小説 — THE RATS IN THE WALLS

壁のなかの鼠

先祖の荒れ果てた修道院を復元した主人公が、壁の裏から聞こえる無数の鼠の音に導かれ、地下深くに眠る一族の凄惨な人肉食の歴史と太古のカルトの遺跡を発見する。

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壁のなかの鼠

「その群れが何のためであったか、私はあえて問う必要もなかった」

— 「壁のなかの鼠」(1924)

概要

ラヴクラフトの初期ゴシック・ホラーの最高傑作。精神分析的な血の呪いと、奈落の地下空間のビジュアルが強烈な余韻を残す。

作品情報

  • 執筆・発表年: 1923年執筆/1924年発表(「ウィアード・テイルズ」誌)
  • 主題タグ: 精神の退行、地下の食人遺跡、血の呪縛

登場神格・用語

  • 宇宙的恐怖

あらすじ

アメリカ人デラポアは、イングランドにある先祖代々の廃墟「エグザム修道院」を買い取り、近代的な邸宅として復元する。しかし移住後、彼と飼い猫は、壁の裏を巨大な鼠の群れが下に向かって疾走する奇妙な音を聴く。実は移住直後から、いつも冷静な黒猫が落ち着きなく部屋々を歩き回り、ゴシック様式の壁に執拗に鼻を近づけて嗅ぎ回るという、普段の性分とはかけ離れた異変を見せていた[1]。デラポアは学者らと修道院の地下聖堂を調査し、石板の奥に広がる奈落のような巨大な地下空洞を発見する[2]。そこには、数千年にわたり彼の一族が人間を家畜として飼育し、虐殺・捕食していた「食人教団」の膨大な人骨の山と肥育場が広がっていた[3]。同行した学者サー・ウィリアムは、この地下遺跡がローマ以前から続くキュベレー信仰の食人儀礼と混淆したものだと解説する。調査の過程では、一族の記録から18世紀の当主ウォルター・デラポアが、ある恐るべき発見からわずか二週間後に、四人の使用人の共謀者を除く家族全員を眠っている間に殺害した疑いが極めて濃厚であるという、封印されていた過去も明らかになる[4]。先祖の狂気が血を通じて目覚めたデラポアは理性を喪失し、同行した友人ノリス大尉を暗闇で貪り食い、ゲール語や原始的な叫び声を上げながら発狂する[5]。彼は精神病院に収監された後も、「壁のなかの鼠のせいだ」と叫び続ける。

読みどころと注目テーマ

ゴシック・デカダンス、血統の呪い、歴史の下への退行

執筆背景と影響

イギリスのゴシック小説の伝統に、ラヴクラフト独自の「精神の退行(進化の逆行)」というテーマを融合させた。壁の奥に潜む奈落のスケール感は、後の地下迷宮ものに多大な影響を与えた。本作は1923年8月から9月にかけて執筆され、着想源についてラヴクラフト自身は「深夜に壁紙がひび割れる、ごくありふれた出来事から連想が連なっていった」と説明している。彼の創作ノート(コモンプレイス・ブック)には「古城の地下墓所に潜む恐ろしい秘密――住人によって発見される」という一文もあり、これも本作の原型の一つとされる[6]。もっとも執筆当初、雑誌「アーゴシー・オールストーリー・ウィークリー」は「繊細な感性を持つ読者には恐ろしすぎる」との理由で本作を却下しており、最終的に「ウィアード・テイルズ」誌1924年3月号に掲載される運びとなった。同誌発行人J・C・ヘネバーガーは本作を「これまで同誌に寄せられた最高傑作」と評し、後年S・T・ジョシイも「凝縮された構成、語りの緩急、雷鳴のような結末、恐怖と哀感の融合において、ほぼ完璧な短編小説の一例」と絶賛している[6]

出典

  • [1] “My old black cat…was undoubtedly alert and anxious to an extent wholly out of keeping with his natural character. He roved from room to room, restless and disturbed, and sniffed constantly about the walls…”(訳: 「私の老いた黒猫は……その生来の気質からは考えられないほど、明らかに警戒し、そわそわとしていた。部屋から部屋へと落ち着きなく動き回り、絶えず壁のあたりを嗅ぎ回っていた」) — H. P. Lovecraft, “The Rats in the Walls”(1923年執筆/1924年発表), 公式アーカイブ
  • [2] “There now lay revealed such a horror as would have overwhelmed us had we not been prepared. Through a nearly square opening in the tiled floor, sprawling on a flight of stone steps…was a ghastly array of human or semi-human bones.”(訳: 「そこには、心構えをしていなければ我々を圧倒していたであろう恐怖が姿を現していた。タイル張りの床にあいたほぼ正方形の開口部から石段が伸び、そこに人間、あるいは半人間の骨がおぞましく散乱していたのだ」) — 同上, 公式アーカイブ
  • [3] “The purpose of the herds I did not have to ask. Sir William…translated aloud the most shocking ritual I have ever known; and told of the diet of the antediluvian cult which the priests of Cybele found and mingled with their own.”(訳: 「その家畜の群れが何のためのものかを、私はあえて問う必要もなかった。サー・ウィリアムは……私がこれまで耳にした中で最も衝撃的な儀式を声に出して訳し、キュベレーの神官たちが見出し自らの信仰に混ぜ合わせた、太古の教団の食習慣について語った」) — 同上, 公式アーカイブ
  • [4] “It appeared that my ancestor was accused with much reason of having killed all the other members of his household, except four servant confederates, in their sleep, about two weeks after a shocking discovery.”(訳: 「私の先祖は、ある恐るべき発見からおよそ二週間後、四人の使用人の共謀者を除く家族全員を、眠っている間に殺害したという、十分な根拠のある嫌疑をかけられていたことがわかった」) — 同上, 公式アーカイブ
  • [5] “…found me crouching in the blackness over the plump, half-eaten body of Capt. Norrys, with my own cat leaping and tearing at my throat.”(訳: 「……闇の中、ふくよかで半ば食い尽くされたノリス大尉の遺体の上にうずくまる私を見つけたという。私自身の飼い猫は、私の喉に飛びかかり引き裂こうとしていた」) — 同上, 公式アーカイブ
  • [6] 執筆時期(1923年8月〜9月)、着想源(深夜に壁紙がひび割れる音からの連想、および創作ノートの「古城の地下墓所に潜む恐ろしい秘密」という一文)、雑誌アーゴシー・オールストーリー・ウィークリーによる却下(「繊細な感性を持つ読者には恐ろしすぎる」)、「ウィアード・テイルズ」誌1924年3月号への掲載、発行人J・C・ヘネバーガーの絶賛、S・T・ジョシイによる高評価について。— 出典: Wikipedia「The Rats in the Walls」, 該当ページ

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