ビデオゲーム(造船所経営シミュレーション、STEAMで2025年10月16日EARLY ACCESS開始・2026年9月10日正式リリース) — Sunken Engine

Sunken Engine

Two Nomads Studio開発・PlayWay S.A.販売の『Sunken Engine』が、2026年9月10日にEarly Accessを終えて正式版へ移行した。父の急死で継いだ造船所を経営しながら、日々持ち込まれる船にまつわる怪異と正気度の減少に向き合うという設計を、原典の恐怖の型やTRPGのSAN値と比較しながら読み解く。

公開更新作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

記事内に商品プロモーションを含む場合があります
入手する
Sunken Engine 商品画像

東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。本作は特定の原典の翻案ではないため、神話の固有名詞を出典つきで引ける事典を挙げた。

※上記は広告リンク(アフィリエイト)です。価格・在庫・版の詳細は必ずリンク先でご確認ください。

概要

Steam公式ストアページによれば、Two Nomads Studioが開発し、PlayWay S.A.が販売する『Sunken Engine』は、2026年9月10日に正式リリースへ移行した[1]。Early Accessとしての販売開始は2025年10月16日で、約11か月間の早期アクセス期間を経ての正式版移行になる[1]。ジャンルタグにはSimulation、Lovecraftian、Naval、Life Sim、Time Management、Story Rich、Mystery、Atmospheric、Horrorが並び、ストア側は本作を「Lovecraftian Ship Repair Simulation(ラヴクラフト風の船舶修理シミュレーション)」と位置づけている[1]。

価格は通常1,900円で、本稿確認時点(2026年9月12日)では9月24日までの導入記念セールとして40%引きの1,140円で販売されている[1]。ユーザーレビューは全体で779件中81%が好評という「非常に好評」判定だが、直近30日間に限ると39件中69%好評の「賛否両論」に落ち込んでいる[1]。正式版移行の直後というタイミングを踏まえると、この直近評価の落差はローンチ後に生じた不具合や仕様変更への反応である可能性があるが、その内訳は本稿では確認していない。

対応言語は25言語。日本語はインターフェースと字幕に対応するが、フルボイスの対象言語は英語のみで、日本語音声は用意されていない[1]。

正式リリースにあわせて、開発元Two Nomads Studio自身がストアページの告知欄で経緯を説明している。同社は自らを「3人チーム」と記した上で、正式リリースによって物語の全アクトが完結し、結末が新たに追加されたと述べている[1]。あわせて、呪われた船や新たな恐怖の演出、Carnival Area・Forest・City Squareといった新エリア、そして「Gülcemal Ship」と呼ばれる、船内の部屋をプレイヤー自身が組み替えながら探索する新しいパズル要素が加わったことも明かされている[1]。約1年に及んだEarly Access期間の終着点として、開発元自身が物語の「完結」を明言している点は、本作がプレイヤーの操作可能な期間を区切って提供される、終わりのある作品であることを示している。

どんな作品か

ストア説明文によれば、プレイヤーは父の急死後、遺された船舶修理業を存続させる立場に置かれる[1]。仕事は船体の修理にとどまらない。客を満足させ、町の秩序を保ち、そして父が遺した謎を解き明かすことも業務の一部として求められる[1]。新しい船が着くたびに新たな課題と不穏な秘密が持ち込まれるという説明も添えられている[1]。

中心的なシステムが正気度である。日々の仕事中に遭遇する超自然的な出来事が正気度を脅かし、精神的な均衡を失うと仕事そのものが難しくなるだけでなく、「dark entities(暗い存在たち)」の注意を引き寄せてしまうという[1]。ストアの見出しはこの一節を「Dark Horror and Sanity」と題している[1]。生き延びるためには、正気を守りながら仕事を続け、正気度を保つ手立てを見つける必要があるとされる[1]。

収益源は修理費だけではない。海から引き揚げた品を店の裏の露店で売ることもできる。ストア説明文は、町の経済は誰にとっても厳しく、家族を養いながら事業を続けるためには時に真っ当とは言えない手段に踏み込む必要がある、といった趣旨のことも述べている[1]。

進行の軸になるのがライセンスである。ストア説明文は「Ships and Licenses」という項目を設け、新しいライセンスを取得するたびに、より大きく複雑な船種を扱えるようになり、対応できる依頼の幅が広がると説明している。同時に「すべての船が単なる修理仕事とは限らない――一部は暗い物語といわくつきの秘密を伴ってやってくる」という警句も添えられている[1]。事業の規模を広げる進行システムそのものが、怪異と遭遇する機会を増やす仕組みを兼ねている構図がうかがえる。工房の改装や装飾によるカスタマイズ要素も用意されている[1]。

なお、成熟した内容に関する注記として、開発者自身が「ゲーム中のある場面では血痕が見られることがあり、船の中で遺体を発見することもある」と説明している[1]。

恐怖は「日常を壊すもの」から「日常業務に編み込まれたもの」へ

当サイトが正気度の項目で確認した通り、この数値は元来「真実を知ることで狂い死ぬ、あるいは廃人となる」という、原典のキャラクターの結末をゲーム的なパラメーターに置き換えたものである(正気度)。ラヴクラフト作品の探偵役・学究肌の主人公たちは、禁断の知識に触れることで、それまで保っていた日常――学究生活、家族、正気そのもの――を破壊されるという結末をたどることが多い。恐怖は、平穏な日常に外側から侵入し、それを取り返しのつかない形で壊すものとして描かれてきた。

『Sunken Engine』の設計は、この型から外れている。ストア説明文が示す限り、正気度を脅かす超自然現象は「日々の仕事の最中」に起こるものであり、仕事を中断させて主人公を別の生活へ追いやるものではない[1]。正気度が落ちても、プレイヤーは修理という日常業務そのものを続けなければならない。仕事が難しくなり、暗い存在の注意を引くようになってもなお、店を開け、客を迎え、船を直すという営みが止まることはない。恐怖は日常を壊す外部の出来事ではなく、日常業務を回す中でつきまとう負荷として組み込まれている。

同じくクトゥルフ的な題材を日々の生業(なりわい)に溶け込ませた作品として、当サイトは『DREDGE』を扱っている。あちらは漁という生業に邪神的恐怖を重ねた作品だが、恐怖と平穏を昼と夜という時間帯で切り分ける構成を取っていた。穏やかな昼の漁と、何かが迫ってくる夜という対比そのものが、恐怖と日常のあいだに境界線を引いていたわけである。『Sunken Engine』の説明文には、こうした時間帯による明確な区分けへの言及は見当たらない。正気度を脅かす出来事は「日々の仕事」の中に地続きで存在するとされており、恐怖が発生する時間と業務を行う時間が分離されていない点で、DREDGEとは異なる恐怖の配置になっていると読める。

視点を変えれば、『Cultist Simulator』もまた、儀式や信者集めという管理業務の反復にエルドリッチな題材を重ねた作品だった。ただしあちらのプレイヤーは邪教団を率いる側に立ち、恐怖を招き寄せる主体そのものである。『Sunken Engine』のプレイヤーは、あくまで修理業を営む働き手であり、怪異は向こうからやってくる。管理業務の反復にコズミックホラーを溶け込ませるという手法自体は両作に共通するが、プレイヤーが恐怖の発信源側に立つか、恐怖にさらされる労働者側に立つかという点で、逆の構図を取っている。

TRPGのSANチェックとは別物の正気度

正気度をゲームの数値として最初に体系化したのは、ケイオシアム社が1981年に発売したとされるTRPG『クトゥルフの呼び声』であり、ゲームデザイナーのサンディ・ピーターセンらによって数値化されたと伝えられている(正気度、クトゥルフの呼び声TRPG)。当サイトのSANチェックの解説記事で確認した通り、TRPGにおけるSAN値の減少は、特定の恐怖体験に遭遇した場面で判定を行う、一時的狂気や不定の狂気といった個別のイベントとして処理される。探索者が調査という一つのシナリオに区切りを持って臨み、その中で正気を失うかどうかが場面ごとに判定される構造である。これは、卓を囲むあいだだけ持続する、期間の定まった脅威だと言い換えられる。

『Sunken Engine』の正気度は、ストア説明文を読む限り、そうした場面ごとの判定イベントとしてではなく、事業を回し続ける限り常に付きまとう継続的な数値として扱われているとみられる。調査が終われば正気度の心配から解放されるTRPGのシナリオと違い、こちらの正気度は造船所という店を畳まない限り管理し続けなければならない資源である。第3層(TRPG)が生み出した「知ることの恐怖を数値化する」という発想を、投資・生産・販売という経営シムの骨格の上にそのまま移植した結果、正気度は一回性の判定から、体力や資金と並ぶ経営資源の一つへと姿を変えている。

神話の三層のどこにも属さない作品

当サイトは、ラヴクラフト原典・ダーレス以降の拡張・TRPGによる拡張という三層で神話を整理してきた。しかし『Sunken Engine』は、この三層のいずれにも当てはまらない。ストア説明文や開発元・販売元の情報を確認した限り、本作がクトゥルフ神話の版元(現Chaosium)からライセンスを受けた公式作品であることを示す記載は見当たらない。「Lovecraftian」というジャンルタグや、正気度・暗い存在という要素は、原典の設定そのものではなく、原典が生み出した雰囲気を借りた独自創作の範囲にとどまっているとみられる。

これは当サイトが扱ってきた『Call of Cthulhu: Innsmouth』のような、Chaosium公式のTRPGサプリメントとは立場が異なる。あちらは原典の固有名詞(深きものども、インスマスという地名)を継承しつつ、その解釈を拡張する第3層の作品だった。『Sunken Engine』は、固有の神格名や地名を原典から引き継ぐのではなく、正気度・触手・海辺の閉塞的な町といった、後続作品によって一般化されたコズミックホラーの記号を独自の舞台と物語に当てはめた作品と言える。三層のどこに位置づけるかを論じる以前に、そもそも三層の系譜に接続されているかどうか自体が確認できない、という点を押さえておく必要がある。

言い換えれば、『Sunken Engine』が背負っているのは原典やダーレス、TRPGが積み上げてきた特定の設定史ではなく、40年以上かけてゲームという媒体の中で流通してきた「正気度」「触手」「禁忌の知識」といった記号の集積そのものである。三層それぞれが原典との距離を測りながら設定を積み増してきたのに対し、本作のような独自IP作品は、その積み重ねの結果だけを一括して借用し、由来を切り離した上で新しい舞台に置き直している。当サイトが繰り返し確認してきた「その設定は誰が、いつ作ったか」という問いは、本作についてはむしろ「特定の誰かが作った設定ではない」という答えに行き着く。

関連して読むなら

  • DREDGE — 漁という生業に邪神的恐怖を重ねた先行作。昼夜で恐怖と平穏を分ける構成との違いを確認できる
  • Cultist Simulator — 管理業務の反復にオカルトを重ねた作品。プレイヤーが恐怖を招く側に立つ点で対照的
  • 正気度 — 正気度という数値がどこから生まれたかを確認できる用語記事
  • SAN値とは? — TRPGにおけるSANチェックの仕組みを解説した記事。場面ごとの判定という性格の違いを確認できる
  • クトゥルフの呼び声TRPG — 正気度を初めて数値化したとされる1981年のTRPG本体についての記事
  • Call of Cthulhu: Innsmouth — 原典の固有名詞を継承する公式TRPGサプリメントとの対比材料

出典

  • [1] Steam公式ストアページ「Sunken Engine」(2026年9月12日確認)。開発元がTwo Nomads Studio、販売元がPlayWay S.A.であること、正式リリース日が2026年9月10日、Early Accessとしての発売日が2025年10月16日であること、通常価格1,900円・確認時点で40%引きの1,140円(9月24日までの導入記念セール)であること、ユーザーレビューが全体で779件中81%好評(非常に好評)、直近30日間は39件中69%好評(賛否両論)であること、対応言語が25言語でフルボイス対応は英語のみであり日本語はインターフェースと字幕のみの対応であること、ジャンルタグ(Simulation、Lovecraftian、Naval、Life Sim、Time Management、Story Rich、Mystery、Atmospheric、Horror)、ゲーム説明文(父の急死後に継いだ船舶修理業を営むこと、正気度と「dark entities」の関係、海からの引き揚げ品の販売、ライセンスによる修理対象の拡張、工房のカスタマイズ)、成熟した内容に関する注記(血痕・遺体の描写)、および同ページに掲載された開発元Two Nomads Studio自身による正式リリース告知(自社を「3人チーム」と記していること、全アクトの完結と結末の追加、Carnival Area・Forest・City Squareなど新エリアの追加、「Gülcemal Ship」というパズル要素の追加)を確認。https://store.steampowered.com/app/3604780/Sunken_Engine/ ↩

続きを辿る

隣の棚

記事URLをコピーしました