概要
ロバート・E・ハワード『バル=サゴスの神々』(Weird Tales 1931年10月号)に登場する闇の神。大洋の孤島に栄えた都バル=サゴスの数多い神々の頂点に立ち、「影の神殿」の血に染まった祭壇の背後に、いかなる鎚も傷つけ得ない巨像として鎮座する。剣と魔術の冒険譚の中で、神は一度も言葉を発さぬまま — しかし物語の帰結を最も暴力的な形で決定づける。
基本プロフィール
- 分類: 旧支配者(後世の整理による位置づけ。原典では「闇の神(the god of darkness)」)
- 欧文表記: GOL-GOROTH
- 初出: 「バル=サゴスの神々」The Gods of Bal-Sagoth(Weird Tales 1931年10月号)[1]
- 作者: ロバート・E・ハワード
- 座: バル=サゴス島の「影の神殿(the Temple of Shadows)」
- 祭祀: 月の満ち欠けに合わせた人身供犠。祭壇上では常に新しい人間の心臓が脈打つと語られる[6]
別名/呼称
- 「闇の神(the god of darkness)」— 作中での形容[2]
- 日本語では「ゴル・ゴロス」「ゴルゴロス」等の表記揺れがある(本サイトでは「ゴル=ゴロス」を採用)
- ハワードの他作品には Golgoroth と綴りの揺れた同名的存在への言及が指摘されることがあるが、本作の記述とは独立した論点である(後述のQ&A参照)
区分
後世の事典的整理では旧支配者に数えられる。ただし原典単体で見るなら、ゴル=ゴロスは体系の中の一柱というより「島の秩序の中心にある動かぬ恐怖」である。白人の女王ブルンヒルドが海の娘アーアラ(A-ala)として自らを神格化し、旧神の崇拝を禁じてもなお[3]、像は破壊できず[4]神殿の扉を閉ざすことしかできなかった[5] — 権力が交替しても神は残る、という構図が本作の背骨になっている。
象徴・モチーフ
- 影: 座所そのものが「影の神殿」[2]。日輪の神々に対する夜の側の極
- 破壊不能の偶像: 鎚を打てば鎚が砕け、打った者が傷を負う[4]。信仰を禁じても消せない「もの」としての神[3][5]
- 心臓: 祭壇に絶えず捧げられる生贄の心臓 — 島の繁栄と衰亡を測る血の時計[6]
- 倒壊: 結末で巨像そのものが倒れて審判を下す[7][8]。動かぬはずのものが動く瞬間の恐怖
性質・権能
- バル=サゴスの多くの神々の中で「最大の神」と明言される[2]
- 像は破壊不能。屈強な男たちが重い鎚で打っても鎚の方が砕け、打った者は奇怪な傷を負い、像には傷ひとつ付かなかった[4]
- 月の相にあわせ若者と乙女が生贄に捧げられ、祭壇上では常に新しい人間の心臓が脈打っていると、司祭ゴータンの専横を糾弾する場面で語られる[6]
- 神殿内部では、黒く血に染まった石の祭壇の背後に「不吉で忌まわしい巨大な姿」として聳える[9]
- 物語の結末、巨像は轟音とともに倒壊して女王ブルンヒルドを圧殺する[7]。司祭ゴータンはこれを「ゴル=ゴロスが語った」「偽の女神を砕いた」と絶叫する[8] — 偶然の倒壊か神意かを、原典は断定しない
関係図
原典に他神格との系譜は語られない。関係の軸はもっぱら島の内部にある。すなわち、神を祀り実権を握る老司祭ゴータン(親和。作中では「黒の神の司祭」と呼ばれる[10])、神の崇拝を禁じて自らを女神アーアラと称した女王ブルンヒルド(対立[3])、そして島に漂着してこの権力闘争に巻き込まれるゲール人トゥルロフとサクソン人アセルステーンの二人の外来者である。ラヴクラフト神話群との接続は本作単体には存在せず、後世の読解・整理によって神話の星図に組み込まれていった神格である。
主要登場作と読みどころ
- 「バル=サゴスの神々」(1931) — 原典。嵐の海に投げ出された宿敵同士トゥルロフとアセルステーンが謎の孤島に流れ着き、白人の女王ブルンヒルドの復位劇に巻き込まれる海洋冒険譚。ハワードらしい豪快な剣戟の裏で、影の神殿の扉の奥に蹲る「動かぬ神」の圧力が着実に高まっていく。倒壊の場面の即物的な迫力、そして繁栄を誇った都が一夜で潰える幕切れの無常観が読みどころ
- ハワードのミュトス隣接作品群(「黒の碑」「屋上の怪物」等) — ゴル=ゴロス自身の再登場ではないが、ハワードがラヴクラフトと交流しつつ独自の血腥い神話観を築いた文脈を知るのに好適
よくある誤解
Q. ラヴクラフト作品に登場する神?
A. ロバート・E・ハワードの創造。ラヴクラフトと書簡を交わした同時代サークルの作家であり、本サイトでは同時代サークル層として扱う。
Q. クトゥルフ神話の神として書かれた?
A. 本作単体は孤島の冒険譚であり、ラヴクラフト的神話体系への言及はない。後世の整理で旧支配者の一柱として組み込まれた経緯を区別して読みたい。
Q. 結末で神は滅びた?
A. 砕けたのは石の巨像である。それが神自身の終焉なのか、神意の執行だったのかを原典は語らない。ゴータンの「ゴル=ゴロスが語った」という叫びだけが残される[8]。
Q. 「黒の碑」などに出るゴル=ゴロスと同一?
A. ハワードの他作品との同定は後世の論点であり、本作の本文からは判断できない。当サイトでは本作の記述のみを原典事実として扱い、同定説は今後の資料収集の課題としている。
出典
- [1] “Weird Tales, October 1931 / First published in Weird Tales”(訳: 「Weird Tales誌、1931年10月号/Weird Tales誌にて初出」) — Robert E. Howard, “The Gods of Bal-Sagoth”(1931), Project Gutenberg Australia ↩
- [2] “There are many gods in Bal-Sagoth, but the greatest of all is Gol-goroth, the god of darkness who sits forever in the Temple of Shadows.”(訳: 「バル=サゴスには多くの神々がいるが、その中で最大の神はゴル=ゴロス、影の神殿に永遠に座す闇の神である」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [3] “When I overthrew the power of Gothan, I forbade men to worship Gol-goroth, and made the priest hail, as the one true deity, A-ala, the daughter of the sea—myself.”(訳: 「ゴータンの権力を打倒したとき、私はゴル=ゴロスを崇拝することを禁じ、司祭に、海の娘アーアラ——すなわち私自身を——唯一まことの女神として讃えさせた」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [4] “I had strong men take heavy hammers and smite the image of Gol-goroth, but their blows only shattered the hammers and gave strange hurts to the men who wielded them. Gol-goroth was indestructible and showed no mar.”(訳: 「私は屈強な男たちに重い鎚を持たせ、ゴル=ゴロスの像を打たせたが、彼らの一撃は鎚を砕くばかりで、振るった者たちに奇怪な傷を負わせた。ゴル=ゴロスは破壊不能であり、傷ひとつ見せなかった」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [5] “So I desisted and shut the door of the Temple of Shadows.”(訳: 「それで私は諦め、影の神殿の扉を閉ざした」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [6] “each moon, before Gol-goroth, on whose altar a fresh human heart forever throbs!”(訳: 「月ごとに、その祭壇の上で常に新しい人間の心臓が脈打っているゴル=ゴロスの前で」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [7] “with a thunder like the bursting of a world, the god Gol-goroth crashed down upon the doomed woman, who stood frozen.”(訳: 「世界が破裂するかのような轟音とともに、神ゴル=ゴロスは、凍りついたように立ち尽くす運命の女の上に崩れ落ちた」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [8] “‘Gol-goroth has spoken!’ he screamed. ‘He has crushed the false goddess!'”(訳: 「『ゴル=ゴロスが語ったのだ!』彼は叫んだ。『彼が偽りの女神を打ち砕いたのだ!』」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [9] “Behind a black red-stained stone altar loomed a mighty form, sinister and abhorrent. The god Gol-goroth!”(訳: 「黒く血に染まった石の祭壇の背後に、不吉で忌まわしい巨大な姿が聳えていた。神ゴル=ゴロスだ!」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩
- [10] “Turlogh knew without being told that this man was Gothan, priest of the Black God.”(訳: 「トゥルロフは誰に言われるまでもなく、この男が黒の神の司祭ゴータンであることを悟った」) — 同上, Project Gutenberg Australia ↩




