地名(インスマスの町にあるホテル) — GILMAN HOUSE

ギルマン・ハウス

原典

インスマスのタウン・スクエアに面して立つホテル。バスの発着所であり、「インスマスの影」の語り手が一夜を強いられ、深夜に窓から逃げ出すことになる建物。

公開作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

ギルマン・ハウス

「やがて我々は川向こうの大きな半円形の広場へ転がり込み、その右手側、黄色い塗装の名残をとどめ、半ば消えかけた看板がそこをギルマン・ハウスだと告げている、キューポラを戴く背の高い建物の前に停まった。」

— H・P・ラヴクラフト「インスマスの影」(1931年執筆)、語り手がバスで町へ到着する場面
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概要(2〜3行)

マサチューセッツ州インスマスのタウン・スクエアに面して立つホテル。原典で名前が挙がるインスマスの宿はここだけである。川に架かる橋を渡ったバスは広場の右手で停まり、そこには黄色い塗装の名残と半ば消えかけた看板を掲げた、キューポラを戴く背の高い建物があった[1]。ニューベリーポートの切符係は、この宿を大したものではないと言い、泊まらないよう勧めていた[2]。「インスマスの影」の語り手は帰りのバスの故障で一泊を強いられ、その夜、窓から即席の縄梯子を伝ってこの建物を永久に後にする[3]。

基本プロフィール(表で可)

項目内容
分類地名(インスマスの町にあるホテル)
欧文表記GILMAN HOUSE
初出「インスマスの影」(1931年11月?〜12月3日執筆[4]/1936年、Visionary Publishing Co. 刊の同題単行本にて発表[5])
所在インスマスのタウン・スクエア。ペイン街の角にあたり[6]、広場は一方が川の直線、もう一方が1800年頃の煉瓦建築の半円をなす[7]
外観キューポラを戴く背の高い建物。黄色い塗装の名残と、半ば消えかけた看板[1]
客室の一例428号室。最上階の一つ下、広いが水道は無く、一泊1ドル[8]
設備洗面・入浴は廊下の端の共同浴室[9]。非常階段は無く、窓の下は石畳の中庭まで三階分の落差[10]
作中の年代語り手がこの宿から逃げ出したのは1927年7月16日の未明[11]

原典での描写

「インスマスの影」(1931年執筆)――泊まるなと言われる宿

語り手がこの名を最初に聞くのは、ニューベリーポートの駅の切符売り場である。係員はインスマスに宿があること自体は認めながら、大したものではないと思うと言い、泊まらないほうがいいと勧めた[2]。

続けて係員が語ったのが、数年前にギルマンへ泊まった工場監査官ケイシーの話である。ほとんどの部屋は空いているはずなのに他の部屋から声が聞こえ、それが外国語らしいことよりも、ときおり混じる声そのものの質――不自然で「ぬめるような」――が悪かった。ケイシーは服を脱いで寝ることもできず、起きたまま朝を待って発ったという。話し声は一晩じゅう続いた[12]。

到着――広場とロビー

町へ入ったバスは橋を渡り、半円形の広場へ入って右手に停まる。そこがギルマン・ハウスだった[1]。語り手はバスを降りるとすぐ、みすぼらしいロビーで旅行鞄を預けた。ロビーには「インスマス面」のない年配の男が一人いるだけで、語り手はこのホテルで妙なことが気づかれていたのを思い出し、質問は控えている[13]。

このホテルが面する広場は、一方が川の直線、もう一方が1800年頃の傾斜屋根の煉瓦建築の半円で、そこから街路が南東・南・南西へ放射していた[7]。語り手は、この広場を町の中心だと即座に見て取っている。なお、町で見かける人々のうち異常の痕跡がない例外として、語り手は「ホテルの年老いた事務員」を挙げている[14]。

夕刻――戸口に集まる者たち

日中の町歩きのあいだ、語り手はペイン街からギルマン・ハウスの角を回って現れた老ザドク・アレンを広場で見つけている[6]。この宿は広場に正面を向け、裏手はペイン街と中庭に接している。深夜に語り手が町へ抜け出すのも、玄関とロビーのある正面ではなく、この裏側からだった。

夕刻、バスに乗るため広場へ戻った語り手は、たむろしていた者たちのほとんどがギルマン・ハウスの戸口の周りに集まっているのを見た。ロビーで鞄を受け取るあいだ、膨れた潤んだ瞬きしない目が自分を見ているように感じられたという[15]。

428号室の一夜

バスの故障でアーカムへ出る手段が絶たれ、語り手はギルマンに泊まるほかなくなる。無愛想な夜勤の事務員が示したのは最上階の一つ下の428号室で、広いが水道は無く、料金は1ドルだった[8]。

語り手は宿帳に署名して1ドルを払い、鞄を持たせた事務員のあとから、生気のない埃だらけの廊下を抜けて軋む階段を三階分上った。部屋は裏手の陰気な一室で、窓が二つあり、見捨てられた低い煉瓦の街区に囲まれた薄汚れた中庭を見下ろしていた[16]。廊下の端の浴室は、古い大理石の洗面器、ブリキの浴槽、心もとない電灯、配管まわりを覆うかび臭い木の羽目板からなる、気の滅入る遺物だった[9]。

部屋のかび臭さは町全体の魚臭と混じり合い、語り手の想像を死と腐敗へ引き戻した[17]。切符係が伝えていた「ギルマン・ハウスと、その夜の住人たちの声」のことは考えまいと努めたが、その努力自体が声への警戒を裏返しに保ち続ける[18]。

不安の種は建物の側にもあった。廊下側の扉には閂が無く、跡から最近取り外されたことが見て取れる。語り手は衣装戸棚に同じ寸法らしい閂を見つけ、鍵束に付けた工具で移し替えた[19]。両隣の部屋へ通じる接続扉には十分な閂があり、それも掛けた。服は脱がず、上着と襟と靴だけを外して横になることにしている[20]。

深夜――錠を試す音

やがて、廊下側の扉の錠が鍵で試された。慎重に、こそこそと、探るように[21]。

音が止むと、今度は北隣の部屋がパスキーで開けられ、接続扉の錠が静かに試された。閂が持ちこたえて足音が去ると、同じことが南隣でも繰り返される[22]。この一連の動きから、語り手は自分の部屋の両側が押さえられたことを知る。

荷物を捨てて逃げる支度をしようとした語り手は、電灯が点かないことに気づいた。電源が切られていたのである。階下からは、人間の言葉とは思えない嗄れた吠え声と、緩い音節の啼き声のような音が聞こえてきた[23]。

脱出――建物の造りが逃げ道を決める

窓から下を見た語り手は、州の安全規則にもかかわらずこちら側に非常階段が無いこと、石畳の中庭まで三階分の垂直の落差があることを確かめる。ただし左右には古い煉瓦造りの商業建築が接して建ち、その傾斜屋根は四階の高さから飛び降りられる程度の距離にあった[10]。この一点が逃走経路を決めた。

窓の外には、満月を少し過ぎた月明かりの下、朽ちた屋根の海が広がっていた。右手には川の峡谷が黒い裂け目のように走り、廃工場と鉄道駅がその斜面に貼り付いている。その先には錆びた鉄道とローリー街道、左手にはイプスウィッチへ向かう細い道が白く光っていたが、語り手が向かうつもりの南――アーカム方面――は、この側の窓からは見えなかった[24]。

外の扉への打撃が続くなか、語り手は北側の接続扉に左肩で何度も体当たりし、大きな音を立てて破る。直後、外のノックは激しい打撃へ変わり、両隣の部屋の廊下側の扉でも鍵の音がした[25]。この追跡のあいだ、追手は誰一人としてはっきりした人間の声を発さず、途切れがちな荒い息、唸り、押し殺した吠え声だけを漏らしていた。語り手が最も戦慄したのはこの点である[26]。

最後に語り手が使ったのは、窓に吊るされた重いベルベットのカーテンだった。真鍮の輪ごと引き落とし、輪を外側の鎧戸留め金に掛けて垂らすと、布は隣接する屋根まで届いた。こうして語り手は即席の縄梯子を伝って下り、ギルマン・ハウスを永久に後にする[3]。

中庭とキューポラ

隣の廃屋を抜けて中庭へ下りた語り手は、ギルマン・ハウス側の窓がいくつか淡く光っているのを見た。やがて開いた扉から、ランタンを揺らし英語ではない言葉で低く啼き交わす無数の影が中庭へ流れ出す。その一つは法衣をまとい、見覚えのある意匠の高いティアラを戴いていた[27]。この意匠のティアラは、物語の前半で語り手を怯えさせてきたものと同じものである。

南街から海を見た語り手が悪魔の岩礁の明滅する光を認めたとき、背後の北東にそびえるギルマン・ハウスの高いキューポラから、間隔の異なる同種の閃光が走った。語り手はこれを応答信号としか考えられなかった[28]。建物は宿としてではなく、沖の岩礁と向き合う一つの装置としてここで機能する。その後、波止場の方へ進んだ語り手が振り返ったとき、同じキューポラは完全に暗かった[29]。

町なかで語り手のすぐ近くまで迫った一団については、語り手自身が「ギルマンの中庭にいた一団」と同じものだと判断している[30]。

由来・モデル

原典は、この宿の名がどこから来たのかを説明していない。ただし作中には、ギルマンという名を持つ町の旧家が出てくる。食料品店の少年の話では、マーシュ家と並ぶ町の四つの旧家がウェイト家、ギルマン家、エリオット家で、いずれも人目を避けてワシントン通り沿いの巨大な屋敷に暮らし、なかには人前に出せない姿の血縁者を隠していると噂される家もあった[31]。

ギルマン家は町の海運史にも現れる。ザドク・アレンの語りでは、1812年戦争の頃に失われたエリザ号とレンジャー号は、いずれもギルマン家が出した船だった[32]。同じ語りのなかで、ザドクは消えた者たちの名を数え上げ、その先頭にハイラム・ギルマンを挙げている[33]。

町の旧家と同じ名を掲げた宿が広場の正面に立っている、という配置そのものは原典が与える事実である。一方で、ホテルの創業者が誰か、旧家ギルマン家との関係があるのかについては、原典に記述が無い。実在のホテルや建物をモデルにしたことを示す記述も、本記事が確認した一次資料には見当たらない。

なお、「魔女の家の夢」に登場する学生ウォルター・ギルマンは、姓が同じだけの別作品の別人物であり、この宿との関係を示す記述は原典に無い。

歴史・年表

  • 1812年戦争の頃: ギルマン家が出したエリザ号とレンジャー号が失われる[32]。町の衰退が始まる時期にあたる。
  • 年代不詳(ザドク・アレンの語り): ハイラム・ギルマンほか数名が消える[33]。
  • 語り手の訪問より数年前: 工場監査官ケイシーがギルマンに一泊し、夜通し続く声を聞く[12]。
  • 1927年7月15日 昼(脱出が16日未明であることから逆算): 語り手がバスで広場へ到着し、ロビーに鞄を預ける[1][13]。
  • 同日 夕刻: バスを待つ広場で、たむろする者たちがホテルの戸口に集まっている[15]。
  • 同日 夜: バスの故障により宿泊を強いられ、428号室を借りる[8]。
  • 同日 深夜: 廊下側の扉の錠が鍵で試され[21]、両隣の部屋がパスキーで開けられる[22]。電源が切られ、階下から人語でない声が上がる[23]。
  • 1927年7月16日 未明: 接続扉を破って北へ移動し[25]、カーテンを縄梯子にして脱出[3][11]。中庭に群れが溢れ[27]、キューポラが悪魔の岩礁へ信号を送る[28]。
  • 1927年から28年にかけての冬: 連邦政府の当局者による秘密裏の調査が行われる[34]。この調査とそれに続く出来事のなかで、ホテルがどうなったかを語る記述は原典に無い。

性質・特徴

  • 立地: タウン・スクエアに面し、ペイン街の角にあたる[6][7]。町へ出入りするバスの発着所でもあり、語り手はここで鞄を預け、ここへ戻ってバスを待つ[13][15]。人とバスと荷物が集まる場所であり、町の側から見れば、よそ者が必ず一度は立ち寄る場所でもある。
  • 外観: キューポラを戴く背の高い建物で、黄色い塗装は剥げかけ、看板は半ば消えている[1]。町を南から見ると、傾いた屋根の連なりの上にこのキューポラがそびえる[29]。
  • 内部: ロビー、宿帳と事務員の机、軋む階段。廊下は埃をかぶり、人の気配がない[16]。客室に水道は無く、洗面と入浴は廊下の端の共同浴室で行う[9]。428号室は裏手の陰気な部屋で、窓が二つあり、中庭とその向こうの朽ちた屋根と湿地を見下ろす[16][24]。
  • 戸締まり: 廊下側の扉の閂は最近取り外されており、隣室へ通じる接続扉には閂が残っていた[19][20]。この非対称が、その夜の攻防の形をそのまま決める。廊下側からは鍵とパスキーで、隣室からは接続扉を通じて、という二通りの接近が試みられる[21][22]。
  • 建物の弱さ: 接続扉の板は薄く、肩の体当たりで破れる[25]。追手も同じ弱さを利用し、重い物を持ち出して扉を打ち破ろうとする。
  • 外部との連絡: 非常階段が無く、窓の下は三階分の落差[10]。そのかわり左右の煉瓦街区の傾斜屋根が近く、これが唯一の逃げ道になった[10][3]。
  • 岩礁への信号: 高いキューポラは、悪魔の岩礁の光に応える信号を発した[28]。このとき建物は宿としてではなく、沖と町を結ぶ見張り台として使われている。

関連する人物・存在(関係図)

  • インスマスの無名の語り手: 428号室に泊まり、深夜に脱出した人物[8][3]。この宿での一夜は、彼が町の異常を伝聞ではなく身をもって知る場面にあたる。
  • インスマス: 宿が立つ町。町全体の地誌・歴史・住民については町の記事で扱う。本記事は建物とその一夜に絞っている。
  • 悪魔の岩礁: キューポラからの信号が向けられた先[28]。沖合の岩礁と町の中心の建物が、光でつながっていたことになる。
  • 深きものども: 原典は、中庭へ溢れ出た影の正体を明示しない。語り手が記すのは、姿の輪郭が判然としないこと、屈んだ足取りが忌まわしいこと、そして誰一人として人間の言葉を発さなかったことである[27][26]。
  • エソテリック・オーダー・オブ・ダゴン: 中庭の群れのなかに、法衣と高いティアラをまとった一つの姿があった[27]。
  • マーシュ家: ギルマン家・ウェイト家・エリオット家と並ぶ町の四旧家の筆頭[31]。宿の名と同じ姓を持つ家が、町の支配層の一角を占めている。
  • ザドク・アレン: ホテルの角を回って現れた老人[6]。町の過去を語る人物だが、深淵書架にはまだ記事が無い。
  • 工場監査官ケイシー: 語り手より数年早く、同じ宿の夜の声を聞いた人物[12]。名前だけが伝聞のなかに残る。

主要登場作と読みどころ

  • 「インスマスの影」(1931年執筆/1936年発表): ギルマン・ハウスが登場する唯一の原典。この宿は、物語の三つの段階にそれぞれ別の顔で現れる。到着時は町を見渡すための足場[1][13]、夕刻は帰路を断たれる場所[15][8]、そして深夜には建物そのものが罠になる[21][22][25]。同じ建物の同じ造り――閂、接続扉、隣接する屋根――が、序盤では宿の古さの描写にすぎず、終盤では生死を分ける条件へ変わる。二度目に読むと、序盤の宿の描写がそのまま終盤の間取り図として読めてくる。
  • あわせて読む記事として、町そのものを扱うインスマス、作品全体を扱う「インスマスの影」、語り手を扱うインスマスの無名の語り手がある。

よくある誤解(Q&A)

Q. 語り手の部屋へ入ろうとしたのは誰だったのですか? A. 原典は明示しない。分かるのは、廊下側の扉が鍵で試され、両隣の部屋がパスキーで開けられたこと[21][22]、階下から人語とは思えない声が上がったこと[23]、追手が誰一人として明瞭な人間の声を発さなかったこと[26]、そして中庭へ出た群れのなかに法衣とティアラの姿が混じっていたこと[27]である。正体そのものは読者の推測に委ねられている。

Q. 「ギルマン」という名は、誰にちなんだものですか? A. 原典に説明が無い。作中にはギルマン家という町の旧家が登場し[31]、ギルマン家の船[32]やハイラム・ギルマンという失踪者[33]の名も出てくるが、この宿と一族を結びつける記述は見当たらない。

Q. 「魔女の家の夢」のウォルター・ギルマンと関係がありますか? A. 姓が同じだけで、関係を示す記述は原典に無い。ウォルター・ギルマンはアーカムのミスカトニック大学の学生であり、作品も舞台も異なる。

Q. ホテルはその後どうなったのですか? A. 原典に記述が無い。物語は1927年から28年にかけての冬の連邦調査から語り起こされるが[34]、その調査やそれに続く出来事のなかで建物がどう扱われたかには触れていない。本文でホテルに言及する箇所は、語り手が脱出する場面を最後に途切れる。

Q. ダーレス以降の作品やTRPGでは、どう扱われていますか? A. 本記事は一次資料(hplovecraft.com の本文と作品一覧)に限って調べており、後世の作品・供給元の公式資料は確認していない。確認できる資料が無いため、ここには書かない。

出典

  • [1] “Then we rolled into the large semicircular square across the river and drew up on the right-hand side in front of a tall, cupola-crowned building with remnants of yellow paint and with a half-effaced sign proclaiming it to be the Gilman House.” (訳: やがて我々は川向こうの大きな半円形の広場へ転がり込み、その右手側、黄色い塗装の名残をとどめ、半ば消えかけた看板がそこをギルマン・ハウスだと告げている、キューポラを戴く背の高い建物の前に停まった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [2] “Yes, there’s a hotel in Innsmouth—called the Gilman House—but I don’t believe it can amount to much. I wouldn’t advise you to try it.” (訳: ええ、インスマスにも宿はありますよ――ギルマン・ハウスといいましてね――ですが大したものとは思えません。試してみることはお勧めしませんね。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [3] “So, climbing out of the window and down the improvised rope ladder, I left behind me forever the morbid and horror-infested fabric of the Gilman House.” (訳: こうして私は窓から這い出し、即席の縄梯子を伝って下り、ギルマン・ハウスという病んだ、恐怖の巣食う建物を永久に後にした。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [4] “The Shadow over Innsmouth (November?—3 December 1931)” (訳: 「インスマスの影」(1931年11月?〜12月3日)) — H. P. Lovecraft’s Fiction, Alphabetical Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [5] “1936: The Shadow over Innsmouth ( The Shadow over Innsmouth , Visionary Publishing Co.)” (訳: 1936年:「インスマスの影」(単行本『The Shadow over Innsmouth』、Visionary Publishing Co.)) — H. P. Lovecraft’s Fiction, Publication Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [6] “shuffling out of Paine Street around the corner of the Gilman House—I glimpsed nothing less than the tall, lean, tattered form of old Zadok Allen himself.” (訳: ペイン街から足を引きずってギルマン・ハウスの角を回ってきたのは、まぎれもなく、あの背が高く痩せて襤褸をまとった老ザドク・アレン本人の姿だった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [7] “One side of the cobblestoned open space was the straight line of the river; the other was a semicircle of slant-roofed brick buildings of about the 1800 period, from which several streets radiated away to the southeast, south, and southwest.” … “I did not need to be told that this was the civic centre of Innsmouth.” (訳: 石畳の広場の一方は川の直線をなし、もう一方は1800年頃の傾斜屋根の煉瓦建築が半円を描いており、そこからいくつもの街路が南東、南、南西へと放射していた。……ここがインスマスの中心であることは、教えられるまでもなかった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [8] “the sullen, queer-looking night clerk told me I could have Room 428 on next the top floor—large, but without running water—for a dollar.” (訳: 無愛想で妙な面構えの夜勤の事務員は、最上階の一つ下の428号室なら1ドルで取れると言った――広いが、水道は無い、と。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [9] “At the end of the corridor was a bathroom—a discouraging relique with ancient marble bowl, tin tub, faint electric light, and musty wooden panelling around all the plumbing fixtures.” (訳: 廊下の端には浴室があった――古びた大理石の洗面器、ブリキの浴槽、心もとない電灯、そして配管まわりをすっかり覆うかび臭い木の羽目板からなる、気の滅入る遺物だった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [10] “Despite the state’s safety regulations there was no fire escape on this side of the hotel, and I saw that my windows commanded only a sheer three-story drop to the cobbled courtyard. On the right and left, however, some ancient brick business blocks abutted on the hotel; their slant roofs coming up to a reasonable jumping distance from my fourth-story level.” (訳: 州の安全規則があるにもかかわらず、ホテルのこちら側に非常階段は無く、私の窓の下は石畳の中庭まで三階分の垂直の落差があるだけだった。だが左右には古い煉瓦造りの商業建築が接して建っており、その傾斜屋根は、四階にあたる私の高さから飛び降りられる程度の距離まで迫っていた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [11] “It was I who fled frantically out of Innsmouth in the early morning hours of July 16, 1927” (訳: 1927年7月16日の未明、インスマスから必死に逃げ出したのは私だった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [12] “There was a factory inspector who stopped at the Gilman a couple of years ago, and he had a lot of unpleasant hints about the place. Seems they get a queer crowd there, for this fellow heard voices in other rooms—though most of ’em was empty—that gave him the shivers.” … “It sounded so unnatural—slopping-like, he said—that he didn’t dare undress and go to sleep. Just waited up and lit out the first thing in the morning. The talk went on most all night.” … “This fellow—Casey, his name was—had a lot to say about how the Innsmouth folks watched him” (訳: 二、三年前にギルマンへ泊まった工場監査官がいましてね、あの場所について不快な仄めかしをいろいろ残していきました。妙な連中が集まるらしく、その男は他の部屋から聞こえる声を聞いたんです――ほとんどの部屋は空いていたはずなのに――それで震え上がったと。……その声があまりに不自然で、本人いわく「ぬめるような」ものだったので、服を脱いで眠る気になれなかった。起きたまま朝を待ち、夜が明けるなり発ったそうです。話し声は一晩じゅう続いたとか。……この男――ケイシーという名でしたが――は、インスマスの連中が自分を見張り、身構えているようだったと、しきりに言っていました。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [13] “at once proceeded to check my valise in the shabby hotel lobby. There was only one person in sight—an elderly man without what I had come to call the “Innsmouth look”—and I decided not to ask him any of the questions which bothered me; remembering that odd things had been noticed in this hotel.” (訳: 私はすぐさま、みすぼらしいホテルのロビーで旅行鞄を預けた。目に入るのは一人だけ――私が「インスマス面」と呼ぶようになったものを持たない年配の男だった――が、私は気になっていることを何も尋ねないことにした。このホテルで妙なことが気づかれていたのを思い出したからである。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [14] “When exceptions did occur, they were mostly persons with no trace of aberrancy, like the old clerk at the hotel.” (訳: 例外があるとすれば、その大半は、あのホテルの年老いた事務員のように、異常の痕跡をまったく持たない人々だった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [15] “when I finally reached the Square I saw that almost all the loiterers were congregated around the door of the Gilman House. It seemed as if many bulging, watery, unwinking eyes looked oddly at me as I claimed my valise in the lobby” (訳: ようやく広場へ着いたとき、たむろしていた者たちのほとんどがギルマン・ハウスの戸口の周りに集まっているのが見えた。ロビーで鞄を受け取るあいだ、膨れた、潤んだ、瞬きしない多くの目が、奇妙な調子で私を見ているように思われた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [16] “I signed the register, paid my dollar, let the clerk take my valise, and followed that sour, solitary attendant up three creaking flights of stairs past dusty corridors which seemed wholly devoid of life. My room, a dismal rear one with two windows and bare, cheap furnishings, overlooked a dingy courtyard otherwise hemmed in by low, deserted brick blocks” (訳: 私は宿帳に署名し、1ドルを払い、事務員に鞄を持たせ、その不機嫌で孤独な案内役のあとについて、まったく生気の感じられない埃だらけの廊下を抜けながら、軋む階段を三階分上った。私の部屋は裏手の陰気な一室で、窓が二つあり、飾り気のない安物の家具が置かれ、見捨てられた低い煉瓦の街区に四方を囲まれた薄汚れた中庭を見下ろしていた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [17] “the lethal mustiness blended hideously with the town’s general fishy odour and persistently focussed one’s fancy on death and decay.” (訳: その死んだようなかび臭さは町全体の魚臭とおぞましく混じり合い、人の想像を執拗に死と腐敗へ引き戻した。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [18] “I must not dwell on what that factory inspector had told the Newburyport ticket-agent about the Gilman House and the voices of its nocturnal tenants” (訳: あの工場監査官がニューベリーポートの切符係に語ったこと――ギルマン・ハウスと、その夜の住人たちの声について――を、私は思い返してはならなかった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [19] “Another thing that disturbed me was the absence of a bolt on the door of my room. One had been there, as marks clearly shewed, but there were signs of recent removal.” … “I busied myself by transferring this hardware to the vacant place with the aid of a handy three-in-one device including a screw-driver which I kept on my key-ring.” (訳: もう一つ気がかりだったのは、私の部屋の扉に閂が無いことだった。跡がはっきり示すとおり、かつては付いていたが、最近取り外された形跡があった。……私は鍵束に付けていたドライバー付きの小さな三徳工具を使い、この金具を空いた場所へ移す作業に没頭した。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [20] “There were adequate bolts on the two lateral doors to connecting rooms, and these I proceeded to fasten. I did not undress, but decided to read till I was sleepy and then lie down with only my coat, collar, and shoes off.” (訳: 両隣の部屋へ通じる二つの扉には十分な閂が付いており、私はそれを掛けた。服は脱がず、眠くなるまで本を読み、上着と襟と靴だけを外して横になることにした。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [21] “Without the least shadow of a doubt, the lock on my hall door was being tried—cautiously, furtively, tentatively—with a key.” (訳: 疑いの余地はまったくなかった。廊下側の扉の錠が、鍵で試されていたのである――慎重に、こそこそと、探るように。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [22] “I heard the room to the north entered with a pass-key. Then the lock of the connecting door to my room was softly tried. The bolt held, of course, and I heard the floor creak as the prowler left the room.” (訳: 北側の部屋がパスキーで開けられるのが聞こえた。続いて、私の部屋へ通じる接続扉の錠が静かに試された。もちろん閂は持ちこたえ、忍び込んだ者が部屋を出ていくときの床の軋みが聞こえた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [23] “Nothing, however, happened; and I saw that the power had been cut off.” … “the apparent hoarse barkings and loose-syllabled croakings bore so little resemblance to recognised human speech.” (訳: だが何も起こらず、私は電源が切られていることを知った。……その嗄れた吠え声らしきものと、緩い音節の啼き声らしきものは、人間の言葉として認められるものにはあまりに似ていなかった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [24] “On the right the black gash of the river-gorge clove the panorama; abandoned factories and railway station clinging barnacle-like to its sides. Beyond it the rusted railway and the Rowley road led off through a flat, marshy terrain dotted with islets of higher and dryer scrub-grown land. On the left the creek-threaded countryside was nearer, the narrow road to Ipswich gleaming white in the moonlight.” (訳: 右手では川の峡谷が黒い裂け目となって眺望を断ち割り、廃工場と鉄道駅がその斜面に藤壺のように貼り付いていた。その先では、錆びた鉄道とローリー街道が、やや高く乾いた藪地の小島が点在する平坦な湿地を抜けて延びていた。左手には小川の走る田野がより近く、イプスウィッチへ向かう細い道が月光を受けて白く光っていた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [25] “At last beginning my attempt, I lunged again and again at the thin panelling with my left shoulder, heedless of shock or pain.” … “Finally the connecting door gave, but with such a crash that I knew those outside must have heard. Instantly the outside knocking became a violent battering, while keys sounded ominously in the hall doors of the rooms on both sides of me.” (訳: ついに私は試みを始め、衝撃も痛みも構わず、左肩で薄い羽目板へ何度も何度も体当たりした。……とうとう接続扉は破れたが、その音のすさまじさから、外にいる者たちに聞こえたに違いないと分かった。たちまち外のノックは激しい打撃へ変わり、両隣の部屋の廊下側の扉で、不吉に鍵の音が鳴った。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [26] “not one of my pursuers, despite some hideous pantings, gruntings, and subdued barkings at odd intervals, was uttering an unmuffled or intelligible vocal sound.” (訳: 追手の誰一人として、ときおり漏れるおぞましい荒い息や唸り、押し殺した吠え声を別にすれば、こもっていない、意味の取れる声をまったく発していなかった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [27] “out of an opened door in the Gilman House a large crowd of doubtful shapes was pouring—lanterns bobbing in the darkness, and horrible croaking voices exchanging low cries in what was certainly not English.” … “I perceived that one figure was strangely robed, and unmistakably surmounted by a tall tiara of a design altogether too familiar.” (訳: ギルマン・ハウスの開いた扉から、得体の知れない影の群れが大挙して流れ出していた――闇の中でランタンが揺れ、おぞましい啼き声が、確かに英語ではない言葉で低く交わされていた。……私は、その一つが奇妙な法衣をまとい、まぎれもなく、あまりにも見覚えのある意匠の高いティアラを戴いているのを見て取った。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [28] “there now flashed forth from the lofty cupola of the Gilman House, which loomed up to the northeast behind me, a series of analogous though differently spaced gleams which could be nothing less than an answering signal.” (訳: そのとき、背後の北東にそびえるギルマン・ハウスの高いキューポラから、同じ種類の、だが間隔の異なる一連の閃光が走った――それは応答信号以外の何ものでもありえなかった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [29] “Above the slant roofs ahead and to the right there loomed the tall cupola of the Gilman House, but it was completely dark.” (訳: 前方右手の傾いた屋根の上には、ギルマン・ハウスの高いキューポラがそびえていたが、そこは完全に暗かった。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [30] “I judged this party to be the one I had seen in the Gilman’s courtyard—the one, therefore, most closely on my trail.” (訳: 私はこの一団を、ギルマンの中庭で見たあの一団、つまり最も近くまで私を追ってきている一団だと判断した。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [31] “The Marshes, together with the other three gently bred families of the town—the Waites, the Gilmans, and the Eliots—were all very retiring. They lived in immense houses along Washington Street” (訳: マーシュ家は、町の他の三つの名家――ウェイト家、ギルマン家、エリオット家――とともに、いずれもひどく人目を避けていた。彼らはワシントン通り沿いの巨大な屋敷に住んでいた。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [32] “the best of our menfolks kilt a-privateerin’ in the War of 1812 or lost with the Elizy brig an’ the Ranger snow—both of ’em Gilman venters.” (訳: うちの男どもの一番いいのは、1812年の戦争で私掠に出て死ぬか、エリザ号やレンジャー号と一緒に沈んじまった――どっちもギルマン家の船だったよ。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [33] “Did anybody ever see hide or hair o’ Hiram Gilman agin?” (訳: ハイラム・ギルマンの影も形も、その後だれか見たかね?) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [34] “During the winter of 1927–28 officials of the Federal government made a strange and secret investigation of certain conditions in the ancient Massachusetts seaport of Innsmouth.” (訳: 1927年から28年にかけての冬、連邦政府の当局者たちは、マサチューセッツ州の古い港町インスマスの、ある状況について奇妙かつ秘密裏の調査を行った。) — 「インスマスの影」(1936年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
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