人物 — ASENATH WAITE

アセナス・ウェイト

インスマスの魔道士エフライム・ウェイトの娘。ミスカトニック大学で出会った詩人エドワード・ダービーと結婚するが、その正体は死期を悟った父エフライムが肉体を乗っ取って生き延びた姿だった。「戸口に現れたもの」で、幼馴染ダニエル・アプトンの告白を通じて明かされる肉体強奪の物語の中心人物。

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アセナス・ウェイト

「色黒で小柄、目が突き出ている点を除けば非常に美しい容姿だったが、その表情には敏感な人々を遠ざける何かがあった。」

— H・P・ラヴクラフト「戸口に現れたもの」(1933年執筆)第2章、ダービーの結婚を語る箇所
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概要

アセナス・ウェイトは、H・P・ラヴクラフト「戸口に現れたもの」に登場する女性。インスマスの魔道士エフライム・ウェイトの娘で、ミスカトニック大学で出会った詩人エドワード・ダービーと結婚する[1]。だが物語が進むにつれて明らかになるのは、結婚生活を通じて繰り返された肉体の乗っ取りの正体が、死期を悟った父エフライムそのものだったという事実である[2][3]。幼馴染ダニエル・アプトンの告白という体裁で語られるこの物語は、彼女(実際にはエフライム)による肉体強奪の顛末をたどるものである。

基本プロフィール

原典での描写

容姿と評判

語り手ダニエル・アプトンは、友人の娘から伝え聞いた噂を通じてアセナスを紹介する。その娘はキングズポートのホール校で以前アセナスと同窓であり、「私の友人の娘は以前にキングズポートのホール校で彼女と面識があり、その奇妙な評判のために彼女を避ける傾向にあった」という[29]。エドワードと出会うより前から、彼女はこうした間接的な評判を通じて読者の前に姿を現す。

同じホール校時代の学友たちの証言として、アプトンはアセナスの言動そのものにも触れている。「アセナスは意識の本質について、そしてそれが肉体――少なくとも肉体の生命活動――から独立していることについて、しばしば突飛な主張をした」といい、後に明らかになる肉体の乗っ取りを予告するかのような発言が、すでに学生時代から周囲の記憶に残っていたことがわかる[30]。

結婚後の変化

結婚から一年ほど経った頃のエドワードの変化について、アプトンは周囲の噂として書き留めている。「人々は、こうした瞬間の彼が妻に似すぎている、あるいは老エフライム・ウェイトその人に似すぎていると言った――あるいは、こうした瞬間があまりに稀だったからこそ不自然に感じられたのかもしれない」[31]。運転や交渉ごとにまで及んだこの人格の変化は、まず周囲の目撃と憶測を通じて語られ、エドワード本人の言葉は後の場面まで出てこない。

さらに奇妙な噂として、アプトンはクラウニンシールド屋敷から漏れ聞こえる泣き声にも触れている。「しかし最も奇妙な噂は、古いクラウニンシールド屋敷での泣き声についてのものだった。その声は女性のもののようで、若い世代の何人かはアセナスの声のように聞こえたと考えた」[32]。アプトンはこれに続けて、その泣き声が一、二度は男の声だったと囁く者もいたと書き添えており、誰が泣いていたのかという疑問だけを残したまま、この噂は途切れる。

エドワードの証言

物語後半、エドワードは幼馴染アプトンに向けて、それまで胸に秘めていたことを直接語り始める。「そう、彼は今ではインスマスの血のことを知っていた。海からのものたちとの取引があった――それは恐ろしいことだった」とエドワードは打ち明け、老エフライムが死を避けるために恐ろしい行いに手を染め、永遠に生きることを望んでいたのだと続けた[33]。この告白によって、それまで間接的な噂に留まっていたインスマスの背景に、エドワード自身の言葉としてはじめて具体的な輪郭が与えられる。

エフライムの正体をめぐるエドワードの疑いは、問いの形でアプトンに投げかけられる。「閉じ込められていたのは老エフライムの魂だったのか。誰が誰を閉じ込めたのか」とエドワードは自問し、なぜ老エフライムが何か月もの間、優れた頭脳と弱い意志を持つ相手を探し続けていたのか、なぜ娘が息子でなかったことを呪ったのかと、答えの出ない問いを重ねていく[34]。この場面のエドワードは疑いを口にしているだけで、アセナスの中身が父エフライムだという考えは、あくまで彼の推測として提示されている。

結末

物語の終盤、深夜にアプトンの家の戸口を訪れた者について、アプトン自身は次のように書いている。「この奇妙な来訪者の臭いは実に凄まじいもので、私は妻が目を覚ましてそれに応対することのないようにと願った――そして幸いにも、その願いはかなえられた」[35]。姿を隠したこの来訪者の正体は、直後にアプトンが読む手紙によって明かされることになる。

翌朝、屋敷で何が起きたのかを最初に目にしたのは使用人だった。「私よりも肝の据わった執事は、朝になって玄関で目にしたものにも気を失わなかった。彼はすぐさま警察に電話をかけた」とアプトンは記している[36]。

事件のすべてを語り終えたあと、アプトンは自分自身の恐怖を隠さない。「エフライムも、アセナスも――あの悪魔がそれらを呼び寄せたのであり、それらはエドワードを呑み込んだように、今の私をも呑み込みつつある。自分が安全だと確信できるだろうか」と書き残しており、事件の当事者ではなかったはずのアプトン自身にも、この恐怖が及んでいることを示唆して物語は幕を閉じる[37]。

別名・呼称

作中でアセナス以外の別名や通称は与えられていない。ただし物語の後半、彼女の肉体を借りて生き続けていたのは実の父エフライム・ウェイトであったことが明かされ、エドワード自身が、自分を追い出したその存在を「あの女悪魔(she-devil)」と呼ぶ場面がある[21]。呼び名自体はアセナス・ウェイトのままだが、その内実が誰であるかという一点こそが、この作品全体を貫く恐怖の焦点になっている。

人物像・性格

色黒で小柄、目が突き出ている点を除けば非常に美しい容姿だったが、その表情には敏感な人々を遠ざける何かがあった[11]。もっとも、周囲の人々が彼女を避けた最大の理由は、容姿よりもむしろその出自と会話の内容にあったとされる[11]。インスマスのウェイト家の出であり、荒廃したこの港町の住人には代々「1850年頃の恐ろしい取引」や「人間とは言い切れない」要素にまつわる暗い伝説がつきまとっていた[6]。原典本文はこの「人間とは言い切れない」要素について、それ以上具体的な説明を与えていない。当サイトのマーシュ家や深きものどもの記事はインスマスの背景を別の作品から補うものであり、「戸口に現れたもの」自体がこれらの名を直接挙げているわけではない点には注意したい。

父エフライム・ウェイトは、老年になってから素性不明の妻(常にヴェールをかぶっていた)との間にアセナスをもうけた[12]。エフライムは奇妙な状況下で発狂して死んだが、アセナスは彼の病的なまでに熱心な弟子であり、時に父にひどく似た顔つきをしていたという[7]。学校(ホール校)時代のアセナスは一種の魔術師のように振る舞い、実際に人を驚かせるような術を成し遂げているように見えた。雷雨を起こせると称し、右手のある種の動作で犬を遠吠えさせることができたとされる[13]。なかでも際立っていたのは、他人への影響力に関する数々の証言である。彼女は正真正銘の催眠術師であり、独特な視線を向けることで相手に人格が入れ替わったような感覚を与え、その間、本人の肉体は目を血走らせ突出させた異様な表情で室内を見つめていたという[14]。

アセナスの最大の怒りの種は、自分が男でないことだった。男性の脳には未知の力に対する独自かつ広範な宇宙的な力があると信じ、男性の脳さえ手に入れば父エフライムを凌駕できると公言していた[15]。この野心が、後にエドワードとの結婚を通じて何を引き起こすことになるかは、物語の核心にかかわる。

生涯・経歴

アセナスはミスカトニック大学で中世形而上学の特別講座を受講していた際、38歳の詩人エドワード・ダービーと出会った。当時のアセナスは推定23歳だったとされる[1]。結婚式は花嫁の希望により、教会ではなく治安判事の執り行いで行われた[8]。

結婚後、アセナスはインスマスから膨大な蔵書と器具一式を屋敷に持ち込み、クラウニンシールド屋敷の修復を進めた。屋敷に仕えた3人の使用人はいずれも奇妙で、そのうち老夫婦は老エフライムに仕えていた者たちだった[16]。結婚から1年ほど経つと、以前は運転できなかったはずのエドワードが、アセナスの強力なパッカードを乗り回し、交通の混雑を巧みにさばく、彼らしからぬ技量と決断力を見せるようになる[17]。エドワードは「行き過ぎている」ことや「自分自身を保つ」必要について、暗くほのめかすようになった[18]。

やがて語り手の妻の友人が屋敷を訪ねた際、書斎の窓に一瞬だけ見えた顔は、アセナスの顔でありながら、その目にはエドワードの悲しく困惑した表情が浮かんでいたという[19]。エドワードは幼馴染のダニエル・アプトンに、アセナスが自分の肉体を奪い、締め出して肉体の囚人にしようとしていたと打ち明けた[20]。ある時、車の中でアセナスについて話していた最中に肉体を奪われ、一瞬のうちに屋敷の書斎(使用人たちに閉じ込められていた場所)へ、人間ならざる怪物の肉体の中に戻されていたのだとも語っている[21]。

そしてエドワードは、彼女は実はアセナスではなく老エフライム自身なのだとアプトンに告げる。1年半前からそれを疑っており、今では確信していると述べた[2]。エフライムは死期が迫るのを感じたとき、ふさわしい脳と十分に弱い意志を持つ相手としてアセナスを選び、彼女と肉体を入れ替えて彼女の肉体を永久に手に入れ、自分が押し込んだ元の肉体(かつてのエフライム自身の肉体)を毒殺したのだという[3]。

その後、サナトリウムで「回復」したとされる「エドワード」には、アセナスや老エフライムと同じ燃えるような眼差しと同じ引き締まった口元があり、声には潜在的な悪意を感じさせる同じ皮肉な調子があった[22]。アプトンは翌日の午後、正気を取り戻したことになっているこの患者を訪ね、射殺する[23]。

物語の終盤、屋敷の戸口に現れた来訪者は、エドワードのオーバーコートを着ていたが裾は地面に届くほど大きく、袖は手を隠すほど巻き上げられ、頭にはスラウチハットを目深にかぶり、黒い絹のマフラーで顔を覆っていた[24]。この来訪者が置いていった最後の手紙には、サナトリウムにいるものはもはやエドワード・ダービーではなくアセナスであり、彼女は3か月半前から死んでいると書かれていた[25]。手紙によれば、エドワードは正気の自分の肉体に戻れた隙に燭台でアセナスの頭を叩き割って彼女を殺し[9]、遺体を屋敷の奥の地下貯蔵室に古い箱の下に埋めて痕跡を消したという[10]。だがエドワードはその後、アセナスの死体の中に閉じ込められ、地下室の箱の下で目覚め、自力で這い出したのだという[26]。手紙には、その怪物を焼却するようにという指示と、焼却しなければ肉体から肉体へと永遠に生き続けるだろうという警告が記されていた[27]。

最終的にエドワードの衣服の中から見つかったのは、ほぼ液状化した死体だった。骨と潰れた頭蓋骨があり、歯科治療の記録からその頭蓋骨がアセナスのものだと断定された[28]。

他の人物・存在との関係

エドワード・ダービーとはミスカトニック大学で出会い結婚した夫婦の関係にあるが[1]、結婚生活の実態はアセナス(実際にはエフライム)による一方的な肉体の乗っ取りだった[20][21][3]。父エフライム・ウェイトとの関係は、単なる親子を超えている。エフライムはアセナスの熱心な師であると同時に[7]、最終的には彼女の肉体そのものを永久に奪う相手となった[3]。語り手ダニエル・アプトンは、エドワードの幼馴染としてこの一連の出来事を見届け、最後にはサナトリウムでその「患者」を射殺する役目を負うことになる[23]。

なお、原典本文はアセナスの出自であるインスマスとマーシュ家や深きものどもとの具体的な関係を明言していない。作中に登場するのは「1850年頃の恐ろしい取引」「人間とは言い切れない」要素という間接的な言及のみであり[6]、その正体を掘り下げた記述は他作品に委ねられている。また、夫エドワードが学生時代からネクロノミコンなどの禁書に親しんでいたことは、エドワード・ダービーの記事に詳しい。

主要登場作と読みどころ

  • 「戸口に現れたもの」(1933年8月執筆/1937年1月発表): アセナスの唯一の登場作。前半はミスカトニック大学での出会いから結婚、結婚生活における夫の人格の変化までを、幼馴染アプトンの視点から追う。中盤で明かされる催眠術・精神交換の能力と、終盤の父エフライムの正体、そして手紙形式で明かされる結末まで、一人称の告白体で緊張を保ったまま語り切る点が読みどころ。
  • あわせて読む「エドワード・ダービー」: アセナスと結婚し、その正体に翻弄される夫の視点からこの物語を読み直すための記事。
  • あわせて読む「精神交換」: アセナス(エフライム)がエドワードに対して用いた能力そのものを扱う用語記事。
  • あわせて読む「インスマス」: アセナスの出自であるウェイト家の背景となる港町の記事。

よくある誤解

Q. アセナスは本当にインスマスの血を引く「深きものども」の系譜なのですか?A. 原典本文が明言しているのは、彼女が「インスマスのウェイト家」の出であり、この町の住人には「1850年頃の恐ろしい取引」や「人間とは言い切れない」要素にまつわる暗い伝説がつきまとっていたという間接的な記述までである[6]。彼女自身が深きものどもの血を引くと明言する一文は、本文中に確認できない。

Q. 物語の終盤でサナトリウムにいた「エドワード」は、結局誰だったのですか?A. エドワード自身が書き残した最後の手紙によれば、正気の自分の肉体に戻れた隙にアセナスを殺害した後[9]、彼女(実は父エフライム)に永久に肉体を奪われ、サナトリウムにいたのはエフライムの精神が入ったエドワードの肉体だったとされる[25][26]。アプトンはその「患者」を、アセナス(エフライム)だと判断して射殺した[23]。

Q. 最終的に殺害されたのは誰だと確定されたのですか?A. 屋敷で発見された、エドワードの衣服の中の液状化した遺体は、歯科治療の記録によってアセナスの頭蓋骨だと断定された[28]。この記述は、エドワードの手紙にある「燭台でアセナスを殺し、地下貯蔵室に埋めた」という告白[9][10]と符合する。

出典

  • [1] “Edward was thirty-eight when he met Asenath Waite. She was, I judge, about twenty-three at the time; and was taking a special course in mediaeval metaphysics at Miskatonic.”(訳: エドワードがアセナス・ウェイトと出会ったとき、彼は38歳だった。彼女はその時おそらく23歳ほどで、ミスカトニック大学で中世形而上学の特別講座を受講していた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [2] “You must know what I hinted in the car—that she isn’t Asenath at all, but really old Ephraim himself. I suspected it a year and a half ago, but I know it now. Her handwriting shews it when she’s off guard—sometimes she jots down a note in writing that’s just like her father’s manuscripts, stroke for stroke”(訳: 車の中でほのめかしたことを分かってくれ――彼女はアセナスなどではなく、実は老エフライム自身なのだ。1年半前からそれを疑っていたが、今では分かっている。油断した時の彼女の筆跡がそれを示している――時折、父の手稿とまったく同じ、一画一画そっくりの筆跡でメモを書き付けることがある。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive <!– writing-check: ignore –> ↩
  • [3] “He changed forms with her when he felt death coming—she was the only one he could find with the right kind of brain and a weak enough will—he got her body permanently, just as she almost got mine, and then poisoned the old body he’d put her into. Haven’t you seen old Ephraim’s soul glaring out of that she-devil’s eyes dozens of times . . . and out of mine when she had control of my body?”(訳: 彼は死期が迫るのを感じたとき、彼女と姿を入れ替えた――彼が見つけられた中で、ふさわしい種類の脳と十分に弱い意志とを併せ持つ唯一の相手が彼女だった――彼は彼女の肉体を永久に手に入れた、ちょうど彼女がもう少しで私の肉体を手に入れかけたのと同じように。そして自分が押し込んだ元の肉体を毒殺したのだ。あの女悪魔の目から、幾度となく老エフライムの魂がぎらついて見えたのを見なかったか……彼女が私の肉体を支配していたときの私の目からも。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [4] “The Terrible Old Man (28 January 1920) The Thing in the Moonlight (spurious) The Thing on the Doorstep (21–24 August 1933) Through the Gates of the Silver Key (with E. Hoffmann Price; October 1932–April 1933) “Till A’ the Seas” (with R. H. Barlow; January 1935)”(訳: 『恐るべき老人』(1920年1月28日)『月光の中のもの』(疑作)『戸口に現れたもの』(1933年8月21日-24日)『銀の鍵の門を越えて』(E・ホフマン・プライスとの共作、1932年10月-1933年4月)『とこしえの海へ』(R・H・バーロウとの共作、1935年1月)) — H. P. Lovecraft’s Fiction(hplovecraft.com作品年譜), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [5] “52 • The Thing on the Door-Step • [Cthulhu Mythos] • novelette by H. P. Lovecraft (variant of The Thing on the Doorstep)”(訳: 52ページ・戸口の階段にあらわれたもの・[クトゥルフ神話]・H・P・ラヴクラフトによる中編小説(「戸口に現れたもの」の異表記)) — Weird Tales, v.29 n.1(1937年1月), archive.org ↩
  • [6] “She was one of the Innsmouth Waites, and dark legends have clustered for generations about crumbling, half-deserted Innsmouth and its people. There are tales of horrible bargains about the year 1850, and of a strange element “not quite human” in the ancient families of the run-down fishing port—tales such as only old-time Yankees can devise and repeat with proper awesomeness.”(訳: 彼女はインスマスのウェイト家の一人であり、朽ちかけ半ば見捨てられたインスマスとその住人については、幾世代にもわたって暗い伝説がつきまとっていた。1850年頃の恐ろしい取引の話や、この落ちぶれた漁港の古い家系に見られる「人間とは言い切れない」奇妙な要素の話がある――昔気質のヤンキーたちだけが、いかにも恐ろしげにこしらえて語り継げるような話である。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [7] “He had died insane—under rather queer circumstances—just before his daughter (by his will made a nominal ward of the principal) entered the Hall School, but she had been his morbidly avid pupil and looked fiendishly like him at times.”(訳: 彼(エフライム)はかなり奇妙な状況下で発狂して死んだ――娘(遺言により校長の名目上の後見に置かれた)がホール校に入学する直前のことだった。だが彼女は彼の病的なまでに熱心な弟子であり、時に彼にひどく似た顔つきをしていた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [8] “The wedding was performed a month later—by a justice of the peace, according to the bride’s request. Mr. Derby, at my advice, offered no opposition; and he, my wife, my son, and I attended the brief ceremony—the other guests being wild young people from the college.”(訳: 結婚式は1か月後、花嫁の希望により治安判事によって執り行われた。ダービー氏は私の助言により反対しなかった。彼と私の妻、息子、そして私がこの簡素な式に列席した――他の招待客は大学の血気盛んな若者たちだった。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [9] “I killed her. I had to. It was sudden, but we were alone and I was in my right body. I saw a candlestick and smashed her head in. She would have got me for good at Hallowmass.”(訳: 私は彼女を殺した。そうするしかなかった。突然のことだったが、私たちは二人きりで、私は自分の正しい肉体の中にいた。燭台が目に入り、彼女の頭を叩き割った。彼女はハロウマスまでには私を永久に奪っていただろう。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [10] “I buried her in the farther cellar storeroom under some old boxes and cleaned up all the traces. The servants suspected next morning, but they have such secrets that they dare not tell the police. I sent them off, but God knows what they—and others of the cult—will do.”(訳: 私は彼女を奥の地下貯蔵室の古い箱の下に埋め、痕跡はすべて片付けた。使用人たちは翌朝疑いを持ったようだが、彼らには警察に話す勇気などない秘密がある。私は彼らを追い払ったが、彼らと――そしてあの教団の他の者たちが――何をするかは神のみぞ知る。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [11] “She was dark, smallish, and very good-looking except for overprotuberant eyes; but something in her expression alienated extremely sensitive people. It was, however, largely her origin and conversation which caused average folk to avoid her.”(訳: 彼女は色黒で小柄、目が突き出ている点を除けば非常に美しい容姿だった。だがその表情には、極めて敏感な人々を遠ざける何かがあった。もっとも、平均的な人々が彼女を避けたのは、主に彼女の出自と会話のせいだった。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [12] “Asenath’s case was aggravated by the fact that she was Ephraim Waite’s daughter—the child of his old age by an unknown wife who always went veiled.”(訳: アセナスの場合をさらに深刻にしていたのは、彼女がエフライム・ウェイトの娘――老年になってからの、常にヴェールをかぶっていた素性不明の妻との間の子――であるという事実だった。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [13] “Asenath, it seemed, had posed as a kind of magician at school; and had really seemed able to accomplish some highly baffling marvels. She professed to be able to raise thunderstorms, though her seeming success was generally laid to some uncanny knack at prediction. All animals markedly disliked her, and she could make any dog howl by certain motions of her right hand.”(訳: アセナスは学校で一種の魔術師を気取っていたようで、実際に人を驚かせるような奇跡を成し遂げられるように見えた。彼女は雷雨を起こせると称していたが、その見かけ上の成功は概ね不思議な予知の勘によるものとされていた。あらゆる動物が彼女を著しく嫌い、右手のある動作でどんな犬にも遠吠えさせることができた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [14] “Most unusual, though, were the well-attested cases of her influence over other persons. She was, beyond question, a genuine hypnotist. By gazing peculiarly at a fellow-student she would often give the latter a distinct feeling of exchanged personality—as if the subject were placed momentarily in the magician’s body and able to stare half across the room at her real body, whose eyes blazed and protruded with an alien expression.”(訳: だが最も尋常でなかったのは、彼女が他人に及ぼす影響についての、よく証言された数々の事例だった。彼女は疑いなく正真正銘の催眠術師だった。学友を独特な目つきで見つめることで、しばしば人格が入れ替わったかのようなはっきりした感覚を相手に与えた――まるで対象がその瞬間、魔術師の肉体の中に置かれ、目を血走らせ突出させた異様な表情をした自分の本当の肉体を、部屋の反対側から見つめているかのように。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [15] “Her crowning rage, however, was that she was not a man; since she believed a male brain had certain unique and far-reaching cosmic powers. Given a man’s brain, she declared, she could not only equal but surpass her father in mastery of unknown forces.”(訳: だが彼女の最大の怒りの種は、自分が男でないことだった。というのも彼女は、男性の脳には独自の、かつ広範に及ぶ宇宙的な力があると信じていたからだ。男の脳さえ手に入れば、未知の力を操る技において父を凌駕するどころか超えることさえできると彼女は公言していた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [16] “She had brought a vast store of books and apparatus from Innsmouth (Derby shuddered as he spoke the name), and was finishing the restoration of the Crowninshield house and grounds. Her home in—that town—was a rather disquieting place, but certain objects in it had taught him some surprising things. He was progressing fast in esoteric lore now that he had Asenath’s guidance. Some of the experiments she proposed were very daring and radical—he did not feel at liberty to describe them—but he had confidence in her powers and intentions. The three servants were very queer—an incredibly aged couple who had been with old Ephraim and referred occasionally to him and to Asenath’s dead mother”(訳: 彼女はインスマスから膨大な蔵書と器具一式を持ち込んでおり(その町の名を口にするとき、ダービーは身震いした)、クラウニンシールド屋敷とその敷地の修復を仕上げつつあった。あの町にある彼女の家はかなり不穏な場所だったが、そこにある一部の物が彼に驚くべきことを教えてくれた。今やアセナスの導きを得て、彼は秘教の知識において急速に前進していた。彼女が提案するいくつかの実験は非常に大胆で過激なものだった――彼はそれを詳しく語る自由を感じていなかった――だが彼は彼女の力と意図を信頼していた。三人の使用人はひどく奇妙な者たちだった――信じられないほど年老いた夫婦で、老エフライムに仕えており、時折彼とアセナスの亡き母について言及した。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [17] “For example—although in the old days he could not drive a car, he was now seen occasionally to dash into or out of the old Crowninshield driveway with Asenath’s powerful Packard, handling it like a master, and meeting traffic entanglements with a skill and determination utterly alien to his accustomed nature.”(訳: 例えば――以前は車を運転できなかったにもかかわらず、彼は時折、アセナスの強力なパッカードで古いクラウニンシールド屋敷の私道を出入りする姿を見られるようになった。その運転は熟練者のようで、いつもの彼の性質とはまるで異質な技量と決断力をもって交通の混雑をさばいていた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [18] “He would let fall remarks about things ‘going too far’, and would talk darkly about the need of ‘saving his identity’.”(訳: 彼は物事が「行き過ぎている」ことについて口を滑らせるようになり、「自分自身を保つ」必要について暗くほのめかすようになった。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [19] “There, at one of Edward’s library windows, she had glimpsed a hastily withdrawn face—a face whose expression of pain, defeat, and wistful hopelessness was poignant beyond description. It was—incredibly enough in view of its usual domineering cast—Asenath’s; yet the caller had vowed that in that instant the sad, muddled eyes of poor Edward were gazing out from it.”(訳: そこで彼女は、エドワードの書斎の窓の一つに、慌てて引っ込められる顔を一瞬見た――苦痛と敗北、そして切ない絶望の表情を浮かべた、言葉にできないほど痛切な顔だった。それは――普段の高圧的な相貌からすれば信じがたいことだったが――アセナスの顔だった。それでいてその来訪者は、まさにその瞬間、哀れなエドワードの悲しく混乱した目がその顔から外を見つめていたのだと誓って言った。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [20] “It was horrible, Dan—she was stealing my body—crowding me out—making a prisoner of me. I laid low and pretended to let her do it, but I had to be on the watch. I could plan if I was careful, for she can’t read my mind literally, or in detail. All she could read of my planning was a sort of general mood of rebellion—and she always thought I was helpless. Never thought I could get the best of her . . . but I had a spell or two that worked.”(訳: 恐ろしかったんだ、ダン――彼女は私の肉体を奪おうとしていた――私を押しのけて――私を囚人にしようとしていた。私はじっと身を伏せ、彼女にそうさせているふりをしていたが、油断はできなかった。注意深くやれば計画を立てられた、彼女は私の心を文字通りに、あるいは詳細には読めないからだ。彼女が私の計画について読み取れたのは、せいぜい反抗的な気分の大まかな様子くらいだった――そして彼女はいつも私を無力だと思っていた。彼女を出し抜けるとは決して思っていなかった……だが私にはいくつか効く呪文があった。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [21] “That was when she got me—drove me out of my body. The last thing of the ride I remember was when I was all worked up trying to tell you what that she-devil is. Then she got me, and in a flash I was back at the house—in the library where those damned servants had me locked up—and in that cursed fiend’s body . . . that isn’t even human”(訳: その時だった、彼女が私を奪ったのは――私を肉体から追い出したのだ。あのドライブで最後に覚えているのは、あの女悪魔が何者かを君に伝えようと必死になっていた時のことだ。それから彼女は私を奪い、一瞬のうちに私は屋敷に戻っていた――あの忌々しい使用人たちに閉じ込められていた書斎に――そしてあの呪われた怪物の肉体の中に……人間ですらないあの肉体の中に。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [22] “There was the same blazing vision—so like Asenath’s and old Ephraim’s—and the same firm mouth; and when he spoke I could sense the same grim, pervasive irony in his voice—the deep irony so redolent of potential evil.”(訳: 同じ燃えるような眼差しがあった――アセナスや老エフライムのそれとそっくりの――そして同じ引き締まった口元があった。彼が話すと、その声には同じ、陰惨で行き渡るような皮肉が感じ取れた――潜在的な悪意を色濃く漂わせる、あの深い皮肉が。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [23] “The next day—in the afternoon, when I pulled out of my prostration and was able to walk and talk coherently—I went to the madhouse and shot him dead for Edward’s and the world’s sake, but can I be sure till he is cremated?”(訳: 翌日――午後になって、私が虚脱状態から抜け出し、歩いたり筋道立てて話したりできるようになったとき――私は精神病院へ行き、エドワードのため、そして世界のために彼を撃ち殺した。だが彼が火葬されるまで、それが確かだと言えるだろうか。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [24] “The caller had on one of Edward’s overcoats—its bottom almost touching the ground, and its sleeves rolled back yet still covering the hands. On the head was a slouch hat pulled low, while a black silk muffler concealed the face.”(訳: 来訪者はエドワードのオーバーコートの一枚を着ていた――裾はほとんど地面に届き、袖は巻き上げられていたがそれでもまだ手を覆っていた。頭にはスラウチハットを目深にかぶり、黒い絹のマフラーが顔を覆い隠していた。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [25] ““Dan—go to the sanitarium and kill it. Exterminate it. It isn’t Edward Derby any more. She got me—it’s Asenath—and she has been dead three months and a half.”(訳: 「ダン――療養所へ行って、それを殺してくれ。抹殺してくれ。それはもうエドワード・ダービーではない。彼女が私を奪った――それはアセナスだ――そして彼女は3か月半前から死んでいる。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [26] “Then it came—I found myself choked in the dark—in Asenath’s rotting carcass down there in the cellar under the boxes where I put it. And I knew she must be in my body at the sanitarium—permanently, for it was after Hallowmass, and the sacrifice would work even without her being there—sane, and ready for release as a menace to the world.”(訳: それがやって来た時――私は暗闇の中で息を詰まらせている自分に気づいた――私が押し込んだ地下室の、箱の下にあるアセナスの腐りかけた死体の中で。そして私は分かった、彼女は療養所にある私の肉体の中に――永久に――いるに違いないと。なぜならそれはハロウマスの後のことで、彼女がその場にいなくとも生贄の儀式は効力を発揮するからだ――正気で、世界への脅威として解放される準備が整った状態で。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [27] “Kill that fiend if you value the peace and comfort of the world. See that it is cremated. If you don’t, it will live on and on, body to body forever,”(訳: 世界の平和と安寧を大切に思うなら、あの怪物を殺してくれ。必ず火葬してくれ。もしそうしなければ、それは肉体から肉体へと、永遠に生き続けるだろう。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [28] “What they finally found inside Edward’s oddly assorted clothes was mostly liquescent horror. There were bones, too—and a crushed-in skull. Some dental work positively identified the skull as Asenath’s.”(訳: 彼らが最終的にエドワードの奇妙に不揃いな衣服の中から見つけたのは、ほとんどが液状化した恐怖だった。骨もあった――そして潰れた頭蓋骨も。ある歯科治療の記録が、その頭蓋骨をアセナスのものだと確定的に特定した。) — 「戸口に現れたもの」(1937年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [29] “The daughter of a friend of mine had met her before—in the Hall School at Kingsport—and had been inclined to shun her because of her odd reputation.”(訳: 私の友人の娘は以前にキングズポートのホール校で彼女と面識があり、その奇妙な評判のために彼女を避ける傾向にあった。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [30] “Asenath often made wild claims about the nature of consciousness and about its independence of the physical frame—or at least from the life-processes of the physical frame.”(訳: アセナスは意識の本質について、そしてそれが肉体――少なくとも肉体の生命活動――から独立していることについて、しばしば突飛な主張をした。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [31] “People said he looked too much like his wife, or like old Ephraim Waite himself, in these moments—or perhaps these moments seemed unnatural because they were so rare.”(訳: 人々は、こうした瞬間の彼が妻に似すぎている、あるいは老エフライム・ウェイトその人に似すぎていると言った――あるいは、こうした瞬間があまりに稀だったからこそ不自然に感じられたのかもしれない。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [32] “But the oddest rumours were those about the sobbing in the old Crowninshield house. The voice seemed to be a woman’s, and some of the younger people thought it sounded like Asenath’s.”(訳: しかし最も奇妙な噂は、古いクラウニンシールド屋敷での泣き声についてのものだった。その声は女性のもののようで、若い世代の何人かはアセナスの声のように聞こえたと考えた。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [33] “Yes, he knew about the Innsmouth blood now. There had been traffick with things from the sea—it was horrible.”(訳: そう、彼は今ではインスマスの血のことを知っていた。海からのものたちとの取引があった――それは恐ろしいことだった。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [34] “Was it old Ephraim’s soul that was locked in? Who locked in whom?”(訳: 閉じ込められていたのは老エフライムの魂だったのか。誰が誰を閉じ込めたのか。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [35] “The odour of this singular messenger was really appalling, and I hoped (not in vain, thank God!) that my wife would not wake and confront it.”(訳: この奇妙な来訪者の臭いは実に凄まじいもので、私は妻が目を覚ましてそれに応対することのないようにと願った――そして幸いにも、その願いはかなえられた。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [36] “The butler, tougher-fibred than I, did not faint at what met him in the hall in the morning. Instead, he telephoned the police.”(訳: 私よりも肝の据わった執事は、朝になって玄関で目にしたものにも気を失わなかった。彼はすぐさま警察に電話をかけた。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
  • [37] “Ephraim—Asenath—that devil called them in, and they engulfed Edward as they are engulfing me. Can I be sure that I am safe?”(訳: エフライムも、アセナスも――あの悪魔がそれらを呼び寄せたのであり、それらはエドワードを呑み込んだように、今の私をも呑み込みつつある。自分が安全だと確信できるだろうか。) — H. P. Lovecraft, “The Thing on the Doorstep”, 公式アーカイブ ↩
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