ヨグ=ソトースの落とし子(ウィルバーの双子) — THE DUNWICH HORROR

ダニッチの怪(存在)

原典

ウィルバー・ウェイトリーの誕生と同じ日に生まれていた、目に見えない双子の弟。生まれてすぐ道具小屋や板張りの2階に隔離され、牛と人間の血を糧に不可視のまま巨大化した。1928年9月にダニッチを脱出してフライ家を二度にわたり破壊したのち、粉末による一瞬の可視化で縄状の体と半分だけの人間の顔が目撃され、センチネル・ヒルの祭壇石で「父さん、ヨグ=ソトース」と叫んで元の構成要素へ分解された。

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ダニッチの怪(存在)

「納屋より大きい……うごめく縄でできていて……卵みたいな形をしていて、何十本もの脚が樽ほど太くて、踏み出すたびに半分閉じる……固い部分は何もない、まるでゼリーみたいで、別々にのたくる縄が押し固められたようで……大きくふくれた目がそこらじゅうにあって……煙突ほど太い口か管が何十本も脇腹に突き出して、みんなが揺れて開いたり閉じたりして……全体は灰色で、青か紫の輪模様があって……ああ神様――あの上にある半分の顔!……」

— H・P・ラヴクラフト「ダニッチの怪」(1928年執筆)第10章、カーティス・ウェイトリーが丘の上で見たものを語る箇所
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概要

「ダニッチの怪」は、H・P・ラヴクラフトの中編「ダニッチの怪」(1928年夏執筆/1929年4月Weird Tales発表)に登場する、目に見えない巨大な存在である。物語の終盤で明かされるとおり、これはウィルバー・ウェイトリーの双子の弟であり、ウィルバーと同じ1913年2月2日(聖燭節)の朝に生まれていた[3]。ウィルバーが人前に出せる(不完全ながら人間の姿をした)個体だったのに対し、この双子の弟は生まれた直後からダニッチの農家の2階と道具小屋に隠され、誰にも姿を見せないまま育てられた。

本記事は、物語の時系列を追う「ダニッチの怪」の解説記事や、ウィルバー・ウェイトリー個人の記事とは別に、この双子の弟という存在そのものの性質――誕生、飼育のされ方、何を糧にしていたか、不可視という性質、可視化されたときの姿、そしてヨグ=ソトースとの関係――に絞って記述する。

項目内容
分類ヨグ=ソトースが人間との間にもうけた落とし子のひとつ(原典に明確な分類の記述はない)[30]
欧文表記THE DUNWICH HORROR
初出「ダニッチの怪」(1928年夏執筆/1929年4月Weird Tales発表)[1][2]
双子の兄ウィルバー・ウェイトリー
誕生1913年2月2日(聖燭節)午前5時、ダニッチの農家[3]
姿を見せた回数物語中に一度だけ。1928年9月、粉末による可視化の瞬間[21][23][24]

初出作品

「ダニッチの怪」は1928年夏に執筆され[1]、1929年4月刊行のWeird Tales誌第13巻第4号(481ページから)に発表された[2]。

本文にはこの存在への固有の呼び名は無いが、地の文は「ダニッチの怪(the Dunwich horror)」という語をこの存在自身にも当てている。日記の中でウィルバーが「that upstairs(2階の彼)」[10]と婉曲的に呼ぶ場面や、物語の結末でアーミテージがそれを「双子の弟(twin brother)」[29]と説明する場面はあるが、第7章では、ウィルバーが残したものを「数時間後に噴き出して忘れがたいダニッチの怪となる、地球を脅かす存在」と名指ししており[31]、結末部の「ダニッチの怪が来ては去った」[5]という一文もこの存在を指す。

原典での描写

ウィルバーの誕生は、双子の弟の誕生でもあった。1913年2月2日、聖燭節の日曜日の午前5時、ダニッチの丘の物音と一晩中の犬の遠吠えを伴って生まれたと記されている[3]。この誕生に先立ち、老ウェイトリーは村人に対し、いつかラヴィニアの子が丘の上で父親の名を呼ぶのを聞くことになるだろうと語っていた[4]。この「父親」がヨグ=ソトースを指すことは、物語の最後まで明かされない。

ウィルバーの誕生直後から、家では奇妙な準備が進んだ。生まれてすぐ、道具小屋の一つが窓のない板張りにされ、頑丈な新しい錠が取り付けられた[6]。ほぼ同時にウェイトリー家は牛を買い始め、これは1928年に事件が起きるまで続いたが、納屋の牛の頭数は一向に増えなかった[5]。母屋の改築が終わると、2階の窓の一つが板張りの扉に作り替えられ、地面からそこへ通じる木製の傾斜路が設けられた[7]。ある行商人は2階の床で馬が足踏みしているような音を聞いたと語り、村人はその扉と傾斜路、そして次々と姿を消す牛のことを思い合わせた[8]。

ウィルバーが記した日記は、双子の弟の正体を示唆している。1916年11月26日付の一節は、外側の者たちは助けてくれるが人間の血なしには肉体を得られない、と記す[9]。別の日の一節では、「2階の彼」はふさわしい姿になりつつあり、ヴーリシュのサインを結ぶかイブン・ガジの粉を吹きかければ少し見える、とも記されている[10]。物語の終盤、アーミテージ博士はこれを、双子の弟がウィルバーと同じ理由で急速に成長したが、外側の要素をより多く持っていたためウィルバーを上回る大きさになった、と説明している[12]。

ウィルバーがミスカトニック大学の図書館で死んだのは1928年8月2日のことだった。錯乱したアーミテージは、あの物は8月2日、ウィルバーが死んで以来餌を与えられていない、と口走っている[11]。その約1か月後、9月9日の暗闇の中で双子の弟は自ら脱出した。丘の物音が強まり犬が一晩中吠え続け、10日の朝には奇妙な悪臭が漂っていたと記されている[13]。ルーサー・ブラウンは、樽のふたほどの大きさで象の足跡よりも深く沈み込み、放射状の筋模様の付いた巨大な足跡を目撃したと語った[14]。ウェイトリー家の家屋はダイナマイトで爆破されたかのように木材が飛び散り、1階の床にはタール状の粘液が付着していた[15]。近隣のビショップ家では牛の半数が姿を消し、残った牛の半数近くが血を吸い尽くされていた[16]。怪物が去った跡は木々をなぎ倒しながらコールド・スプリング・グレンの谷へと下っており、まるで家が雪崩に運ばれて急斜面を滑り落ちたかのようだったという[17]。

双子の弟の姿は誰にも見えなかった。フライ家では未明に悪臭と犬の激しい鳴き声で目が覚め、外から押し殺したような水音が聞こえ、続いて木の裂ける音が屋内に響いた――これが最初の襲撃である[18]。センチネル・ヒルの祭壇石の上には、ウェイトリー家の廃屋の床で見つかったのと同じタール状の粘液が濃く堆積し、周囲一帯が踏み荒らされていた[19]。二度目の襲撃では、フライ家の家屋は卵の殻のように潰れて跡形もなく消え、生死を問わずどんな痕跡も見つからず、タールの粘液と悪臭だけが残された[20]。丘へ登ったアーミテージは「それは目に見えない、そうだろうと思っていた」と述べ、噴霧器に入れた粉末を使えば一瞬だけ姿を見せられるかもしれないと村人に説明した[21]。

望遠鏡を覗いた男は「草や茂みが動いている、ゆっくりと丘の上へ這い上がっていく」と叫んだ[22]。望遠鏡を持たない群衆には、山頂近くでかなり大きな建物ほどの大きさの灰色の雲が一瞬だけ見えた――これがアーミテージらの粉末による可視化の瞬間である[23]。唯一その姿を目撃したカーティス・ウェイトリーは、納屋より大きく、うごめく縄のようなもので出来ていて卵のような形をし、樽ほどの太さの脚が何十本もあり、固い部分はどこにもなくまるでゼリーのようで、灰色の体に青紫の輪模様があり、上部に半分だけの顔があったと語った[24]。その半分の顔には赤い目とちぢれたアルビノの髪、顎のない特徴があり、蛸か百足か蜘蛛のようなものの上に乗っていたが、老ウェイトリー(ウィザード・ウェイトリー)にそっくりで、何ヤードも大きかったという[25]。ここでカーティスが語る「似ている」対象は血縁上の祖父(老ウェイトリー)であり、後述するアーミテージの語る「父親に似ている」(ヨグ=ソトース)とは別の類似性である。両者は原典の記述としてそのまま並立しており、本記事はどちらか一方に統合して解釈しない。

祭壇石のあたりから、人間の喉からは出ない[32]濁った叫び声が「ヨグ=ソトース」の名を含めて響いた[26]。続いて「たすけて、たすけて……ff-ff-ff――父さん!父さん!ヨグ=ソトース!」という、英語として聞き取れる最後の叫びが響き渡り、それきり二度と聞かれることはなかった[27][33]。アーミテージは、あの物はもう永遠に消え去った、元の構成要素へ分解されて二度と存在し得ない、それは父親に似ており大半は物質宇宙の外にあるおぼろげな領域へ父の元へ帰っていった、と説明した[28]。そして最後に、ウィルバーがそれを呼び出したのではなく、それはウィルバーの双子の弟であり、ウィルバーより父親に似ていたのだと明かした[29]。

ネクロノミコンの一節には、旧支配者たちが人間との間にもうけた落とし子には多くの種類があり、人間の似姿に近いものから、姿も実体も持たない「彼ら」そのものの形に近いものまで様々だと記されている[30]。双子の弟は、この一節が示す幅の中でも、人間からもっとも遠い側に位置する個体だったと読める。

ダーレス以降の変化

ダーレス以降の作家による扱いは、本記事の調査では確認できる一次資料が無かった。双子の弟は「ダニッチの怪」一作のみに登場する固有名を持たない個体であり、後世の作家によって体系立てて位置づけられた記録は見つかっていない。

TRPGでの扱い

『クトゥルフ神話TRPG』での双子の弟(存在)の扱いは、本記事の調査では確認できなかった(未確認)。既存記事「クトゥルフ神話TRPG ダニッチの怪」がこの存在のステータス値等にどこまで触れているかも、今回は照合していない。

登場作品一覧

作品年作者この作品が足したもの
ダニッチの怪1928執筆/1929発表H・P・ラヴクラフト双子の弟という存在の誕生から消滅までを描く原典[1][2][3][29]
クトゥルフ神話TRPG ダニッチの怪–Chaosium(TRPGシナリオ)原典の舞台をTRPGシナリオ化(存在自体の扱いは今回未照合)
The Dunwich Horror(ダンウィッチの怪、1970)1970ダニエル・ハラー(監督)原典の映像化(存在の描かれ方は本記事の調査対象外)

関連神格・地域・書物

神格

  • ヨグ=ソトース — 双子の弟の父。アーミテージは、それが消滅後に元の次元にいる父の元へ帰っていったと説明した[28][29]

人物

地域

書物

記事の無い固有名詞(本文中で言及したが当サイトに個別記事はない)

  • ラヴィニア・ウェイトリー — ウィルバーと双子の弟の母
  • 老ウェイトリー(ウィザード・ウェイトリー) — ラヴィニアの父。飼育・改築・牛の買い付けの主体であり、双子の弟の半分の顔はこの老ウェイトリーによく似ていたとされる[25]
  • フライ家(エルマー・フライ一家) — 二度にわたり襲撃され、二度目で一家ごと消滅した隣人
  • ウォーレン・ライス、フランシス・モーガン — アーミテージと共に丘へ登った大学関係者
  • コールド・スプリング・グレン — 双子の弟が身を潜めた渓谷
  • カーティス・ウェイトリー、ゼブロン・ウェイトリー — 目撃証言者・古老

参考文献

  • [1] “The Dunwich Horror (Summer 1928)” (訳: 「ダニッチの怪(1928年夏)」) — Lovecraft’s Fiction – Alphabetical Order, The H. P. Lovecraft Archive
  • [2] “The Dunwich Horror. H. P. Lovecraft 481″(訳: 目次「ダニッチの怪 H・P・ラヴクラフト 481ページ」) — *Weird Tales* Vol. 13, No. 4(1929年4月号)スキャン、archive.org 識別子 `Weird_Tales_v13n04_1929-04`、archive.org(OCR本文の目次で掲載を確認、2026-09-07)
  • [3] “It was in the township of Dunwich, in a large and partly inhabited farmhouse set against a hillside four miles from the village and a mile and a half from any other dwelling, that Wilbur Whateley was born at 5 A.M. on Sunday, the second of February, 1913. This date was recalled because it was Candlemas, which people in Dunwich curiously observe under another name; and because the noises in the hills had sounded, and all the dogs of the countryside had barked persistently, throughout the night before.” (訳: ウィルバー・ウェイトリーが生まれたのは、村から4マイル、他のどんな住居からも1マイル半離れた丘を背にした、大きくて一部しか人の住んでいない農家だった。1913年2月2日、日曜日の午前5時のことである。この日付が記憶されているのは、それが聖燭節――ダニッチの人々が奇妙にも別の名で祝う日――だったからであり、また前夜の間じゅう丘で物音が響き、あたり一帯の犬という犬が絶え間なく吠え続けていたからだった。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [4] “Let me tell ye suthin’— some day yew folks’ll hear a child o’ Lavinny’s a-callin’ its father’s name on the top o’ Sentinel Hill!”” (訳: 「ひとつ言っておくがな――いつかおめえらは、ラヴィニーの子供がセンチネル・ヒルのてっぺんで父親の名を呼ぶのを聞くことになるだろうよ!」) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [5] “This marked the beginning of a course of cattle-buying on the part of small Wilbur’s family which ended only in 1928, when the Dunwich horror came and went; yet at no time did the ramshackle Whateley barn seem overcrowded with livestock.” (訳: これが、小さなウィルバーの一家による牛の買い付けの始まりであり、それは1928年、ダニッチの怪が来て去るまで続いた。だがどの時点でも、ぼろぼろのウェイトリー家の納屋が家畜であふれているように見えたことは一度もなかった。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [6] “It had already begun as soon as Wilbur was born, when one of the many tool-sheds had been put suddenly in order, clapboarded, and fitted with a stout fresh lock.” (訳: それはウィルバーが生まれるとすぐに始まっていた。数ある道具小屋のひとつが、突如として整えられ、下見板を張られ、頑丈な新しい錠が取り付けられたのである。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [7] “By this time the restoration of the house was finished, and those who watched it wondered why one of the upper windows had been made into a solid plank door. It was a window in the rear of the east gable end, close against the hill; and no one could imagine why a cleated wooden runway was built up to it from the ground.” (訳: この頃には家の修復は終わっていたが、見ていた人々は、なぜ2階の窓のひとつが頑丈な板張りの扉に作り替えられたのか不思議に思った。それは東の切妻の裏手、丘に接した窓であり、なぜ地面からそこへ向けて桟の付いた木製の傾斜路が組まれたのか、誰にも見当がつかなかった。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [8] “That peddler told the store loungers at Dunwich Village that he thought he heard a horse stamping on that floor above. The loungers reflected, thinking of the door and runway, and of the cattle that so swiftly disappeared.” (訳: その行商人はダニッチ村の店に集う暇人たちに、2階の床で馬が足踏みしているような音を聞いた気がすると語った。暇人たちは、あの扉と傾斜路のこと、そしてあれほど早く姿を消していく牛のことを思い合わせた。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [9] “so I shall have to learn all the angles of the planes and all the formulas between the Yr and the Nhhngr. They from outside will help, but they cannot take body without human blood.” (訳: だから私は、YrとNhhngrの間にあるあらゆる角度と公式をすべて学ばねばならない。外側の者たちは助けてくれるが、人間の血なしには肉体を得ることができない。) — 「ダニッチの怪」(1929年、ウィルバーの日記), The H. P. Lovecraft Archive
  • [10] “That upstairs looks it will have the right cast. I can see it a little when I make the Voorish sign or blow the powder of Ibn Ghazi at it, and it is near like them at May-Eve on the Hill.” (訳: 2階のあれは、ふさわしい姿になりつつあるようだ。ヴーリシュのサインを結ぶか、イブン・ガジの粉を吹きかければ、少しだけ見える。それは丘の上でメイ・イブに現れる連中に近いものになってきている。) — 「ダニッチの怪」(1929年、ウィルバーの日記), The H. P. Lovecraft Archive
  • [11] “Those Whateleys meant to let them in, and the worst of all is left! Tell Rice and Morgan we must do something—it’s a blind business, but I know how to make the powder. . . . It hasn’t been fed since the second of August, when Wilbur came here to his death, and at that rate. . . .”” (訳: あのウェイトリー一族は連中を招き入れるつもりだったのだ、そして最悪のものが残っている!ライスとモーガンに伝えてくれ、何かしなければならないと――闇雲な仕事だが、粉の作り方なら私は知っている……あれは8月2日、ウィルバーがここへ来て死んだ日以来、餌を与えられていない。あの調子でいけば……) — 「ダニッチの怪」(1929年、錯乱したアーミテージの独白), The H. P. Lovecraft Archive
  • [12] “But as to this thing we’ve just sent back—the Whateleys raised it for a terrible part in the doings that were to come. It grew fast and big from the same reason that Wilbur grew fast and big—but it beat him because it had a greater share of the outsideness in it.” (訳: だが、私たちがたった今送り返したこの物についてだが――ウェイトリー一族は、これからやってくる恐ろしい局面のためにそれを育てていたのだ。ウィルバーが急速に大きく育ったのと同じ理由でこれも急速に大きく育った――だがウィルバーを上回ったのは、これがより多くの『外側性』を持っていたからだ。) — 「ダニッチの怪」(1929年、アーミテージの説明), The H. P. Lovecraft Archive
  • [13] “It was in the dark of September 9th that the horror broke loose. The hill noises had been very pronounced during the evening, and dogs barked frantically all night. Early risers on the 10th noticed a peculiar stench in the air.” (訳: 怪物が解き放たれたのは9月9日の闇の中でのことだった。その夜、丘の物音は非常に顕著で、犬たちは一晩中狂ったように吠えた。10日の朝早く起きた人々は、空気中に奇妙な悪臭があるのに気づいた。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [14] “They’s prints in the rud, Mis’ Corey—great raound prints as big as barrel-heads, all sunk daown deep like a elephant had ben along, only they’s a sight more nor four feet could make! I looked at one or two afore I run, an’ I see every one was covered with lines spreadin’ aout from one place, like as if big palm-leaf fans—twict or three times as big as any they is—hed of ben paounded daown into the rud.” (訳: 道に足跡があるんです、コーリーの奥さん――樽のふたほどもある大きな丸い跡が、象が通ったみたいに深く沈み込んでいて、それに四本足なんかじゃとても付けられないほどたくさんあるんです!逃げ出す前に一つか二つ見てみたんですが、どれも一か所から放射状に広がる筋で覆われていて、まるで大きなヤシの葉の扇――普通のものの2倍か3倍もある扇――が道に叩きつけられたみたいでした。) — 「ダニッチの怪」(1929年、ルーサー・ブラウンの証言), The H. P. Lovecraft Archive
  • [15] “Ol’ Whateley’s haouse is all blowed up, with the timbers scattered raound like they’d ben dynamite inside; only the bottom floor ain’t through, but is all covered with a kind o’ tar-like stuff that smells awful an’ drips daown offen the aidges onto the graoun’ whar the side timbers is blown away.” (訳: 老ウェイトリーの家はすっかり吹き飛ばされていて、まるで中でダイナマイトが爆発したみたいに木材があたりに散らばっています。ただ1階の床だけは突き抜けておらず、代わりに悪臭を放つタールのようなものにすっかり覆われていて、側面の木材が吹き飛ばされた縁から地面へとしたたり落ちているんです。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [16] “Haff on ’em’s clean gone, an’ nigh haff o’ them that’s left is sucked most dry o’ blood, with sores on ’em like they’s ben on Whateley’s cattle ever senct Lavinny’s black brat was born.” (訳: 半分はきれいさっぱり消えちまって、残った半分近くもほとんど血を吸い尽くされていて、ラヴィニーの黒い子が生まれてこのかたウェイトリーの牛にあったのと同じような傷を負っているんです。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [17] “Whatever had burst loose upon the world had assuredly gone down into the great sinister ravine; for all the trees on the banks were bent and broken, and a great avenue had been gouged in the precipice-hanging underbrush. It was as though a house, launched by an avalanche, had slid down through the tangled growths of the almost vertical slope.” (訳: この世に解き放たれた何ものかは、間違いなくあの不吉な大峡谷へ下っていったに違いなかった。岸の木々はことごとく折れ曲がり、断崖に垂れかかる下生えには大きな道筋がえぐられていたからだ。それはまるで、雪崩に運ばれた一軒の家が、ほとんど垂直なその斜面のもつれた茂みを滑り落ちていったかのようだった。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [18] “About two in the morning a frightful stench and the savage barking of the dogs awakened the household at Elmer Frye’s, on the eastern edge of Cold Spring Glen, and all agreed that they could hear a sort of muffled swishing or lapping sound from somewhere outside. Mrs. Frye proposed telephoning the neighbours, and Elmer was about to agree when the noise of splintering wood burst in upon their deliberations.” (訳: 午前2時頃、恐ろしい悪臭と犬の激しい吠え声が、コールド・スプリング・グレンの東の縁にあるエルマー・フライ家の一家を目覚めさせた。誰もが、外のどこかから押し殺したようなびしゃびしゃ、ぴちゃぴちゃという音が聞こえたと口をそろえた。フライ夫人が近所へ電話することを提案し、エルマーがそれに同意しかけたその時、木材の裂ける音が彼らの相談に割り込んできた。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [19] “Now that very stone formed the centre of a vast space thrashed around by the mountainous horror, whilst upon its slightly concave surface was a thick and foetid deposit of the same tarry stickiness observed on the floor of the ruined Whateley farmhouse when the horror escaped.” (訳: まさにその石こそが、山のような怪物によって荒れ狂われた広大な空間の中心をなしており、そのわずかに窪んだ表面には、怪物が脱出した際にウェイトリー家の廃屋の床で見られたのと同じ、悪臭を放つタール状の粘着物が厚く堆積していた。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [20] “There were more swaths and monstrous prints, but there was no longer any house. It had caved in like an egg-shell, and amongst the ruins nothing living or dead could be discovered. Only a stench and a tarry stickiness. The Elmer Fryes had been erased from Dunwich.” (訳: さらに多くの帯状の跡と怪物じみた足跡があったが、もはやそこに家はなかった。それは卵の殻のように潰れ、その残骸の中には生きているものも死んでいるものも何ひとつ見つからなかった。あるのはただ悪臭とタール状の粘着物だけだった。エルマー・フライ一家はダニッチから消し去られたのだ。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [21] “It’s invisible—I knew it would be—but there’s a powder in this long-distance sprayer that might make it shew up for a second. Later on we’ll try it. It’s a frightful thing to have alive, but it isn’t as bad as what Wilbur would have let in if he’d lived longer.” (訳: それは目に見えない――そうだろうとは思っていた――だがこの遠距離噴霧器には粉が入っていて、一瞬だけそれを見えるようにするかもしれない。あとで試してみよう。生かしておくには恐ろしいものだが、もしウィルバーがもっと長く生きていて招き入れていたであろうものほどひどくはない。) — 「ダニッチの怪」(1929年、アーミテージの説明), The H. P. Lovecraft Archive
  • [22] “Gawd almighty, the grass an’ bushes is a-movin’! It’s a-goin’ up—slow-like—creepin’ up ter the top this minute, heaven only knows what fur!”” (訳: なんてこった、草や茂みが動いてるぞ!上へ上へと――ゆっくりとだが――今この瞬間も頂上へ這い上がっていってる、いったい何のためだか神様しか知らねえ!) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [23] “Those without the telescope saw only an instant’s flash of grey cloud—a cloud about the size of a moderately large building—near the top of the mountain.” (訳: 望遠鏡を持たない人々の目に映ったのは、山頂近くに一瞬だけひらめいた灰色の雲――中くらいの大きさの建物ほどもある雲――だけだった。) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [24] “Bigger’n a barn . . . all made o’ squirmin’ ropes . . . hull thing sort o’ shaped like a hen’s egg bigger’n anything, with dozens o’ legs like hogsheads that haff shut up when they step . . . nothin’ solid abaout it—all like jelly, an’ made o’ sep’rit wrigglin’ ropes pushed clost together . . . great bulgin’ eyes all over it . . . ten or twenty maouths or trunks a-stickin’ aout all along the sides, big as stovepipes, an’ all a-tossin’ an’ openin’ an’ shuttin’ . . . all grey, with kinder blue or purple rings . . . an’ Gawd in heaven—that haff face on top! . . .” (訳: 納屋より大きい……うごめく縄でできていて……卵みたいな形をしていて、何十本もの脚が樽ほど太くて、踏み出すたびに半分閉じる……固い部分は何もない、まるでゼリーみたいで、別々にのたくる縄が押し固められたようで……大きくふくれた目がそこらじゅうにあって……煙突ほど太い口か管が何十本も脇腹に突き出して、みんなが揺れて開いたり閉じたりして……全体は灰色で、青か紫の輪模様があって……ああ神様――あの上にある半分の顔!……) — 「ダニッチの怪」(1929年、カーティス・ウェイトリーの証言), The H. P. Lovecraft Archive
  • [25] “Oh, oh, my Gawd, that haff face—that haff face on top of it . . . that face with the red eyes an’ crinkly albino hair, an’ no chin, like the Whateleys . . . It was a octopus, centipede, spider kind o’ thing, but they was a haff-shaped man’s face on top of it, an’ it looked like Wizard Whateley’s, only it was yards an’ yards acrost. . . .” (訳: ああ、神様、あの半分の顔――あの上にある半分の顔……赤い目とちぢれたアルビノの髪、顎の無いところがウェイトリー家そっくりで……それは蛸か百足か蜘蛛のようなものだったが、その上には半分だけ人間の形をした顔があって、ウィザード・ウェイトリー(老ウェイトリー)にそっくりだった。ただし何ヤードも大きかった……) — 「ダニッチの怪」(1929年、カーティス・ウェイトリーの証言), The H. P. Lovecraft Archive
  • [26] “Ygnaiih . . . ygnaiih . . . thflthkh’ngha . . . Yog-Sothoth . . .” rang the hideous croaking out of space. “Y’bthnk . . . h’ehye—n’grkdl’lh. . . .” (訳: 「イグナイイー……イグナイイー……スフルスクンガー……ヨグ=ソトース……」と、宇宙の彼方から忌まわしいしわがれ声が響いた。「イブスンク……ヘイエ――ングルクドルルー……」) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [27] “Eh-ya-ya-ya-yahaah—e’yayayayaaaa . . . ngh’aaaaa . . . ngh’aaaa . . . h’yuh . . . h’yuh . . . HELP! HELP! . . . ff—ff—ff —FATHER! FATHER! YOG-SOTHOTH! . . .” (訳: エヤ-ヤ-ヤ-ヤハー――エヤヤヤヤヤー……ンガー……ンガー……ヒユー……ヒユー……たすけて!たすけて!……ff――ff――ff――父さん!父さん!ヨグ=ソトース!……) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [28] “The thing has gone forever,” Armitage said. “It has been split up into what it was originally made of, and can never exist again. It was an impossibility in a normal world. Only the least fraction was really matter in any sense we know. It was like its father—and most of it has gone back to him in some vague realm or dimension outside our material universe; some vague abyss out of which only the most accursed rites of human blasphemy could ever have called him for a moment on the hills.”” (訳: 「あの物はもう永遠に消え去った」とアーミテージは言った。「それは本来の構成要素へ分解され、二度と存在することはできない。それは正常な世界においては本来ありえないものだった。私たちの知るいかなる意味においても、実際に物質だったのはほんの一部にすぎなかった。それは父親に似ていた――そしてその大半は、私たちの物質宇宙の外にある、ある漠然とした領域あるいは次元にいる父の元へ帰っていった。人間の冒涜のもっとも呪われた儀式だけが、一瞬なりともそれを丘へ呼び出すことができたであろう、あの漠然とした深淵へと。」) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [29] “You needn’t ask how Wilbur called it out of the air. He didn’t call it out. It was his twin brother, but it looked more like the father than he did.”” (訳: 「ウィルバーがどうやってそれを空中から呼び出したのか、聞く必要はない。彼が呼び出したのではないのだ。それは彼の双子の弟であり、彼よりも父親に似ていた。」) — 「ダニッチの怪」(1929年、アーミテージの説明), The H. P. Lovecraft Archive
  • [30] “but of Their semblance can no man know, saving only in the features of those They have begotten on mankind; and of those are there many sorts, differing in likeness from man’s truest eidolon to that shape without sight or substance which is Them.” (訳: だが彼らの似姿を知りうる人間はいない。ただ彼らが人間との間にもうけた者たちの特徴によってのみ、それを知ることができる。そしてそれらには多くの種類があり、人間のもっとも忠実な似姿に近いものから、姿も実体も持たないあの形――彼ら自身であるところの形――に近いものまで、様々である。) — 「ダニッチの怪」(1929年、ネクロノミコンの一節), The H. P. Lovecraft Archive
  • [31] “the earth-threatening entity which, unknown to him, was to burst forth in a few hours and become the memorable Dunwich horror.”(訳: 彼の知らぬうちに、数時間後には噴き出して忘れがたいダニッチの怪となる、地球を脅かす存在) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [32] “Not from any human throat were they born, for the organs of man can yield no such acoustic perversions.”(訳: それらは人間の喉から生まれたものではなかった。人の器官はそのような音響の倒錯を生み出せないからである) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive
  • [33] “The pallid group in the road, still reeling at the indisputably English syllables that had poured thickly and thunderously down from the frantic vacancy beside that shocking altar-stone, were never to hear such syllables again.”(訳: あの恐るべき祭壇石の傍らの狂った虚空から、濃く雷のように降り注いだ紛れもない英語の音節に、道路の青ざめた一団はなおよろめいていたが、そのような音節を二度と聞くことはなかった) — 「ダニッチの怪」(1929年), The H. P. Lovecraft Archive

FAQ

Q. 双子の弟に固有の名前はあるのですか。A. 本文中には「that upstairs(2階の彼)」[10]という婉曲表現や、アーミテージが説明する「双子の弟(twin brother)」[29]という言い方はあるが、「ダニッチの怪」という語は地の文でこの存在自身にも使われている。第7章はウィルバーが残した存在を「忘れがたいダニッチの怪となる」ものと名指しし[31]、結末部でも「ダニッチの怪が来ては去った」と書く[5]。

Q. カーティスが見た「祖父に似た顔」と、アーミテージが語る「父に似ている」は矛盾しないのですか。A. 矛盾ではなく、原典の中で並立する二つの証言である。カーティス・ウェイトリーは丘の上で目撃した半分の顔が老ウェイトリー(ウィザード・ウェイトリー)にそっくりだったと語り[25]、アーミテージは物語の結末で、それが「父親」に似ていたと説明する[28][29]。ここでの「父親」はヨグ=ソトースを指しており、血縁上の外見的特徴(祖父に似た顔立ち)と、形而上学的な父性(ヨグ=ソトースに似た性質)という異なる二つの類似性が、同じ結末部で並べて語られている。原典はこの二つを一つに統合して説明しておらず、本記事もどちらか一方に絞らない。

Q. 双子の弟は何を食べて成長したのですか。A. ウェイトリー家は誕生直後から牛を買い続けたが納屋の頭数は増えず[5]、ビショップ家では牛の半数が姿を消し残りの牛も血を吸い尽くされていた[16]ことから、牛が糧のひとつだったとみられる。一方でウィルバーの日記は、外側の者たちは人間の血なしには肉体を得られないとも記しており[9]、牛だけでなく人間の血も必要としていたことが示唆される。原典は栄養摂取の仕組みそのものを詳しく説明していない。

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