TRPGサプリメント(英語・ハードカバー、2026年10月発売予定) — Arkham Horror RPG: Songs of New Orleans

Arkham Horror RPG: Songs of New Orleans

Edge Studioの独自システム『Arkham Horror RPG』のサプリメントにハスターが登場する。ケイオシアムの『クトゥルフの呼び声』とは別の商品である。ビアスの牧人の善神、チェンバースの不確定な指示対象、ラヴクラフトの一度きりの言及、ダーレスによる神格化という積み重ねの先に、本作の「不気味な影響」という扱いを置いて確かめる。

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東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。ハスター・カルコサ・黄の印の来歴を項目で引ける。

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概要

Edge Studio(Fantasy Flight Games傘下)は、独自システム『Arkham Horror RPG』のサプリメント『Arkham Horror RPG – Songs of New Orleans』を2026年10月に発売する。米国公式ストアAsmodeeの商品ページによれば、発売日は2026年10月30日、価格49.99ドル、144ページのハードカバーである[1]。英国公式ストアAsmodee UKの商品ページでは発売日が26/10/2026、価格は£49.99と表記されており[3]、米英で発売日が4日ずれている。日本国内での正規販売・日本語版の予定は、参照した公式ページの範囲では確認できていない。

まず押さえておく必要があるのは、本作がケイオシアム社のTRPG『クトゥルフの呼び声』の関連商品ではないという点である。Edge Studio公式のコアルールブック商品ページに、ChaosiumやCall of Cthulhuへの言及は無い[8]。『Arkham Horror RPG』は、同じ「アーカムホラー」の名を冠しながら版元もルールも異なる、別系統のTRPGだ。

どんな作品か

Edge Studio公式の商品ページは、本作を次の一文で紹介している。「Underneath the fiery chords of jazz and swing lie more haunting melodies from eons past…(ジャズとスウィングの燃えるようなコードの下には、悠久の時を経たさらに底知れぬ旋律が横たわっている……)」[2]。同じページはさらに、「This supplement features the grand old city of New Orleans and its sinister sibling, dread Carcosa.(このサプリメントは、由緒あるニューオーリンズの街と、その邪悪な姉妹たる、恐るべきカルコサを扱う)」と続ける[2]。米国版Asmodeeの商品説明も同趣旨の一文を掲げたうえで、「delves into the eerie influence of Hastur, The King in Yellow.(ハスター、黄衣の王の不気味な影響に踏み込む)」と明記している[1]。しばしば「鏡像」という言葉で紹介される関係だが、公式の英文が実際に使っているのは「sibling(姉妹)」であって、鏡に映った像を意味する語ではない。

収録内容は次の通りである[1][2]。

  • 新アーキタイプ「Musician」。Edge Studio公式ページの本文中には一箇所「Musicican」という綴りで記載されている(原文ママ)
  • 六つの小規模ミステリー(“six mini mysteries”)
  • 新規のレリック・魔導書・アイテム・NPCプロフィール
  • 単独プレイまたは既存キャンペーンへの追加として遊べるアドベンチャー「The Krewe in Yellow(黄衣のクルー)」
  • 両面印刷のポスターマップ/バトルマップ

「krewe」は、ニューオーリンズのマルディグラ(謝肉祭)パレードを主催する社交クラブを指す語である。アドベンチャー名にこの語を選んだ時点で、舞台をニューオーリンズに据えるという本作独自の作劇が見て取れる。ジャズ、スウィング、マルディグラという1920年代ニューオーリンズの風俗は、ビアス・チェンバース・ラヴクラフト・ダーレスのいずれの原典にも存在しない。

ハスターの系譜——牧人の善神から、一度きりの言及まで

ハスターという名前の起点は、クトゥルフ神話の外にある。最初に世へ出したのはアンブローズ・ビアスで、1891年の短編「Haïta the Shepherd」に登場する。「He rose with the sun and went forth to pray at the shrine of Hastur, the god of shepherds, who heard and was pleased.(彼は日の出とともに起き、牧人の神ハスターの祠へ祈りを捧げに出向いた。神はそれを聞き届け、喜ばれた)」[4]。対立や闘争とは無縁の、祈りを聞き届ける善神としての姿である。

この名前を怪奇小説の固有名として転用したのがロバート・W・チェンバースだ。1895年の短編集『The King in Yellow』で、ハスターはカルコサ・黄の印・戯曲『黄衣の王』と緩やかに結びつけられる。表題作「名誉修理者」の語り手ヒルドレッドは「I cannot forget Carcosa where black stars hang in the heavens.(黒い星々が天に懸かるカルコサを、私は忘れることができない)」と書き、続けて劇中の架空文書からハスター・ヒュアデス・アルデバランの名を並べた一節を引用する[5]。人物なのか地名なのか判然としない指示対象として、作品ごとに姿を変えるだけで、一貫した神格として体系化されてはいない。

ラヴクラフト自身がハスターに触れたのは、1930年執筆・1931年発表の「闇に囁くもの」でのただ一度だけである。「There is a whole secret cult of evil men (a man of your mystical erudition will understand me when I link them with Hastur and the Yellow Sign) devoted to the purpose of tracking them down and injuring them on behalf of monstrous powers from other dimensions.(邪悪な人間たちからなる秘密結社がまるごと存在する〈あなたほど神秘学に通じた人物なら、私が彼らをハスターと黄の印に結びつけて言えば理解されるだろう〉。彼らを追跡し、他次元の怪物的な力に代わって傷つけることに捧げられた結社だ)」[6]。ハスターが何者かは、この一文では説明されない。原典が語るのはここまでで、風のエレメンタルという設定も、クトゥルフとの対立関係も、ここには無い。

ダーレスの神格化と「影響」という語の距離

ハスターとクトゥルフを対立関係に配置したのは、ラヴクラフトの死後にその遺稿を整理・出版したオーガスト・ダーレスである。短編「The Return of Hastur」(1939年)で、ダーレスは旧支配者たちを四大元素に結びつける説を導入し、登場人物に「Great Cthulhu is of the Water Beings, even as Hastur is of the Beings that stalk the star-spaces.(大いなるクトゥルフは水の眷属に属し、ハスターもまた星間を彷徨う眷属に属する)」と語らせた[7]。水の精としてのクトゥルフ、風あるいは星間の精としてのハスターという対比は、この段階で初めて作られたものであり、ラヴクラフト自身が与えたものではない。

Edge Studio公式の紹介文は、ハスターについて「delves into the eerie influence of Hastur(ハスターの不気味な影響に踏み込む)」と述べるにとどまり、ハスターそのものを登場させるとは書いていない[1]。「影響」という語の選び方は、原典が示した「名前だけで実体不明」という性質と、意外なほど噛み合っている。ただし本書が実際にハスターをどう描写するのか、シナリオ「The Krewe in Yellow」の中でどこまで踏み込むのかは、当サイトでは商品ページの紹介文以上の情報を確認できておらず、それ以上は判断がつかない。

同じTRPG拡張の中でも、別の版元・別のシステム

留意すべきは、この商品がEdge Studio(Fantasy Flight Games傘下)が独自に開発した『Arkham Horror RPG』のサプリメントだという点であるであり、ケイオシアム社のTRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集とは別物だという点だ。Edge Studio公式のコアルールブック商品ページは、遊び方について「all you need is this book and a handful of six-sided dice to start investigating.(この本と数個の6面ダイスさえあれば、調査を始めるのに必要なものはすべて揃う)」と説明している[8]。d100によるパーセンタイル判定を採用するケイオシアム版クトゥルフ神話TRPGとは、ダイスの仕組みからして異なる。同じページにChaosiumやCall of Cthulhuへの言及は見当たらない[8]。

ハスターという同じ名前が、版元もルールも異なる二つのTRPGシリーズに、それぞれ独自の輪郭で登場していることになる。ケイオシアム版の設定資料集は化身群やハリ湖の座標を数値で定め、カタログ化する方向に体系を積み増してきた。本作はこれとは別の版元・別のルールで、ニューオーリンズという1920年代アメリカ都市の風俗と結びつけながら、ハスターに「不気味な影響」という輪郭を与えている。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

この一件を当サイトの三層区分に沿って並べると、次のようになる。第1層(原典)にあたるのは、ビアスが1891年に創造した牧人の善神と、ラヴクラフトが1930年に一度だけ言及した名前だけの符牒である。両者の間に立つチェンバースの『The King in Yellow』(1895年)は、ラヴクラフトより先行しつつ神話体系の外側から名前を持ち込んだ借用元にあたり、当サイトでは第1層に先立つ素材として扱っている。第2層(ダーレス以降の拡張)にあたるのが、1939年のダーレスによる四大元素説と、クトゥルフとの対立構図の発明である。

そして本作『Songs of New Orleans』は第3層(TRPGによる拡張)に属するが、その内部でもケイオシアム版クトゥルフ神話TRPGの系統とは版元を異にする、独立した系統に位置する。原典のハスターがまとっていた「実体の乏しさ」を、本作は「影響」という語で引き継ぎながら、ニューオーリンズという舞台とジャズという意匠を新たに足している。これは、ビアス・チェンバース・ラヴクラフト・ダーレスのいずれの層にも存在しない、Edge Studio独自の上乗せである。

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出典

  • [1] 発売日「This product releases on October 30, 2026」、価格「$49.99」、「144-page hardcover book」、商品説明文「New Orleans is a city steeped in mystery—where voodoo rites clash with forbidden knowledge, where secret societies lurk behind the facades of decayed mansions, and where music itself may hold terrible power. This setting guide provides Game Masters with everything they need to bring New Orleans, and its sinister sibling Carcosa, to life in their campaigns! … In addition to detailed lore, this book introduces the Musician, a new archetype attuned to the supernatural cadence of the city, and delves into the eerie influence of Hastur, The King in Yellow. A full-length adventure is also included」の記載を確認(2026年9月9日取得) — Asmodee Inc.公式ストア「Arkham Horror RPG – Songs of New Orleans Setting Guide」, https://store.asmodee.com/products/arkham-horror-rpg-songs-of-new-orleans ↩
  • [2] 商品名「Arkham Horror RPG – Songs Of New Orleans」、ページ数「144」、装丁「Hardcover」「Color」、商品説明文「Underneath the fiery chords of jazz and swing lie more haunting melodies from eons past… This supplement features the grand old city of New Orleans and its sinister sibling, dread Carcosa. Packed inside you’ll also find six mini mysteries and a new investigator archetype—the Musicican—along with brand-new relics, tomes, items, NPC profiles, and more to jazz up your adventures in the Deep South. Lastly, a ready-to-play adventure, The Krewe in Yellow, offers a thrilling stand-alone experience or a dangerous addition to an ongoing campaign. This guide includes a double-sided poster map/battle map.」、著作権表記「© Edge Studio 2026. © Fantasy Flight Games 2026.」、区分「SUPPLEMENT」の記載を確認(2026年9月9日取得) — Edge Studio公式「Arkham Horror RPG – Songs Of New Orleans」, https://www.edge-studio.net/games/arkham-horror-rpg-songs/ ↩
  • [3] 商品名「Arkham Horror RPG: Songs of New Orleans」、発売日「26/10/2026」、価格「£49.99」の記載を確認(2026年9月9日取得) — Asmodee UK公式ストア, https://www.asmodee.co.uk/products/esdpsah08en-arkham-horror-rpg-songs-of-new-orleans ↩
  • [4] “He rose with the sun and went forth to pray at the shrine of Hastur, the god of shepherds, who heard and was pleased.”(訳: 「彼は日の出とともに起き、牧人の神ハスターの祠へ祈りを捧げに出向いた。神はそれを聞き届け、喜ばれた」) — Ambrose Bierce, “Haïta the Shepherd” (1891), 収録: *Can Such Things Be?* (1918年版), Project Gutenberg eBook #4366。当サイト「ハスター」記事(/deities/hastur/)で確認済みの引用箇所を再録 ↩
  • [5] “I cannot forget Carcosa where black stars hang in the heavens.”(訳: 「黒い星々が天に懸かるカルコサを、私は忘れることができない」) — Robert W. Chambers, “The Repairer of Reputations”, The King in Yellow (1895), Project Gutenberg eBook #8492。当サイト「ハスター」記事(/deities/hastur/)で確認済みの引用箇所を再録 ↩
  • [6] “There is a whole secret cult of evil men (a man of your mystical erudition will understand me when I link them with Hastur and the Yellow Sign) devoted to the purpose of tracking them down and injuring them on behalf of monstrous powers from other dimensions.”(訳: 「邪悪な人間たちからなる秘密結社がまるごと存在する〈あなたほど神秘学に通じた人物なら、私が彼らをハスターと黄の印に結びつけて言えば理解されるだろう〉。彼らを追跡し、他次元の怪物的な力に代わって傷つけることに捧げられた結社だ」) — H. P. Lovecraft, “The Whisperer in Darkness” (1930年執筆/1931年発表), hplovecraft.com。当サイト「ハスター」記事(/deities/hastur/)で確認済みの引用箇所を再録 ↩
  • [7] “Great Cthulhu is of the Water Beings, even as Hastur is of the Beings that stalk the star-spaces.”(訳: 「大いなるクトゥルフは水の眷属に属し、ハスターもまた星間を彷徨う眷属に属する」) — August Derleth, “The Return of Hastur”, Weird Tales 1939年3月号(識別子 Weird_Tales_v33n03_1939-03), archive.org。当サイト「ハスターとクトゥルフはなぜ『敵同士』になったのか」記事(/history/hastur-vs-cthulhu-origins/)で確認済みの引用箇所を再録 ↩
  • [8] ゲームの遊び方「all you need is this book and a handful of six-sided dice to start investigating.」、著作権表記「© Edge Studio 2024. © Fantasy Flight Games 2024.」の記載を確認。ChaosiumおよびCall of Cthulhuへの言及が無いことをページ本文で確認(2026年9月9日取得) — Edge Studio公式「Arkham Horror RPG – Core Rulebook」, https://www.edge-studio.net/games/arkham-horror-rpg-core-rulebook/ ↩

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