスを取り除くことでダイスを消費する。時にはそれを振る必要があるが、取り除くだけで行動が成立することもある)という形で行動する[5]。プールは「The pool empties quickly, but luckily it refills at the start of each turn (or each scene, when dealing with narrative events that aren’t so action oriented)」(訳: プールはすぐに空になるが、幸い各ターンの開始時、あるいはアクション寄りでない場面では各シーンの開始時に補充される)という形で回復する一方、「Bullets, blades, and the claws of otherworldly monstrosities can all decrease the size of a character’s dice pool」(訳: 銃弾も刃も、異界の怪物の鉤爪も、キャラクターのダイスプールの大きさを減らしうる)という形で負傷がプールそのものを縮める[5]。プールを立て直すことも可能だが、「Characters can restore the size of their dice pool at any time…for the minor cost of a lasting injury」(訳: キャラクターはいつでもダイスプールの大きさを取り戻せるが……その代償として、消えない傷を負う)という条件が付く[5]。
技能の難度表記も、d100とは逆向きの発想で作られている。同ページによれば、技能は「ranked from 2+ (an amazingly talented person) to 6+ (unusually bad at this skill)」(訳: 「2+(驚くほど才能がある人物)」から「6+(この技能にひどく不向きな人物)」までの段階で表される)[5]。d100が「技能値以下を出せば成功」という、数値が大きいほど有利な仕組みであるのに対し、DPSでは要求される目の数字が小さいほど成功しやすい。一つの成功判定を、パーセンテージという単一の数字で表すか、消耗し傷つき回復する「資源のプール」として表すか——同じ「探索者が恐怖に立ち向かう」という主題に対して、まったく違う数字の言語を選んでいる。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
「Arkham」という名を冠しながら、本作の舞台はアーカムではない。この点をはっきりさせておく必要がある。
当サイトの「アーカム」の記事で確認した通り、アーカムはラヴクラフト自身が「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」(1921-22年)以降くり返し舞台に用いた、マサチューセッツ州の架空都市であり、第1層(原典)に属する地名だ。ミスカトニック大学を擁し、モデルとなったセイラムの魔女裁判を下敷きにした歴史が与えられている。
Edge Studio自身も、コアルールブックはこのアーカムを舞台に据えていると明言している。公式商品ページは「In the heart of 1920s New England, nestled among the rolling hills of the Miskatonic River Valley, lies Arkham, Massachusetts」(訳: 1920年代ニューイングランドの中心、ミスカトニック川流域のなだらかな丘陵に囲まれて、マサチューセッツ州アーカムはある)と書いている[7]。つまりこのゲームシステムの基本設定は、原典のアーカムを引き継ぐ第3層(TRPGによる拡張)の産物である。
ところが『Welcome to Promise』が実際に探索者を送り込むのは、そのアーカムではない。舞台は同じ1920年代でも、ニューイングランドから遠く離れたルイジアナ州の田舎町「Promise」であり、原典にもダーレス以降の作品にも存在しない、この製品のために新しく作られた架空の地名である[1][2][3]。コアルールブックが第1層のアーカムを土台にする一方、このスターターセットはあえてアーカムの外へ出て、TRPGオリジナルの新しい町を舞台に選んでいる。同じ「Arkham Horror」というシリーズ名を掲げながら、その名の由来である町そのものを描かない一冊だという点は、当サイトの「アーカム」記事にある地理設定と突き合わせて初めて見えてくる。
なお、本作の発行元として商品ページに記載されているのはEdge StudioとAsmodee North America, Inc.で、Fantasy Flight Gamesの名は見当たらなかった[1]。当サイトの「アーカム」記事はボードゲーム『Arkham Horror』とリビングカードゲーム『Arkham Horror: The Card Game』の発行元をFantasy Flight Gamesとしているが、本作とこれらのボードゲーム群が同一の開発チームによるものかどうかは、本稿で参照した公式ページの範囲では確認できていない。
関連して読むなら
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- クトゥルフ神話TRPGを初めて遊ぶ人へ — セッションの流れとシナリオ選びを扱う記事
- クトゥルフの呼び声TRPG — 本稿で比較したスターターセットの、ケイオシアム側のTRPG本体のレビュー
- ダイスとd100 — d100パーセンタイル判定の仕組みを解説した記事。DPSとの対比の土台
- アーカム — 本作がシリーズ名に冠しながら舞台にしていない、原典の架空都市の記事
- アーカムホラー 第3版 — 同じ「Arkham Horror」の名を持つ、アーカムを舞台にした協力型ボードゲームのレビュー
出典
- [1] Asmodee公式ストアページ(2026年9月8日取得)。価格「$44.99」、対象年齢「14才以上」、プレイ人数「最大5名のプレイヤー+1名のゲームマスター」、発行元Edge Studio、同梱物「1x 64-page adventure booklet, 1x 16-page rules appendix, 5x premade character portfolios, 3x sheets of punchboard tokens, 3x double-sided maps, 32x cards for items and more, 20x large character profile cards, 4x unique evidence sheets, 12x black 6-sided dice, 6x green 6-sided dice」を確認。https://store.asmodee.com/products/arkham-horror-rpg-welcome-to-promise ↩
- [2] Arkham Horror公式サイト製品ページ「Arkham Horror RPG – Welcome to Promise Starter Set」(2026年9月8日取得)。舞台「rural Louisiana」「the late 1920’s」、プレイ時間「10 x 1 hour」、プレイ人数「up to five players」を確認。https://www.arkhamhorror.com/games/welcome-to-promise-starter-set/ ↩
- [3] Arkham Horror公式ニュース「Welcome to Promise, a new starter set for Arkham Horror: The Roleplaying Game」(2026年4月22日付、2026年9月8日取得)。「This learn-as-you-play adventure teaches the Dynamic Pool System (DPS) that powers the game」「Whether your players are seasoned table-top role players, have faced Ancient Ones countless times across other Arkham Horror games, or if it’s their very first time at the game table, this starter box offers a unique story」「investigators must first figure out how they ended up here in the first place」「With their memories as muddy as the bayou outside」「a hidden little place called Promise, Louisiana」の記載がある。https://www.arkhamhorror.com/news/welcome-to-promise/ ↩
- [4] Arkham Horror公式ニュース「The Official Dice Set for Arkham Horror the Roleplaying Game is Coming Soon」(2026年7月28日付、2026年9月8日取得)。ダイスの内訳は「18 six-sided dice, 12 in black」「6 in green」。黒ダイスは「fill out your investigator’s dice pool (or that of a titanic eldritch monstrosity if you’re the Game Master)」、緑ダイスは「horror dice when your sanity begins to slip」に使うと説明され、「The official Arkham Horror: The Roleplaying Game Dice Set releases alongside the Welcome to Promise Starter Set on July 31」とも記されている。https://www.arkhamhorror.com/news/official-dice-set-for-ah-rpg-coming-soon/ ↩
- [5] Edge Studio公式ページ「What is the DPS?」(2026年9月8日取得)。「DPS stands for Dynamic Pool System, the brand-new game mechanics invented to bring you into the heart of the action, mystery, and terror of Arkham Horror」「Characters spend dice by removing them from their pool, sometimes rolling them, but sometimes just removing them is enough to do something」「The pool empties quickly, but luckily it refills at the start of each turn (or each scene, when dealing with narrative events that aren’t so action oriented)」「Bullets, blades, and the claws of otherworldly monstrosities can all decrease the size of a character’s dice pool」「Characters can restore the size of their dice pool at any time…for the minor cost of a lasting injury」「ranked from 2+ (an amazingly talented person) to 6+ (unusually bad at this skill)」という説明がページ本文に並ぶ。https://www.edge-studio.net/what-is-the-dps/ ↩
- [6] Chaosium公式「Call of Cthulhu Starter Set」商品ページ(2026年9月8日取得)。通常価格「$29.99」、取得時のセール価格「$17.99」。同梱物は「154 pages in 3 books」「a D4, D6, D8, D20, Percentile D10, and an extra D10 in a different color for use as a bonus/penalty die」で、シナリオは「Paper Chase」(3人用)「Edge of Darkness」(4人用)「Dead Man Stomp」(5人用)「Alone Against the Flames」(ソロ用)の4本。ルールは第7版対応。https://www.chaosium.com/call-of-cthulhu-starter-set/ ↩
- [7] Edge Studio公式ページ「Arkham Horror RPG – Core Rulebook」(2026年9月8日取得)。「In the heart of 1920s New England, nestled among the rolling hills of the Miskatonic River Valley, lies Arkham, Massachusetts」という一文がコアルールブックの舞台を示す。https://www.edge-studio.net/games/arkham-horror-rpg-core-rulebook/ ↩
