概要
1993年公開のオムニバスホラー映画。ブライアン・ユズナが製作・監督(額縁部分および「Whispers」担当)を兼ね、クリストフ・ガンズが「The Drowned」、金子修介が「The Cold」を監督する日米仏合作。全体を貫く額縁物語「The Library」では、ジェフリー・コムズがH・P・ラヴクラフト本人を演じ、修道院に秘蔵されたネクロノミコンを閲覧しようとする姿が描かれる。
3篇の挿話はいずれもラヴクラフト作品を下敷きにした新作シナリオで、特殊効果チームによるグロテスクな造形が特徴。日本では「ネクロノミカン」の邦題でソフトが発売され、日本語字幕版も流通した。金子修介の参加は日本のホラーファンの間でも話題となった。
クトゥルフ神話との関係
額縁部分でラヴクラフト本人が禁書ネクロノミコンを求めて修道院を訪れるという設定自体が、神話体系の根幹をなす「危険な知識への希求とその代償」というテーマを直接的に体現している。3篇はそれぞれ「壁のなかの鼠」「冷気」「闇に囁くもの」を下敷きにしており、特に「Whispers」は「闇に囁くもの」の要素(異星からの知性体、脳を摘出して器に移すモチーフ)を翻案している。
禁断の書物を読む・触れることで人知を超えた領域と接触してしまうという、コズミックホラー特有の恐怖構造が全篇を通じて反復されている点は、原作群に共通する精神を色濃く受け継いでいると言える。
独自の要素・原典との違い
各挿話は「原作に着想を得た新作」であり、プロット自体はラヴクラフトの原典とは大きく異なる。90年代スプラッター映画としての側面が強く、身体変形・グロテスクな特殊効果が前面に押し出されており、原作の持つ静的で不可視の恐怖(直接姿を見せない、暗示に留める恐怖演出)とは対照的な、視覚的でエクスプリシットな恐怖表現が採用されている。
また額縁物語でラヴクラフト自身を架空の探求者として登場させる構成は原作群には存在しない映画オリジナルの発明であり、複数国籍・複数監督によるオムニバス形式そのものも、原作の単独作家性とは異なる90年代ホラー映画特有の商業的枠組みを反映している。
