ゲーム — The Mound: Omen of Cthulhu

The Mound: Omen of Cthulhu

チリのACE Teamが開発しNaconが販売する最大4人協力型ホラーゲーム。題名はラヴクラフトの中編「墳丘」に由来し、密林の奥で墳丘を探す遠征と、プレイヤーごとに知覚を歪める狂気システムを核にする。発売後のPatch 1.04・1.05までを追い、開発側が明かした「一部の正気度の効果は声を使う」という設計を、TRPGが数値で管理する正気度と比べて読み解く。

公開更新作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

記事内に商品プロモーションを含む場合があります
入手する
The Mound: Omen of Cthulhu 商品画像

※価格・在庫・対応環境の詳細は必ずリンク先でご確認ください。

概要

『The Mound: Omen of Cthulhu』は、チリのACE Teamが開発しNaconが販売する最大4人協力型のホラーゲームで、2026年7月15日にPC・PlayStation 5・Xbox Series X|S向けに発売されました。プレイヤーは探検家の一団となり、ガレオン船を拠点に、呪われた密林の奥へと財宝を求めて遠征を繰り返します。密林のモデルについて開発元は、チリ南部のバルディビアの森を忠実に描画したものだと述べています。クロスプレイと日本語インターフェース・字幕に対応しており、Steamユーザーレビューは2026年8月21日時点で3,761件中2,582件(約69%)が好評の「賛否両論」です。

クトゥルフ神話との関係

本作はH.P.ラヴクラフトの諸作品、とりわけ題名の由来となった中編「墳丘(The Mound)」に着想を得ています。ただし作品名を名指ししているのは開発元ACE Teamのインタビュー発言で、Nacon公式の商品ページとSteamのストアページは「ラヴクラフトの物語群に着想を得ている」とだけ書いています。副題に名を冠するクトゥルフの存在は「前兆(Omen)」として物語に影を落とし、密林では超常的な力がプレイヤーの知覚そのものを歪めていきます。恐怖を直接の襲撃としてではなく、現実と幻覚の境界を崩し正気を蝕む不可知の圧力として描く設計は、コズミック・ホラーの精神を協力プレイへ移し替えた試みと言えます。

独自の要素・原典との違い

舞台を南米の密林に移し、遠征と帰還を繰り返すエクストラクション型の構造を採用した点が本作の独自色です。原典の墳丘が物語の序盤で開かれる「入口」だったのに対し、本作の墳丘は密林の奥で探し求める「目的地」に置き換えられています。中核となる「狂気システム」はプレイヤーごとに知覚を歪め、仲間と見えているものが食い違うことで疑心暗鬼を生み、空間オーディオの近接ボイスチャットによる意思疎通が攻略の鍵になります。発売直後の評価は、この着想と雰囲気を称賛する声がある一方で賛否両論に分かれています。原典との対応関係はゲームの『The Mound』と原典の「墳丘」で照合しました。

その後の動向

2026年8月19日、公式Xが累計50万人のプレイヤーに到達したと発表しました。発売から約1か月での到達です。同じ投稿で予告された最初のコンテンツアップデートは、2026年8月31日に「Patch 1.04 – Content Update」として配信されました。

Patch 1.04 — 密林に増えた敵と、隠された宝石箱

Patch 1.04は、発売後はじめての本格的なコンテンツ追加でした。開発元は告知の冒頭で、品質改善に充てた前回の更新に対し、今回は新しいコンテンツを持ち込むものであり、今後も続けていく拡張の一環だと説明しています[1]。

追加・変更されたのは次の項目です[1]。

  • 森の深部に出現する新しい敵3種
  • 本土の各所に隠された宝石箱。地図を頼りにすべて見つけると、船内の店で新しいオカルトアイテムを解放できる
  • 新しいオカルトアイテム「The Rosary(ロザリオ)」
  • コマンドホイール2.0。カートを停止させ、指示を出せるようになった。警笛を鳴らすかどうかは対象との距離で決まる
  • ロビーコードの自動生成。手入力のパスワードで特定のロビーを探す従来方式を置き換えた
  • プライベートセッション向けの、任意の暗号化パスワード
  • ガレオン船の店舗内で動けなくなる症状を含むクラッシュ・フリーズの修正と、近接戦闘の調整

宝石箱の配置は、本作のエクストラクション構造とよく噛み合っています。遠征の目的が財宝を持ち帰ることである以上、地図に空白が残っているという事実そのものが、もう一度密林へ入る理由になります。新アイテムを店頭に並べるのではなく「地図を埋めた者だけが買えるようにする」という置き方は、報酬を一度の発見ではなく反復の先に置く設計です。

追加された「ロザリオ」がオカルトアイテムとして扱われている点は、舞台設定と照らすと示唆的です。ロザリオはカトリックの信心具であり、南米の密林という本作の舞台は、その信仰が現地の宇宙観と接触した土地でもあります。ただし、このアイテムがゲーム内でどう機能するのかは告知に書かれておらず、当サイトでは確認していません。

Patch 1.05 — ボイスチャットを作り直した理由

2026年9月9日、「Patch 1.05 – Voice Chat Rework & Other Hotfixes」が配信されました。修正項目は3点にとどまります[2]。

  • クロスプレイ時、および特定の環境で発生していたボイスチャットの破損を修正
  • TSRとXeSSのプロファイル設定に関する問題への対処
  • Moundレベルに登場するオーブがダメージを正しく処理していなかった不具合の修正

項目数は少ないものの、告知本文の説明のほうが分量を占めています。一部のプレイヤーから「声が機械的に聞こえる」「まったく機能しない」という報告が続いていたため、ボイスチャットを全面的に作り直し、入念なテストを重ねたと開発側は書いています[2]。

手当てはこれが初めてではありません。約1か月前の2026年8月13日に配信された「Patch 1.03 – Quality of Life Hotfixes」でも、音声の破損修正と定位(spatialization)の改善が行われていました[3]。同じ機能へ短期間に二度入ったことになります。なお1.03では「新しい正気度の幻覚(sanity illusion)を追加」という項目も並んでおり、音声と狂気表現が同じ更新の中に同居していました[3]。

そして、1.05の告知には次の一文が続きます。開発側はゲーム内ボイスチャットの使用を勧める理由として、本作が空間オーディオを採用していることに加えて、「一部の正気度の効果は声を使う」(some sanity effects use voice)と述べているのです[2]。

正気度が、ゲージではなくプレイヤーの声に干渉する

この一文は、パッチノートの中では脇に置かれた補足にすぎません。しかし本作の狂気システムの位置づけを、ストアページの説明よりはっきり示しています。

正気度を扱うホラーゲームの多くは、それを画面上の数値やゲージとして提示します。減っていく量を目で読み、危険域に入ったら引き返す。プレイヤーは自分の状態を客観的な情報として参照できます。本作が声に干渉するとき、その参照先が消えます。仲間の発話が歪んだとき、プレイヤーには歪みの原因が分かりません。相手が本当にそう言ったのか、演出が声をいじったのか、あるいは回線が落ちているのか。判断材料は音そのものしかなく、音そのものが疑わしいものとして提示されています。

この設計には代償が組み込まれています。音声を壊すことで恐怖を作る仕組みは、音声が壊れている状態と外形が一致してしまうのです。実際に起きたのが、まさにその混同でした。プレイヤーは「声が機械的に聞こえる」と報告し、開発側はそれを不具合として修正しました。1.05の告知は、この継ぎ目の上に立っています。破損を直しながら、同時に「それでもゲーム内ボイスチャットを使ってほしい、一部の歪みは仕様だから」と言わなければならない。演出と障害を区別する語彙を、開発側もプレイヤーも持っていない状態です。

恐怖の演出手段として自分の作品の通信品質を犠牲にする以上、こうした摩擦は設計から導かれる帰結であり、運用の失敗とは言い切れません。ただし、その負担を引き受けるのはサポート窓口と、原因が分からないまま遊ぶプレイヤーです。

TRPGの正気度と、この実装の距離

当サイトが繰り返し扱ってきたクトゥルフ神話TRPGの正気度は、本作とは逆の方向を向いています。

Chaosium公式のルール解説によれば、『クトゥルフの呼び声』の正気度(SAN)は数値として管理され、神話的存在や凄惨な光景に遭遇すると現在値に対してパーセンタイル・ロールを行います。失う量は「1/1D6」のようにスラッシュで表記され、現在値以下を出せば前の値を、上回れば後ろの値を失います。1回の判定で5ポイント以上を失った場合はINTの判定が入り、これに成功すると1D10時間の一時的狂気に陥ります[4]。

この方式では、狂気は数値として卓に開示されます。キーパーが減少量を告げ、プレイヤーがキャラクターシートに書き込み、同席する全員がその数字を見ます。誰がどれだけ削られたかは共有された台帳の上にあり、狂気の内容もキーパーの裁定を経てテーブル全体へ提示されます。そのうえで、狂気を演じるのはプレイヤー自身です。

本作はこの台帳を持ちません。知覚の歪みはプレイヤーごとに与えられ、他者からは見えないまま進行します。共有されるのは数値ではなく、食い違いのほうです。「いま何か言ったか」「そんなものは見えない」という応答の齟齬が、卓上のシートに相当する情報として機能します。TRPGが数値を共有して狂気を可視化するのに対し、本作は知覚を分割して不可視のまま置く。どちらも同じ語を用いていますが、扱っているものは別です。

ここで層の区別を入れておきます。正気度を数値で管理する発想は、1981年以降のTRPGによる拡張(第3層)に属します。本作の狂気システムがそのTRPG的な体系を引き継いだものなのか、原典に近い位置から独自に組み立てたものなのかは、公式資料に記述がなく、当サイトでは確認していません。着想元として原典の諸作品が挙げられている以上、TRPGの直系の子孫と断じる根拠はありません。原典に「発狂」という段階的な機構があったのかという問い自体は、SAN値の「発狂」は原典にあったのかで別途扱っています。

恐怖を共有できないこと、を機構にする

本作の狂気システムが置いているのは、見たものを他人と突き合わせられないという状態です。仲間が同じ部屋にいて、同じ方向を見て、違うものを報告する。証言が食い違うとき、どちらが壊れているのかを判定する手段は、プレイヤーの側にありません。

ボイスチャットに手を入れるという選択は、この構造をもう一段深いところへ移します。歪みの対象が景色や物音であれば、疑われるのは世界の側です。歪みの対象が仲間の声になると、疑われるのは仲間そのものになります。協力型ゲームにおいて、意思疎通の経路は攻略の前提条件でした。その経路を恐怖の対象に転用したのが本作の狂気システムであり、空間オーディオという実装上の理由に加えて、開発側がゲーム内ボイスチャットを勧める理由もそこにあります[2]。

外部の通話アプリで会話すれば、この干渉は成立しません。プレイヤーは快適な音声と引き換えに、本作の狂気表現の一部を受け取れなくなります。推奨という形でしか伝えられない性質の設計であり、実際に1.05の告知は、不具合の修正報告という体裁を取りながらその説明に紙幅を割いています。

関連して読むなら

出典

  • [1] Steam公式ニュース「Patch 1.04 – Content Update」(ACE Team / Nacon、2026年8月31日投稿)。確認日2026年9月12日。新規敵3種・隠された宝石箱・オカルトアイテム「The Rosary」・コマンドホイール2.0・ロビーコードの自動生成・任意の暗号化パスワード・近接戦闘の調整を確認。 https://store.steampowered.com/news/app/2569760/view/702151955009503859 ↩
  • [2] Steam公式ニュース「Patch 1.05 – Voice Chat Rework & Other Hotfixes」(ACE Team / Nacon、2026年9月9日投稿)。確認日2026年9月12日。ボイスチャットが機械的に聞こえる/機能しないという報告への全面的な作り直し、クロスプレイ時の破損修正、TSR・XeSSのプロファイル設定、Moundレベルのオーブのダメージ処理の修正、および「空間オーディオを採用しており、一部の正気度の効果は声を使う」ためゲーム内ボイスチャットの使用を推奨する旨を確認。 https://store.steampowered.com/news/app/2569760/view/702152588870551874 ↩
  • [3] Steam公式ニュース「Patch 1.03 – Quality of Life Hotfixes」(ACE Team / Nacon、2026年8月13日投稿)。確認日2026年9月12日。ボイスチャットの破損修正と定位の改善、および「新しい正気度の幻覚を追加」の記載を確認。 https://store.steampowered.com/news/app/2569760/view/702150686227300813 ↩
  • [4] Chaosium公式ルール解説「Sanity (SAN)」(The Call of Cthulhu RPG Wiki、版元Chaosium社が運営)。確認日2026年9月12日。正気度が数値で管理されること、現在値に対するパーセンタイル・ロール、「X/Y」表記による減少量の決まり方、1回の判定で5ポイント以上を失った際のINT判定と1D10時間の一時的狂気を確認。 https://cthulhuwiki.chaosium.com/rules/sanity.html ↩

続きを辿る

隣の棚

記事URLをコピーしました