地名(滅亡した古代都市) — SARNATH

サルナス

原典

ムナールの地の大いなる湖畔に一万年前栄えた都市。先住都市イブを滅ぼした報いとして、繁栄の絶頂で一夜にして滅び去ったとされる、因果応報譚の舞台。

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サルナス

「世界の驚異にして全人類の誇りは、壮麗なるサルナスであった。その城壁は砂漠から切り出され磨き上げられた大理石でできており、高さ三百キュビト、幅七十五キュビトあって、その頂上を戦車で走らせても互いにすれ違えるほどであった」

— H・P・ラヴクラフト「サルナスの滅亡」(1920年発表)

概要

ラヴクラフト「サルナスに到りし禍」に登場する、ムナールの地の大いなる湖畔に一万年前栄えた都市。世界の驚異と称されるまでに繁栄したが、かつてその地にあった先住都市イブを滅ぼした報いとして、祝祭の夜に一夜にして滅び去ったと語られる[6]。因果応報・驕りに対する天罰という民話的骨格を持つ、ラヴクラフト初期の夢の国連作の代表作の一つ。

基本プロフィール

  • 分類: 地名(滅亡した古代都市)
  • 欧文表記: SARNATH
  • 初出・出典: 「サルナスに到りし禍」(1919年12月3日執筆/1920年6月、アマチュア誌にて発表)
  • 地理設定: ムナールの地、大いなる湖の畔

由来・モデル

サルナスは夢の国(あるいは太古の伝説的過去)に属する都市とされ、現実の地球地理上の特定地点との対応関係は原典に明記されていない。物語自体は民話・寓話的な構造(驕った文明が先住者を滅ぼした報いを受けて滅びる)を持ち、ラヴクラフト自身が古代メソポタミア文明やロード・ダンセイニの幻想文学から着想を得たとされる作風の一編である。

歴史・年表

物語で語られる年表は以下の通り。

  • サルナス建設以前: 湖畔には元来、灰色の石の都市イブがあり、湖そのものと同じくらい古く、見るも快くない姿の存在たちが住んでいた——膨らんだ目、たるんだ分厚い唇、奇妙な耳を持ち、声を持たなかったとされる[1]。彼らは水蜥蜴の神ボクルグを崇めていた。
  • サルナス建設: より頑健な部族がムナールの地・湖畔にたどり着き、貴金属が産出する場所にサルナスを築いた[2]。サルナスはやがて強大かつ学識高く美しい都市へと成長し、周辺都市を征服する軍を送り出すまでになった[2]
  • イブの滅亡: サルナスの若い戦士たちがイブへ進軍し、その住人をことごとく殺し、奇怪な亡骸を湖へ沈めた[3]。彼らはイブの民が崇めていた緑色の偶像ボクルグだけを、征服の証としてサルナスへ持ち帰った[3]
  • 偶像の消失と大祭司の死: 偶像が神殿に安置された夜、湖の上空に奇妙な光が見られ、恐るべき何かが起きたらしい[4]。翌朝、偶像は消え失せており、大祭司タラン=イシュは祭壇に震える手で「禍(DOOM)」の印を刻みつけて息絶えていた[4]
  • 繁栄の絶頂と滅亡: それから千年、サルナスは富と歓楽の都として栄え続けたが、イブ滅亡千周年を祝う盛大な祝祭の夜、青銅の門が突如開け放たれ、恐怖に取り憑かれた群衆がなだれ出る。翌朝、五千万の民が住んだはずの都市はまるごと消え失せ、忌まわしい緑色の水蜥蜴だけが湖畔の湿地を這うばかりとなっていた[5]

性質・特徴

「サルナスに到りし禍」は、驕った文明が先住民を虐殺し、その報いを受けて滅びるという、単純だが強い構図を持つ寓話であり、ラヴクラフトの他の宇宙的恐怖作品とは異なり、明確な「因果応報」のメッセージ性を持つ点が特徴。物語は「禍はサルナスに到った」という一文で締めくくられ[6]、この簡潔な結句は本作を象徴する一節として頻繁に引用される。

関連する人物・存在

  • ボクルグ: イブの民が崇めていた水蜥蜴の神。サルナスがこの神の偶像を戦利品として奪ったことが、都市滅亡の直接の引き金になったとされる。深淵書架では神格記事として別途詳述している。
  • ウルタール: 同じ夢の国の因果応報譚として並び称される町。猫を殺した老夫婦が報いを受けるウルタールの物語と、先住民を滅ぼした都市が報いを受けるサルナスの物語は、構造的に対をなす姉妹編として扱われることが多い。

主要登場作と読みどころ

  • 「サルナスに到りし禍」(1919年執筆): 本作そのもの。中心となる原典。繁栄の絶頂で唐突に滅びが訪れる展開の落差、そして最後まで「何が起きたか」を直接描写せず、消えた都市と這い回る水蜥蜴という結果だけを提示する語りの手法が読みどころ。

よくある誤解

Q. サルナスは実在するどこかの都市がモデルなのですか?

A. いいえ。サルナスは伝説的な太古の時代・夢の国に属する都市として描かれ、現実の地球地理上の特定の場所との対応関係は原典に明記されていません。

Q. サルナスを滅ぼしたのは誰(何)だったのですか?

A. 原典では、偶像を奪われたことに対するイブの民(あるいはボクルグ自身)の報復であることが強く示唆されますが、破壊行為そのものの主体や具体的な過程は直接描写されません。祝祭の夜に忽然と都市が消え失せ、水蜥蜴だけが残されたという結果のみが語られ、詳細は読者の想像に委ねられています。

出典

  • [1] “the grey stone city of Ib, which was old as the lake itself, and peopled with beings not pleasing to behold… they had bulging eyes, pouting, flabby lips, and curious ears, and were without voice.”(訳: 「灰色の石の都市イブは、湖そのものと同じくらい古く、見るも快くない存在たちが住んでいた……彼らは膨らんだ目、たるんだ分厚い唇、奇妙な耳を持ち、声を持たなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Doom That Came to Sarnath”(1920年), 公式アーカイブ
  • [2] “certain tribes, more hardy than the rest, pushed on to the border of the lake and built Sarnath at a spot where precious metals were found… Sarnath waxed mighty and learned and beautiful, and sent forth conquering armies.”(訳: 「より頑健な部族が湖の畔まで進み、貴金属が見つかる場所にサルナスを築いた……サルナスは強大かつ学識高く美しく育ち、征服の軍を送り出した」) — 同上
  • [3] “the young warriors…marched against Ib and slew all the inhabitants thereof…This the young warriors took back with them to Sarnath as a symbol of conquest over the old gods.”(訳: 「若き戦士たちは……イブへ進軍しその住人をことごとく殺した……若き戦士たちはこれを、古き神々に対する征服の証としてサルナスへ持ち帰った」) — 同上
  • [4] “Taran-Ish had scrawled upon the altar of chrysolite with coarse shaky strokes the sign of DOOM.”(訳: 「タラン=イシュは、貴橄欖石の祭壇に、荒々しく震える筆致で『禍』の印を書き殴っていた」) — 同上
  • [5] “the detestable green water-lizard”(訳: 「忌まわしい緑色の水蜥蜴」)が五千万の民が住んだはずの地を這うばかりとなった、と原文は伝える — 同上
  • [6] “DOOM had come to Sarnath.”(訳: 「禍はサルナスに到った」) — 同上
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