TRPG — Cthulhu Dark

Cthulhu Dark

極限までルールを削ぎ落とし、無力感を鋭く描くミニマルなホラーTRPG。短編セッション向け。

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概要

『Cthulhu Dark』は、グレアム・ウォームズリー(Graham Walmsley)によるクトゥルフ神話TRPGで、ルールをぎりぎりまで削り落とした設計で知られる。この記事が典拠とするのは、Pelgrane Press公式サイトに2017年6月1日付で掲載された、ウォームズリー本人の署名記事「Cthulhu Dark」である[1]。記事は「クトゥルフ・ダークのアイデアをどこで得たのか」と聞かれたときに話す3つの逸話という体裁を取り、当時進行中だったKickstarterへの言及とともに、自作の成り立ちを一人称で振り返っている[1]。

原型はわずか2ページのルールだった。ウォームズリーが自分のトレイル・オブ・クトゥルー用シナリオの特装版に添えて、コンベンションの会場で手売りするために書いたのが出発点になっている(詳しくは後述)。記事の時点では、そこから育った拡張版がKickstarterにかかっていた。

ダイスは3個まで——何を賭けるかで数が決まる

判定の仕組みは、本人の言葉でこう説明されている。

When you want to do something in Cthulhu Dark, you roll one die if what you’re doing is within human capabilities, one die if your occupation is relevant and one die if you risk your mind to succeed. The highest die tells you how well you do.[1]

(訳: クトゥルフ・ダークで何かをしようとするとき、それが人間の能力の範囲内にあるならダイスを1個、職業が関係しているならダイスを1個、正気を懸けて成功を目指すならさらにダイスを1個振る。最も高い目が、どれだけうまくいったかを示す。)

技能の熟達度に応じてダイスの数やボーナスが増減するTRPGは多いが、ここでダイスの数を決めているのは腕前ではない。素手でできることなら1個、職業知識が絡めば1個、そこに正気を懸けるならもう1個。技能値の高低は判定に関与しない。

判定の対象も、技能リストに縛られていない。同じ記事で本人はこう続けている。

You can roll for anything, not just something you have a skill in: if you want to control your dreams, remember a childhood memory or decipher mystical carvings, you can roll for it.[1]

(訳: 技能を持っているものに限らず、何にでもロールできる。夢を制御したい、子供の頃の記憶を思い出したい、神秘的な彫刻を解読したい――そう思えば、そのためにロールしていい。)

キャラクターシート上の技能一覧を引くのではなく、プレイヤーが「何をしたいか」「何を賭ける気があるか」をその場で申告する形で判定が組み立つ。ダイスが3個を超えない理由もここにある。賭けられるものは「人間の能力」「職業」「正気」の3種類しかなく、それ以上は増えようがない。

6が出たとき——知りたくないことまで知る

ダイス目の高さが伝えるのは、成功か失敗かではなく「どれだけの情報を得るか」である。

And the higher you roll, the more you find out. But, if you roll a 6, you find out more than you wanted to know and glimpse the horror.[1]

(訳: 出目が高いほど、より多くのことがわかる。しかし6が出た場合、知りたかった以上のことがわかり、恐怖を垣間見ることになる。)

高い目は単なる良い結果ではない。最高の6という出目は、知りたかった範囲を超えて踏み込んでしまうという代償を連れてくる。情報を求めてダイスを振る行為そのものが、望んでいた以上のものを覗き込むリスクと表裏一体になっている。

この仕組みは、手がかりの扱い方とも噛み合っている。

In Cthulhu Dark, just like in Trail of Cthulhu, you can’t fail to find information if you need it to proceed with the scenario.[2]

(訳: クトゥルフ・ダークでは、トレイル・オブ・クトゥルーと同じく、シナリオを進めるために必要な情報を見つけ損なうことはない。)

シナリオの進行に必須の手がかりは、ロールの成否にかかわらず手に入る。ダイスが左右するのは「手がかりが手に入るかどうか」ではなく、「その過程でどこまで深く、どれだけ望まない形で踏み込むか」のほうである。

神話生物には勝てない、とルールに書いてある

戦闘についても、本人ははっきりと書いている。

And I use the bleak horror I developed in my Trail of Cthulhu scenarios, but this time I write it into the rules: in Cthulhu Dark, you can’t beat any Mythos creature in a fight. You must find another way instead: run, hide or watch helplessly and await your fate.[2]

(訳: 私はトレイル・オブ・クトゥルーのシナリオで培った救いのない恐怖を、今回はルールそのものに書き込んだ。クトゥルフ・ダークでは、どんな神話生物にも戦闘で勝つことはできない。逃げる、隠れる、あるいは為す術もなく運命を見届けるしかない。)

弱いから負けるのではなく、戦って勝つという選択肢そのものがルール上存在しない。トレイル・オブ・クトゥルーのシナリオ執筆で培った演出上のノウハウを、今回はルールブックの条文として明文化したと本人が述べている通り、これは雰囲気づくりの提案ではなく、ダイスを振る前提そのものを縛る規定である。プレイヤーに残される手段は、逃走・潜伏・そして為す術のない静観の3つだけになる。

生まれかた——GUMSHOEへの冗談から

記事は、この仕組みがどこから生まれたかを3つの逸話で振り返っている。

一つ目は、ゲーム仲間との雑談だった。13th Ageのセッション前、Pelgrane PressのSimon Rogersと話していたとき、話題はネット上で見つけたあるGUMSHOEの改造ルールに及んだ。

Specifically, we’re talking about a GUMSHOE hack we’ve found on the Internet, in which you roll dice rather than spending points. I joke about this: why would you want to replace points with dice? Isn’t the point-spend system one of the best things about GUMSHOE?[3]

(訳: 具体的には、私たちはネットで見つけたあるGUMSHOEの改造ルールについて話していた。ポイントを消費する代わりにダイスを振るというものだ。私はこれを冗談交じりにこう言う。なぜポイントをダイスに置き換えたいんだ? ポイント消費のシステムこそ、GUMSHOEの一番の美点じゃないか?)

軽口のつもりが、そのまま設計の種になった。

True to form, I start thinking how GUMSHOE might work with dice. Maybe, I think, the dice don’t tell you whether you succeed, but how well you succeed and what you find out. Then I let that idea sit in my subconscious for a few years.[3]

(訳: いつも通り、私はGUMSHOEがダイスでどう動くかを考え始める。ダイスが教えてくれるのは成功するかどうかではなく、どれだけうまく成功し、何がわかるかではないか。そう思いついたところで、そのアイデアを何年か自分の無意識に寝かせておくことにする。)

二つ目の逸話は、実務的な必要から生まれている。ウォームズリーは自作のトレイル・オブ・クトゥルー用シナリオ「Dance in the Blood」「Watchers in the Sky」を、血や膿を模したマニキュアを垂らした特装版に仕立てて、英国のコンベンションで手売りしていた。売り場に立ちながら、その特装版に短いルールを添えて、買った人がそのまま遊べるようにしたいと考え始めたという。名前の候補として「Cthulhu Light」も一瞬頭をよぎったが、すぐに退けている。

Maybe, I think, I could call it Cthulhu Light. But, wait, you can’t call a Lovecraftian horror game “light”. It would have to be…[3]

(訳: もしかしたら「クトゥルフ・ライト」と呼べるかもしれない、と思う。でも待て、ラヴクラフト風のホラーゲームを「ライト」とは呼べない。だとしたら、これは……)

ダイスの核となる仕組みには、他のデザイナーからの影響が明記されている。

And so I design Cthulhu Dark. I’m inspired by the simple-but-beautiful die mechanics of Ron Edwards’ Sorcerer.[3]

(訳: こうして私はクトゥルフ・ダークを設計する。着想を得たのは、ロン・エドワーズの『Sorcerer』が持つ、シンプルで美しいダイスの仕組みだ。)

こうして書き上げた最初の2ページ版は、そのまま遊べる形で長く使われ続けた。

That’s how I wrote the original two-page Cthulhu Dark, which you can still read and play. Since then, the rules have had years of play. They are as solid as they’ll ever be.[3]

(訳: こうして私は、最初の2ページ版のクトゥルフ・ダークを書き上げた。今でも読んで遊べる。それ以来、このルールは何年ものプレイを重ねてきた。もうこれ以上は望めないくらい、しっかりしたものになっている。)

三つ目の逸話は、その2ページ版を経験豊富なプレイヤーたちと遊んだ後の会話から始まる。「これを分厚いルールブックにして出す予定はあるのか」と聞かれ、冗談のつもりで答えたところから、本当にルールブックへの拡張が動き出したと本人は振り返っている。設定は複数用意され、本人がケイトリン・ジェンキンス(Kathryn Jenkins)とヘレン・グールド(Helen Gould)という2人の書き手と組んで作り上げたという。

Over the next few years, all of this became the Cthulhu Dark rulebook. I worked with other authors, Kathryn Jenkins and Helen Gould, to create the settings, which are London 1851, Arkham 1692, Jaiwo 2017 and Mumbai 2037.[3]

(訳: その後の数年で、これらすべてがクトゥルフ・ダークのルールブックになった。私は他の書き手であるケイトリン・ジェンキンスとヘレン・グールドとともに、ロンドン1851年、アーカム1692年、ジャイウォ2017年、ムンバイ2037年という設定を作り上げた。)

It’s taken five years, but my two-page game has become my dream Cthulhu system.[3]

(訳: 5年かかったが、私の2ページのゲームは、私が思い描いていたクトゥルフ体系になった。)

2ページの手売り版から5年をかけて育ち、その間にKickstarterが進んでいた――記事がたどっているのは、そこまでの経過である。

3つの体系の描き分け(作者自身の整理)

記事の終盤で、ウォームズリーは自分の作品を含めた3つの体系を並べて、それぞれの違いを整理している。

But, to me, every Cthulhu system gives a new way to look at Lovecraftian horror. Call of Cthulhu was the original, focussing on sanity, with a side order of combat. Trail of Cthulhu focussed on investigation. And Cthulhu Dark is engineered for bleak, cosmic horror.[4]

(訳: 私にとって、クトゥルフ物のシステムはそれぞれが、ラヴクラフト的ホラーを見る新しい角度を与えてくれる。クトゥルフの呼び声は原点であり、正気度に主軸を置きつつ、戦闘を添え物として持っていた。トレイル・オブ・クトゥルーは調査に主軸を置いた。そしてクトゥルフ・ダークは、救いのない宇宙的恐怖のために設計されている。)

ここで並んでいるのは「正気度+戦闘」「調査」「宇宙的恐怖」という3つの主軸で、それぞれがクトゥルフの呼び声・トレイル・オブ・クトゥルー・クトゥルフ・ダークの順に割り当てられている。前2作は本人自身が執筆に関わった、あるいは強く意識している体系であり、この整理は外部の評者によるものではなく、設計者本人が自作を含めて下した位置づけになる。

この整理は、どれか一つを選ぶよう勧める話にはなっていない。

You don’t need to abandon your current system. You don’t need to commit to Cthulhu Dark exclusively. It won’t get jealous. Steal all the best bits from the Cthulhu Dark rulebook and use them in Trail of Cthulhu. I won’t mind.[4]

(訳: 今使っているシステムを捨てる必要はない。クトゥルフ・ダークに一本化する必要もない。このゲームは嫉妬したりしない。クトゥルフ・ダークのルールブックからいいところを全部盗んで、トレイル・オブ・クトゥルーで使えばいい。私は気にしない。)

3つの体系を、対立するものではなく目的に応じて使い分ける道具として並べている。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

当サイトが整理する原典/ダーレス系拡張/TRPGによる拡張という三層に沿って言えば、『Cthulhu Dark』という作品そのものは1981年以降のTRPGによる拡張の層に属する制作物である。ここまで見てきたルール――3個までのダイス、出目6の効果、神話生物に戦闘で勝てないという規定――は、いずれもTRPGという媒体のために新しく組み上げられた仕組みであり、ラヴクラフトの小説そのものに書かれている記述ではない。

一方で、ウォームズリー自身が「クトゥルフ・ダークは、救いのない宇宙的恐怖のために設計されている」と述べている通り、この仕組みが狙っている手触りは原典の側にある。神話生物と戦って勝てないという規定も、正気を懸けてダイスを振るという判定の枠組みも、人間の力が及ばない何かに触れてしまうという、原典が繰り返し描いてきた感覚をルールという形で再現しようとする試みである。この作品は、層としてはTRPGの拡張に属しながら、そこで狙っている恐怖の質については原典の側を向いている。

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出典

  • [1] ダイスの仕組み「When you want to do something in Cthulhu Dark, you roll one die if what you’re doing is within human capabilities, one die if your occupation is relevant and one die if you risk your mind to succeed. The highest die tells you how well you do.」、判定対象の広さ「You can roll for anything, not just something you have a skill in: if you want to control your dreams, remember a childhood memory or decipher mystical carvings, you can roll for it.」、出目6の効果「And the higher you roll, the more you find out. But, if you roll a 6, you find out more than you wanted to know and glimpse the horror.」を確認 — グレアム・ウォームズリー「Cthulhu Dark」(Pelgrane Press公式サイト, 2017年6月1日掲載, 取得日 2026-09-18)、https://pelgranepress.com/2017/06/01/cthulhu-dark/ ↩
  • [2] 手がかりの取りこぼしがない旨「In Cthulhu Dark, just like in Trail of Cthulhu, you can’t fail to find information if you need it to proceed with the scenario.」、神話生物と戦って勝てない旨「And I use the bleak horror I developed in my Trail of Cthulhu scenarios, but this time I write it into the rules: in Cthulhu Dark, you can’t beat any Mythos creature in a fight. You must find another way instead: run, hide or watch helplessly and await your fate.」を確認 — グレアム・ウォームズリー「Cthulhu Dark」(Pelgrane Press公式サイト, 2017年6月1日掲載, 取得日 2026-09-18)、https://pelgranepress.com/2017/06/01/cthulhu-dark/ ↩
  • [3] 生まれた経緯として、GUMSHOEの改造ルールをめぐる冗談「Specifically, we’re talking about a GUMSHOE hack we’ve found on the Internet, in which you roll dice rather than spending points. I joke about this: why would you want to replace points with dice? Isn’t the point-spend system one of the best things about GUMSHOE?」、そこから着想が育つ経過「True to form, I start thinking how GUMSHOE might work with dice. Maybe, I think, the dice don’t tell you whether you succeed, but how well you succeed and what you find out. Then I let that idea sit in my subconscious for a few years.」、名称を巡る逡巡「Maybe, I think, I could call it Cthulhu Light. But, wait, you can’t call a Lovecraftian horror game “light”. It would have to be…」、Sorcererからの影響「And so I design Cthulhu Dark. I’m inspired by the simple-but-beautiful die mechanics of Ron Edwards’ Sorcerer.」、2ページ版の定着「That’s how I wrote the original two-page Cthulhu Dark, which you can still read and play. Since then, the rules have had years of play. They are as solid as they’ll ever be.」、ルールブック版の設定と共著者「Over the next few years, all of this became the Cthulhu Dark rulebook. I worked with other authors, Kathryn Jenkins and Helen Gould, to create the settings, which are London 1851, Arkham 1692, Jaiwo 2017 and Mumbai 2037.」、完成までの期間「It’s taken five years, but my two-page game has become my dream Cthulhu system.」を確認 — グレアム・ウォームズリー「Cthulhu Dark」(Pelgrane Press公式サイト, 2017年6月1日掲載, 取得日 2026-09-18)、https://pelgranepress.com/2017/06/01/cthulhu-dark/ ↩
  • [4] 3つの体系の描き分け「But, to me, every Cthulhu system gives a new way to look at Lovecraftian horror. Call of Cthulhu was the original, focussing on sanity, with a side order of combat. Trail of Cthulhu focussed on investigation. And Cthulhu Dark is engineered for bleak, cosmic horror.」、他システムとの併用を勧める一文「You don’t need to abandon your current system. You don’t need to commit to Cthulhu Dark exclusively. It won’t get jealous. Steal all the best bits from the Cthulhu Dark rulebook and use them in Trail of Cthulhu. I won’t mind.」を確認 — グレアム・ウォームズリー「Cthulhu Dark」(Pelgrane Press公式サイト, 2017年6月1日掲載, 取得日 2026-09-18)、https://pelgranepress.com/2017/06/01/cthulhu-dark/ ↩

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