編集部注(著作権について): 本記事が扱う『白蛆の襲来』(原題: The Coming of the White Worm、1941年「Stirring Science Stories」誌4月号掲載)は、著作権継承者(CASiana Literary Enterprises)が同時代作品を個別に更新している実例があるため、パブリックドメインであるとは断定できません。本記事は原文からの引用を行わず、あらすじ・論評・書誌的事実のみで構成しています。
概要
邪神ルリム=シャイコースが氷山の要塞に乗ってハイパーボリア沿岸に現れ、魔道士を神官団に加える一編。『エイボンの書』第九章という体裁を取り、ハイパーボリア連作の中でも最も執筆に難航した作品のひとつとして知られる。
作品情報
- 原題: The Coming of the White Worm(副題: The History of Evagh the Warlock, Chapter IX of The Book of Eibon)
- 執筆・発表年: 1933年執筆/1941年発表(「Stirring Science Stories」誌4月号、編集ドナルド・A・ウォルハイム、表紙ハネス・ボク)
- 主題タグ: 氷山の要塞、邪神ルリム=シャイコース、『エイボンの書』第九章
登場神格・用語
あらすじ
邪神ルリム=シャイコースが氷山の要塞イイクルスに乗ってハイパーボリア沿岸に現れ、魔道士エヴァグの村を滅ぼし、彼を強引に自らの神官団に加える。ルリム=シャイコースを乗せた氷山は海岸線を蹂躙しながら南下を続け、神官たちは夜ごとに一人また一人と姿を消していく――邪神が朝ごとに心なしか肥大しているように見える中、エヴァグは氷山内部に囚われた先任の神官たちの霊から、この蛆虫めいた邪神の正体と、極北の異次元的な深淵から漂着した経緯を聞き出す。真実を知ったエヴァグは、剣でルリム=シャイコースを刺し貫くが、その代償として自らも命を落とす。物語は最終的に、この顛末を氷山の消滅を目撃した水夫たちの伝承と、それを魔術で聞き集めた魔道士エイボン自身の記述という、二重の伝聞の枠組みで語られる体裁を取る。
読みどころと注目テーマ
本作の読みどころは、氷山そのものが要塞と化すという規格外のスケール感と、その内部で夜ごとに神官が一人ずつ消えていく静かな恐怖の積み重ねにある。邪神ルリム=シャイコースは終始その正体を明確に見せず、ただ「白い蛆」を思わせる肥大する姿と、犠牲者を漂わせたまま蓄える不気味な習性だけが語られ続けるため、読者は最後まで得体の知れなさから逃れられない。エヴァグが氷山内部の先任神官たちの霊から真実を聞き出す場面は、被害者自身の証言によって加害者の正体が明かされるという構成上の工夫であり、単独の主人公が調査を進める通常の怪奇小説とは異なる情報開示の手法を取っている。また、剣を邪神へ突き立てたエヴァグ自身も相打ちで命を落とすという結末は、勧善懲悪的な「退治」ではなく、代償を伴う相討ちとして描かれており、スミス作品にしばしば見られる苦い後味を残す。加えて、この物語自体が『エイボンの書』の一章という体裁を取り、水夫の伝承を魔道士エイボンが魔術で聞き集めて記したという二重三重の伝聞構造になっている点も、聖典的な語り口の演出として注目に値する。
執筆背景と影響
サイト既存の邪神記事ルリム=シャイコースの初出作品であり、『エイボンの書』の一章という体裁を取ることで、スミス独自の聖典体系とハイパーボリア神話を明確に結びつける作品。本作は1933年に執筆されながら、実際に活字になったのは1941年の「Stirring Science Stories」誌4月号(発行元Albing Publications、定価15セント、132ページ、表紙アーティストはハネス・ボク)まで待たねばならず[1]、執筆から発表まで実に8年を要したことになる[2]。同年11月にはカナダの「Uncanny Tales」誌にも再録されており、当時すでに複数の雑誌編集者の目に留まる評価を得ていたことがうかがえる[3]。クラーク・アシュトン・スミス(1893-1961)はH・P・ラヴクラフト、ロバート・E・ハワードと並ぶ「ウィアード・テイルズの三巨頭」の一人に数えられ、ハイパーボリア・ポセイドニス・アヴェロワーニュ・ゾティークという4つの独自世界を創造した[4]。スミスの遺産管理は継子のウィリアム・ドーマン教授が主宰する団体CASiana Literary Enterprisesが担っており、多くの作品の著作権はアーカム・ハウス社が管理する一方、既に一部作品はパブリックドメインに帰しているとされる[5]。本作はその後も複数の言語に翻訳されており、スペイン語(1978年)・オランダ語(1983年)・ドイツ語・フランス語・イタリア語・ハンガリー語・ポルトガル語版が刊行されるなど、CAS作品の中でも国際的に読み継がれてきた一作である[3]。
出典
本作はパブリックドメインであるとは断定できないため、原文からの引用は行っていません。以下は書誌的事実についての出典です。
- [1] 「The Coming of the White Worm」はStirring Science Stories誌1941年4月号(発行元Albing Publications、編集ドナルド・A・ウォルハイム、定価15セント、132ページ、表紙アーティストのハネス・ボク)に掲載された短編として記録されている。— 出典: ISFDB「Title: The Coming of the White Worm」, 該当ページ ↩
- [2] 本作は1933年に執筆され、1941年に発表されたと記録されている(執筆から発表まで8年)。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith bibliography」, 該当ページ ↩
- [3] 同作は1941年11月、カナダの「Uncanny Tales」誌(編集メルヴィン・R・コルビー、発行元Adam Publishing Company)にも再録された。以後もスペイン語(1978年)・オランダ語(1983年)・ドイツ語(1985年、2001年)・フランス語(1986年、2017年)・イタリア語(1989年、1996年)・ハンガリー語(2017年)・ポルトガル語(2020年)に翻訳されている。— 出典: ISFDB「Title: The Coming of the White Worm」再録・翻訳一覧, 該当ページ ↩
- [4] クラーク・アシュトン・スミス(1893-1961)はH・P・ラヴクラフト、ロバート・E・ハワードと共に「ウィアード・テイルズの三巨頭」の一人とされ、ハイパーボリア・ポセイドニス・アヴェロワーニュ・ゾティークの4つの架空世界を創造した。ラヴクラフトとの文通は1922年から1937年のラヴクラフトの死まで続いた。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith」, 該当ページ ↩
- [5] スミスの文芸遺産は継子ウィリアム・ドーマン教授が主宰するCASiana Literary Enterprisesが代表しており、多くの作品の著作権はアーカム・ハウス社が管理する一方、一部作品は既にパブリックドメインに帰しているとされる。— 出典: Wikipedia「Clark Ashton Smith」遺産管理節, 該当ページ ↩






