概要
金属製の箱に収められた、ほぼ黒く、赤い縞模様のある非対称の鉱物[1]。光を浴びている間は安全だが、完全な暗闇に置かれると「暗闇の悪魔(ニャルラトホテプの化身)」をこの世に引き寄せる[2]。
原典での描写
尖塔の部屋で見つかる箱と石の姿(「暗闇の悪魔」1935年執筆/1936年発表)
ロバート・ブレイクは、「暗闇の悪魔」の終盤、フェデラル・ヒルの打ち捨てられた教会の尖塔で、奇妙な蝶番を持つ金属の箱と、その中に収められた石を見つける。たそがれが迫る中、彼は「その異様に角ばった石にかすかな発光の兆しを見たように思った」といい、目をそらそうとしても視線を引き戻されてしまう[7]。得体の知れない気配に押されるように、「長らく開いたままだった箱の蓋をつかみ、勢いよく閉じた」[7]。
石の来歴として記される系譜
ブレイクは教団の暗号文書をアクロ語で読み解き、そこに「輝くトラペゾヘドロンを覗き込むことで目覚める『闇に棲む者』への言及と、それが呼び出される混沌の深淵についての狂気じみた推測」を見出す[8]。彼が書き記したところによれば、石は暗きユゴスで作られ、古のものによって地球へもたらされたのち、南極の生物、ヴァルーシアの蛇人間、レムリアの人類の手を経てアトランティスとともに沈み、ミノアの漁師の網にかかってケム(エジプト)の商人に渡ったという[3]。そのうえで「ファラオ・ネフレン=カはその周囲に窓のない地下室を持つ神殿を築き、彼の名をあらゆる記念碑と記録から抹消させるに至った行為をなした」とも記される[8]。
石を覗いたブレイクが見るもの
星の知恵派の教団員たちは、「輝くトラペゾヘドロンが天国やほかの世界を見せてくれ、闇に棲む者が何らかの方法で秘密を語ってくれる」と言い伝えていたという[9]。暗号を解読したのちのブレイクも石への執着を深め、教会を封じる意志を日記に記しながら、「夢にまで忍び込む病的な渇望——あの呪われた尖塔を再び訪れ、光る石の宇宙的な秘密を再び覗き込みたいという思い」を捨てきれずにいた[9]。
闇と光の関係と結末
教団に伝わる話では、呼び出された者は「わずかな光からも逃げ、強い光によって追い払われる。すると、再び呼び出さねばならなくなる」とされていた[10]。物語の結末、雷雨でプロヴィデンスの街灯が消えた夜、闇の中でブレイクは「古の陰りたるケムにおいてすら人の姿を取ったニャルラトホテプの化身ではないのか。私はユゴスを、そしてさらに遠いシャッガイを、黒い諸惑星の窮極の虚空を思い出す」と書き残した[10]。
基本プロフィール
- 分類: 概念
- 欧文表記: SHINING TRAPEZOHEDRON
- 初出・出典: 暗闇の悪魔(1935年執筆/1936年発表)
由来と歴史 / 詳細設定
ユゴス(冥王星)で古のものが作成し、南極の生物からヴァルーシアの蛇人間、レムリアの人類の手を経てアトランティスとともに沈み、ミノアの漁師の網からケム(エジプト)の商人へ渡って、ファラオ・ネフレン=カの神殿に祀られたと原典では語られる[3][8]。その後19世紀のプロヴィデンス(フェデラル・ヒル)[4]で「星の知恵派」教団の教会に安置された歴史を持つ[5]。覗き込んだ者に宇宙の彼方の光景を幻視させ[3]、引き換えに宿主の精神を捕食する[6]。
性質と影響
「覗き込むこと(知覚)が、そのまま向こうからの接触と危険を招く」という、観測と存在の両義的恐怖を物理的アイテムとして表現する。
関連する用語
暗闇の悪魔、星の知恵派、連星アルゴル、ロバート・ブレイク
出典
- [1] “The four-inch seeming sphere turned out to be a nearly black, red-striated polyhedron with many irregular flat surfaces.”(訳: 「その四インチほどの球体に見えたものは、実際にはほぼ黒く、赤い縞模様の入った、多くの不規則な平面を持つ多面体だった」) — H. P. Lovecraft, “The Haunter of the Dark”(1935年執筆/1936年発表), hplovecraft.com ↩
- [2] “It could go wherever the darkness reached, but light would always send it fleeing.”(訳: 「それは闇の届く所ならどこへでも行けたが、光はいつもそれを逃げ去らせた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [3] “Of the Shining Trapezohedron he speaks often, calling it a window on all time and space, and tracing its history from the days it was fashioned on dark Yuggoth, before ever the Old Ones brought it to earth. It was treasured and placed in its curious box by the crinoid things of Antarctica, salvaged from their ruins by the serpent-men of Valusia, and peered at aeons later in Lemuria by the first human beings. It crossed strange lands and stranger seas, and sank with Atlantis before a Minoan fisher meshed it in his net and sold it to swarthy merchants from nighted Khem.”(訳: 「輝くトラペゾヘドロンについて彼はしばしば語り、それを時空のあらゆる場所を映す窓と呼び、旧きものたちが地球へ持ち込むよりも前、暗きユゴスで作られた頃にまで遡ってその来歴を語った。それは南極の海百合状生物によって大切にされ、あの奇妙な箱に収められ、その廃墟からヴァルーシアの蛇人間たちの手に渡り、幾星霜の後にレムリアで最初の人類によって覗き見られた。それは奇妙な陸地とさらに奇妙な海を渡り、アトランティスとともに沈んだのち、ミノスの漁師の網にかかり、夜のケムから来た浅黒い商人たちに売られた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [4] “Young Blake returned to Providence in the winter of 1934–5, taking the upper floor of a venerable dwelling in a grassy court off College Street.”(訳: 「若きブレイクは1934年から35年にかけての冬にプロヴィデンスへ戻り、カレッジ・ストリートから入る草生す中庭にある由緒ある住居の最上階を借りた」)——原典の舞台はアーカムではなくプロヴィデンス(フェデラル・ヒル)であることが確認できるため、本文の記載を訂正した — 同上, hplovecraft.com ↩
- [5] “The vacant church was in a state of great decrepitude. Some of the high stone buttresses had fallen, and several delicate finials lay half lost among the brown, neglected weeds and grasses.”(訳: 「その打ち捨てられた教会はひどく荒廃していた。高い石造りの控え壁のいくつかは崩れ落ち、繊細な小尖塔も褐色に色あせた雑草の中に半ば埋もれていた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [6] “The rigid body sat bolt upright at the desk by the window, and when the intruders saw the glassy, bulging eyes, and the marks of stark, convulsive fright on the twisted features, they turned away in sickened dismay.” Blake’s final diary entry: “I see it—coming here—hell-wind—titan blur—black wings—Yog-Sothoth save me—the three-lobed burning eye. . . .”(訳: 「硬直した死体は窓際の机に背筋を伸ばして座っており、侵入者たちがそのガラスのような飛び出た目と、ねじれた顔に浮かぶ凄まじい痙攣的恐怖の痕跡を見たとき、彼らは吐き気を催して顔を背けた」/ブレイクの最後の日記「見える——ここへ来る——地獄の風——巨大な影——黒い翼——ヨグ=ソトースよ我を救いたまえ——三裂の燃える目……」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [7] “It was then, in the gathering twilight, that he thought he saw a faint trace of luminosity in the crazily angled stone.”(訳: 「そのとき、たそがれ迫る中で、彼はその異様に角ばった石にかすかな発光の兆しを見たように思った」) “Blake seized the cover of the long-open box and snapped it down.”(訳: 「ブレイクは長らく開いたままだった箱の蓋をつかみ、勢いよく閉じた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [8] “There are references to a Haunter of the Dark awaked by gazing into the Shining Trapezohedron, and insane conjectures about the black gulfs of chaos from which it was called.”(訳: 「そこには、輝くトラペゾヘドロンを覗き込むことで目覚める『闇に棲む者』への言及と、それが呼び出される混沌の深淵についての狂気じみた推測が記されていた」) “The Pharaoh Nephren-Ka built around it a temple with a windowless crypt, and did that which caused his name to be stricken from all monuments and records.”(訳: 「ファラオ・ネフレン=カはその周囲に窓のない地下室を持つ神殿を築き、彼の名をあらゆる記念碑と記録から抹消させるに至った行為をなした」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [9] “These people say the Shining Trapezohedron shews them heaven & other worlds, & that the Haunter of the Dark tells them secrets in some way.”(訳: 「この者たちは、輝くトラペゾヘドロンが天国やほかの世界を見せてくれ、闇に棲む者が何らかの方法で秘密を語ってくれると言う」) “he displays the dangerous extent of his fascination, and admits a morbid longing—pervading even his dreams—to visit the accursed tower and gaze again into the cosmic secrets of the glowing stone.”(訳: 「彼は自らの魅了された危うい深さを露わにし、夢にまで忍び込む病的な渇望——あの呪われた尖塔を再び訪れ、光る石の宇宙的な秘密を再び覗き込みたいという思い——を認めている」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [10] “Flees a little light, and banished by strong light. Then has to be summoned again.”(訳: 「わずかな光からも逃げ、強い光によって追い払われる。すると、再び呼び出さねばならなくなる」) “Is it not an avatar of Nyarlathotep, who in antique and shadowy Khem even took the form of man? I remember Yuggoth, and more distant Shaggai, and the ultimate void of the black planets.”(訳: 「これは、古の陰りたるケムにおいてすら人の姿を取ったニャルラトホテプの化身ではないのか。私はユゴスを、そしてさらに遠いシャッガイを、黒い諸惑星の窮極の虚空を思い出す」) — 同上, hplovecraft.com ↩





