ボードゲーム — Elder Sign

Elder Sign

博物館を舞台に古のものの覚醒を防ぐ、短時間で遊べる協力型ダイスゲーム。

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概要

『Elder Sign』は、Fantasy Flight Gamesが発売する協力型のダイスゲームである。デザイナーは Richard Launius と Kevin Wilson——2人は『Arkham Horror』の設計者でもある[1]。プレイ人数は1〜8人、プレイ時間は1〜2時間、対象年齢は14歳以上[1]。夜の博物館を舞台に、探索者たちが冒険カードを解決してエルダーサインを集め、古のものが完全に覚醒する前にそれを封じることを目指す。

本作について何より書き残しておくべきなのは、Fantasy Flight Games自身の製品ページが、ラヴクラフトの小説から取った一節を2つ、題辞として冒頭と中ほどに掲げていることである。当サイトはその2つの引用が、ラヴクラフトの原文と一字一句一致することを確認した[2][3]。神話生物の名前を借りただけの作品ではなく、原典の文章そのものを看板に掲げている——この記事はその事実を軸に据える。

版元が掲げた2つの題辞

Fantasy Flight Games公式ページは、製品紹介の冒頭に1つ、遊びの仕組みを説明する中ほどにもう1つ、ラヴクラフト作品からの引用を置いている。帰属表記はそれぞれ「H.P. Lovecraft, “From Beyond”」「H.P. Lovecraft, The Shunned House」。当サイトは2026年9月19日、この2つの引用がhplovecraft.com掲載の本文と一致することを確認した[2][3]。

冒頭の題辞[1]。

We shall see that at which dogs howl in the dark, and that at which cats prick up their ears after midnight.

(訳: われわれは、闇の中で犬が吠えたてるもの、真夜中を過ぎて猫が耳をそばだてるものを、この目で見ることになるだろう)

出典は「From Beyond」[2]。当サイトでも記事にしている短編で、ボードゲームの箱の紹介文の冒頭に、その一節がそのまま置かれている。

中ほどの題辞[1]。

We were not, as I have said, in any sense childishly superstitious, but scientific study and reflection had taught us that the known universe of three dimensions embraces the merest fraction of the whole cosmos of substance and energy. In this case an overwhelming preponderance of evidence from numerous authentic sources pointed to the tenacious existence of certain forces of great power and, so far as the human point of view is concerned, exceptional malignancy.

(訳: すでに述べたとおり、われわれは何ら子供じみた迷信深さを持ってはいなかった。だが科学的な研究と考察は、既知の三次元宇宙が、物質とエネルギーからなる全宇宙のほんのわずかな部分にすぎないことを教えていた。この一件では、数多くの信頼できる情報源から得られた圧倒的な量の証拠が、ある種の強大な力——人間の視点から見れば並外れて悪意に満ちた力——が根強く存在することを指し示していたのである)

出典は「忌み家」[3]。三次元宇宙が全宇宙のほんの一部にすぎないという、この短編の中心となる着想がそのまま抜き出されている。

遊びの説明文の合間に、原典の一段落まるごとを挟み込んでいる。ボードゲームの製品ページとしては、かなり踏み込んだ引き方だといえる。「闇の中で犬が吠えたてるもの」も「既知の三次元宇宙は全体のほんの一部にすぎない」という留保も、どちらも本作の題材——博物館に眠る遺物が異界への扉を開くという設定——と地続きになっている。

1926年の博物館という舞台

公式ページの紹介文は、舞台と年代を明示している[1]。

It is 1926, and the museum’s exotic curios and occult artifacts open barriers between our world and the elder evils lurking between dimensions. Other Worlds begin to leak through and terrifying creatures of increasing strength steal through them.

(訳: 時は1926年。博物館に集められた異国の珍品やオカルトの遺物が、われわれの世界と、次元の狭間に潜む太古の悪との間の障壁を開いてしまう。異界がそこから染み出し始め、強さを増していく恐ろしい生物たちがそこを通り抜けてくる)

続けて、ゲームそのものの性格が説明される[1]。

Elder Sign is a fast-paced, cooperative dice game of supernatural intrigue for one to eight players by Richard Launius and Kevin Wilson, the designers of Arkham Horror.

(訳: 『エルダーサイン』は、1〜8人向けの、超自然的な策謀を扱うテンポの速い協力型ダイスゲームであり、『Arkham Horror』の設計者である Richard Launius と Kevin Wilson の手による)

Players take the roles of investigators racing against time to stave off the imminent return of the Ancient Ones. Armed with cards for tools, allies, and occult knowledge, investigators must put their sanity and stamina to the test as they adventure to locate Elder Signs, the eldritch symbols used to seal away the Ancient Ones and win the game.

(訳: プレイヤーは探索者の役を担い、古のものたちの差し迫った復活を食い止めるべく、時間との戦いに挑む。道具・仲間・オカルト知識を記したカードを武器に、探索者たちは正気度と体力を試されながら冒険を重ね、古のものを封じ込めるための秘印であるエルダーサインを探し出し、勝利を目指す)

舞台は1926年の博物館一館に絞られている。同じFantasy Flight Gamesのエルドリッチホラーが世界規模を舞台にするのに対し、本作は建物ひとつに舞台を絞ることで、1〜2時間という短いプレイ時間を成立させている。

遊びの骨格——冒険カードとダイス

公式ページはゲームの構造を、いくつかの数字とともに説明している[1]。

Elder Sign features 48 Adventure cards representing the supernatural events and places of intrigue in and around the museum the investigators must explore to stop the Ancient One. During game setup, players build the museum with six initial Adventure cards, chosen at random.

(訳: 『エルダーサイン』には、古のものを止めるために探索者が巡ることになる博物館とその周辺の、超自然的な出来事や謎めいた場所を表す冒険カードが48枚収録されている。ゲームの準備段階では、プレイヤーはランダムに選ばれた6枚の初期冒険カードで博物館を組み立てる)

Each of the sixteen available investigators have individual talents and resources they bring to the search for the Elder Signs.

(訳: 用意されている16人の探索者はそれぞれ、エルダーサイン探しに持ち込む独自の特技と資源を備えている)

48枚の冒険カードから6枚を無作為に選んで博物館を組む——同じ6枚の組み合わせは、ほぼ二度と起きない。16人の探索者から誰を選ぶかと合わせて、毎回違う博物館を、毎回違う顔ぶれで歩くことになる。

冒険の解決手順も、公式が具体的に説明している[1]。

To locate Elder Signs, investigators must successfully complete Adventures within the museum and its environs. To resolve an Adventure, you must match dice results against the requirements for each of the Adventure card’s tasks. If you fail to complete all of an Adventure’s tasks, your investigator suffers the consequences. Often this means a loss of sanity or stamina—or both. Investigators who have their sanity or stamina reduced to zero are devoured and removed from play.

(訳: エルダーサインを見つけ出すには、探索者は博物館とその周辺で冒険を成功させなければならない。冒険を解決するには、その冒険カードが課す各課題の条件にダイスの出目を合わせる必要がある。冒険の課題すべてを達成できなければ、探索者はその報いを受ける。多くの場合、それは正気度か体力、あるいはその両方を失うことを意味する。正気度か体力がゼロになった探索者は喰らわれ、ゲームから取り除かれる)

ダイスの出目を課題の条件に合わせるという判定を繰り返し、失敗すれば正気度か体力を削られる。ゼロになれば探索者はゲームから退場する——この2つの資源管理が、本作の緊張感の骨格になっている。

もう1つ、公式が名指しで説明している仕組みが「フォーカス」である[1]。

the rules permit players to “focus” dice, saving one die result for a future roll at the cost of an extra die. Players can only focus a die once per Adventure card

(訳: ルールはプレイヤーに、ダイスを1個余分に消費する代わりに、その出目を将来のロールのために取っておく「フォーカス」を認めている。1枚の冒険カードにつき、フォーカスできるダイスは1個までである)

出目を確定させずに温存できる代わりに、手元のダイスを1個失う。この駆け引きが、単なる出目運ではない判断の余地を生んでいる。

時計と終末カウンター——負け方が先に決まっている

本作の緊張感は、資源(正気度・体力)を失うことだけでなく、時間そのものが尽きることからも来る。公式ページは、この仕組みを次のように説明する[1]。

Inspired by the horror stories of H.P. Lovecraft, Elder Sign pits players against the terror posed by one of eight possible Ancient Ones. Each of these otherworldly horrors insinuates its unique presence into the world, hindering or limiting your investigators’ ability to seek the Elder Signs. If evil persists, the Doom track advances, bringing the Ancient One closer to awakening.

(訳: H・P・ラヴクラフトの怪奇小説に着想を得て、『エルダーサイン』はプレイヤーを、8体の古のものの中から選ばれた1体がもたらす恐怖と対峙させる。これら異界の怪異はそれぞれ独自のやり方でこの世界に存在感を及ぼし、探索者たちがエルダーサインを探す能力を妨げ、あるいは制限する。悪がのさばり続ければ、終末トラック(Doom track)が進み、古のものの覚醒が近づいていく)

The Clock progresses inexorably forward, reducing the time available until the great otherworldly horror emerges. Each time midnight strikes, there is a chance the Ancient One’s power will spill more fully into this world.

(訳: 時計(Clock)は容赦なく進み続け、かの異界の恐怖が姿を現すまでの残り時間を減らしていく。真夜中を告げるたびに、古のものの力がこの世界へさらに深く流れ込む可能性が生じる)

At the beginning of each game, and each time the Clock strikes midnight, a player must draw a new Mythos card.

(訳: ゲーム開始時、そして時計が真夜中を告げるたびに、プレイヤーは新しい神話カード(Mythos card)を1枚引かなければならない)

構造を整理すると、次のようになる。

  • 時計(Clock) が進み、残り時間を刻む
  • 真夜中を告げるたびに 神話カード(Mythos card) を引く。世界に及ぶ古のものの影響が強まる
  • 悪が居座り続けると 終末トラック(Doom track) が進む
  • 終末トラックが満ちる前に、必要な数のエルダーサインを集められなければ敗北する

探索者が正気度と体力を守りながらダイスを振っている間にも、時計と終末トラックは待ってくれない。負け方の一つが、ゲームを始めた時点ですでに決まっている。探索者を全滅させなくても、時間切れにするだけで古のものは目覚める。この二重構造——探索者個人の消耗と、世界全体を覆う終末の進行——が、公式説明の随所で強調されている。

公式ページは、この仕組み全体をひとことで次のようにまとめている[1]。

Elder Sign recreates the Lovecraftian thrills of eerie suspense and mind-numbing horrors in a game players can finish in one to two hours.

(訳: 『エルダーサイン』は、不気味なサスペンスと感覚を麻痺させるような恐怖というラヴクラフト的な興奮を、1〜2時間で終えられるゲームの中に再現している)

日本語版

日本語版はアークライトが発売している。同社の公式サイトには、「エルダーサイン改訂版 完全日本語版」を対象に、2012年6月25日付のエラッタ(表記訂正)が残っている[4]。

●マニュアル9ページ、右段中、「呪文:」 本文1行目 誤:ほとんどの呪文は〜右のアイコンの上に移してください 正:ダイスをホールドする呪文については、通常の場合の呪文とは異なり、ダイスを振る前ではなく、ダイスを振った後で使います。

マニュアル9ページの「呪文」の項にあった誤記を正した内容で、ダイスをホールドする呪文の使用タイミングが、通常の呪文と異なることを明確にしている。当サイトが確認できたのは、アークライトが「完全日本語版」を発売しており、公式サイトにこのエラッタが残っているという事実までである。現在の販売状況や価格は確認していない。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

当サイトの神話の三層でいえば、本作はTRPG以降の第3層——ゲームによる拡張——にあたる。ボードゲームとTRPGの違いで扱っているとおり、ダイスとカードによる判定という形で、原典の「未知の遺物に触れることの危うさ」を短時間の遊びに翻訳している。

一方で、版元自身が掲げた2つの題辞は、第1層——ラヴクラフト自身の文章——から直接引かれたものである。遊びの仕組みは第3層に立ちながら、看板だけは第1層の言葉を借りている。この距離の取り方は、エルドリッチホラーやマンション・オブ・マッドネスのような同系統のボードゲームでも見られる作り方だが、本作の場合は「From Beyond」と「忌み家」という、原典側でも中心的な位置にある2作から取られている点が特徴である。

古のものやエルダーサインという言葉自体は、ラヴクラフトの原典にそのまま登場するものではなく、本作のために組み立てられたゲーム用語である。その意味で、遊びの語彙は版元の創作に属する。だが箱の説明文が背負っている思想——三次元宇宙は全体のほんの一部にすぎない、闇の中で犬や猫が感じ取るものがある——は、ラヴクラフトが書いた文そのものである。

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出典

  • [1] Fantasy Flight Games公式「Elder Sign」製品ページ(取得日 2026-09-19)。仕様(1–2 hours / 1–8 players / Ages 14+)、デザイナー Richard Launius・Kevin Wilson、紹介文(“It is 1926, and the museum’s exotic curios and occult artifacts open barriers…”ほか)、仕組みの説明(“Inspired by the horror stories of H.P. Lovecraft…” “The Clock progresses inexorably forward…” “At the beginning of each game…” “To locate Elder Signs, investigators must successfully complete Adventures…” “Elder Sign features 48 Adventure cards…” “Each of the sixteen available investigators…” “the rules permit players to “focus” dice…” “Elder Sign recreates the Lovecraftian thrills…”)を確認 — https://www.fantasyflightgames.com/en/products/elder-sign/ ↩
  • [2] H・P・ラヴクラフト「From Beyond」本文(The H.P. Lovecraft Archive)。”We shall see that at which dogs howl in the dark, and that at which cats prick up their ears after midnight.” の一節が本文中に実在することを確認(取得日 2026-09-19) — https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/fb.aspx ↩
  • [3] H・P・ラヴクラフト「The Shunned House」本文(The H.P. Lovecraft Archive)。”We were not, as I have said, in any sense childishly superstitious…” の一段落が本文中に実在することを確認(取得日 2026-09-19) — https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/sh.aspx ↩
  • [4] アークライト公式サイト「エルダーサイン」検索結果に掲載の「【エラッタ】エルダーサイン改訂版 完全日本語版」(2012年6月25日付)。エラッタ本文(“●マニュアル9ページ、右段中、「呪文:」…”)を確認(取得日 2026-09-19) — https://arclightgames.jp/%e3%80%90%e3%82%a8%e3%83%a9%e3%83%83%e3%82%bf%e3%80%91%e3%82%a8%e3%83%ab%e3%83%80%e3%83%bc%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%b3%e6%94%b9%e8%a8%82%e7%89%88/ ↩

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