概要
『Bloodborne』は、フロム・ソフトウェアが開発し、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが発売したPlayStation 4専用のアクションRPGです。追加コンテンツ『Bloodborne The Old Hunters』を含め、日本語版・英語版どちらの公式サイトにもいまなお紹介ページが公開されています[1][2]。
この記事が確かめたいことは一点に絞られる。日英どちらの公式ページの本文にも、「クトゥルフ」「ラヴクラフト」「宇宙的恐怖」という語は一度も出てこない[3]。版元がこの作品を説明する言葉は、一貫して「ゴシックホラー」の語彙で組み立てられている。にもかかわらず、この作品はコズミックホラーの代表例として語られ続けている。版元の言葉と、世間での語られ方のあいだにあるこの落差を、当サイトは本稿の主題として扱う。
なお本作は、当サイトが神話作品を分類するときに使う「原典(1917-1937年)/ダーレス以降の拡張(1939年-)/TRPGによる拡張(1981年-)」という三層の枠組みのどれにも属さない。版元が公式にクトゥルフ神話作品だと名乗ったことは一度もなく、当サイトはこの作品を三層の外にある読まれ方として扱う。
版元が説明する『Bloodborne』——古都ヤーナムと獣の病
日本語公式ページは、この作品を次のように紹介する。
SIE JAPANスタジオ×フロム・ソフトウェアの最強タッグ再び――PS4で“革新”と“死闘”の夜が始まる[1]
アクションRPGの金字塔『Demon’s Souls(デモンズソウル)』を生み出したタッグ、SIE JAPANスタジオとフロム・ソフトウェアが再び手を組み贈る『Bloodborne(ブラッドボーン)』。[1]
舞台となる街の説明も、公式の言葉をそのまま引く。
舞台は、人が獣と化す奇妙な風土病“獣の病”が蔓延する古都ヤーナム。19世紀ヴィクトリア時代をモチーフにした数々のゴシック建築や宗教彫刻が立ち並ぶこの街は、“血を利用した民間医療”が発展した背景を持つ。それゆえに多くの病み人たちが最後の希望を求め、この異様な静けさに包まれた街を訪れる。[1]
だがヤーナムの住人たちは異邦人に冷たく、街に隠された秘密を語ろうとはしない。待ち受けるのは、気の触れた住民たちが人と獣の見境なく襲い掛かる“獣狩りの夜”……。[1]
英語公式ページも、同じ古都ヤーナムをこう紹介している。
Hunt your nightmares as you search for answers in the ancient city of Yharnam, now cursed with a strange endemic illness spreading through the streets like wildfire.(訳: 悪夢を狩りながら、答えを求めて古都ヤーナムをさまよえ。この街はいま、街路を燎原の火のように広がる奇妙な風土病に呪われている。)[2]
-A Terrifying New World: Journey to a horror-filled gothic city where deranged mobs and nightmarish creatures lurk around every corner.(訳: 恐ろしい新世界――至る所に錯乱した群衆と悪夢のような怪物が潜む、恐怖に満ちたゴシックな街へ旅立て。)[2]
版元がこの作品を語るときに選ぶ言葉は、ここまで一貫している。古都、風土病、ゴシック建築、獣。恐怖の質を言い表す語として公式ページが選んでいるのは常に「ゴシック」であり、「宇宙的」ではない。
戦いかた——リゲインと仕掛け武器
戦闘の仕組みについて、日本語公式ページはこう説明する。
敵の攻撃によりダメージを受けた場合、一定時間内にカウンター攻撃を決めることができれば、体力が回復するシステム“リゲイン”。本作では、積極的な攻めの姿勢こそが最大の防御となる。[1]
攻撃は、銃と仕掛け武器の2つを切り替えて行う。中でも狩人特有の仕掛け武器は豊富な種類が用意されており、その選択によって多彩なプレイスタイルを可能にする。[1]
公式ページが例として挙げる仕掛け武器は、それぞれ変形の仕方が異なる。
- 獣狩りの短銃「水銀の銃弾を発射する標準的な銃で、素早い射撃による迎撃を得意とする。」[1]
- ノコギリ鉈「変形前は獣の皮肉を裂くノコギリとして、変形後は遠心力を利用する長柄の鉈(ナタ)としてそれぞれ機能する。」[1]
- 教会の石鎚「重く巨大な石の鈍器の鞘に、扱いやすい銀の剣を収めた、極端な二面性を持つ武器。医療教会に属する狩人が用いたという。」[1]
- 仕込み杖「硬質の杖は、仕掛けを起動することで刃の鞭になる。」[1]
銃と仕掛け武器を切り替えながら戦うという説明のとおり、公式ページが強調しているのは攻撃手段の選択肢の広さであり、その先にどんな存在が待つのかについては、この段階ではまだ語られていない。
聖杯ダンジョンとオンライン
日本語公式ページの仕様欄によれば、本作のオンラインプレイにはPlayStation Plusへの加入が必須で、対応人数は5人までとされている[1]。基本は1人用のゲームでありながら、他の狩人との協力プレイがシステムとして組み込まれている。
聖杯ダンジョンについて、日本語公式ページはこう説明する。
ヤーナムの地下には遺跡が幾層にもわたって横たわっており、それは見る者によって姿を変えるという。この聖杯ダンジョンは儀式によって生成され、その都度構造が変化する。[1]
英語公式ページの説明も、この仕組みを踏まえている。
-Ever-changing Chalice Dungeons to Explore: Use holy chalices to gain entrance to a network of vast underground ruins, filled with traps, beasts, and rewards, to explore and conquer alone or with others.(訳: 常に姿を変える聖杯ダンジョンを探索せよ――聖なる杯を用いて、罠と獣と報酬に満ちた広大な地下遺跡の連なりへ入り込み、ひとりで、あるいは他者とともに踏破せよ。)[2]
儀式によって生成され、見る者によって姿を変えるという聖杯ダンジョンの説明は、固定された一つの正解を持たない場所として描かれている点で、ここまでの古都ヤーナムの説明とは少し毛色が違う。
DLC『The Old Hunters』
追加コンテンツ『Bloodborne The Old Hunters』は、日本語公式ページによれば価格¥2,200で配信された[1]。新たな舞台と物語について、公式ページはこう紹介する。
新たなマップを舞台に、本編で語られることがなかった物語が描かれる。待ち受けるのは、夢をなくし、血に酔った古狩人たちをはじめとした新たな敵。[1]
このDLCの適用によって、音声の切り替えも可能になったという。
本DLCを適用することで、日本語音声と英語音声の切り替えが可能に。[1]
本編の外側に置かれた物語という位置づけながら、ここでも語られるのは「古狩人」「血」といった、これまでの説明と同じ語彙の延長線上にある言葉だけで、新しい種類の恐怖の名前が付け加えられるわけではない。
公式ページに一度も出てこない言葉
ここからが本稿の芯になる。当サイトは2026-09-19、日本語公式ページ・英語公式ページ両方の本文を文字列検索し、特定の語が何回出てくるかを数えた[3]。結果は次の通りだった。
| 語 | 日本語公式 | 英語公式 |
|---|---|---|
| クトゥルフ / Cthulhu | 0回 | 0回 |
| ラヴクラフト / Lovecraft | 0回 | 0回 |
| 宇宙 / cosmic | 0回 | 0回 |
| 上位者 | 0回 | — |
| 神話 | 0回 | — |
| eldritch | — | 0回 |
| ゴシック / gothic | 1回 | 2回 |
| ヤーナム / Yharnam | 5回 | 1回 |
「クトゥルフ」「Cthulhu」は日英どちらのページにも一度も出てこない。「ラヴクラフト」「Lovecraft」も同様に0回。「宇宙」「cosmic」も0回。日本語ページに限って数えた「上位者」「神話」も一度も現れず、英語ページに限って数えた「eldritch」も0回だった[3]。
一方で「ゴシック」は日本語ページに1回、“gothic”は英語ページに2回登場する。舞台の固有名「ヤーナム」「Yharnam」は、日本語ページで5回、英語ページで1回使われている[3]。
この数字が示しているのは単純な事実だ。版元はこの作品を最後まで、「ゴシック建築の並ぶ古都」「獣の病」「ゴシックな街」という言葉だけで説明している。クトゥルフ神話という語彙は、当サイトが確認した限り、版元の公式資料のどこにも一度も登場しない。
当サイトには、「クトゥルフ」を掲げない作品をどう扱うかを論じたコラムがある。本作はまさにこの問いの実例であり、版元が一度も神話作品だと名乗っていない作品が、なぜコズミックホラーの代表例として語られ続けるのか、という問いをそのまま体現している。
原典のどの型と重ねて読むか
版元の言葉に固有名詞を足さないまま、当サイトはこの作品を原典の型と重ねて読んでいる。以下はあくまで当サイト自身の読みであり、版元がこの対応関係を公式に認めたことは一度もない。
日本語公式ページは、ヤーナムの住人について「異邦人に冷たく、街に隠された秘密を語ろうとはしない」と書く[1]。よそ者を寄せつけず、秘密を抱えたまま暮らす街という構図を、当サイトはインスマスの記事で確認した原典の型と重ねて読んでいる。原典が描くインスマスもまた、海の向こうの何かとの婚姻によって生まれた一族が、外部の人間には真実を決して語らないまま、何世代も暮らし続ける町だった。
またヤーナムは「血を利用した民間医療」が発展した街だとも紹介されている[1]。人ならざるものに由来する何かを血として体に取り込むことで、街のありようそのものが変わっていく、という発想を、当サイトはダニッチの怪でヨグ=ソトースが人間の女性ラヴィニア・ウェイトリーに子を産ませるという筋書きと重ねて読んでいる。人間の理解を超えた何かが、血や身体を介して人間の側に入り込んでくるという構図は、両者に共通している。
聖杯ダンジョンについて、版元は「それは見る者によって姿を変えるという」と書く[1]。同じ場所でも見る者によって見え方が変わる、という一文を、当サイトはFrom Beyondの型と重ねて読んでいる。原典のFrom Beyondが描くのは、装置によって知覚の枠が外れ、それまで見えていなかったものが初めて見えるようになる、という恐怖だった。聖杯ダンジョンが「見る者によって姿を変える」という版元の説明は、実在そのものが観測する側の在り方に左右される、という同じ型の変奏として当サイトは読んでいる。
閉ざされた町、血を介した侵入、見る者によって変わる実在——この三つの型は、版元がゴシックホラーの語彙で説明する物語の表層の下に、当サイトが読み取っている構造にすぎない。版元自身がこの読みを認めたことは一度もなく、あくまで当サイトの解釈として記録しておく。
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- ダニッチの怪 — ヨグ=ソトースが人間の女性に子を産ませる筋書きを確認できる原典
- インスマス — よそ者を寄せつけない閉ざされた町という型の原典
- From Beyond — 知覚の枠が外れることで実在の見え方が変わるという型の原典
- クトゥルフ — 版元が本作を語るときに一度も使わない語そのものについての当サイトの記事
- 正気度 — クトゥルフ神話TRPGの用語集にある関連項目
出典
- [1] 「SIE JAPANスタジオ×フロム・ソフトウェアの最強タッグ再び――PS4で“革新”と“死闘”の夜が始まる」というキャッチコピー、古都ヤーナムが“獣の病”という風土病に見舞われていること、19世紀ヴィクトリア時代モチーフのゴシック建築・宗教彫刻が立ち並ぶこと、“血を利用した民間医療”が発展した背景を持つこと、ヤーナムの住人が異邦人に冷たく秘密を語らないこと、“獣狩りの夜”という呼称、カウンター攻撃で体力が回復する“リゲイン”の仕組み、銃と仕掛け武器を切り替える戦闘方式、獣狩りの短銃・ノコギリ鉈・教会の石鎚・仕込み杖という仕掛け武器の紹介文、オンラインプレイにPS Plusが必須で5人までのPS Plusオンラインプレイヤーに対応すること、聖杯ダンジョンが儀式によって生成され見る者によって姿を変えること、DLC『Bloodborne The Old Hunters』の価格¥2,200、DLCで新たなマップと“血に酔った古狩人たち”が登場すること、DLC適用で日本語音声・英語音声を切り替えられることの記載を確認 — PlayStation公式サイト「Bloodborne」(日本語版)(取得日 2026-09-19) — https://www.playstation.com/ja-jp/games/bloodborne/ ↩
- [2] “Hunt your nightmares as you search for answers in the ancient city of Yharnam, now cursed with a strange endemic illness spreading through the streets like wildfire.”, “-A Terrifying New World: Journey to a horror-filled gothic city where deranged mobs and nightmarish creatures lurk around every corner.”, “-Ever-changing Chalice Dungeons to Explore: Use holy chalices to gain entrance to a network of vast underground ruins, filled with traps, beasts, and rewards, to explore and conquer alone or with others.” の記載を確認 — PlayStation公式サイト「Bloodborne」(英語版)(取得日 2026-09-19) — https://www.playstation.com/en-us/games/bloodborne/ ↩
- [3] 当サイトが2026-09-19に、上記[1][2]の日本語公式ページ・英語公式ページを取得し、その本文テキストに対する文字列検索で、「クトゥルフ/Cthulhu」「ラヴクラフト/Lovecraft」「宇宙/cosmic」「上位者」「神話」「eldritch」「ゴシック/gothic」「ヤーナム/Yharnam」の出現回数を数えた結果を確認 — PlayStation公式サイト「Bloodborne」日本語版・英語版(取得日 2026-09-19) — https://www.playstation.com/ja-jp/games/bloodborne/ / https://www.playstation.com/en-us/games/bloodborne/ ↩
