概要
『邪神戦記ルルイエ少女隊 ~クトゥルフ神話TD~』は、DMM GAMES(運営: EXNOA)で2026年3月に正式サービスを開始した、PCブラウザおよびDMM GAME PLAYER向けの放置系タワーディフェンスゲームである[1]。公式の紹介文には「『美少女×邪神』とともに神々と戦う放置系タワーディフェンスバトル」とあり、未確認の都市を有する絶海の孤島を舞台に、邪神の力をまとった少女たちを配置して、押し寄せる敵から拠点を守り抜くことがプレイヤーの役割となる。
ゲームの基本はジャンル名の通りのタワーディフェンスで、画面の一方から迫る敵の群れをユニットの配置と編成で迎え撃つ形式に、放置(オート周回)で戦力を蓄積していく運営型ゲームらしい育成サイクルが組み合わされている。正式サービス開始時には事前登録者数30万人突破が発表されており、DMMのブラウザゲームとしては神話題材を正面に掲げた注目作としてスタートを切った。
クトゥルフ神話との関係
タイトルに掲げられた「ルルイエ」は、『クトゥルフの呼び声』でクトゥルフが眠る場所として描かれた海底都市ルルイエから採られている。原典において絶海の彼方に隆起する「未確認の都市」は、人類が決して近づいてはならない禁域だったが、本作ではその孤島が守るべき拠点として反転され、邪神の力を宿した少女たち——いわば神話の脅威を戦力化した存在——が防衛の主役を務める。
「邪神とともに神々と戦う」という公式の惹句が示す通り、本作の構図は神話的存在同士の衝突を人間側の視点から観戦・指揮するものであり、原典の「遭遇したら終わり」という一方的な力関係を、タワーディフェンスの攻防として遊べる形に翻訳している。邪神を冠したキャラクターを収集・育成していく過程で神話の固有名詞に触れられる作りは、キャラクターゲーム経由でクトゥルフ神話に入る近年の受容ルートの典型でもある。
独自の要素・原典との違い
本作の際立った特徴は、「美少女と異形のギャップ」を魅力の中核に据えている点である。名状しがたい姿で描かれるべき神話存在を美少女の意匠と組み合わせる手法は、原典の宇宙的恐怖からは大きく離れているが、日本の同人・商業シーンで厚く積み重ねられてきた「邪神擬人化」文化の延長線上にあり、本作はそれを運営型タワーディフェンスという遊びやすい器に載せた形といえる。
放置系という設計は毎日短時間の接触を前提としており、腰を据えて恐怖を味わう原典型のホラー体験ではなく、育成と編成の最適化を楽しむゲームである。その意味で本作は「怖いクトゥルフ」ではなく「集めるクトゥルフ」の系譜に属する。
「宇宙からの色」が、ファッションデザイナーの少女になるまで
本作を単なるキャラクターゲームとして紹介せずに済むのは、公式が翻案の過程を自分で明かしているからである。
公式Xは「#邪神図書館」という企画で、キャラクターの元ネタを問うクイズを出している。2026年8月18日の出題は、「ルルイエに暮らすヴァイス『カルヴァレーナ』のモチーフとなった存在が登場する作品は、次のうちどれでしょう」というもので、選択肢は「宇宙からの色」「ダゴン」「ダンウィッチの怪」「インスマウスの影」の四つだった[3]。550票のうち52.7%が「宇宙からの色」を選んでいる[3]。
翌19日、公式は正解を明かした。
正解:宇宙からの色同作に登場する異様な色彩の宇宙生物が「カルヴァレーナ」のモチーフとなっており彼女のファッションデザイナーという設定にも活かされています。[2]
モチーフを明かすだけでなく、それをキャラクターの職業設定にどう変換したかまで書いている。色を扱う存在だから、色を扱う職業に就いている——という翻案の理屈が、開発側の言葉で公開されている。
原典の色は、色ですらなかった
この変換がどれだけの距離を移動したかは、原典を見ると分かる。「宇宙からの色」(1927年発表)で、隕石の中から現れたものはこう書かれている。
“The colour, which resembled some of the bands in the meteor’s strange spectrum, was almost impossible to describe; and it was only by analogy that they called it colour at all.”(訳: 「その色は、隕石の奇妙なスペクトルに現れた帯のいくつかに似ていたが、記述することはほとんど不可能だった。そもそも人々がそれを色と呼んだのは、類推によってでしかなかった」)[4]
「色と呼んだのは類推によってでしかなかった」。 原典におけるそれは、人間の感覚と語彙では正確に捉えられないもの、名指すことに失敗し続けるものとして書かれている。宇宙的恐怖の核にある「理解も表現もできない」という性質が、色という最も基本的な知覚の水準で提示されているわけだ。
それが約100年後、輪郭を持ち、名前を持ち、職業を持った少女になっている。 記述不可能だったものが、記述可能どころか、キャラクターシートに収まる形まで来た。原典の狙いから見れば正反対の場所だが、これを「劣化」と切って捨てるのは早い。名指せないものを名指せるようにすることは、翻案が繰り返し行ってきた仕事そのものである。クトゥルフの「タコの顔」も、原典の曖昧な描写に後世が輪郭を与えた結果として定着したもので、その経緯は「クトゥルフの「タコの顔」は誰が決めたのか」で辿っている。
翻案の過程が公開されている珍しさ
多くの派生作品では、元ネタは受け手が推測するしかない。本作が資料として扱いやすいのは、公式が出題と解答という形で対応関係を文書化している点にある。クイズ形式なので、キャラクター名・モチーフ・翻案の理屈が一つの投稿にまとまり、日付も残る。
しかもこれは単発ではない。「#邪神図書館」はクイズ編と豆知識編を交互に出す継続企画で、カルヴァレーナの翌日には別のキャラクターが扱われている。ヴァイス「ネア・ウルム」については、メインストーリー中の呼称を問うクイズが出され[5]、解答でヨグ=ソトースの配下とされる「ウムル・アト=タウィル」がモチーフであると明かされた[6]。豆知識編のほうは魔導書などの神話設定そのものを扱っており、たとえばネクロノミコンについて、写本と翻訳が繰り返された結果として内容の補完に別の版が要る、という話題が出ている[7]。
つまりキャラクターの元ネタ表が、運営の手で少しずつ公開され続けている。派生作品を原典と突き合わせて記録する側からすると、これは扱いやすい一次情報にあたる。
当サイトのように原典と後世を分けて記録する立場からすると、こうした一次情報は貴重である。「たぶんこのキャラは○○が元ネタだろう」という推測ではなく、開発側の言明として引用できる。
名前のほうは、どこから来たのか
もう一点、公式の言い回しに拾っておきたい語がある。クイズ文は「ルルイエに暮らすヴァイス」と書いている[3]。原典のルルイエは、クトゥルフが死んでもいない状態で待ち続ける沈黙の都市であって、誰かが暮らす場所ではない。「ルルイエ」の記事で扱っているとおり、原典のあの都市に日常は無い。
本作はそこを居住地に変えている。禁域を拠点に、眠る神を戦力に、沈黙の都市を生活の場に——反転が一つではなく積み重なっていることが、この一語から見える。設定を細かく追わなくても、公式が使う動詞ひとつで翻案の方向は読み取れる。
「集めるクトゥルフ」を記録する意味
当サイトは原典・ダーレス以降・TRPGという三層で神話を記録しているが、本作のようなキャラクターゲームはそのどれにも属さない。2010年代以降に厚くなった、四つ目の受容層と言っていい。
この層を「原典から遠いから」と扱わないでおくと、いま新しく神話に触れる人が通っている道を記録し損ねる。日本ではキャラクターから入って原典へ遡る経路が実際に機能してきた。その経緯は「日本におけるクトゥルフ神話の受容史」で扱っている。カルヴァレーナから「宇宙からの色」へ辿る読者は、まさにその経路にいる。
同じ「宇宙からの色」から生まれた作品を並べる
同じ原作から出た作品を並べると、翻案の幅が見える。
| 作品 | 「色」をどう扱ったか |
|---|---|
| Die Farbe(宇宙の彼方より)(2010) | 全篇モノクロにし、劇中の「色」だけを選択的に着色。知覚できないものを、画面から色を奪うことで表現した |
| Color Out of Space(2019) | 鮮烈な映像として全面に出す。見せる方向へ振った |
| 本作 | 少女の意匠と職業設定へ翻訳。輪郭と人格を与えた |
「表現できないもの」をどう表現するかという同じ課題に、三つの違う答えが出ている。奪う・見せる・人格化する。どれが正解ということはなく、媒体と目的の違いがそのまま出ていると読める。
原典を読むなら
- 宇宙からの色 — カルヴァレーナの元になった1927年の短編
- ルルイエ — タイトルに掲げられた海底都市
- 日本におけるクトゥルフ神話の受容史 — キャラクターゲーム経由の受容がどこから来たか
出典
- [1] 正式名称「邪神戦記ルルイエ少女隊 〜クトゥルフ神話TD〜」、運営 DMM GAMES、ジャンルはRPG(登録タグ: タワーディフェンス、スタミナなし、スキルオート発動、PvP、ダーク・ファンタジー) — DMM GAMES 公式ページ, games.dmm.com ↩
- [2] 「正解:宇宙からの色/同作に登場する異様な色彩の宇宙生物が『カルヴァレーナ』のモチーフとなっており彼女のファッションデザイナーという設定にも活かされています。」2026年8月19日の投稿 — 邪神戦記ルルイエ少女隊【公式】, x.com ↩
- [3] 「【#邪神図書館 クイズ編】ルルイエに暮らすヴァイス『カルヴァレーナ』のモチーフとなった存在が登場する作品は、次のうちどれでしょう。」2026年8月18日の投稿。選択肢は宇宙からの色/ダゴン/ダンウィッチの怪/インスマウスの影で、550票の最終結果は宇宙からの色52.7%、インスマウスの影16.4%、ダゴン16%、ダンウィッチの怪14.9% — 邪神戦記ルルイエ少女隊【公式】, x.com ↩
- [4] “The colour, which resembled some of the bands in the meteor’s strange spectrum, was almost impossible to describe; and it was only by analogy that they called it colour at all.”(訳: 「その色は、隕石の奇妙なスペクトルに現れた帯のいくつかに似ていたが、記述することはほとんど不可能だった。そもそも人々がそれを色と呼んだのは、類推によってでしかなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Colour Out of Space”(1927年発表), The H. P. Lovecraft Archive ↩
- [5] 「【#邪神図書館 クイズ編】ヴァイス『ネア・ウルム』がメインストーリーで呼ばれていた名前として正しいのは、次のうちどれでしょう。」2026年8月19日の投稿 — 邪神戦記ルルイエ少女隊【公式】, x.com ↩
- [6] 「正解:ヴェールの少女/物語の鍵を握るヴァイス『ネア・ウルム』はヨグ=ソトースの配下とされる神性存在『ウムル・アト=タウィル』がモチーフとなっています。」2026年8月20日の投稿 — 邪神戦記ルルイエ少女隊【公式】, x.com ↩
- [7] 「【#邪神図書館 豆知識編】クトゥルフ神話には数々の魔導書が登場しますが『ネクロノミコン』もその1つです。写本や翻訳が繰り返された結果、読み解くには内容を補完する別のネクロノミコンが必要になる」旨の投稿。2026年8月20日 — 邪神戦記ルルイエ少女隊【公式】, x.com ↩
⚠ 成人向け(R-18)版について
『ルルイエ少女隊』には成人向け(R-18)版が存在します。その紹介は姉妹サイト「深淵禁書」に掲載しています(18歳未満の方は閲覧できません。リンク先の入口で年齢確認があります)。


