映画(2026年7月1日全米公開・2026年8月7日日本公開、配給東宝東和) — Minions & Monsters

ミニオンズ&モンスターズ

イルミネーション製作のミニオンズ最新作。1920年代ハリウッドを舞台に、ミニオンたちが魔術書で怪物を呼び出し、その怪物で映画を撮ろうとする。劇中に登場する緑色の小さな怪物「グーミー」について、国内メディアMOVIE WALKER PRESSが「クトゥルフがモチーフ」と紹介している。原典でのクトゥルフの描かれ方と、子供向けアニメのキャラクターとしての扱われ方を比べる。

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新潮文庫『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳)。クトゥルフが初めて名を与えられた「クトゥルーの呼び声」を収録している。

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概要

イルミネーション製作のアニメーション映画『ミニオンズ&モンスターズ』(Minions & Monsters)は、米国で2026年7月1日にユニバーサル・ピクチャーズ配給で劇場公開された[1]。日本では東宝東和の配給により2026年8月7日(金)から全国公開されている。監督はピエール・コフィンとパトリック・デラージの共同[2]。米国では2026年8月11日にデジタル配信が始まり、4K UHD・Blu-ray・DVDは2026年9月8日に発売されている[2]。

東宝東和公式サイトが掲載するあらすじによれば、最強のボスを探してハリウッドにたどり着いたミニオンたちは、撮影スタジオでの戦闘シーンへの参加をきっかけに、映画監督と「モンスター映画」の制作を持ちかけられる。呪文で最強の怪物を呼び出そうとするが、実際に現れたのは「ミニオンよりもさらに小さな緑色のモンスター」である「グーミー」だった、という筋立てである[3]。1920年代のハリウッドを舞台に、映画製作そのものを題材にした作品であることがわかる。

どんな作品か

イルミネーション公式サイトの紹介文は、この筋立てを「邪悪な魔法書から怪物を召喚して映画を作る計画」「暴れ狂う怪物から世界を救う」物語と要約している[4]。公式サイトには具体的な公開日や監督名の記載はなく、あらすじの概要にとどまる。怪物の固有名や、その怪物が何を元ネタにしているかについても、イルミネーション公式サイト自体には記載がない[4]。

グーミーという名前と、その姿かたちが「ミニオンより小さい緑色のモンスター」であることは、日本の配給元である東宝東和の公式サイトの記載から確認できる[3]。呼び出しに使われる書物が「魔導書」的なものであることは公式サイトのあらすじからも読み取れるが、その書物が具体的に何を指すか、実在するオカルト文献のパロディなのかは、当サイトが確認した公式資料の範囲では明記されていない。

「クトゥルフがモチーフ」と紹介しているのは誰か

このグーミーについて、国内の映画メディアMOVIE WALKER PRESSが2026年8月11日に掲載した記事「映画好きこそ楽しめる!『ミニオンズ&モンスターズ』に散りばめられたハリウッド映画オマージュを答え合わせ」の画像キャプションに、次の一文がある。

「ネクロノミコン的な書物で召喚される緑の小さい怪物グーミーはクトゥルフがモチーフ」[5]

ここで確認しておきたいのは、この記述の出所である。イルミネーション公式サイトや東宝東和公式サイトが、グーミーとクトゥルフの関係を公式に明言している箇所は、当サイトが確認した範囲では見つからなかった。「クトゥルフがモチーフ」という説明は、MOVIE WALKER PRESSという編集体制を持つ国内メディアが、劇中に登場する「ネクロノミコン的な書物」という要素とあわせて紹介しているものであり、制作側が正式に発表した設定であるとは、この記事の記載だけからは断定できない。

とはいえ、これは意味のない留保ではない。仮に「グーミー=クトゥルフである」と本文で言い切ってしまえば、読者は製作会社が公式にそう定めたのだと受け取りかねない。実際に確認できるのは「取材源のメディアがそう紹介している」という一段階手前の事実であり、当サイトはその段階までしか裏づけを取れていない。以下の記述も、この一線を保ったまま進める。

原典のクトゥルフと、グーミーの距離

そのうえで、原典におけるクトゥルフの扱われ方と、グーミーというキャラクターを並べてみる。

原典「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表)において、クトゥルフは物語の大部分で不在のまま進行する。読者がその姿に触れるのは、彫刻家が悪夢の中で刻んだ粘土板の意匠と、ノルウェー人航海士ヨハンセンの手記を経由してのみであり、外見の描写自体も「タコと竜と人間の戯画を同時に見たような姿でなければ、私の(いくぶん誇張された)想像力を裏切ることにはならないだろう」という、語り手自身が確信を持てない比喩にとどまる[6]。作中で教団の呪句が英訳される場面でも、クトゥルフは撃退すべき敵としてではなく「死せるクトゥルフは夢見ながら待つ」者として提示される[6]。姿を最後まで明確に見せない、倒されもしない、というこの二点が、原典が恐怖を成立させる仕組みの中心にある。

グーミーは、この二点のどちらとも異なる位置に立つキャラクターである。公式サイトの紹介文から読み取れる限り、グーミーは呪文によって画面上に実際に姿を現し、ミニオンたちとの間で「ハチャメチャな大騒動」を繰り広げる、視覚化された・直接干渉可能な存在として描かれている[3]。不在のまま夢を通じて影響を及ぼす原典のクトゥルフとは対照的に、グーミーは画面の中に実体として登場し、笑いの対象として観客の前に置かれる。

この違いは、単なる映像化の巧拙の問題ではない。原典が発表された1928年当時、クトゥルフは人類の理解を超えた宇宙的恐怖の象徴として構想されていた。そこから100年近くを経て、同じ名を持つとされるモチーフが、子供向けアニメーション映画の中で名前とサイズを与えられ、画面に映る一キャラクターとして扱われている。この振れ幅の大きさそのものが、大衆文化がクトゥルフというモチーフをどう消化してきたかを示す一つの手がかりになる。

同じ「1920年代」を、まったく別の理由で選んでいる

本作の舞台が1920年代のハリウッドであることも、当サイトの観点からは見過ごせない一致である。ラヴクラフトが「クトゥルフの呼び声」を執筆したのも1926年、つまり同じ1920年代であり、物語の作中年代もほぼ同時代に設定されている。

当サイトの2005年映画版の記事で確認した通り、H.P.ラヴクラフト歴史学会が製作したインディーズ映画『The Call of Cthulhu』は、原典と同じ1920年代の空気を再現するために、あえてサイレント映画という古い映画言語を選んでいる。これは、原典の時代背景そのものを尊重する目的で1920年代を選び取った例である。

一方、『ミニオンズ&モンスターズ』が1920年代のハリウッドを舞台にしているのは、クトゥルフとは無関係に、ミニオンズというシリーズ自体が主人公たちの長い歴史を映画史とともにたどる構成を取っているためであり、公式サイトの紹介文にもクトゥルフとの関連をうかがわせる記述はない[3][4]。同じ1920年代という時代が、一方では原典への敬意から、もう一方ではシリーズ独自の都合から、それぞれ無関係に選ばれている。両者が同じ年代を舞台にしているという偶然は、クトゥルフというモチーフの受容のされ方が、原典との距離に応じてどれほど異なるかを測る目盛りとして機能する。

神話の三層のどこにも収まらない広がり方

当サイトはクトゥルフ神話の記述を、原典(ラヴクラフト自身の作品)、ダーレス以降の後世作家による拡張、TRPGによる拡張という三層に分けて追ってきた。クトゥルフの記事で確認した通り、後年の体系化はダーレスやリン・カーターら特定の作家・体系によって行われており、その系譜はどれも「誰が、いつ、何を付け加えたか」を辿ることができる。

グーミーというキャラクターは、この三層のどれにも収まらない。ダーレスのように旧支配者の体系に位置づけたわけでも、TRPGのように設定資料として明文化されたわけでもなく、大衆娯楽映画が「クトゥルフ的な何か」というイメージだけを借用し、原典の設定とは切り離してキャラクター化したものである。MOVIE WALKER PRESSの紹介記事がわざわざ「クトゥルフがモチーフ」と注記を添えているのは、逆に言えば、注記を添えなければクトゥルフとのつながりが伝わらないほど、原典から遠い場所までイメージだけが一人歩きしていることの表れでもある。

関連して読むなら

  • クトゥルフの呼び声 — グーミーの元ネタとされる存在が初めて名を与えられた原典。姿を最後まで直接見せない構成を確認できる
  • クトゥルフ — 原典での外見描写と、ダーレス以降に体系化された位置づけの違いを確認できる記事
  • The Call of Cthulhu(2005年映画) — 同じ1920年代を、原典への敬意から選び取った先行する映像化の例
  • Cthulhu im Park — 執筆100年目の2026年に、原典の「文書を読み解く」構造を舞台という別形式に置き換えた例
  • クトゥルフの呼び声TRPG — 原典を体系化・ゲーム化した第3層の代表例。グーミーのような無関係な借用とは異なる、設定として明文化された拡張のあり方を確認できる

出典

  • [1] Box Office Mojo「Minions & Monsters」公開情報ページ(2026年9月11日確認)。米国内での劇場公開が2026年7月1日であること、配給がUniversal Picturesであることを確認。https://www.boxofficemojo.com/release/rl779714561 ↩
  • [2] Universal Pictures Home Entertainment公式プレスリリース「Minions & Monsters Press Release」(2026年9月11日確認)。デジタル配信開始日が2026年8月11日であること、4K UHD/Blu-ray/DVD発売日が2026年9月8日であること、共同監督がピエール・コフィンとパトリック・デラージであることを確認。https://www.universalpicturesathome.com/press-release/minions-monsters-press-release ↩
  • [3] 東宝東和株式会社公式サイト「シリーズ最新作『ミニオンズ&モンスターズ』日本公開日が8月7日(金)に決定&特報解禁!」(2026年9月11日確認)。日本公開日が2026年8月7日(金)であること、配給が東宝東和であること、あらすじ(ハリウッドでの「モンスター映画」製作、呪文で現れた「ミニオンよりもさらに小さな緑色のモンスター」グーミーとの騒動)を確認。https://tohotowa.co.jp/news/2026/03/minions3_01 ↩
  • [4] Illumination公式サイト「Minions & Monsters」作品ページ(2026年9月11日確認)。1920年代ハリウッドを舞台に、魔術書から怪物を召喚して映画を作る計画と、暴れる怪物から世界を救う筋立てであることを確認。具体的な公開日・監督名・怪物の固有名・クトゥルフへの言及は同ページに記載がないことも確認。https://www.illumination.com/movie/minions-monsters/ ↩
  • [5] MOVIE WALKER PRESS「映画好きこそ楽しめる!『ミニオンズ&モンスターズ』に散りばめられたハリウッド映画オマージュを答え合わせ」(2026年8月11日公開、2026年9月11日確認)。画像キャプションに「ネクロノミコン的な書物で召喚される緑の小さい怪物グーミーはクトゥルフがモチーフ」との記述があることを確認。https://press.moviewalker.jp/news/article/1429202/image18105655/ ↩
  • [6] H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表)。”If I say that my somewhat extravagant imagination yielded simultaneous pictures of an octopus, a dragon, and a human caricature, I shall not be unfaithful to the spirit of the thing.”(訳: 「私のいくぶん誇張された想像力が、タコと竜と人間の戯画を同時に思い描いたと言っても、この事物の本質を裏切ることにはならないだろう」)/ “Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah’nagl fhtagn.” / “In his house at R’lyeh dead Cthulhu waits dreaming.”(訳: 「ルルイエの館にて、死せるクトゥルフは夢見ながら待つ」) — The H. P. Lovecraft Archive(2026年9月11日確認)。https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/cc.aspx ↩

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