概要
Akabaka開発・Black Lantern Collective発売のホラーコメディ・ビジュアルノベル『Sucker for Love: Crush Landing』が、PC(Steam)向けに発売される[1]。ジャンルはカジュアル・インディー・RPGタグが付されている[1]。ストア公式は本作を「H.P.ラヴクラフトの『宇宙からの色』と、クラーク・アシュトン・スミスの『歌う炎の都市』に基づく、ラヴクラフト的ホラー・コメディ・恋愛の物語」と明記している[1]。
発売日についての注意
発売日には情報源によって食い違いがある。開発元(@ChromatoseDev)は2026年8月6日のツイートで「8月31日発売」と告知し、日本のゲームメディア・ファミ通もこれに基づき8月31日発売と報じている[2]。一方、Steamストアページ自体の表示は本稿執筆時点で「2026年9月1日」となっている[1]。どちらか一方を断定せず、両論併記としておく。
作品情報
開発Akabaka、発売Black Lantern Collective。日本語は本稿執筆時点(ファミ通記事は2026年8月7日時点の情報として)公式には未対応で、今後対応するかは不明とされている[2]。ストアページの短い紹介文は次の通り。「魅力的な彗星Hheilyがあなたのアパートに墜落し、光と闇の惑星間紛争に巻き込まれる。世界を救うため、Hheilyの炎を育てよう――このホラーコメディ・ビジュアルノベルで、キスまで勝ち取れるかもしれない」[1]。ゲーム内の見出しは「彗星と恋をする」「招かれざる客を撃退する」「世界を救う」の3本柱で構成されている[1]。
原典に基づくと明記された設定
本作の紹介文は、着想元をぼかさずに実名で明記している。「Gripping story of lovecraftian horror, comedy, and romance, based on H.P. Lovecraft’s The Color out of Space and Clark Ashton Smith’s The City of the Singing Flame」[1]。ファミ通も同様に「H・P・ラヴクラフトの『宇宙からの色』、クラーク・アシュトン・スミスの『歌う炎の都市』から着想を得ているという」と紹介している[2]。
キャラクターの名は英語版で「Hheily」、日本語では「ハレー」とローカライズされている(彗星の代名詞であるハレー彗星のもじりと見られる)[1][2]。ゲームの導入部は「彗星が居間のど真ん中に墜落した!」から始まり、周囲では植物が野放図に育ち、色彩が濃くなり、動物が変異していく[1]。原典「宇宙からの色」で描かれた、隕石から染み出た未知の色が農場を蝕んでいくモチーフが、そのまま導入部の舞台装置として使われていることが分かる。
シリーズ「Sucker for Love」の系譜
『Crush Landing』は単発の企画ではない。開発者Joseph “Akabaka” Hunterは、2022年に『Sucker for Love: First Date』でこのシリーズを始めている。同作では、主人公がピンク色の『ネクロノミコン』を使い、クトゥルフを思わせる愛らしい少女「Ln’eta」をはじめとする萌え擬人化されたクトゥルフ神話の存在たちを召喚していく[4]。続く2024年の『Sucker for Love: Date to Die For』は、ラヴクラフトの「インスマスの影」を含む複数の古典作品から着想を得た作品で、シュブ=ニガラスの異名「森の黒山羊」を名乗るヤギの女神「Rhok’zan」が新規デート可能キャラクターとして登場する[5]。
つまりこの開発者は、これまでも『クトゥルフの呼び声』(クトゥルフ本人)、「インスマスの影」(シュブ=ニガラス)と、ラヴクラフト作品を一作ずつ辿りながら、そこに登場する神格や存在を恋愛対象へ変換する作業を続けてきたことになる。『Crush Landing』はその最新作として、「宇宙からの色」と「歌う炎の都市」という組み合わせに手を伸ばした形だ。単発の思いつきではなく、シリーズ全体が意図的に原典の系譜を辿っている点は、単なる「萌え化ゲーム」という評価だけでは見落としてしまう部分だろう。
『宇宙からの色』と『歌う炎の都市』、それぞれの原典
「宇宙からの色」は1927年発表のラヴクラフト短編で、農場に落下した隕石から滲み出た地球上に存在しない「色」が、井戸水・農作物・生物・そして一家の精神を徐々に蝕み、大地を不毛の荒野へ変えていく物語である。「理解できない色」という、名指しすらできない脅威が本作最大の恐怖装置になっている。
一方の『歌う炎の都市』は、クラーク・アシュトン・スミスが1931年に『Wonder Stories』誌へ発表した短編で、続編「Beyond the Singing Flame」が同年11月に発表されている。作家ジャイルズ・アンガースがシエラ山中で異次元への扉を見つけ、その先にある巨人の築いた都市と、そこに響く「歌う炎」に導かれた各世界からの巡礼者たちを目撃する物語だ[3]。異次元への扉と、抗いがたい魅力で存在を引き寄せる炎という組み合わせは、本作の「彗星に引き寄せられる」という筋立てと重なる。
原典では“理解不能”だったものが、なぜ恋愛対象になるのか
ラヴクラフトの「宇宙からの色」における「色」は、人間の言語や感覚の枠組みそのものを超えた存在として描かれる。触れることも、名指すことも、対話することもできない――この「理解不能さ」こそが原典の恐怖の核だった。本作はこの設定を大胆に転換し、その「色」の起源にあたる彗星Hheilyを、プレイヤーと会話し、恋愛関係を結べる一個のキャラクターへと作り変えている。
これは単なる「萌え化」という一言では片付けにくい。原作者たちが「理解不能であること」そのものを恐怖の核に据えたのに対し、本作は「理解不能なはずのものを、あえて理解可能な存在として描いたらどうなるか」という逆転の発想に立っている。
「表現できないもの」への、もう一つの答え
当サイトでは以前、『邪神戦記ルルイエ少女隊』が「宇宙からの色」をファッションデザイナーの少女キャラクター「カルヴァレーナ」へ翻案した例を扱った。同記事では、「色」という表現不能なものをどう扱うかについて、2010年の映画『Die Farbe(宇宙の彼方より)』が全篇モノクロにして色だけを選択的に着色する「奪う」方向、2019年の映画『Color Out of Space』が鮮烈な映像として押し出す「見せる」方向、そして邪神戦記ルルイエ少女隊が少女の意匠へ変換する「人格化する」方向という三様の答えを並べて示していた。
本作はそこにもう一つの答えを加える。カルヴァレーナが人格を与えられたキャラクターにとどまるのに対し、Hheilyはプレイヤーと会話し、選択によって関係が進展し、最終的に恋愛関係を結べる相手として設計されている。「人格化する」だけでなく「対話し、心を通わせる相手にする」――理解不能なものを理解可能にする度合いが、さらに一段階進んだ形と言える。
成人向け表示について
Steamの成人向けコンテンツ説明で、開発元は「本作は成人向けのテーマと、かなりの量のコミカルなボディホラーを扱っているが、明示的な性的表現は含まない」と説明している[1]。ストアページの特徴欄には「私たちは本当に、本当に約束します――今回はホラー要素はありません」という一文も添えられているが、これは前2作がしっかりホラー寄りだったことを踏まえた、開発元一流の皮肉めいた前振りと読むのが妥当だろう。実際には「かなりの量のコミカルなボディホラー」という但し書きの通り、恋愛コメディの体裁を取りながら原典由来の異形描写は健在と見られる。原典の「宇宙からの色」が読者に生理的な不快感を与える描写を厭わなかったことを踏まえると、恋愛対象になってもなお、その出自の禍々しさを完全には消していないという作り手側の姿勢がうかがえる。
関連して読むなら
- 宇宙からの色 — 本作の主軸となった原典短編。「理解不能な色」という恐怖の核を確認できる
- 邪神戦記ルルイエ少女隊 — 同じく「宇宙からの色」をキャラクター化した作品。カルヴァレーナとHheilyという2つの翻案を比較できる
- Color Out of Space — 2019年、ニコラス・ケイジ主演での映画化。恐怖を前面に押し出した翻案と、本作の恋愛寄りの翻案を比較できる
- インスマスの影 — 同シリーズ前作『Date to Die For』が翻案した原典短編
出典
- [1] Steam公式ストアページ。開発Akabaka、発売Black Lantern Collective、ジャンル(カジュアル/インディー/RPG)、発売日表示(2026年9月1日)、紹介文、あらすじ、H.P.ラヴクラフト『The Color out of Space』およびクラーク・アシュトン・スミス『The City of the Singing Flame』に基づく旨、キャラクター名「Hheily」、成人向けコンテンツに関する開発元の説明(身体的なブラックコメディ描写を含むが明示的な性的表現は無い旨)が明記されている — store.steampowered.com ↩
- [2] ファミ通の記事。開発Akabaka、発売Black Lantern Collective、発売日8月31日(開発元アカウント@ChromatoseDevの2026年8月6日付投稿を根拠として紹介)、H・P・ラヴクラフト「宇宙からの色」およびクラーク・アシュトン・スミス「歌う炎の都市」からの着想、キャラクター名の日本語表記「ハレー」、日本語未対応(2026年8月7日時点)であることが記載されている — ファミ通.com, famitsu.com ↩
- [3] 『The City of the Singing Flame』が1931年7月に『Wonder Stories』誌で発表され、続編『Beyond the Singing Flame』が同年11月に発表されたこと、主人公ジャイルズ・アンガースがシエラ山中で異次元への扉を見つけ、巨人の築いた都市と「歌う炎」に導かれる巡礼者たちを目撃する筋立てであることが記載されている — “Vintage Treasures: The City of the Singing Flame by Clark Ashton Smith”, Black Gate, blackgate.com ↩
- [4] 『Sucker for Love: First Date』(開発Akabaka、発売DreadXP、2022年1月20日発売)の公式ストア説明に、ピンク色の『ネクロノミコン』を用いた儀式でLn’etaを召喚してしまう筋立てが記され、Ln’etaは “a cute cthulhu-like girl”(クトゥルフを思わせる愛らしい少女)と紹介されている。主人公に固有の名前は同説明文中に記載がない — Steam公式ストアAPI「Sucker for Love: First Date」(2026年9月7日確認), https://store.steampowered.com/api/appdetails?appids=1574270&l=japanese ↩
- [5] 『Sucker for Love: Date to Die For』(開発Akabaka、発売DreadXP、2024年4月23日発売)の公式ストア説明に、「Lovecraftian mythos, inspired by classics like ‘The Dunwich Horror’ and ‘The Shadow over Innsmouth’」の一文と、新規デート可能キャラクター「Rhok’zan, The Black Goat of the Woods」の記載がある。「Black Goat of the Woods(森の黒山羊)」はシュブ=ニガラスの異名で、ラヴクラフト「闇に囁くもの」本文の”Shub-Niggurath! The Black Goat of the Woods with a Thousand Young!”に由来する(原文で確認済み) — Steam公式ストアAPI「Sucker for Love: Date to Die For」(2026年9月7日確認), https://store.steampowered.com/api/appdetails?appids=2240790&l=japanese ; H. P. Lovecraft, “The Whisperer in Darkness”, https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/wid.aspx ↩

