賞レース(結果発表2026年9月11日) — Japan Horror Game Awards 2026: Mythology & Cosmic Horror Category

2026年、日本では何を「宇宙的恐怖」と呼んでいるのか——日本ホラーゲーム大賞「神話伝承・宇宙的恐怖賞」

「日本ホラーゲーム大賞2026」に設けられた独立部門「神話伝承・宇宙的恐怖賞」のノミネート7作品には、クトゥルフ神話作品だけでなく、SCP・スラヴ民話・月面SFホラーまでが並んでいた。2026年9月11日、東京ドームシティ「東京ホラー特区!!」で結果が発表され、クトゥルフ神話作品ではなくSCP財団を題材にした『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』が受賞した。

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概要

「日本ホラーゲーム大賞2026 produced by 百室」には、独立部門として「神話伝承・宇宙的恐怖賞」が設けられていた[1]。結果は2026年9月11日、東京ドームシティで開催された「東京ホラー特区!!」の授賞式で発表され、Misfit Village開発・Nordcurrent Labs発行の『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』が受賞した[4]。同じ会場では9月13日に「東京ホラー特区!! インディーホラーゲーム大賞授賞式」という別の授賞式も予定されており、複数の賞が並行して運営されていることが分かる[1]。

「東京ホラー特区!!2026」自体は、2026年9月11日から13日までの3日間、東京ドームシティ プリズムホールで開催されるイベントで、「Dive into Horror(恐怖解放区へ、ダイブせよ!)」をテーマに、映画・ドラマ・ゲーム・コミック・アートといったジャンルを横断して国内外のホラー作品・クリエイターを集める企画だ[3]。キービジュアルは『ファイナルファンタジー』シリーズで知られる天野喜孝氏の描き下ろしで、天野氏は「がしゃどくろと瀧夜叉姫というリクエストがあった」ことを踏まえ、「花であったり蛾だったりで夜の怪しい感じを表現した」と説明している[3]。「日本ホラーゲーム大賞2026」自体は、2025年3月1日から2026年3月31日にリリースされたホラー表現を含むゲーム作品を対象に、ネット投票(ユーザー・クリエイター・メディア)と「百室」による審査を組み合わせて、大賞1作品と複数の部門賞を選ぶ方式が採られている[3]。「神話伝承・宇宙的恐怖賞」は、このうちの部門賞の一つという位置づけになる。

ノミネート7作品——クトゥルフだけではない

電撃オンラインが伝えるノミネート7作品は次の通りだ[2]。

  • 『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』 — SCP財団の下級職員が、組織の歯車となることの不穏さを体感する一人称ホラー
  • 『Cult of the Yellow King』 — クリッカーゲームを通じて、作業が信仰に変わる感覚を表現した作品
  • 『The Sinking City Remastered』 — ラヴクラフト的世界観で、水没都市を舞台にした探偵ホラー
  • 『Static Dread: The Lighthouse』 — 灯台守として、来訪者への判断を通じて恐怖を選択させるホラー
  • 『ひとつ目のリーホ』 — スラヴ民話を背景にした一人称ホラー
  • 『ROUTINE』 — HUDなしの月面基地探索SFホラー
  • 『Worshippers of Cthulhu』 — クトゥルフ信仰の都市建設シミュレーション

当サイトはこのうち『Worshippers of Cthulhu』をすでに紹介済みだ。7作品を見渡すと、クトゥルフ神話を直接扱う作品は『The Sinking City Remastered』『Worshippers of Cthulhu』の2本にとどまり、残りはSCP財団、スラヴ民話、月面SFサバイバルなど、クトゥルフ神話とは出自の異なる題材が並んでいる。この部門が「クトゥルフ神話賞」ではなく「神話伝承・宇宙的恐怖賞」という名称を選んでいること自体が、審査側の意図を示している。

7作品を電撃オンラインの紹介文だけで比べても、恐怖の作り方はかなり違う。『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』は、SCP財団という現代のインターネット発・集合創作の怪異体系を下敷きにしている。SCPは特定の作者を持たず、不特定多数の書き手が「収容対象」という体裁で怪異を書き足していく点で、クトゥルフ神話の同人文化とも構造的に近い。『ひとつ目のリーホ』はスラヴ民話という、西欧・北米中心のクトゥルフ神話とは全く別系統の伝承を土台にしている。『ROUTINE』はHUDなしの月面基地という近未来SF設定で、神話的な存在への言及を持たない。当サイトが「宇宙的恐怖とは何か」で確認したラヴクラフト自身の定義――「未知の外部への怖れ」と「自然法則が破られる示唆」――に立ち返れば、これらの作品が同じ部門に並ぶ理由が見えてくる。固有の神話体系を共有していなくても、この2条件さえ満たせば「宇宙的恐怖」として括りうる、という見方が、この部門の作品選定の背景にあるのではないかと推測できる。ただし、これは公式が明言した選考基準ではなく、当サイトによる推測にとどまる。

結果:クトゥルフ神話作品ではなくSCP作品が受賞した

2026年9月11日、「東京ホラー特区!!2026」の授賞式で結果が発表され、「神話伝承・宇宙的恐怖賞」は『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』(開発Misfit Village、発行Nordcurrent Labs)が受賞した[4]。当サイトが既に紹介している『Worshippers of Cthulhu』や、同じくクトゥルフ神話を直接扱う『The Sinking City Remastered』ではなく、クトゥルフ神話とは出自の異なるSCP財団の作品が選ばれた形になる。

この結果は、上で触れた「宇宙的恐怖という審査基準が固有の神話体系を問わない」という推測を裏づける一つの実例として読める。ただし、審査側が受賞理由として「クトゥルフ神話に限定しない選考方針」を明言しているわけではなく、これはあくまで結果から当サイトが導いた解釈にとどまる。他の部門賞・大賞の受賞作については、本稿では扱わない。

「ハスターこと黄衣の王」という説明、その先を分ける

電撃オンラインの紹介記事は、『Cult of the Yellow King』について「ハスターこと黄衣の王は、本来、読んだ者・見た者・触れた者を少しずつ変質させる存在として語られてきた」と説明している[2]。ここは、当サイトの立場から一段掘り下げておきたい。

当サイトの「ハスター」記事で確認した通り、「ハスター」と「黄衣の王」を同一の神格として扱う体系は、ラヴクラフトの原典にはなく、オーガスト・ダーレスが『潜伏するもの』(1932年)と『ハスターの帰還』(1939年)で確立したものだ。さらに遡れば、「黄衣の王」という戯曲・存在そのものは、1895年にロバート・W・チェンバースが発表した『黄衣の王』が初出であり、ラヴクラフト自身がこれを読んで自作へ引用したのは1927年のことだ。つまり電撃オンラインの説明にある「ハスターこと黄衣の王」という等号は、原典が最初から示していたものではなく、ビアス→チェンバース→ラヴクラフト→ダーレスという複数の書き手を経て、後年になって結ばれた等号である。この経緯を知らずに読むと、「ハスター=黄衣の王」が最初から一つの神として存在していたかのように受け取ってしまう。ゲーム紹介記事の説明をそのまま引用するのではなく、その等号がいつ・誰によって結ばれたのかまで遡って示すことこそ、当サイトの役割だと考える。

なぜこの部門が重要なのか

この部門の重要性は、個々のノミネート作品の出来不出来ではなく、審査の枠組みそのものにある。「Lovecraftian」という形容詞に頼らず、「宇宙的恐怖」という概念そのものを審査基準に据え、クトゥルフ神話・チェンバーズ系の意匠・SCPのような現代の集合創作・スラヴ民話・純粋なSFホラーまでを同じ土俵で評価する。これは、当サイトが別記事「固有名詞のないラヴクラフト」で確認したのと同じ問い――固有名詞を出さなくても「宇宙的恐怖」は成立するのか――を、日本のゲーム賞という制度の側から実践している例だと言える。日本のゲーム文化において、「宇宙的恐怖」が単なる雰囲気の形容ではなく、独立した評価軸として制度化され始めていることを示す一例になっている。

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出典

  • [1] 「日本ホラーゲーム大賞2026 produced by 百室」に「神話伝承・宇宙的恐怖賞」部門が設けられていること、結果発表が2026年9月11日、東京ドームシティ「東京ホラー特区!!」の授賞式で行われること、9月13日に別途「東京ホラー特区!! インディーホラーゲーム大賞授賞式」が予定されていることが記載されている — 東京ホラー特区!!/日本ホラーゲーム大賞公式サイト, event-td.com、授賞式情報, event-td.com ↩
  • [3] 「東京ホラー特区!!2026」が2026年9月11〜13日、東京ドームシティ プリズムホールで開催されること、テーマ「Dive into Horror(恐怖解放区へ、ダイブせよ!)」、天野喜孝氏によるキービジュアルの描き下ろしとその制作意図、「日本ホラーゲーム大賞2026」の対象期間(2025年3月1日〜2026年3月31日リリース作品)、選考方法(ネット投票+百室審査)が記載されている — 株式会社東京ドーム プレスリリース「『東京ホラー特区!!2026』天野喜孝氏描きおろしのキービジュアル&コメントを公開」, prtimes.jp ↩
  • [2] 「神話伝承・宇宙的恐怖賞」ノミネート7作品(『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』『Cult of the Yellow King』『The Sinking City Remastered』『Static Dread: The Lighthouse』『ひとつ目のリーホ』『ROUTINE』『Worshippers of Cthulhu』)の紹介文、『Cult of the Yellow King』について「ハスターこと黄衣の王は、本来、読んだ者・見た者・触れた者を少しずつ変質させる存在として語られてきた」という説明が記載されている — 電撃オンライン, dengekionline.com ↩
  • [4] 「神話伝承・宇宙的恐怖賞」の受賞作が『家へ帰れ、アニー:SCPゲーム』(開発Misfit Village、発行Nordcurrent Labs)であること、発表日が2026年9月11日、発表の場が「東京ホラー特区!!2026」であることが記載されている — 株式会社東京ドーム プレスリリース, prtimes.jp ↩
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