短編小説 — THE LURKING FEAR

潜み棲む恐怖

1921年夏、キャッツキル山地の掘っ立て小屋の集落が、雷雨の一夜で全滅する。75人ほどのうち生存者はなく、遺体は噛み裂かれ、約25人が消えていた。怪奇を追うことを生業とする語り手は、3マイル離れた丘の上のマーテンス邸に「潜み棲む恐怖」がいると信じ、二人の男と屋敷で夜を明かす。雷光が煙突に落とした影は人のものではなく、二人は消える。以後、語り手は記者マンローと調べ、1762年に殺されたヤン・マーテンスの墓を掘り、地中の穴で二つの目と鉤爪に出会う。全4章、1922年11月執筆、1923年1〜4月『ホーム・ブルー』誌連載。約8,200語。

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潜み棲む恐怖

「潜み棲む恐怖を突き止めるべく、テンペスト山の頂にある廃屋敷へと向かったあの夜、大気には雷鳴が満ちていた」

— H・P・ラヴクラフト「潜み棲む恐怖」(1923年発表)冒頭部
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概要

4章に分かれた、ラヴクラフトの中では長めの短編です。語り手は「文学と人生における奇怪な恐怖の探求」を職業にしている男で、1921年8月5日、新聞で読んだ事件に引き寄せられてキャッツキル山地の村レファーツ・コーナーズに入ります。事件とは、雷雨の一夜に、掘っ立て小屋の集落がまるごと死んだことでした。75人ほどいた住民のうち生きた者は一人も見えず、地面は血と人体の残骸に覆われ、25人ほどが消えていた。土地の人々は3マイル離れた丘の上の廃屋、マーテンス邸に一世紀以上「潜み棲む」ものの仕業だと言います[1]。

第1章で語り手は二人の男を連れて屋敷で夜を明かし、雷光が煙突に落とした影を見て、二人を失います。第2章は記者アーサー・マンローとの調査と、嵐の日の小屋に残った顔のない死体。第3章で語り手は独り、1762年に死んだヤン・マーテンスの墓を掘り、棺の下から地中の穴に落ちて、暗闇に光る二つの目と鉤爪に出会います。第4章で、丘のまわりに散らばる低い塚の並びが屋敷の頂を中心に放射していることに気づき、地下の巣の出口で、雷に呼ばれて溢れ出す「何千もの」姿を見ます。最後に撃った一体の目は、片方が青く、片方が茶色でした[1]。

1922年11月執筆[2]、翌1923年1月から4月にかけてアマチュア誌『ホーム・ブルー』に4回に分けて載りました[3]。一章ごとに山場が置かれているのは、この連載の形に対応しています。

作品情報

  • 原題: The Lurking Fear
  • 執筆: 1922年11月[2]
  • 初出: 『ホーム・ブルー』第2巻第6号(1923年1月)4–10ページ、第3巻第1号(2月)18–23ページ、第3巻第2号(3月)31–37・44ページ、第3巻第3号(4月)35–42ページ[3]
  • 分量: 約8,200語(公式アーカイブ本文を機械集計)。全4章
  • 語り: 一人称。事件の翌年以降、いまも雷が鳴ると眠れない語り手が書く
  • 時: 1921年8月5日から11月14日まで
  • 舞台: キャッツキル山地、テンペスト山のマーテンス邸と、コーン山とメープル丘のあいだの名のない集落
  • 主題: 一族の退化、雷と地中、塚の並び、左右で色の違う目

登場神格・用語

クトゥルー神話固有の神格は出てきません。以下は作中の固有名です。

  • 語り手: 名は出ません。「文学と人生における奇怪な恐怖の探求」を重ねてきた男で、「恐怖の目利き(コノスール)」を自称します。事件のあと、雷が鳴る夜は阿片剤なしに眠れない
  • ジョージ・ベネット、ウィリアム・トビー: 語り手が「その適性ゆえに」長く同行させてきた「忠実で屈強な」二人。第1章の夜、屋敷から消えます
  • アーサー・マンロー: レファーツ・コーナーズに残っていた記者。35歳ほど、浅黒く痩せ、「教育、趣味、知性、気質のすべて」が型にはまらない人物と語り手は見ます
  • マーテンス家: 1670年、英国支配下の変化を嫌ったニューアムステルダムの富商ヘリット・マーテンスが、テンペスト山の頂に屋敷を建てました。子孫は英国文明を憎んで孤立し、「片方が青く、片方が茶色」という遺伝的な目の色の違いで知られます
  • ヤン・マーテンス: 一族で初めて外の世界を見た男。オールバニー会議の報せが届いたとき植民地軍に加わり、6年の従軍ののち1760年に戻り、1762年に死にました
  • ジョナサン・ギフォード: ヤンのオールバニーの友人。1763年に屋敷を訪ね、ヤンの墓を掘って「残酷に打ち砕かれた頭蓋骨」を見つけ、一族を殺人で告発しました
  • 不法居住者(スクワッター): 山地の斜面に散らばる集落の住民。語り手は彼らを、マーテンス家から分かれて谷を越えた者たちと土地の混血の末裔とし、「進化の階段を静かに降りている単純な動物」と呼びます。本作の語り手の視線については読みどころで触れます

あらすじ

第1章 煙突の上の影

雷の気配のある夜、語り手はベネットとトビーを連れてテンペスト山の廃屋敷へ向かいます。一か月前の「忍び寄る死」の騒ぎのあとも村に残る記者に見つからないよう、静かに村を出ました。「神に誓って、彼らにも探索を分かち合わせておけばよかった」。自分ひとりで秘密を抱え続けたことを、語り手は書き出しで悔やみます[1]。

土地の由来が語られます。テンペスト山はキャッツキル山地の、オランダ文明が「弱々しく、一時的に」入り込んだ一帯にあり、退いたあとには廃屋敷がいくつかと、孤立した斜面の集落に住む「退化した不法居住者」が残りました。雷雨の多さから名のついたこの山の頂に、マーテンス邸があります。百年以上、夏に出歩く「音のない巨大な忍び寄る死」の話が伝わり、雷がそれを呼び出すとも、雷がその声だとも言われました。祖母たちはマーテンス家の幽霊の話をします。一族の遺伝的な目の違い、長く不自然な年代記、一族を呪った殺人[1]。

そこへ、伝説を裏づける事件が起きました。かつてない激しい雷雨の夜、集落の住民が逃げ惑い、朝になって州警察と村人が向かうと、落雷で地面が陥没し、掘っ立て小屋が潰れ、その上に「有機的な破壊」が重なっていました。75人ほどのうち生きた者はいない。地面は血と人体の残骸に覆われ、「魔物の歯と爪」の跡を語っている。だが外へ続く痕跡はない。25人ほどが遺体の中に見つからず、「50人を、その半分の数の者が殺した」という説明は成り立ちません。村人は3マイル離れた屋敷と結びつけ、警察は屋敷が無人と分かると捜査から外しました[1]。

語り手は新聞記事を追い、「一週間ののち、妙に心を動かす空気」を感じて、1921年8月5日にレファーツ・コーナーズのホテルに記者たちに混じって宿を取ります。3週間後、記者が去り、その間に済ませた聞き込みと測量をもとに、探索を始めました[1]。

屋敷では、伝説で殺人の場となるヤン・マーテンスの部屋を選びます。2階の南東の角、20フィート四方。大きな東の窓と細い南の窓には硝子も鎧戸もなく、東の窓の向かいには放蕩息子の聖書タイルを貼ったオランダ式の大暖炉。語り手は持参した縄梯子3本を東の窓の縁に並べて結び、別室から四柱式の寝台を運んで窓に寄せ、樅の枝を敷いて、三人で自動拳銃を手に横になります。中から来れば窓の梯子、外から来れば扉と階段。「これまでの例から見て、最悪でも遠くまでは追ってこないだろう」と考えました[1]。

語り手は真夜中から1時まで見張り、「妙な眠気」に襲われます。窓側にベネット、暖炉側にトビー。ベネットは同じ眠気で眠っていて、トビーに次の番を頼みますが、彼もうとうとしていました。「私がどれほどじっとあの暖炉を見つめていたか、思えば奇妙だ」。眠りの中で一度、窓側の眠り手が腕を胸に投げ出したらしく、半ば目覚めます。次に目覚めたとき、夜は「これまでの経験と想像のどれをも越えた」悲鳴に満ちていました。光はなく、右の空いた場所からトビーがいないと分かる。胸には左の眠り手の重い腕がまだ載っている。そこへ山全体を揺るがす落雷が来て、巨大な火球の閃光の中で眠り手が跳ね起き、窓の外の光がその影を、語り手が目を離さなかった暖炉の上の煙突へ鮮やかに投げました[1]。

「煙突の上のあの影は、ジョージ・ベネットのものでも、ほかのどんな人間のものでもなかった」。次の瞬間、語り手は屋敷にひとりでした。ベネットとトビーは、争った跡ひとつ残さず消え、二度と消息を聞きません[1]。

第2章 嵐の中の通りすがり

語り手はホテルで数日、神経を病んで寝込みます。影が何だったか、分析することも名づけることもできない。「唸るか、吠えるか、くすくす笑ってくれさえしたら」。しかしそれは音を立てなかった。「重い腕か前肢を私の胸に載せていた……明らかに有機的だった、あるいはかつて有機的だった……なぜあの二人を選び、私を最後に残したのか」[1]。

語り手は残っていた記者の中からアーサー・マンローを選び、9月初めに話します。マンローは真剣に聞き、実務的な助言をしました。屋敷での作業は、歴史と地理の詳しい資料を固めるまで延期しよう、と。二人は一帯を回り、マーテンス家についての「驚くほど示唆に富む先祖の日記」を持つ男を見つけ、逃げずに残った住民から話を聞き、住民の伝説に結びついた場所を一つずつ調べました。集計すると、報告された恐怖は屋敷の近くか、屋敷と森でつながった場所に集中していましたが、世間を騒がせた集落の事件は、屋敷からも森からも離れた木のない場所で起きていて、例外になります。住民は同じ息で「蛇で、巨人で、雷の悪魔で、蝙蝠で、禿鷲で、歩く木」だと言い、二人は「電気的な嵐に強く反応する生物」で、翼の話もあるが「開けた場所を避ける」ことから地上を移動するのだろうと仮定しました。それでは、あれだけの所業に必要な速さの説明がつかないのですが[1]。

住民と親しくなるにつれ、語り手は彼らを「多くの点で妙に好ましい」と感じます。「単純な動物で、不幸な血統と愚鈍化する孤立のせいで、進化の階段を静かに降りている」。ベネットとトビーを探してほしいと頼むと、彼らは心から悲しみ、しかし二人が自分たちの失踪者と同じく「この世からまったく出ていった」ことを知っていました[1]。

10月半ば、晴れた夜が続いて襲撃はなく、屋敷と土地を隈なく調べても何も出ず、二人は「非物質的な作用」かと考え始めます。冬が来れば探索は止まる。焦りの中で、住民が恐れて捨てた名のない集落を最後にもう一度調べました。集落はコーン山とメープル丘のあいだの木のない窪地にあり、テンペスト山の麓から北西へ2マイル、屋敷から3マイル。屋敷との間は2マイル4分の1が開けた平地で、「蛇のような低い塚」がところどころにあるほかは草と雑草しかありません。地面の隆起は、メープル丘の一本の高い裂けた木に落ちた雷による地滑りだと突き止めていました[1]。

午後、テンペスト山の上に雷雨が集まります。二人は嵐が夜まで続くことを願いながら住民の助けを集めに向かい、土砂降りに遭って、集落で一番雨漏りの少ない小屋に逃げ込みます。扉と、メープル丘に面した小さな窓の鎧戸を閉め、パイプを吸いながら座っていると、すぐ近くに雷が落ち、土の滑る音が続きました。マンローは立って窓へ行き、鎧戸を外して身を乗り出します。風雨の轟音で彼の言葉は聞こえません。やがて嵐は去り、背後の節穴から陽が差し、語り手は扉を開けます。外は泥と水溜まりと新しい土の山。窓に寄りかかったまま黙っているマンローの肩に触れても、彼は動きませんでした。「ふざけて揺すり、振り向かせたとき──アーサー・マンローは死んでいた。噛まれ、抉られた頭に残ったものには、もはや顔がなかった」[1]。

第3章 赤い光の意味

1921年11月8日、嵐の夜。語り手は「提灯ひとつを手に、ひとり、愚かしく」ヤン・マーテンスの墓を掘っています。マンローの死は自分で葬りました。「彼はどこかへ行ったと思わせておいた」。8月5日以来の出来事で「私の心は一部壊れていた」と彼は認めます。土地の伝承を集めた結果、潜み棲む恐怖は物質ではなく「真夜中の稲妻に乗る、狼の牙を持つ亡霊」で、それは1762年に死んだヤン・マーテンスの亡霊だと、いまは信じていました[1]。

ここで一族の歴史が語られます。1670年、ニューアムステルダムの富商ヘリット・マーテンスが英国支配を嫌ってこの丘に屋敷を建てた。夏の激しい雷雨だけが誤算で、健康を害した彼は嵐から逃れる地下室を設けます。子孫は英国文明を憎むよう育てられ、孤立して「話も理解も鈍く」なり、「片方が青く、片方が茶色」の目を受け継ぎました。付き合いが減るにつれて領地の使用人階級と婚姻し、多くが退化して谷の向こうへ移り、のちの不法居住者を生む混血の住民に溶け込む。残った者は屋敷にしがみつき、いっそう排他的で無口になりながら、雷雨に「神経質に反応する」ようになりました[1]。

ヤン・マーテンスは、オールバニー会議の報せが届いたとき落ち着かなさから植民地軍に入り、6年の従軍ののち1760年に戻ります。一族で初めて外の世界を見た彼は、同じ色違いの目を持ちながら「よそ者」として父と叔父と兄弟に憎まれ、山の雷雨にももう酔えず、オールバニーの友人に屋敷を出る計画を書き送りました。1763年春、友人ジョナサン・ギフォードは文通の途絶えたことを案じ、9月20日に馬で屋敷に着きます。「不潔な動物のような様子」の一族は、壊れた喉音で、ヤンは去年の秋に雷に打たれて死に、荒れた沈んだ庭の裏に葬られていると告げました。墓標のない墓。一週間後、鋤と鶴嘴を持って戻ったギフォードは「残酷に打ち砕かれた頭蓋骨」を見つけ、オールバニーで一族を殺人だと公然と非難します。法的な証拠はなくとも話は広まり、以後マーテンス家は世間から絶たれました。遠くの丘から見える灯りは1810年まで確認され、1816年、灯りの絶えたことに気づいた住民が屋敷を調べると、家は無人で半ば廃墟。骸骨はなく、数年前に去ったと推定されました。急ごしらえの差し掛け小屋は一族がどれほど増えていたかを示し、朽ちた家具と散らばった銀器は文化の水準が「ひどく低く」落ちていたことを物語ります[1]。

語り手は「愚かしく」掘り続けます。ヤンの棺はすぐに出ましたが、「埃と硝石」しか入っていない。それでも「亡霊を掘り出そうという狂気」で、棺の下をさらに掘りました。どれほど深く掘ったか、鋤が、そして足が、下の地面を突き破ります。提灯は消えましたが、懐中電灯で見ると、両方向へ果てしなく伸びる小さな水平の穴がありました。人が這って通れる大きさ。「正気の者なら誰も試みなかっただろうが」、語り手は屋敷の方向を選んで這い込みます。「時間も、安全も、方向も、明確な目的も分からぬまま、太古の黒の沈んだ渦巻きの中を狂ったように這う人間の姿を、どんな言葉が描けるだろう」。生が遠い記憶になるほど這い続け、電池が弱ったころ、穴が急に上向きに変わりました。目を上げると、消えかけた灯りを映して「二つの魔的な反射」が遠くで光っています。目は近づき、それを持つものについては「鉤爪だけ」が見えました。「だが、なんという鉤爪か!」[1]

頭上で山の雷が聞こえます。地表は近い。「そのときそれが何か知らずにいたことを神に感謝する。知っていたら死んでいた」。呼び寄せたのと同じ雷が語り手を救います。落雷が頭上の土を裂き、崩れる土の中をもがくうち、雨に打たれて気づくと、山の南西斜面の見慣れた場所に出ていました。南の空に遠い赤い光が広がります。二日後、住民がその光の意味を教えました。20マイル離れた集落で、語り手を地上へ出したその落雷のあと、屋根の弱い小屋に木の上から「名のないもの」が落ちてきて「所業」をなし、住民は逃げる前に小屋に火をかけた。それは、地中で目と鉤爪を持つものの上に土が崩れたまさにその瞬間に、起きていました[1]。

第4章 目の中の恐怖

「少なくとも二つの化身が滅んだ」ことは安全の保証にならず、語り手はかえって熱を上げます。二体が同時に、20マイル離れて現れた。「呪われた土地の土そのものに飛び込み、素手で掘り出したいという狂った渇望」。ヤンの墓は崩れて穴の跡が消えており、20マイル先の焼けた小屋の灰からは骨がいくつか出ましたが怪物のものらしくはなく、住民は犠牲者は一人だと言うのに、完全な人間の頭蓋骨のほかに、頭蓋骨の一部らしい骨片がもう一つありました[1]。

11月14日、語り手はコーン山とメープル丘の斜面を調べ、夕暮れ、メープル丘の上から集落と谷とテンペスト山を見下ろします。満月に近い月が平地と「奇妙な低い塚」を銀に照らし、「牧歌的な光景」を語り手は憎みます。そして塚の並びに目が留まりました。地質を知らないまま、彼は初めから塚を氷河の産物と思っていた。しかし低い月の長い影の中で、塚の点と線はテンペスト山の頂を中心に、不規則に放射していました。「まるで不健全なマーテンス邸が、目に見える恐怖の触手を伸ばしたように」。分析するほど氷河説は崩れ、地下を這った経験と重なります。「なんてことだ……モグラ塚だ……この場所は蜂の巣になっているに違いない……いくつある……屋敷のあの夜……奴らはベネットとトビーを先に取った……われわれの両側にいた……」[1]

語り手は一番近い塚を掘り、あの夜と同じ穴に行き当たって叫び、鋤を手に月光の草地と森を走って屋敷へ向かいます。茨に埋もれた地下室のあらゆる場所を掘り、「塚の悪意ある宇宙の核心」を探し、古い煙突の根元に穴を見つけて笑いました。ひとりで入るか、住民を集めるか迷ううち、外から吹き込んだ風が蝋燭を消し、月は隠れ、雷の近づく音がします。語り手は地下室の隅の茂みの陰に身を沈め、開口部を見張ります。「嵐は何を呼び出すのか──それとも、呼び出すものはもう残っていないのか」[1]。

それは突然来ました。「遠く想像もつかない穴から鼠のように走る魔物、地獄の喘ぎと押し殺した唸り」、そして煙突の下の穴から「無数の、癩病じみた生命の噴出」。蛇の粘液のように煮え立ち、溢れ、湧き、地下室のあらゆる出口から流れ出して、真夜中の森へ散っていく。「何体いたか神のみぞ知る──何千といたに違いない」。まばらになって個体が見分けられるようになると、それは「矮小で奇形の、毛深い悪魔か猿──猿族の怪物的で悪魔的な戯画」でした。恐ろしいほど静かで、最後尾の一体が「長年の練習で身につけた技」で弱い仲間を食べ、ほかがその残りをむさぼる。最後の一体が穴から這い出たとき、語り手は雷に紛れて自動拳銃で撃ちました[1]。

そのあとの記憶は「赤い粘つく狂気の叫ぶ影」の連なりです。本能が語り手を人の住む村へ運び、一週間後には回復して、オールバニーに人を頼みます。マーテンス邸とテンペスト山の頂全体をダイナマイトで吹き飛ばし、見つかる限りの塚の穴を塞ぎ、「存在そのものが正気への侮辱」である肥え太った木を伐ること。それが済むと少しは眠れましたが、「絶滅が完全だと、同じ現象が世界中にないと、誰が言えるか」。井戸や地下鉄の入口を見ると震える、と語り手は書きます[1]。

最後に、撃った一体を懐中電灯で見たときのことが語られます。「あまりに単純で、理解して錯乱するまで一分近くかかった」。それは「黄色い牙と縺れた毛の、汚れた白っぽいゴリラのようなもの」で、「孤立した繁殖と増殖と、地上と地下での共食いの、恐るべき帰結」でした。死にぎわにそれは語り手を見ていて、その目は地中で自分を見た目と同じ性質を持っていた。「片方の目は青く、もう片方は茶色だった」。それは古い伝説の、マーテンス家の色違いの目でした。消えた一族が何になったか──「雷に狂ったマーテンスの家」が──語り手はそこで一度に知ります[1]。

読みどころと注目テーマ

四つの章、四つの山場

第1章は煙突の影、第2章は顔のない死体、第3章は地中の目と鉤爪、第4章は穴から溢れる群れ。各章が独立した恐怖の場面で終わる構成は、月刊誌に4回に分けて載った初出の形と重なります。一方で、第1章の「なぜ両側の二人を先に取って、真ん中の私を残したのか」という問いは、第4章の「塚は蜂の巣」「われわれの両側にいた」という叫びまで答えが出ません。章ごとの山場と、全体を貫く一つの謎とが、別の速度で進みます。

亡霊説から生物説へ、そして数へ

語り手の仮説は三度変わります。最初は「雷に呼ばれる魔物」、マンローの死後は「非物質的な作用」「ヤン・マーテンスの亡霊」、地中の目を見てからは「物質的で有機的な生物」。そして最後に分かるのは、相手が何千という数だったことです。ベネットとトビーが同時に別方向から消えたこと、20マイル離れた二か所で同時に現れたこと、25人が遺体から消えていたこと──序盤から置かれていた不整合は、すべて「複数」で解けます。

「マーテンスの目」

一族の目の色違いは、第1章では祖母の昔話の一部として、第3章では家系の記述として、そして第4章の最後の一文で、撃たれた生き物の目として現れます。ギフォードが墓から掘り出した頭蓋骨も、語り手がヤンの棺の下で見た「埃と硝石」も、一族が本当に消えたわけではないことを暗示していますが、原文が答えを置くのは最後の三文です。「片方の目は青く、もう片方は茶色だった」。

語り手が住民に向ける言葉

不法居住者への語り手の言い方は、「哀れな混血」「退化した」「進化の階段を静かに降りている単純な動物」と、終始見下ろすものです。同時に彼らを「妙に好ましい」と感じ、その協力に頼り、彼らの失踪者を悼む場面も書かれています。この語り手にとって、マーテンス家の末路と住民の「退化」とは地続きの現象であり、その視線は本作の恐怖の組み立てそのものに組み込まれています。3年前の眠りの壁の彼方でキャッツキルの猟師に向けられた言葉と同じ系統のもので、読むときにはこれを作品の一部として見ておく必要があります。

執筆背景と影響

公式アーカイブの年譜は本作を1922年11月に置いています[2]。初出はアマチュア誌『ホーム・ブルー』で、1923年1月号から4月号まで、各回とも数ページずつの4回連載でした[3]。

閉じた一族が世代を重ねて人でないものになる、という筋は、翌1923年の壁のなかの鼠(1923年8〜9月執筆)で、イングランドの修道院跡の地下として、より長い時間の尺で書き直されます。本作の「地下の巣」「共食い」「地下から溢れる群れ」は、そちらの地下都市と鼠の群れに形を変えて現れます。祖先の血が一代で露わになる型は、2年前のアーサー・ジャーミン(1920年)にすでにあり、本作はそれを一族全体と土地全体の規模に広げたものです。

キャッツキル山地は、眠りの壁の彼方(1919年)でジョー・スレイターの出身地として使われていました。本作では同じ山地が舞台そのものになり、オランダ植民の名残と雷雨の多い地形が、恐怖の由来として組み込まれています。ニューイングランドの奥地に「退化した」住民を置く発想は、家のなかの絵(1920年)からダニッチの怪(1928年)まで繰り返されるもので、本作はその中で、住民の側を物語の主役に据えた一本です。

出典

[1] H. P. Lovecraft, “The Lurking Fear” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/lf.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。

[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆時期(1922年11月)、および「眠りの壁の彼方」1919年・「アーサー・ジャーミン」1920年・「家のなかの絵」1920年12月12日・「壁のなかの鼠」1923年8〜9月・「ダニッチの怪」1928年夏の出典。

[3] “Data Page for ‘The Lurking Fear'” (作品情報・出版履歴). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/lf.aspx初出『ホーム・ブルー』第2巻第6号〜第3巻第3号(1923年1〜4月)の巻号・ページの出典。

関連作品ガイド ── どれから楽しむか

  • 壁のなかの鼠 — 翌年の作品。一族の地下に降りていく話を、本作より長い時間の尺で書き直したもの。本作の「地下の巣」がどこまで拡がるかを見比べられます。
  • 眠りの壁の彼方 — 同じキャッツキル山地。あちらで語り手が見下ろした山地の住民が、本作では物語の中心に据えられます。
  • アーサー・ジャーミン — 一族の血の秘密が一代で露わになる短編。本作の「マーテンスの目」の前身にあたる仕掛けです。
  • ダニッチの怪 — 6年後。丘陵地帯の「退化した」一族と土地の伝承という本作の骨格が、神話固有の神格と結びついた作品です。
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