概要
『Berlin – The Wicked City』は、Chaosium Inc.が2019年に刊行した『Call of Cthulhu』第7版用の地域設定サプリメントである。著者はDavid Larkins、Mike Mason、Lynne Hardyの3名、表紙はLoïc Muzyが担当し、内部イラストにはSam Beck、Kristina Carroll、Caleb Cleveland、Emanuele Desiati、Trevor Hendersonら多数のアーティストが参加している[1]。舞台は第一次世界大戦後からナチス台頭期にかけての1920年代ベルリン。公式商品ページは同市を「a place where anything may be had for the right price(正しい対価さえ払えば何でも手に入る場所)」と紹介し、政情不安と文化的爛熟が同居するワイマール期の空気を打ち出している[1]。
書籍はフルカラーハードカバー272ページで、定価49.99ドル(セール価格39.99ドル)、ISBNは978-1-56882-417-8、SKUはCHA23161-Hとして登録されている[1]。同内容のフルカラーPDF版も19.99ドルで別途販売されている[2]。公式ページには「マチュア向け(mature readers)」の注記があり、薬物・性・当時の歴史的事象を婉曲を避けて扱う内容であることが明記されている[1]。
どんな作品か
PDF版の商品ページによれば、本書は4章構成に三本の連作シナリオを加えた構成を取る。第1章「The City」は1920年代ベルリンの概観・探索者作成指針・組織・歴史・地理を扱い、第2章「Uncovering Berlin」は主要ロケーション・コンタクト生成システム・夜の文化・街頭遭遇表を収録する。第3章「Oh! You Pretty Things」は当時の実在の著名人を題材にした人物紹介、第4章「Strange Berlin」は神話要素の統合・カルト・キャンペーンの種を扱う。そのうえで、ワイマール期からナチス台頭期にかけて連なる三本のシナリオが収録されている[2]。
地図制作はMatt RyanとVandel J. Arden、レイアウトはNicholas Nacarioが担当している[1]。探索者作成の指針が単独の章として立てられている点は、既存の舞台(アーカムなど)を前提としない、ベルリンという新規ロケーション向けにキャラクター作成そのものから読者を導く構成であることを示している。
受賞の記録
公式ハードカバー商品ページには「UK Games Expo 2020 Award Winner(Best Expansion Category)」という受賞歴の記載がある[1]。この記載を鵜呑みにせず、版元の受賞一覧ページ・UK Games Expo公式・ENnie Awards公式のそれぞれで裏を取った。
まずChaosium公式の受賞一覧ページは、本作が2020年にENnie Awardsで「Best Setting」部門Gold、「Best Art – Cover」部門Goldを、UK Games Expo 2020では「Best Role-Playing Expansion」部門でJudge’s AwardとPeople’s Choice Awardの両方を受賞したと記載している[3]。ENnie Awards公式サイトの2020年受賞者一覧ページでも、Chaosium Inc.の「Call of Cthulhu: Berlin the Wicked City」が「Best Art, Cover」部門のGold受賞(アーティストはLoïc Muzy)、「Best Setting」部門のGold受賞(著者はDavid Larkins、Mike Mason、Lynne Hardy)として掲載されており、この二部門については独立した一次資料で確認が取れた[4]。
UK Games Expo側についても、公式サイトの過去の授賞式一覧ページで「Best Roleplaying Expansion」部門のJudges’ AwardとPeople’s Choiceの双方が「Berlin: The Wicked City」(Chaosium Inc.)に贈られたことを確認した[5]。この受賞は同年のオンライン開催イベント「#virtuallyexpo」で発表されたもので、Chaosium公式ブログの告知記事でも同じ二部門受賞が明記されている[7]。編集体制のあるゲームメディアGeekNativeの記事でも、UK Games Expo Awards 2020のRPG拡張部門としてこの受賞が独立に報じられており、公式発表と食い違う点は見当たらなかった[6]。
なお、部門名の英語表記は資料によって「Best Role-Playing Expansion」「Best Roleplaying Expansion」「RPG expansion category」などの揺れがあるが、いずれも同一の賞を指しており、内容面での食い違いではない。一方でENnie AwardsとUK Games Expoは主催団体が異なる別々の賞であり、本作は2020年にこの二つの異なる賞をまたいで複数部門を受賞している。
同時代を舞台にした他作品との比較
1920年代を舞台にした地域密着型のCall of Cthulhuサプリメントという括りで見ると、当サイトが既に扱っている二作品との比較が参考になる。ひとつはChaosium自身が刊行した『The Children of Fear』で、1920年代のカンボジアを舞台にしたキャンペーンである。もうひとつは『Harlem Unbound』で、同じく1920年代、ジャズ・エイジのハーレムを舞台にした設定集だが、版元はChaosiumではない。いずれも「特定の年代・特定の都市/地域に探索者を送り込む」という設計方針を共有しており、『Berlin – The Wicked City』もこの系譜に連なる一冊として位置づけられる。
当サイトの『クトゥルフの呼び声』TRPGレビューが扱う基本ルールブックの標準的な舞台が1920年代アメリカ(とりわけアーカム)であるのに対し、本作は同じ年代のヨーロッパ、それもナチス台頭という史実の暗い転換点に探索者を置く点で、基本ルールブックが前提とする舞台からは地理的にも歴史的背景の重さの面でも踏み込んだ内容になっている。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
当サイトが整理している原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層に照らすと、『Berlin – The Wicked City』は舞台設定そのものが第3層(TRPG設定)に属する一冊である。H・P・ラヴクラフトの作品に1920年代ベルリンを舞台にしたものは無く、本作の探索者作成指針・NPC・地理・カルト・シナリオはいずれもChaosiumが本書のために新たに構築したものである。
第4章「Strange Berlin」の商品説明は「神話要素の統合・カルト・キャンペーンの種(Mythos integration, cults, and campaign seeds)」を収録すると述べているが[2]、舞台設定という骨格そのものが版元独自の創作である点に変わりはない。
関連して読むなら
- アーカムのすべて 完全版 — 『クトゥルフの呼び声』TRPGの標準的な舞台であるアーカムを扱う記事。同じ1920年代でも、本作が離れる「アメリカ・アーカム」という基準点を確認できる
- Harlem Unbound — 同じ1920年代、ジャズ・エイジのハーレムを舞台にした設定集。都市単位でCall of Cthulhuの舞台を掘り下げる作品同士の比較になる
- The Children of Fear — Chaosium自身が刊行した1920年代カンボジア舞台のキャンペーン。同じ版元・同じ年代で異なる地域を扱う一冊
- クトゥルフの呼び声TRPG — 本作が拡張として乗っている基本ルールブックのレビュー
- 原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話 — 本作が舞台設定として第3層に属すると位置づける際の基準
出典
- [1] 商品ページに、著者「David Larkins, Mike Mason, Lynne Hardy」、表紙アーティスト「Loïc Muzy」、価格「$49.99」(セール価格「$39.99」)、ページ数「272 pages」、ISBN「978-1-56882-417-8」、形式「Full Color Hardcover」、紹介文「a place where anything may be had for the right price」、注記「マチュア向け読者向け」、受賞歴の記載「UK Games Expo 2020 Award Winner (Best Expansion Category)」がある — Chaosium Inc.公式「Berlin – The Wicked City – Hardcover」https://www.chaosium.com/berlin-the-wicked-city-hardcover/(取得日 2026-09-20) ↩
- [2] 商品ページに、価格「$19.99」、ページ数「272 pages」、章立て「Chapter 1: The City」「Chapter 2: Uncovering Berlin」「Chapter 3: Oh! You Pretty Things」「Chapter 4: Strange Berlin」「Three Scenarios – Linked adventures spanning the Weimar era through the Nazi rise」の記載がある — Chaosium Inc.公式「Berlin – The Wicked City – PDF」https://www.chaosium.com/berlin-the-wicked-city-pdf/(取得日 2026-09-20) ↩
- [3] 受賞一覧ページに、2020年の受賞として「ENnie Awards – Best Setting (Gold)」「ENnie Awards – Best Art – Cover (Gold)」「UK Games Expo 2020 – Best Role-Playing Expansion – Judge’s Award」「UK Games Expo 2020 – Best Role-Playing Expansion – People’s Choice Award」の記載がある — Chaosium Inc.公式「Chaosium Awards」https://www.chaosium.com/chaosium-awards/(取得日 2026-09-20) ↩
- [4] 2020年ENnie Awards受賞者一覧ページに、Chaosium Inc.「Call of Cthulhu: Berlin the Wicked City」が「Best Art, Cover」部門Gold(アーティストLoïc Muzy)、「Best Setting」部門Gold(著者David Larkins, Mike Mason, Lynne Hardy)として掲載されている — ENnie Awards公式「2020 Nominees and Winners」https://ennie-awards.com/portfolio-item/2020-nominees-and-winners/(取得日 2026-09-20) ↩
- [5] 過去の授賞式一覧ページに、「Best Roleplaying Expansion」部門のJudges’ AwardとPeople’s Choiceの双方が「Berlin: The Wicked City」(Chaosium Inc.)に贈られたと記載されている — UK Games Expo公式「UKGE Awards」https://www.ukgamesexpo.co.uk/content/previous-shows/ukge-awards/(取得日 2026-09-20) ↩
- [6] 記事に、UK Games Expo Awards 2020のRPG拡張部門の受賞作として「Berlin – The Wicked City from Chaosium Inc」がPeoples AwardとJudges Awardの両方を受賞したと記載されている — GeekNative「UK Games Expo Awards 2020 winners」https://www.geeknative.com/89529/uk-games-expo-awards-2020-winners/(取得日 2026-09-20) ↩
- [7] 告知記事に、「BEST ROLE-PLAYING EXPANSION – Judge’s Award」「BEST ROLE-PLAYING EXPANSION – People’s Choice Award」の両方をBerlin the Wicked Cityが受賞したと記載されている — Chaosium Inc.公式ブログ「Congratulations to 2020 UK Games Expo Award Winners: Berlin the Wicked City and Paladin – Warriors of Charlemagne」https://www.chaosium.com/blogcongratulations-to-2020-uk-games-expo-award-winners-berlin-the-wicked-city-and-paladin-warriors-of-charlemagne/(取得日 2026-09-20) ↩