概要
夜鬼(Night-Gaunts)は、夢の国のンガラネク山やソク山脈、大いなる深淵を根城とする、黒くゴムのような体を持つ知的種族である。声を発さず、笑うための顔さえ持たない――顔があるべき場所にはただ意味深い虚無があるだけである。彼らがすることといえば、掴み、飛び、くすぐることだけであり、それが夜鬼のやり方であった[1]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 夢の国に棲む知的種族 |
| 欧文表記 | NIGHT-GAUNTS |
| 初出 | 『未知なるカダスを夢に求めて』(1926–1927年執筆/1943年発表) |
| 主 | ニャルラトホテプではなくノーデンス[4] |
| 主な特徴 | 黒くゴムのような皮膚、膜状の翼、平らな無貌の顔[1][2] |
初出作品
名前の起源。夜鬼(night-gaunts)という語自体は、ラヴクラフトが幼少期に繰り返し見た悪夢の存在を指して用いた個人的な造語に由来するとされる。
作品への導入。これを怪奇小説の中に用いたのは、執筆時期で見ると『未知なるカダスを夢に求めて』(1926–1927年執筆)である。同じ生物は連作「ユゴスよりの菌類」中の詩「夜鬼」(1929–1930年執筆)にも登場する。ただし両作とも発表は1943年で、いずれもラヴクラフトの生前(1937年没)には発表されていない。
原典での描写
黒くゴムのような皮膚、コウモリに似た膜状の翼、頭部の細い角、尾に地獄の二又の棘を持つ[2]。皮膚は冷たく湿っており、羽ばたきは音を立てない。鉤爪状の前肢で獲物を掴む。もっとも際立つ特徴は、顔がまったく存在しないことである。目も口もなく、平らな虚無が顔の位置にあるのみで[1]、この無貌性が夜鬼という存在の不気味さの核心をなしている。
夜鬼は一切声を発さず、笑うこともない[1]。獲物を捕えると殺しはせず、体をくすぐって身をよじらせ、抵抗力を奪ってから運び去るという独特の攻撃方法をとる。詩「夜鬼」の語り手は悪夢の中でこの生物に繰り返し連れ去られる恐怖を歌い、「ああ、せめて彼らが何か音を立ててくれたなら、あるいは顔があるべき場所に顔をつけていてくれたなら」と嘆いている[3]。
夜鬼は大いなる深淵と外界とを結ぶ関門を守る番人でもあり、食屍鬼と交わした密約の合言葉を知る者に対しては攻撃を控えるとされる。彼らの主はニャルラトホテプではなく、白髪のノーデンスである[4]。偉大なる古きものたちでさえ夜鬼を恐れるとされ、この主従関係により夜鬼は外なる神や旧支配者の勢力圏から独立した存在として位置づけられている[4]。
ダーレス以降の変化
現行の資料には、ダーレス以降に夜鬼へ加えられた独自設定の記述は見当たらない。
TRPGでの扱い
現行の資料には、クトゥルフ神話TRPGにおける夜鬼の扱いについての記述は含まれていない。
登場作品一覧
| 作品 | 種別 | 執筆/発表 | この作品での扱い |
|---|---|---|---|
| 未知なるカダスを夢に求めて | 小説 | 1926–1927年執筆/1943年発表 | ランドルフ・カーターを捕らえ、ソク山脈を越えて大いなる深淵へ運ぶ。物語後半では食屍鬼と共闘し、月獣を急襲する場面もある[1][4] |
| 夜鬼(連作「ユゴスよりの菌類」第20篇) | 詩 | 1929–1930年執筆/1943年発表 | 悪夢の中で夜鬼に繰り返し連れ去られる恐怖を歌う[2][3] |
関連神格・地域・書物
神格・種族
- ノーデンス — 夜鬼が仕える主[4]
- ニャルラトホテプ — 夜鬼の主ではない、と原典が明記する外なる神[4]
- 食屍鬼 — 地底で密約を結んだ相手。月獣との戦いでは共闘もする
- 月獣 — 『未知なるカダスを夢に求めて』終盤で夜鬼・食屍鬼の連合に急襲される
地域
- 夢の国 — 夜鬼が生息する領域
- カダス — 夢の国の奥地。物語の目的地
- ンガラネク山 — ランドルフ・カーターが夜鬼に捕えられる山
書物
- 連作「ユゴスよりの菌類」(Fungi from Yuggoth) — 詩「夜鬼」を含む連作詩。単体記事は未作成
参考文献
- [1] “they never spoke or laughed, and never smiled because they had no faces at all to smile with, but only a suggestive blankness where a face ought to be. All they ever did was clutch and fly and tickle; that was the way of night-gaunts.”(訳:「彼らは決して話さず笑わず、笑うための顔さえ持たない――顔があるべき場所にはただ意味深い虚無があるだけだった。彼らがすることといえば、掴み、飛び、くすぐることだけ――それが夜鬼のやり方であった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
- [2] “Black, horned, and slender, with membraneous wings, / And tails that bear the bifid barb of hell.”(訳:「黒く、角を持ち、痩身で、膜状の翼を備え/尾には地獄の二又の棘を宿す」) — H. P. Lovecraft, “Night-Gaunts”(連作「ユゴスよりの菌類」第20篇、1929–1930年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
- [3] “But oh! If only they would make some sound, / Or wear a face where faces should be found!”(訳:「ああ、せめて彼らが何か音を立ててくれたなら/あるいは顔があるべき場所に顔をつけていてくれたなら」) — H. P. Lovecraft, “Night-Gaunts”(連作「ユゴスよりの菌類」第20篇、1929–1930年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
- [4] “those mindless guardians of the Great Abyss whom even the Great Ones fear, and who own not Nyarlathotep but hoary Nodens as their lord.”(訳:「大いなる深淵を守る無心の番人たちであり、偉大なる古きものたちでさえ彼らを恐れる。彼らの主はニャルラトホテプではなく、白髪のノーデンスである」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
FAQ
Q. 夜鬼はニャルラトホテプの手先ですか。A. 違います。原典は「彼らの主はニャルラトホテプではなく、白髪のノーデンスである」と明記しています[4]。
Q. 夜鬼は単なる移動手段(騎乗生物)にすぎませんか。A. 原典ではそうではありません。偉大なる古きものたちでさえ夜鬼を恐れるとされ、外なる神や旧支配者の勢力圏から独立した存在として位置づけられています[4]。ランドルフ・カーターを運ぶ場面が印象的なため乗り物として語られがちですが、それは夜鬼の一面にすぎません。
Q. 夜鬼はどんな姿をしていますか。A. 黒くゴムのような皮膚、コウモリに似た膜状の翼、頭部の細い角、尾の二又の棘を持つ、顔のない生物です[1][2]。目も口もなく、平らな虚無が顔の位置にあります。
Q. 夜鬼と食屍鬼はどんな関係ですか。A. 地底で密約を結んだ間柄で、合言葉を知る者には攻撃を控えるとされます。『未知なるカダスを夢に求めて』終盤では、月獣を急襲する場面で共闘もします。
Q. 夜鬼が登場する作品はいつ発表されましたか。A. 『未知なるカダスを夢に求めて』も詩「夜鬼」も、発表はラヴクラフト没後(1937年没)の1943年です。生前に発表されたことはありません。





